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森下洋子の「レ・プティ・リアン」 1971  (2014.12.26)
このバレエは私が約30年前、まだ20代初めだった頃、モーツァルト狂になるきっかけとなったものです。
モーツァルトが作曲した「レ・プティ・リアン」(K追加10)というバレエで、1778年モーツァルトが22才の時、パリ・オペラ座で初演されました。
モーツァルトは、1777年から1778年にかけて、マンハイムからパリに旅行をしました。同伴した母が病死したり、マンハイムで思いを寄せたアロイジア・ウェーバーに失恋したり、決して幸福な旅行ではなかったようですが、その反面、以降のウィーン時代に向けて、実りのある旅でもあったようです。
 
この「レ・プティ・リアン」は、そうした時代の作品で、初演は好評でしたが、いつしか忘れられ、オペラ座の書庫に眠ってしまい、それから約100年後に楽譜が発見されたとのことです。
 
序曲と14の小曲からなります。 ガヴォットを中心にいろいろな小さな舞曲から構成されています。
今日、演奏会で取り上げられることはあっても、バレエとして踊られることはほとんどありません。 今から思うととても珍しい舞台を見ることができたわけで、私は非常に幸運だったと言えます。このバレエは、NHKテレビ教育で中継されたのですが、当時のNHKには「NHKバレエの夕べ」という番組があり、とてもバレエの放送に積極的だったのです。最近はNHKは、このような番組が少なくなったような気がします。
 
このとき、バレエのタイトルロールを踊ったのが森下洋子さんでした。 森下さんがソロを踊った、「第10曲パントマイム、イ長調」こそ、私を虜にし、モーツァルト狂にさせた曲なのです。
二分の二拍子の優雅な曲の美しさに加えて、森下さんの素敵なキューピットの踊りが、とても強く印象に残りました。
もともとこの曲が作られた当時は、古典バレエの技術は確立しておらず、トーで立つこともなく、踊りというよりパントマイムとして演じられたのようです。マリー・タりオーニが初めてトーで踊ったよりも半世紀も前のことです。
ただしこの公演では本格的なバレエとしての振り付けで、とても美しく楽しい舞台になっていました。
「白鳥の湖」や「眠りの森の美女」のような大規模なものでなく、グラン・パ・ド・ドゥのような派手で技巧的な踊りもありませんし全部で30分程度の短いものですが、珠玉の曲を連ねたとても素敵なバレエでした。
 
このなかで森下洋子さんはひときわ輝いていました。洋子さんはトーを巧みに使って、とても魅力的な踊りを見せてくれました。背中に小さな羽をつけ、手足と体を真っ白な衣装でおおったキューピットは、すっきり伸びたポアントがこの上なく美しく、ステップは羽のように軽やかで、ほんとうに可愛らしい踊りでした。
ポアントで立ったまま、独りでゆっくり何回もピルエットを続ける所など、全く軸足がずれず美しく、うっとり見とれてしまいました。期せずして観客より拍手がわいたのを覚えています。♪♪
 
森下洋子さんは、当時牧阿佐美バレエ団に籍を置いておられ、スピード感と抜群のバランスで、若き天才バレリーナとして呼び声が高かったのですが、この「レ・プティ・リアン」はそんな時代の、若い彼女の素敵な一面をみせてくれた貴重な一作だったように思います。この後彼女は松山バレエ団に移られ、ヴァルナ・バレエコンクールで金賞を受賞し一躍大スターになられました。
 
私も森下洋子さんと同世代なのですが、現在の彼女のステージを見るにつけ、人一倍の努力によって、いまも第一線で活躍されているのには、頭が下がります。私も頑張らなければと元気つけられる思いです。いつまでもお元気で、素敵な踊りを見せて下さることを願って止みません
 
森下洋子の「レ・プティ・リアン」
1971年頃:牧阿佐美バレエ団公演
キューピット:森下洋子
法村牧織他

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