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眠りの森の美女:日本バレエ協会 (2004.2.7)
今年(2004年)の日本バレエ協会の「眠りの森の美女」公演は、オーロラ姫とデジレ王子は三組のペアで踊られましたが、実に粋な組み合わせだと思います。オーロラ姫とデジレ王子は、下村由理恵・西島千博、島添亮子・法村圭緒、西田佑子・李波という三組。下村由理恵と西島千博は、ベテラン同士。ファンも多いし期待も大きかったようで、チケットぴあ@では最初にチケットが売り切れていました。下村さんのオーロラ姫は定評があり、ローズ・アダージョでの安定した長く保つバランスの美しさは右に出る人がいないし、島添亮子・法村圭緒、西田佑子・李波はいずれも売り出し中の新鮮なペアで、島添さん、西田さんとも第一幕の16歳の王女にふさわしい初々しいダンサー。三人とも見たかったのですが、都合で、西田佑子・李波のペアの日(2月7日)にしか見に行けませんでした。でも、見終わってから、「ああこの日に来て良かった」と思いました。
西田佑子さんと法村圭緒さんは同じ
法村友井バレエ団所属で、過去にも何度かペアを組んでいました。なのに、今回は、それぞれ別の相手とペアを組みました。西田さんは李波、法村さんは島添亮子さんとです。島添さんは小林紀子バレエ・シアターのプリマとして最近多くの主役を踊っています。とても丁寧で滑らかな踊りが特徴です。島添さんのオーロラ姫にも興味があったので今回見ることができなかったのは心残りです。でも、西田さんが素晴らしく大満足。西田佑子さんの踊りを見終わったとき、ここ数年の舞台で味わったことのないほど、うれしい気持ちになれました。西田さんは大阪の法村バレエ団所属とあって、関東の私は容易に彼女を見ることはできません。今回、少なくとも前半は、これ以上のオーロラはないだろうと思うほど魅力的な西田さんのオーロラ姫を見ることができたのは、本当に嬉しいことです。
さて、プロローグでは、何といってもリラの精を踊った、浅見紘子に尽きます。とても背が高くスラッとして、
表情は優しく穏やかで、踊りも本当に優雅。テクニックも相当確かなようで、難しいイタリアン・フェッテを見事に決めて、
大きな拍手を受けました。篠原聖一・下村由理恵夫妻が手塩にかけて育てたというだけのことがあり、しっかりと気品をもって、役を演じきっていました。
第一幕、花のワルツが終わって、いよいよ西田佑子さんの登場です。
オーロラ姫の出、「眠り」を踊るバレリーナの真価が問われるといわれる重要な場面。どんなにベテランのバレリーナでも極度の緊張を覚えるというところです。
軽快な足音を響かせて登場した西田佑子、何て可愛いんでしょう。そして、その笑顔の美しいこと。
おそらく、かなり緊張していたのでしょうが、それをおくびにも出さず、柔和な笑顔を保っていたのは大したものです。
ひとしきり踊ってローズアダージョ。古典バレエで最も難しいと言われるバランスの場面、やや肩に力が入っているなと感じられたものの、慎重に王子の手を離してポアントでの独り立ち。手を離すのが精一杯で、わずかしか腕をあげられず、ほとんど横滑りという人もいる中、西田さんは、しっかりとアンオーまで挙げ、
その腕のラインはまろやかで優雅。腕を下ろしながら、次の王子の目を見て、にっこり微笑んで手を握ります。まるで王子に「サポート、ありがとう」と言っているような優しいまなざし。支え役の4人の王子達も、西田さんの踊りをうっとりと見とれているようでした。
そして最後の難関、アチチュード・アン・プロムナード。アチチュードのまま王子に支えられてぐるっと一回りしてから、
手を離して独り立ち、再び、次の王子の手を握ります。
このとき小さなアクシデントが起きました。二人目の王子の手を握った瞬間、支えの王子の腕がガクッと下がり、プロムナードがわずかに逆回転し、西田佑子の体が大きく揺らぎ、「ヤバイ。堪えて!」と手に汗を握りました。
でも、西田佑子、一瞬険しい表情を見せたものの、あわてず、必死に体勢をたてなおして、何もなかったように踊りぬいたのは立派です。
ローズ・アダージョを無事踊り終えて、西田さん、さすがに、ほっとした様子。満面の笑みをたたえて、観客の大きな拍手に応えていました。心から「お疲れ様!!」と労をねぎらってあげたくなりました。
このアクシデント、支えの男性のミスに起因していると思います。以前同様のアクシデントが起き、バレリーナはバランスを崩して、思わず挙げた脚を下ろしてしまったのを見たことがありますが、
