【山口's HP TOPへ戻る】

パキータ~パ・ド・ドゥ:アン・ジェヨン、チョン・ジェウン        (2014.11.18)

とても素敵なパキータ~パ・ド・ドゥを見ました。 韓国ユニバーサルバレエのアン・ジェヨン(Jiwon Ahn,안재용)とチョン・ジェウン(정재은)によるもので、 2014年6月のバレエフェスティバルでのガラのようです。

パキータのアン・ジェヨンは、スラッとして、ほっそりとした美しいプロポーション。かと言って痩せ過ぎというわけではなく、ふくよかな胸とふっくらした肢体が魅力的で、 パッチリとした眼の笑顔の美しい初々しく可愛いらしいバレリーナ。彼女は韓国ユニバーサルバレエ所属で、地位はコリフェ。 まだ駆け出しの彼女ですからパ・ド・ドゥへの出演は、異例の抜擢でしょう。でも、このパキータのパ・ド・ドゥはとても素敵でうっとりでした。 パートナーのチョン・ジェウンはユニバーサルバレエのダンサーではなく他のバレエ団からの客演のようです。

パ・ド・ドゥのアダージョでは、アン・ジェヨンは可憐な中に凛とした雰囲気、パートナーのチョン・ジェウンはジェントルな王子という感じで、二人の微笑ましいばかりのパートナーシップにうっとりでした。 チョン・ジェウンはリフトやジャンプでは力強く女性を持ち上げ、バランスでは女性をしっかりサポートし、優しい心配りが随所に見られました。 アダージョを踊る女性にとって、頼れるのはしっかり支えてくれるパートナーだけ。このパ・ド・ドゥではパートナーの男性の女性を思いやる気持ちを強く感じたし、女性がグラつきかけた時ビシッとフォローしていた頼もしさを感じました。 チョン・ジェウンはサポートが上手で、二人で踊るシーンでは出過ぎず控えすぎずでとてもバランスがいい。 アン・ジェヨンを高々と持ち上げるリフトは、多少つらそうなところもあり、やはり、大変なのだろうと思います。 支える立場というのは、支えられる立場以上に、力も必要な部分だし、パートナーシップも必要。万一パートナーを落下でもさせたら大変。 本当に難しい場面だと思います。 リフトから女性を真っ逆さまに落とすフィッシュ・ダイブもピタリと決まり、大きな拍手を受けました。このフィッシュ・ダイブ、二人の息が合わないと悲惨な結果になることもある危険な技。 かって、男性の腕から女性の太股がずり落ち、女性の顔が床につきそうになったのを見たことがありますが、このアン・ジェヨンとチョン・ジェウンの息はピッタリで、見事なフィッシュ・ダイブでした。

パキータはジプシーとして育ったけれど皇室の血も流れている女の子なので、 パキータのヴァリエーションは、エスニックな腕や肢体の動きに加えて、貴族の生まれとしての上品で気高いイメージも要求され、 クリスタルガラスのような透明感のある純潔な内面的な表現が必要とされています。アン・ジェヨンは、可愛らしくて、とても軽快な踊りで、笑顔がとても美しかったのですが、 ちょっと力みが出た感じもしました。より、しっとり感があると、なお良かった気がします。 とりわけ、脚が上がるだけ跳ね上げた方がよいと言われるエカルテ・ドゥヴァン・デヴェロッペでは、グッと堪えて決めた華麗なバランスのポーズの美しかったこと。ハッと息を呑みました。 高々と蹴り上げた脚は無理なく爪先までまっすぐ伸びて、開脚の角度は180度近く。 ここまで楽々と自然に、高々と脚が挙がるのは股間接が完全に開く証拠。 完璧なアン・ドゥオールが身についているのでしょう。しかも爪先から手の指先まで神経が行き届いていて、惚れ惚れするほど美しかった。 このエカルテ・ドヴァンのバランスの直後にあるのが、2回転のアチチュードに続いて右足でツンツンと跳ねながら左脚を挙げてアラベスクのバランスという難関です。 バランスのポーズに入り、ツンと跳ねた途端、 トゥで立った足首が崩れ落ち、アラベスクに上げたもう一方の脚が落下してメロメロになるということもあるのですが、 2回ともバランスをバッチリ決めて観客の拍手を受け、思わず笑みがこぼれました。終盤には、背中に薄っすらと汗がにじんで、体力的に相当辛そうだったけれど、とても可愛らしい素敵なヴァリエーションでした。

でも、コーダの部分では力みがとれて動きがよりスムーズになった感じ。 32回のグラン・フェッテは、回転は落ちなかったけれど、軸がややずれてきて苦しそう。 フェッテに挑んでいるアン・ジェヨンの表情は真剣そのもの。連続回転は体力的に相当きついようで、必死に回っている様子が伺えました。 30回回ったところで軸足が大きく傾き、倒れかけて、たまらず挙げた足を床に付いてしまった。でも必死に堪えて両足のトゥでしっかり立ってビシッとフィッニシュのポーズを決めたのは偉い。 32回まで回れなかったのは心残りでしょうが、30回まで破綻なく回れたので立派なものです。アクシデントと思って、気にすることはないと思います。

ピークを過ぎたベテランの女性ダンサーの顔見世のようなパ・ド・ドゥを見せつけられてうんざりしたことがありますが、 このアン・ジェヨンとチョン・ジェウンのパ・ド・ドゥはフレッシュで本当に素晴らしかった。 バレエは、若さの芸術と言われますが、この二人の踊りを見ていると、その通りだと思います。 アン・ジェヨンは、ほっそりとしてプロポーション抜群。衣装はクラシックチュチュだが、スカートが腰骨あたりから真横に張り出しているのではなく、ウェストからなだらかに広がっている長めで優雅なタイプ。 とても上品な上に、脚を高く上げたときはスカートがふんわりと広がり、長くて美しい脚のアン・ジェヨンには、とてもで良く似合っている。 クラシックチュチュは脚が丸見えなので踊る方はミスの誤魔化しがきかなくて大変だけど、見る方は美しい脚の動きを堪能できて楽しい。 脚を垂直に跳ね上げたエカルテ・ドゥヴァン・デヴェロッペのポーズでは、付け根からスッキリと伸びた長い脚が高々と無理なく自然に上がって、思わずハッと息を呑む美しさ。 これほど高く脚を上げると下品で見るに耐えないダンサーも居るけれど、アン・ジェヨンは、こんなに高く蹴り上げて脚を露に見せても全然下品に見えないのが良い。 優雅で気品に満ちた雰囲気が、アン・ジェヨンの周りに溢れているからでしょう。 こんなに気品のある、しかも若く可愛らしいダンサーを見たのは久しぶりのこと。本当にアン・ジェヨンは魅力的で、これからが楽しみなダンサーです。

【山口's HP TOPへ戻る】