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アシュトンのバレエ「二羽の鳩」  (2002.9.23)

「二羽の鳩」は、絵描きの青年と、その恋人が、いくつかのドラマの末、本当の愛を見つける物語です。青年画家とその恋人を、離れてもすぐにむつまじく寄り添う『二羽の鳩』なぞらえて、この題名になっています。
 
バレエ「二羽の鳩」はアンドル・ムサージャー作曲、フレデリック・アシュトン振付で、1961年に、ロンドンのコヴェントガーデン王立歌劇場で初演されました。
このときの主演はリン・シーモア(Lynn Seymour)。シーモアの個性は、女優のような濃密な表現力と言われています。そこにいち早く注目したのがケネス・マクミランだそうですが、さりげなく詩的に情感を掘り下げることが得意なフレデリック・アシュトンも、フォンテインに続く世代のバレリーナのひとりとして、感性豊かなシーモアに期待を寄せたそうです。
 
振付のアシュトンがイメージしていたかどうかは分かりませんが、絵描きの青年ペピオとそれを取り巻く二人の女性、<若い女性グルリとジプシー>の関係が、ちょうど白鳥の湖のジークフリード王子と、二人の女性<白鳥オデットと黒鳥オディール>に重なる感じがします。
 
この作品は、少しコメディぽくて、オデットをお茶目にしたようなが若い女性グルリで、オディルのように、妖艶で、すばやいテクニックを見せつけるのがジプシーというところでしょうか。
 
恋人グルリをさしおいて、ジプシーの妖艶な踊りの虜になり、夢中でジプシーを追いかけまわしてしまった絵描き青年ペビオですが、結局は、ジプシーに軽くあしらわれて、ペビオはグルリのもとに戻ってくるのです。
 
ロイヤルの舞台では、ふたりを象徴するように、本当の二羽の鳩が舞台に登場するそうですが、鳩がオケピットや客席に飛び込んだりしないか心配で、これが結構たいへんなようです。
 
なお、音楽のアンドレ・メサジェ(Messager,Andre)は、フランスの作曲家で、パリの音楽学校で学んだ後、フォーレやサン=サーンスにも師事したようです。フランス近代音楽を中心に指揮者として活躍し、ドビュッシー:歌劇「ペレアスとメリザンド」「夜想曲」「牧神の午後への前奏曲」、デュカス:交響詩「魔法使いの弟子」などの初演を手がけ、ワーグナー:楽劇「ニーベルングの指輪」や「パルジファル」を初めてフランス語で上演するなどし、後にバレエ・リュッス(ロシア・バレエ団)の公演の指揮するなど、当時のフランス音楽界の重鎮と言われるような人だったそうです。
彼の音楽はドリーブに始まったフランスのグランド・バレエをそのまま引き継いだ優雅な雰囲気を持ち、流麗なメロディが魅力です。今では、録音は手に入りにくく、演奏されることも少ないのですが、ドリーブ同様、気楽な気持ちで楽しめる楽しい音楽といえると思います。
代表作は、このバレエ「二羽の鳩」です。ドリーブとそっくりと言われても良いような作風ですが、バレエ音楽のツボのようなところはしっかり押さえてある作品です。
 
バレエ「二羽の鳩」は日本ではあまり上演されたことがないのですが、関西のワクイバレエ団が上演した貴重な映像があります。
主役のグルリは、長田佳世さん。現在K-バレエのソリストでもある長田さんが、ロシアバレエ団より帰国したのを記念して行われた公演だそうですが、塚下兼五さん(ペピオ)、ローラ・ドワイヤーさん(ジプシー)ほか、森伊佐さん中手綾乃さん田中広美さんというワクイバレエのソリスト達、それにオーランドバレエで活躍中の安川千晶さんも加わった豪華版です。1999年の録画で、初々しい長田佳世さんの踊りが魅力です。軽快でコミカルな動きに加え、180度を超えるアラベスク、固唾をのむアチチュードのバランスなど、華麗なテクニックを披露しています。このビデオ、映像も美しく、私の大事なコレクションの一つです。
 
なお、バレエ「二羽の鳩」は、近く小林紀子バレエシアターが上演するそうです。(2002年10月18〜20日、新国・中劇場)。主役のグルリは、18,19日が吉田都さん、20日は下村由理恵さんとのことです。技術だけでなくコメディタッチの演技力が要求されるこの役、女優のように表現力豊かな下村由理恵さんにはまさに適役でしょうが、清楚で可憐なバレエのプリンセスのイメージが強い吉田都さんが、どこまでこのグルリに迫れるか楽しみです。それにしても、下村さん、吉田さんという、日本を代表するトップダンサーの競演、小林バレエシアターも創立30周年記念公演とは言え、粋なことをやるものです。火花の散る二人の華麗な対決、目が離せませんね。

  バーミンガムロイヤルバレエの佐久間奈緒とロバート・パーカーによる「二羽の鳩」のリハーサル風景が、
  You tubeに載っていました。→こちら

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