どんな場合でも男性は、がっちりと女性を支えてあげないと困ります。女性は男性のしっかりと安定したサポートがあってこそ、安心して自分の美しいポーズを披露できるわけで、女性に不安を抱かせるような頼りないサポートでは女性が気の毒です。
このローズアダージョでの西田さんのバランスは、シルビー・ギエムやアナニア・シビリのようなビクともしない曲芸に近いものとは違います。むしろ、そっと支えてあげたいと思わせるような、頼りなさ、心もとなさを感じました。
でも、これがかえって16歳の揺れ動く乙女心を表現しているようで、可憐な初々しい魅力をかもし出していました。きっとプティパも、このような振付を意図していたのだと思います。
続くヴァリエーションは、まさに西田さんの世界という感じ。均整のとれた魅力的な肢体を存分に使って、伸び伸びと踊っていました。本当に可憐で美しい表情。16歳のオーロラ姫そのものです。
第二幕、第三幕のパドドゥでは、西田さんと李波の息がぴったり。微笑ましい踊りでした。第三幕での西田さん、華やかさの中にも気品を失わず、まさにおとぎの国のお姫様というにふさわしい美しさでした。難しい、フィッシュ・ダイブも、見事にクリア。
テクニックの確かさを感じました
v。ただ、第三幕の西田さんは、私のイメージするオーロラ姫とわずかに違います。
オーロラ姫は、二幕の幻想のシーンで恋をし、三幕で、妻になるのですが、三幕では、「成長した女性」という感じがしなかった。一幕からの延長上の可憐な王女さまのイメージです。
生意気なことを言うようですが、この辺が、西田さんの今後の課題のような気がします。
この第二幕、第三幕とも、リラの精の浅見紘子さんの素晴らしさが光っていました。彼女の優しい容姿は、リラの精にぴったりですが、今度はぜひオーロラ姫に挑戦して欲しい。さぞかし、素敵なオーロラ姫になることでしょう。
また、カラボスのマシモ・アクリが、リラの精の浅見さんとのやり取りが滑稽で、とても良い味を出していました。
今回の「眠りの森の美女」は、きちんと3回の幕間を設けた全幕の上演。東京バレエ団に見られるような第二幕大幅カットの演出と違い、このゆとりが「眠り・・」に相応しく感じられました。
ただ、主役の二人とリラの精以外は、ソリストもコールドバレエも、この人たちとの技術レベルの差が歴然。プロの公演というより、発表会の延長といった感じのするところもありました。
この公演は、日本バレエ協会加盟の全国のバレエ団からダンサーを集めての公演なので、すべてのダンサーのレベルが揃わないのも無理からぬところもありますが、
主役級さえ揃えれば良いというわけではないと思います。バレエは総合芸術であり、主役だけでなく脇役もコールドバレエも重要な役割を担っています。観客は、バレエという総合芸術を、貴重な時間と高い入場料払って見にきているのです。脇役やコールドバレエであっても、おろそかにできないと思います。
次回の公演はぜひ全体のレベルアップをはかって、観客が納得する公演にして欲しいと思います。
ともあれ、西田佑子さんの光り輝く初々しく可憐なオーロラ姫と、浅見紘子さんの優雅で伸びやかな気品に満ちたリラの精に酔いしれた、充実の一時でした。
(社)日本バレエ協会公演「眠れる森の美女」
2004年2月7日(土)東京文化会館大ホール
オーロラ姫:西田佑子、デジレ王子:李 波
リラの精:浅見紘子
各国の王子達:今村泰典、柴田英悟、増田真也、山田秀明
フロリナ王女:キミホ・ハルバート、青い鳥:恵谷 彰
カラボス:マシモ・アクリ
指揮/堤 俊作
演奏/ロイヤル・メトロポリタン管弦楽団
ところで、二日目に踊られた島添亮子さんは、「眠り」は初挑戦だったそうですが、こちらも素晴らしかったようです。2月6日の島添亮子・法村圭緒ペアの舞台をご覧になられた方から、感想を頂きましたので、掲載させて頂きます。
島添亮子さんは最後の壁を乗り越え、大きな華になった感じの舞台でした。眠りから覚め母親と抱き合った瞬間、一挙に100年前の可愛らしいオーロラへ。まだ目の奥に残っています。1幕でも恥らいの仕草などダンスと演技のハーモニーが抜群に冴え、物語性が活かされた舞台が面白さを倍増させていました。
眠りやジゼルのように同一人物でも幕によって心情が変わる場合、テクニックを超える内面から出る表現力が求められますが、その面でも将来楽しみな存在になりそうです。
長丁場は一昨年の「ジゼル」以来だと思いますが、独特の特に腕の動きの美しさが堪能できて本当に満足しました。
以上です。大役に挑む島添亮子さんの意気込みが感じられます。
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