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ピリスのモーツァルト・ソナタ
マリア・ジョアオ・ピリスがピアノ・ソナタを弾いているレーザーディスクがあります。
ピアノ・ソナタ12番へ長調K.332で、1986年フランスのシャンゼリゼ劇場でのライブです。
「モーツァルト座右宝」という没後200年の記念アルバムに含まれています。
実は私が初めてこの演奏を聴いたとき、「ほんとうにピリスが弾いているの?」と疑問を持ったのです。
でも映像は紛れもなくピリスなのです。
私はピリスの弾いた「モーツァルト・ソナタ全集」のレコードを持っています。
1974年のディジタル録音(日本コロムビアのPCM録音)でアナログディスク(LPレコード)です。
このレコードを聴く限り、ピリスの演奏は、輪郭のはっきりとした、硬めの音質の演奏です。強弱をはっきりつけ、緩急の多い演奏です。
私はこれ以外に、イングリッド・ヘブラーの弾く「モーツァルト・ソナタ全集」を持っています。
こちらは対照的に、遅めのテンポで、強弱の少ない穏やかな演奏です。
私は、モーツァルトは、どちらかというと、ヘブラーのような演奏を意図していたのではないかと思います。
ピリスのソナタ全集での演奏は、モーツァルト風というよりベートーヴェン風に思えるのです。現代的とも言えるのかもしれません。
ところが、新たにレーザーディスクから流れるピリスの演奏は、このモーツァルト全集とは全く正反対の、むしろヘブラーの演奏に近いもののように思えました。
ソナタ全集と今回のレーザーディスクとは10年以上の隔たりがあります。
また、スタジオ録音とライブという音響の状況も違います。
しかし、一人の演奏者がこれほど演奏スタイルが変わったのも珍しいと思います。
ピリスは1980年頃から数年間、腕の故障で演奏活動から遠ざかっていました。
これが彼女に演奏のスタイルを変えさせた原因の一つかもしれません。
演奏スタイルや音質には好き嫌いがあり、必ずしも現代的でない今回の演奏が、現代に素直に受け入れられるかはわかりません。
でも私は、彼女の演奏には、以前にも増して円熟さが加わったと思えます。
もう一度、ピリスがモーツァルトのピアノソナタ全集を録音してくれたらと思います。前の全集と聴き比べられて、とても面白いと思います。
それに、ピリスは画面に写る演奏の姿がとても美しいので、願わくば、映像も加えて、DVD(ディジタルビデオディスク)で出してくれたら最高です。
レコードジャケット
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