10月10日、山手バレエ・ハウスというバレエ教室の発表会「Y Ballet Concert」に行って来ました。
このバレエ教室の主催者は山田芳実さん、漫画「パタリロ!」の魔夜峰夫氏の奥さまだそうです。
この発表会は、山手バレエ・ハウスとその関連のバレエ教室のダンサー達と、ゲストのサポート役としての男性ダンサーで、ソロやパ・ド・ドゥで、
日頃の稽古の成果を披露するものです。プロのダンサーに比べたら技術的にはまだまだで、中には「失敗したらどうしよう!!」と恐怖で表情が強張っている出演者もいましたが、
かえって、プレッシャーと戦いながら一生懸命に踊る若いダンサーたちの踊りはすがすがしく、本格的なプロの踊りとは違った、とても楽しいひと時でした。
この中で、ずば抜けて踊りが上手で、ひときわ輝いていて印象に残ったのが、斉藤由佳、アンドレイ・クードリャによる「ライモンダ」のグラン・パ・ド・ドゥです。
他のダンサーたちに比べて、一味も二味も違います。それもそのはず、この二人はれっきとしたプロのダンサー。
忙しい中この催しに駆けつけて花を添えてくれたのでしょう。
このパ・ド・ドゥはライモンダと騎士の結婚式の場面での二人の華やかな踊りなのですが、まさにこの二人は、
繊細で気品溢れた美しいプリンセスと頼もしい王子という素敵なカップルで、本当に二人の助け合いを絵に描いたような微笑ましさ溢れるパ・ド・ドゥでした。
斉藤由佳を知ったのは、20年近く前。スレンダーな彫りの深い可愛らしいダンサーとだったと記憶していますが、
今回改めて見て、ほっそりとした美しい体型、頭上に上げた腕はまろやかな円を描き、やわらかな表情には一層の気品があふれ、
ステップや回転は軽やか、トゥの音は静かですし、バランスに一抹の不安を感じさせるところが返って魅力的で、本当に、バレエのプリンセスというに相応しい美しい舞姫でした。
ゲスト出演のアンドレイ・クードリャは、ウクライナ国立キエフバレエ学校出身。2001年第14回こうべ全国洋舞コンクール銀賞受賞以来、
日本で踊っているという実力派。堂々たる体格で、女性のサポートは力強く、パ・ド・ドゥを踊る女性ダンサーから、相手役として引っ張りだことのこと。
斉藤由佳さんは、「まかしとけ!!」というようなアンドレイの頼もしいサポートを信頼しきっていたようで、アダージョでは自分の身を預けているという感じで、伸び伸びと踊っていました。
ダンスールノーブルとは、彼のようなダンサーを指すのでしょう。
パ・ド・ドゥの最初のアダージョは、アラベスクやアチチュードのバランスの難しいポーズが多く、
斉藤由佳のような経験豊富なダンサーでも、「失敗しないように!!」とプレッシャーが感じていたのでしょうか、
初めのうちは笑顔を見せる余裕がないほど表情は強張っていました。でも、アンドレイ・クードリャの暖かいリードに助けられたのか、
アダージョの中盤以降には落ち着いてきて、穏やかな表情になりました。
最大の見せ場、ポアントのアチュードで立って男性に支えられて一回転した後、支えの手を離してバランスを決める場面、
軸がなかなか定まらず、支えの手がギクギクと震えて男性の手を離せず、ひときわ険しい表情になった斉藤由佳さん。
それでも意を決して手を離して、バランスをとったとたん、後方へグラリ。一瞬ハッとしましたが、由佳さん、必死に堪えてバランスを維持。
一瞬時間が止まったようで、期せずして観客の興奮の拍手が湧きました。これこそバレエの「瞬間の美」。思わずゴクッと生唾を飲み込み、手に汗握った瞬間でした。
ただ、バランスの時間が一瞬だったので、そこでグッと堪えて、もう少し長くバランスを維持してくれたら、もっと観客は興奮しただろうに・・・と思うのは贅沢でしょうか。終盤、アンドレイに高々とリフトされた斉藤由佳さん。この場面、男性が「よいしょ!!」と重そうに担ぎ上げがちになることが多いのですが、
アンドレイは由佳さんを軽々と持ち上げていました。斉藤由佳の飛び上がるのとクードリャの持ち上げる呼吸がぴったりだからなのでしょう。
これこそ、パ・ド・ドゥの醍醐味です。続く、まっさかさまに落下するフィッシュダイブも、アンドレイは斉藤由佳をがっちりキャッチ。
斉藤由佳、思い切り胸を反らせて足を高く上げた美しいポーズでした。
男性のヴァリエーションでは、アンドレイ・クードリャの大きなジャンプに、拍手が湧きました。
女性のヴァリエーションでの斉藤由佳は、アダージョの成功に気を良くしてか、時折笑みを浮かべながら伸び伸びと踊っていました。
勢いあまってトゥがずれがちな難しいフィニッシュもしっかり決めてにっこり。美しい笑顔でした。
最後のコーダ。二人の息がぴったり、楽しそうに踊って、ラストもバッチリと決めました。
踊り終わってのレベランス。深々と頭を下げる斉藤由佳、過度の緊張から解かれた斉藤由佳の大きく波打つ胸には汗が滲んでいました。
「由佳、素敵だったよ!!」、「上手なサポートありがとう!!」と交わし合った感謝の眼差し。
こんなシーンを見ると、つくずく「バレエって、なんて素敵なんだろう!!!」と思います。
斉藤由佳は、清楚なたたずまい、可憐で知的な優しさ、溢れる気品。バレリーナの資質全てを備えた魅惑の舞姫。
以前は大阪の波多野澄子バレエ団に所属していましたが、現在のバレエ団のホームページからは名前が消えています。
フリーになられたのでしょうか。20年見ないうちに、なんて素敵なダンサーに成長されたことか、さぞかし厳しい稽古を続けてこられたことでしょう。
今回は、ライモンダというのはかなり難しい踊りで、斉藤由佳の緊張が見る側にも伝わってきて、手に汗握る応援モードになったところもありましたが、
それもご愛嬌。ひいきのダンサーの成長を目の当たりにして、自分のことのように嬉しくなりました。
フリーの道は険しいでしょうが、斉藤由佳の資質と技術力をもってしたら、成功疑いなし。
これからの、更なる活躍を期待します。
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