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ルドルフ・ヌレエフの世界〜「眠りの森の美女」  (2003.9.13)
 けなげに至難な技に挑むプラテルに感動

「ルドルフ・ヌレエフの世界」というビデオがあります。
パリ・オペラ座が、彼の振り付けでの作品を上演するまでのリハーサル風景を綴ったドキュメンタリーです。「眠りの森の美女」、「ロミオとジュリエット」、「ラ・バヤデール」そして「ライモンダ」から成っていますが、この中で、私は、「眠りの森の美女」が最も好きです。
 
第1幕のオーロラの出のリハーサルから第3幕グランパドドゥまでオーロラ姫の出てくる場面のリハーサルの状況や本番のステージが収録されています。オペラ座のエトワールだったエリザベート・プラテルが自分の踊りを見せながらの解説が、とても説得力があります。
 
パトリシア・ルアンヌがプラテルに「ローズアダージョ」の指導をしているシーンが出てきますが、とても厳しいものです。難しいバランスの場面、プラテルが王子の手をとって手を離しかけたところで、「ここでワンテンポおいて最後のバランスまでしっりと!!」と注文を出します。プラテルは必死にバランスをとっています。顔は引きつっていますし、背中には汗が光ります。最後のバランスが終わってくたくたになったプラテルは放心状態。でも「それでいいわ!!」とルアンヌはプラテルにもう一度踊らせます。今度は、最初の四人の王子とのバランスが終わったところで、突然ルアンヌはストップをかけました。プラテルがわずかにバランスを崩し、ほんの少しぐらついたからです。「(バランスのところは)すごく集中力を要求されるところです」と言って、プラテルにもっと精神を集中するように指示します。そして、もう一度踊ってみなさいと命じます。オペラ座の大勢ダンサーたちの前で容赦なく、厳しく叱られたプラテル。 エトワールという最高の地位の彼女、屈辱からか厳しい表情を見せたプラテルですが、気を取り直して、けなげにも再度難しいバランスに挑戦するのです。
「オーロラの登場の場面は、いつも緊張して震えてしまいます。『白鳥の湖』よりもです。なぜなら『白鳥・・』は、王子が先に出ているのですが、『眠り・・』は、一人で出て行かなければならないからです。観客の目が一斉に集中するのです」とプラテル。さらに、「『ローズ・アダージョ』には極度の集中力とテクニックが要求されます。オーロラは慎み深く無邪気で可憐でなければなりません。一人の男性と踊るパドドゥと違って、四人の男性と踊るのですから、バランスをとるのがものすごく大変です。四人の王子の手を順にとりながらアチチュードのバランスをとるところはもっとも集中しなければなりません。どこに意識を集中するかは相手によって違います。軸足の時もあるしあげている足の時もあります。相手役もいろいろで、助けようとしてくれる人もいれば、近寄ってくる人もいます。中には突き放す人もいます、だから自分がしっかりしていなければだめなんです」と「ローズアダージョ」のバランスの難しさを語っています。
この場面、見る方も本当に疲れるところです。第一幕の出から、キュートな笑顔で軽快に踊っていたオーロラ姫が、突然真剣そのものの表情に変わり、必死にバランスを取る姿に、見る方は「頑張って!!」と祈るような気持ちで、瞬きを忘れて見入ってしまいます。そして無事バランスを終えてホッとしたダンサーの笑顔、見る方もどっと疲れが出て、思わず「無事終わって良かったね!!」と祝福してあげたくなるのです。
 
この、ルアンヌのバランス重視の姿勢は、グランパドドゥにも表れています。パートナーに掴まってアラベスクのバランスをとっているプラテルに「彼を押し戻すような感じで・・・・そう、肩をキープして・・・・分かった?、力をこめないとだめ、その方がずっときれいに決まるわ。背中をしっかり伸ばして自分の力でキープするのです」 と忠告しています。それを忠実に守ったプラテル。最後の独り立ちのアラベスクを長く保ち、フィッシュダイブをバッチリ決めて、ルアンヌの「グッド」という声にようやく笑みが浮かびました。
プラテルは、「踊りなれた作品を踊っても、毎回新しい発見があります。なぜなら、体を使って音楽を表現するのがバレエだからです。年月がたてば感覚が違ってしまうのでもう一度音楽を聴き直さなければなりません」と言っていますが、この気持ちがあるからこそ、バレエダンサーは、常に新鮮な舞台を保っていけるのだと思います。
 
プラテルは、パリ・オペラ座の年齢制限からエトワールの座をオーレリーデュポンに譲りましたが、この映像は、エトワール時代の彼女の舞台裏を知る貴重な記録だと思います。
一部がYouTubeに載っていました。
Best of Elisabeth Platel

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