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瀕死の白鳥:マイヤ・プリセッカヤ     (2005.11.5)

1975年頃、私は、プリセツカヤの「瀕死の白鳥」の舞台を見ました。ボリショイバレエやレニングラードバレエのメンバーからなる一行によるバレエコンサートでした。プリセッカヤの腕は関節がないと思わせるほどしなやかに波打っていました。とても人間の技とは思えず、思わず息を呑んで体が震えるほどでした。終了しても観客はみな我を忘れ、すぐには拍手できなかったほどで、とても大きな感動でした。
幸いなことに、この頃の踊りが映像に残っていました。かってCS・シアターテレビジョンが放送した「ボリショイバレエの黄金時代」という番組に含まれていました。プリセツカヤ誕生は1925年ですから、この頃すでに50歳だったのです。
もう一つ、1992年の映像も残っています。モスクワの赤の広場で行われたバレエコンサートの映像で、エッセンシャル・バレエというタイトルのLDに入っています。このときはなんと67歳です。
改めてこの二つの映像を見てみたのですが、さすがに1992年の映像では、67歳の年齢のせいか、アラベスクの足は高く上がらず技術的な衰えは否めませんが、しっとりとした叙情性というような・・・、踊りの深さは、1975年の映像より、むしろ高まっているように感じます。人生経験が踊りに反映しているのでしょう。
50歳半ばを過ぎて第一線で活躍している森下洋子には驚くと同時に頭が下がりますが、このプリセツカヤは、さらに25歳以上も年上の80歳の現在までも踊っているようですから、奇跡です。
「若さの芸術」と言われるバレエ、ダンサーが高年齢になるにつれ、華麗なフェッテなどの超絶技法ができなくなってくるのは仕方がないことですが、プリセッカヤの舞台を見ていると、豊富な人生経験とたゆまぬ肉体的、精神的な鍛錬によって得られた深みのある演技は、単なる体力的な衰えを超越した、精神面の「若さの芸術」を作りだし、いつまでも観客に感動を与えてくれるものだということを、つくづくと考えさせられます。

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