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ローズアダージョ
「眠りの森の美女」第1幕でオーロラ姫が四人の王子から求婚のバラを受けることから、こう呼ばれています。 主役が全幕を通じて最も輝くところで、バレリーナの至芸をたっぷりと味わうことができる場面です。 バレリーナがつま先で立ったままサポートの男性の手を離して長くアチチュードのバランスをとり続けるところは、数あるクラシックバレエの中で最も至難な踊りとされています。 女性が細いトーシューズの先で立ってアチチュードのまま長くバランスを保つには、男性の手をしっかり握りしめていてもぐらぐらして不安定なのに、まして女性は男性が替わるたびに手を離すのですから大変です。手を離して支えを失ってもじっとバランスを維持しなければなりません。 サポートの男性と呼吸が合わないまま不用意に手を離すと、バランスを崩すことにもなりかねず、バレリーナが最も緊張する所です。手を離した途端バランスを崩して倒れかけ、とっさにサポートの男性に掴まったものの、男性が支えきれず、女性は、たまらず挙げた足を降ろしてしまったのを見たことがあります。 ベテランのバレリーナでも不安にかられるこの場面、まして経験の浅い若いバレリーナにとっては、恐ろしさははかりしれません。

ローズ・アダージョは、バレリーナなら誰もが一度は踊りたいと憧れる反面、力量の差が顕著に現れやすく、観客の厳しい評価の目にさらされるところです。 バランスをとるのに精一杯で、サポートの王子から次の王子へ、手をほとんど上げられず水平移動だけだったり、こわごわ上げて、すぐ降ろしてしまうのは興ざめですね。 ベテランの中にもこんな人もいます・・・。情けない。アン・オー近くまで手を上げてグッと堪えて息をのむバランスを期待します。 むしろ経験の浅いダンサーが、ぎゅっと握りしめた支えの腕がギクギク震えて、「本当に立てるのかしら」とハラハラさせながらも、果敢に難しい技に挑戦する姿に、初々しい感動を覚えます。 離した手を頑張ってアン・オー近くまで上げ、笑みを忘れて、グラグラする上体の揺れを必死に堪える健気なバレリーナには、思わず「頑張って!!」と身を乗り出してしまいます。 このバランスの技は、女性ダンサーにとっては、本当に過酷な要求だと思います。

第一の難関はアダージョが始まってすぐに現れます。ゆるやかな音楽にのって女性はつま先で立ち、男性の手を離して、グッと揺れを堪えてバランスを維持します。これを3回繰り返します。 そして、曲の最後近くにさらに難しさを増した二つ目の難関が待っています。 音楽が高らかに鳴り響く中、男性はアチチュードの女性の右手を取ってゆっくりと女性の周りを回ります。このとき女性は回転に集中するあまりどうしても右手に力が入りバランスをとりにくくなってしまいます。 手を離す瞬間は、女性が最も緊張するところです。これが3回も続くのですから、ベテランのバレリーナでさえ恐怖を感じてしまうのも無理からぬところでしょう。 一方、観客にとってはスリル満点、必死に堪え忍ぶ健気な姿に「頑張って!!」と祈りながらも、興味津々、ハラハラ固唾を飲んで見守るところです。 オーロラ姫が、10分近くもある、全幕の中で最大の見せ場で最高の難関を無事突破し、観客の拍手に迎えられた時、彼女は、張り詰めた緊張が一気に解け、大きく波打つ胸からは汗がドット噴き出し、理想の技をやり遂げた誇りで、ダンサーとしての最高の満足感と恍惚感に浸ると言われています。

プリマ達の言葉からローズアダージョに挑むバレリ−ナ心境を推し量ることが出来ます。
「あれほど緊張した場面はありませんでした。最後のバランスの音楽は素晴らしい盛り上がりです。思ったように踊れないと音楽を傷つけたような気がします。(アマンダ・マッケロー)」
「初めて踊ったときは足がすくんであやうく登場できなくなるところでした。あれほどあがったのははじめて。最後には疲れ果てて気絶しそうでした。(プラテル)」
「ロ−ズ・アダージョが終るまでは緊張しますね。やはり4人の王子との呼吸が難しい。(下村由理恵さん)」
「ローズ・アダージョは大変です。リハーサルでは自分が出来るギリギリまでバランスをとってみます。(吉岡美佳さん)」

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