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白鳥の湖〜グラン・アダージョ、黒鳥のパ・ド・ドゥ:ノエラ・ポントワ、パトリック・デュポン  (2010.05.20)

とても珍しい「白鳥の湖」〜グラン・アダージョと黒鳥のパ・ド・ドゥの映像があります。1985年製作の「パリオペラ座のエトワールたち」というビデオの中で、ノエラ・ポントワとパトリック・デュポンが踊っているものです。
 
ノエラ・ポントワは、パリオペラ座のはえ抜きバレリーナで、往年のパリオペラ座のエトワール。1960年後半〜1980年始めまで、文字どおりパリオペラ座のトップスターとして君臨していました。彼女は日本人ダンサー工藤大貳と結婚して、娘にミテキ・クドーがいます。ミテキ・クドーもパリ・オペラ座で活躍しています。1972年頃、東京バレエ団の「眠りの森の美女」に主演したことがあり、私は、この舞台を鮮明に覚えています。ポントワは、小柄で可愛らしくリリックで、フランス人ですが、どちらかと言うと、日本の大和撫子と言った感じのバレリーナでした。第1幕オーロラの出は、舞台にパット花が咲いたようでした。 続く「ロ−ズ・アダージョ」も、とても自然で上品でした。バランスそのものはそれほど長くはないのですが、「決めるわよ!!」というような意気ばった感じが無く、スーと入っていきます。それでいて、決して物足りなさを感じさせない。音楽にとても良く乗っているのです。単にバランスが長いとか、足が高く上がるとかの技術だけじゃない、節度というか、奥ゆかしさというようなものを感じさせました。アクロバットばりのシルビー・ギエムと正反対です。このようなところが単にテクニックを見せるだけではない、真の芸術家なのだと思いました。 パリオペラ座は40歳が定年ですから、この映像は、多分、彼女の定年まじかな映像だと思います。その意味では、非常に貴重なものです。
  
ポントワは、このビデオでは、第一部で白鳥のグラン・アダージョ、第二部で黒鳥のパ・ド・ドゥと、性格の違う2つの役を踊っています。パートナーは、やはり元エトワールのパトリック・デュポン。白鳥もとても美しいのですが、とりわけ黒鳥は素晴らしい。アダージョ、バリアシオン、コーダとどれをとってもうっとりの見事な踊りです。テクニックを誇示するようでなく、むしろ、つつましやかで、気品が漂います。芸術家という言葉に相応しいダンサーでしょう。
黒鳥のアダージョで、相手のデュポンと二人の息はピッタリ。ポントワは、力強いデュポンのサポートを、信頼しきっているようで、大胆に、かつ繊細に、彼女のもてる最高の技を披露します。パートナーの手を離しての独り立ちのアラベスクでは、上体のゆれをグッと堪えて、もうこれ以上は限界というほどギリギリまでバランス保って、ハッと息を呑む「決め」の美しさを見せます。まさに「一瞬の輝き」。 また、コーダのグラン・フェッテでは、後半軸足のズレが出てやや辛そうなところもありましたが、ダイナミックな回転は見事です。でも、フィニッシュ直前に、軸足のトゥが崩れて、回転が止まってしまったのが惜しかった。年齢による体力の衰えはいかんともし難い。引退まじかの彼女には、32回転の大技は、チョッと荷が重かったのでしょうが、懸命に歯を食いしばって回る姿には感動しました。

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