【トップページへ戻る】

眠りの森の美女〜第一幕ローズアダージョ:プリセッカヤ  (2005.8.13)

プリセッカヤが踊った「眠りの森の美女」〜第1幕の「ローズアダージョ」の映像があります。「ロシアバレエの黄金時代」というビデオの中の一つで、1977年の録画です。世紀のプリマ、プリセッカヤの「ローズアダージョ」ということで、とても期待したのですが、正直なところ見終わって、がっかりしました。「ローズアダージョ」は、オーロラ姫と4人の貴公子のお見合いのシーンです。今までに、フォンティーン、バッセル、シゾーワ、デュランテ、アスィムラートワ、シヴィリ、草刈民代さん、森本由布子さん、吉田都さん、下村由理恵さん・・・等のオーロラ姫の映像を見てきましたが、いずれも求婚する4人の貴公子に、惹かれながらも、結局4人とも受け入れないという若いプリンセスの揺れる心を情感たっぷりに表現していて、見終わった時に、また見たいという気持ちにさせられました。ところが、このプリセッカヤのオーロラ姫からは、そんな気持ちが全く感じられず、もうたくさん、二度と見たくないと思ったほどなのです。
ローズアダージョの見所は、なんと言っても最初と最後のアチチュードのバランス。ポアントで立ったオーロラ姫がサポートの貴公子達の手を離した瞬間に見せる究極の美です。本当に手を離せるのだろうか・・・、不安と期待。手を離す直前、全神経を集中するバレリーナ、見ているものも思わず身を乗り出してしまうところです。慎重にアンオーまで手を挙げ揺れをてグッと堪え、ふらつきながらも必死にバランスを維持する真剣な表情に、彼女の緊張がひしひしと伝わってきて、はらはらして思わず手に汗握る瞬間です。無事踊り終えた彼女の安堵の表情に、見ている方もホッとして、どっと疲れが出てしまう。優雅さの中のみなぎるスリル、・・・、これが「ローズアダージョ」の魅力だと思います。
それが、このプリセッカヤのように淡々と踊られては、全然面白くありません。全く無表情で、しかも手を高く上げようともしない。数センチ手を離すだけで、ほとんど横滑りという感じなのです。これでは、「一瞬の輝き」を楽しみにしていた観客をバカにしているようにすら思えてしまいます。
 
「ローズアダージョ」は、クラシックバレエで最も至難な踊りとされています。「眠りの森の美女」のオーロラ姫には定評のある下村由理恵さんでさえ、「ローズアダージョが終わるまで緊張します。4人の王子との呼吸が難しい」と言っていました。
私が最も感動した「ローズアダージョ」は、吉岡美佳さんが初めて「眠りの森の美女」に挑戦したときのステージです。吉岡さんは、このローズアダージョで息を呑むバランスを見せて、観客を沸かせました。ポアントでアチチュードしたまま、時間が止まったかのよう。顔や手の表情もやわらかで、気品に溢れていました。オーロラ姫に求婚する4人の貴公子ならずとも、思わずうっとりしてしまう。劇場は大きな拍手に包まれました。吉岡さんの言葉、「ローズ・アダージョはどんなバレリーナにも大変です。リハーサルの時は自分が出来るギリギリのところまでバランスをとってみるようにしました。調子のいいときはそのままずっと立っていられそうなこともありました」。 彼女は、ポアントでのバランスの取る時は、脚はあまり高く上げずに、上半身をまっすぐにのばし、オーロラ姫の気品が感じられるよう工夫したそうです。(クララ(99年2月号))
 
このプリセッカヤの「ローズアダージョ」の撮影は、1977年ですから、彼女の最も脂ののっていた時期のはずです。それにしては、この「ローズアダージョ」の踊りは頂けません。プリセッカヤは「白鳥の湖」や「瀕死の白鳥」には定評がありますが、そう言えば、映像でも舞台でも、彼女が「眠りの森の美女」を踊ったのを見たことがありません。もしかすると、この映像は彼女が初めて踊った時のものかもしれません。世界のプリマ、プリセッカヤといえども、苦手な踊りもあるのかな・・・?、とも、思った次第です。

【トップページへ戻る】