素敵なライモンダのパ･ド･ドゥを見ました。YouTubeに載っている映像で、山本真実 長崎雄大という若いダンサーの踊りです。 コメントには、ABS Performance, Omotesandotoとなっているので、Austrian Ballet Schoolの発表会のものでしょう。 私はバレエの発表会を観るのが好きです。「発表会」はバレエ教室が日頃の成果を家族や友人に観てもらうものですから、ダンサーの技術も、演出も「公演」と比べて遙かに及ばないのが普通です。 でも時として「発表会」の中にキラッとした輝きを発見することがあるのです。この映像にも、そのような素敵な輝きを感じました。 舞台経験が少ないせいか、プレッシャーに押し潰されまいと懸命に踊る若いバレリーナ、彼女の不安を和らげようと、優しいまなざしで力強くサポートする男性ダンサー。心温まるデュエットでした。

　

グラズーノフ作曲のライモンダのパ･ド･ドゥはハンガリーの宮廷でのライモンダと騎士ジャンの結婚披露宴の踊りです。 プティパの振付ですが、グラン･フェッテのような派手なパフォーマンスはない代わりに、アダージョには似たようなメロディーの繰り返しが続くので、 女性には、緩急をつけて情緒たっぷりに踊ることが求められます。 また男性が女性を肩に乗せて移動するリフトがあり、お互いの呼吸が合わないとすんなり上がらなかったり、 上がっても男性の足がふらついて、空中の女性が恐怖を感じたり・・・、最悪は女性の落下・・・と、ミスも出やすい踊りです。 危険を伴う、この難しいアダージョに、若い美男美女のカップルが果敢に挑戦していた姿は、美しかった。 特に、男性が丁寧に女性をサポートする姿がこの上なく美しく、アダージョの魅力ここにありというような、男女の協力の賜物という感じの、微笑ましさ溢れたパ･ド･ドゥでした。

ライモンダ役の山本真実は美しいプロポーションの素敵なバレリーナ。 痩せぎすのダンサーが多い中、ポッチャリとした顔に、ふくよかな胸とふっくらした肢体が魅力的。 騎士ジャン役の男性は勇壮な騎士というより優しい王子さまという感じで、リフトやジャンプでは力強く女性を持ち上げ、バランスでは女性をしっかりサポートし、 優しい心配りが随所に見られました。アダージョのアントレ(導入部)は手を繋ぎ、いかにもフレッシュな恋人同士という感じの軽やかなステップで登場。 二人で舞台を駆け回って、終わりはライモンダが左足を軸にして右膝を床につけて太腿を立てて、ジャンを見上げる独特のポーズでフィニッシュ。 このポーズは、その後も軸足を変えて随所に出てくるライモンダの定番です。 主題に入った直後は、女性は緊張からか顔が強張っていたし、この後の女性を肩に乗せて移動するリフトの一度目は男性がふらついて苦しそうだったけれど、二度目はバッチリ。 リフトされた女性は、徐々に表情も和らいできて緊張がほぐれて落ち着いてきたようでした。 女性はその後ジャンプもアラベスクパンシェのバランスもミスなく踊り終えて、いよいよフィニッシュ。 空中へ持ち上げられての二回のアラベスクと腰を支えられての最後のピルエットを無難にこなし、 左足で支えて右膝を床につけて太腿を立てて・・・、という幾度も出てくる定番のポーズをバッチリと決めて、思わず笑みが浮かびました。 山本真実はハァハァと肩で大きく息をしていましたが、パートナーの長崎雄大が、すかさず手を差し伸べて、暖かい眼差しを注ぎ、優しくレベランスへ導いていった姿が微笑ましかった。

男性のヴァリエーションに続いて、女性のヴァリエーション。 山本真実は、手を打つようなライモンダ特有の仕草や、たくさんのパ･ド･ブーレやピルエットなどのトゥさばきなど難しいパやポーズを頑張って正確にこなしていました。 コーダはやや疲れが出たのか、足元がやや不安定に感じたところもあったけれど、破綻無く無事終了。レベランスでのほっとした笑顔が素敵でした。

このパ･ド･ドゥではパートナーの長崎雄大の頼もしさを感じました。 特にアダージョでは、女性がグラつきかけた時ビシッとフォローしてくれるのは、パートナーの男性だけ。 パートナーの男性には女性に不安を与えない力強いサポートが大切で、ダンスール･ノーブルとはこういう男性を指すのでしょう。 そして、ライモンダ役の山本真実は、優雅で気品もあって、ほのかな色気さえ感じられる素敵な女性。 回転系など、技術的にはまだまだと思えるけれど、そういう部分を発見できるのも、「発表会」ならではの楽しみでしょう。 何より、山本真実も長崎雄大も、将来を夢見ているようで、力一杯踊っていた健気な姿に感動しました。 二人が、技術を磨いて、大きく夢を育てて、成長した姿を見たいものです。

ABS Performance, Omotesando, July 30, 2016. Mami Yamamoto and Yudai Nagasaki
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