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黒鳥〜パ・ド・ドゥ:中村祥子、ヴィスラウ・デュデック  (2013.11.27)

「NHKバレエの饗宴2013」でトリを務めた中村祥子の踊りは凄かった。 中村祥子は夫君ヴィスラウ・デュデックと、白鳥の湖の「黒鳥〜パ・ド・ドゥ」を踊ったのですが、 中村祥子のオディールは、迫力に満ちた強靱な黒鳥という感じでした。 32回転のグランフェッテは、前半、後半ともダブルを入れながら、つま先は全くズレないし体のブレもない。テクニックは完璧です。 バレエコンサートのトリを務めた上に、こんなポピュラーなアラの目立ちやすい演目にしたのは、よほど自信があるのでしょう。 観客も拍手喝采でした。 それに、驚異的な開脚。アダージョ・アントレの腰をリフトされての3度の開脚では、ゆうに180度を越えているし、 アラベスク・パンシェやエカルテ・ドゥヴァンでは、楽々と垂直に脚が挙がる。股間接がこんなに容易に開くのは、アン・ドゥ・オールの基本が完全に身についている証拠でしょう。 とにかく、完璧なテクニックに裏付けられた踊りは本当に凄い。
 
ただ、凄いには違いないけれど、どこか虚しさを感じたてしまったのです。 中村祥子のオディールは、明らかに「NHKバレエの饗宴2013」の他の出し物のヒロインより迫力がありインパクトは大きかった。 見所をを抜き出したガラパフォーマンスで、強い感じの悪魔・オディールなので、こういう踊り方もあるかもしれないけれど、 それほど美しいとは思わなかったのです。 完璧な回転や驚異的な開脚は素晴らしいに違いないのですが、踊りというより、新体操か曲芸を見たような感じだったのです。 とにかく豪快すぎるのです。 中村祥子の身長はかなりの高い。 その恵まれたプロポーションと長い手足をつかって、小さい華奢なバレリーナにはない表現が可能なのですが、 それが鼻について、アクロバットのように見えてしまうのです。 コーダのダブル満載のグラン・フェッテの技術は流石だと思うけれど、黒鳥といえどもシンプルにシングルで回るほうが美しいと思う。 全体にテクニックを誇示しすぎで、特にヴァリエーションではもっと繊細さや柔軟さが欲しいし、 筋肉隆々の体型も気になりました。黒鳥だからまだしも、白鳥やオーロラ姫には似合わない?と思ってしまったのです。
ただ、アダージョでのバランスは見事でした。 もともと中村祥子は、回転も見事だけれど、得意なのはバランスだそうです。 彼女は、テレビの番組で「バレエの喜びは『オフバランス』。 音を聴きながら、遊ぶ、挑戦する、音楽をひっぱる、自分のバランスをため、どこまでいけるか・・・・」と言っていたほどバランスには自信を持っているのでしょう。 今回のアラベスクのバランスも、息を呑む素晴らしさでした。 左足のトゥで立ったアラベスクのポーズでから、アンオーに挙げた手をパートナーの支えから離して独り立ちした途端、 後ろに伸ばした右足が下がってグラリ。でもトゥで立った左足首を小刻みに動かし必死に持ち堪えて立て直し、 懸命に頑張って長〜いバランスを維持しました。どんなに危うくなっても、それをのりこえて、見せ場を作れる精神力と技術は流石です。 中村祥子は出産休暇復帰後まもなくの舞台。にも拘らず、こんなに凄い踊りをできるとは驚きですし、むしろ出産を経験して心身ともに一層充実してきたようにも思えます。 ベルリン国立バレエでプリンシパルとして君臨しているだけのことはあります。
この中村祥子、ハンガリー国立バレエに移籍するそうです。 クラシック中心だったベルリン国立バレエはコンテンポラリー主体になるそうで、芸術監督のウラジーミル・マラーホフも退任を余儀なくされました。 クラシックダンサーの人員削減を始めているということです。 中村祥子の移籍、退任を迫られる前に先手を打って移ってしまおうという感じもしますが、それができるのも実力のある証拠でしょう。 新天地での活躍を期待したいと思います。
  「NHKバレエの饗宴2013」のものではないけれど、ヴィスラウ・デュデックとの黒鳥〜パ・ド・ドゥの映像が、You Tubeに載っていました。  こちら
インスタグラムでは「黒鳥のパドドゥを踊っている時は私達もまだ20代。この時期はよくガラで黒鳥を踊ってたな。 またビスラフと舞台を共にしたい」と書いていました。
なお、2009年に中村祥子がロベルト・ボッレと踊った黒鳥〜パ・ド・ドゥもYouTubeに載っていました。 こちらは、アダージョでのバランスはさらに凄い。片足のトゥで立ちパートナーの支えの手を離して静止。このままジーッと粘りに粘って約8秒間の驚異のバランス。 踊りというより曲芸だと言う向きもあろうけれど、そんなことはどうでもよい。歯を食いしばってグッと堪えた時の険しい表情が何とも健気で可憐だ。真剣に事に向かう人間の表情はなんと美しいことでしょう。 「バランスをギリギリのところまで引っ張る。ギリギリのところまでバランスを堪える。ギリギリまで粘ることで何かを伝えたい。 そうすることで表現に奥行きを与える。」(NHK:トップランナー)と極限のバランスに挑む彼女の意欲は凄いと思います。
Swan Lake - Black Swan - Roberto Bolle and Shoko Nakamura 2009

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