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「眠りの森の美女」〜第2幕バリエーション:大谷遥陽   (2016.3.13)

「眠りの森の美女」第2幕はオーロラ姫16歳の誕生日から百年後、狩りに出たデジレ王子が、リラの精に導かれオーロラ姫の幻影と出会い、王子がオーロラ姫に思いを寄せる場面です。 第1幕の華やかさとは異なり、オーロラ姫には、能面のように無表情で、一心に待ち続ける乙女の心を表現する演技が要求されます。 全幕上演では、第2幕そのものを簡略化したり、あっても、主役のバレリーナにとっては第1幕の「ローズ・アダージョ」の緊張から解放された直後の場面だけに、つい力を抜いてしまう人も居るようです。 ですから、第2幕のオーロラ姫のヴァリエーションは、第1幕や第2幕のヴァリエーションより、バレエーコンサートやコンクールで取り上げられることは少ないようです。 でも私はこの第2幕のオーロラ姫のヴァリエーションがとても好きです。 このヴァリエーションには、派手な回転や跳躍が組み込まれているわけではありません。それ故に、基礎の美しさや動きの正確性、コントロール力が求められる、 ごまかしの利かない非常にシビアな振付なのです。
素敵な第2幕のオーロラ姫のヴァリエーションの映像がYou Tubeに載っていました。Eva Evdokimova Memorial Educational Ballet Competition2013での大谷遥陽の踊りです。 彼女はこのコンクールでグランプリを受賞したのですが、心のこもった美しい踊りでした。 最初の見せ場の 見せ場のエカルテ・ドゥヴァンでのバランス。開脚はほぼ180度。 このポーズ、ここまで開くと、いかにも開脚の凄さを見せびらかしているようで下品になりがちですが、大谷遥陽は全く無理なくフワッと脚が挙がり、とても上品で美しい踊りでした。 さらに終盤近くの左右連続の12回のエカルテ・ドゥヴァンの正確さは完璧。 片足のポアントで立ったままで、振り上げた脚はほぼ垂直でピタリと止まる。並々ならぬ技術の高さが分かります。 この場面、今にもトゥが崩れそうでハラハラ・ドキドキと手に汗握る人やバランスを失ってメロメロ・・・破綻、 となる人も多いなか、こんなに高く脚を挙げても殆どグラつかず、トゥの先のズレも少なく柔和な表情で軽々とこなしたのは流石です。

大谷遥陽:エデュケーショナルバレエコンペティション2013
ジュニアBの部1位(大谷遥陽)YouTube
かって舞踊評論家の故蘆原英了が、「最も大切なことは、体の『平衡』と『安定』である。 ゆっくりとした動きは易しいと思われがちであるが、早く動けば、まだバランスは誤魔化せるが、ゆっくり動くとそれができない。 そのために非常な筋肉の緊張がいる。こらえる為の力が異常に必要である。 アレグロのピルエットは、急激に廻るのだから却って易しい。しかし、ゆっくり回転するというのは何と難しいことだろう。 まるで力学の法則を無視したような遣り方である。」(バレエの基礎知識:昭和25年)と言っていましたが、 大谷遥陽は体の「平衡」と「安定」を身に着けるため、どれだけ苦しい稽古を積んできたか計り知れません。 この素晴らしい踊りは、その精進の賜物に違いありません。彼女の努力に敬服します。
【Eva Evdokimova Memorial Educational Ballet Competition】
大谷遥陽(佐々木三夏バレエアカデミー)エデュケーショナルバレエコンペティション2013 ジュニアBの部1位の映像です。(2013年12月24日?27日開催)  
なお、大谷遥陽は1年後にローザンヌバレエコンクール2014にも出演し、このバリエーションを踊りました。 ファイナルまで残りました。緊張の為か、やや硬さが感じられ、残念ながら入賞は逃したものの、しっとりとした身のこなしの上品な踊りで、エデュケーショナルバレエの時より一層の成長の感じられ、これもとても素敵な踊りです。
Haruhi Otani - 2014 Selections - Classical variation
Prix de Lausanne - 2014 Selections Haruhi Otani - Japan School: Sasaki Mika Ballet Academy Variation: La Belle, Aurore 2e acte Choreographer: Marius Petipa Music: Piotr Tchaikovsky  
大谷遥陽は佐々木三夏バレエアカデミーの出身ですが、現在は、スペイン国立バレエカンパニーの団員です。 彼女のinstagramに、右足と左足のポアントで立って、長時間アチチュードのバランスを維持する稽古に励む映像が載っていました。 どちらのバランスも見事で、思わずハッと息を呑みました。
特に左足を軸足にしてポアントで立って、右足を後方に上げるポーズは、バランスをとるのが難しく失敗しやすく、バレリーナ泣かせのようです。 ヒューストン・バレエのプリンシパル加治屋百合子さんですら、彼女のinstaguramの中で、『 左足でのバランスは苦手ですが、今日は上手くいきました』と言っていたくらいですから、大谷遥陽さんが、軸のブレもほとんどなく、これだけ長く持ちこたえることができたのは、驚異的です。
歯を食いしばって、懸命に揺れを堪えて、至難な業に挑戦する姿は、本当に美しい。
さぞかし厳しいレッスンに励んでいることでしょう。今後の活躍を期待します。
『頑張れ、大谷遥陽さん』
大谷遥陽:左軸足のアチチュード
大谷遥陽:右軸足のアチチュード

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