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エスメラルダ〜ディアナとアクシオンのパ・ド・ドゥ:酒井はな、小嶋直也     (2007.12.1)

酒井はなさんが踊った「ディアナとアクシオン」のパ・ド・ドゥの映像があります。1994年頃のTV番組「バレエ誕生」へ出演した時のものです。 酒井さんは、当時デビューして間がない20歳位、若さ溢れた初々しい踊りを楽しめます。パートナーは小嶋直也さん。 踊る前のインタビューでは、酒井はなさんは、初めてのTV番組への収録とあって「すごく緊張しています」と、すがるように小嶋直也に眼を向けていたのに、小嶋直也は「僕に頼らないで」という頼りない返事。 これでは酒井はなさんが可愛そう。酒井さんにしてみれば、「俺がついているから心配するな」というような力強い言葉を期待していたでしょうが 「僕に頼らないで」はいけません。酒井さんは、さぞ不安に感じたことでしょう。パ・ド・ドゥのアダージョでは、女性は男性が頼り。力強い男性のサポートがあってこそ、女性は安心して自らの最高の技術を披露できるというもの。それなのに「僕に頼らないで」では情けない。この一言で、この人はダンスール・ノーブルとは言い難いと思ってしまいました。 森田健太郎さんが「女性がバランスを崩したら、僕がサッと出て行って助けてあげたい」と言っていた記事を読みましたし、 ウラジミール・マラーホフは、出演前、恐怖に震えていた共演の吉岡美佳さんに「そんなに心配しなくてもいいよ。僕がついているから」と励ましたとか。 パートナーの男性はこうでなければならないと思います。でも、「テレビに出てバレエが広まれば・・・」と気丈に答えて、ステージに向かって行ったのは立派だと思いました。

酒井はなさんは、インタビューの言葉通り、ひどく緊張していたようで、アダージョ最初、表情は強ばっていました。 パートナーの「僕を頼らないで」という言葉に、一層不安が高まったに違いありません。この為か踊りもぎこちなさを感じました。 右足のポアントで立って、前傾して左足を180度近くまであげていく見せ場のアラベスクのボーズも、パートナーの支えを信頼できないのか、 思い切って高く上げられずに終わってしまいました。 森下洋子さんがヌレエフのことを「彼は、すごくストロングなパートナー。私がバランスを崩しても、びくともせずにしっかり立っているのです。 だから私は心配ない。この安心感は女性にとって有難いものです」(バレリーナの羽ばたき:ゆまにて出版)と言っていました。 男性は女性に不安を与えないようにしっかり支えて欲しい。 酒井さん、アダージョ終盤になっても表情は固く、背中や胸に汗が滲んできて、まだ緊張が解れないようでした。
アダージョが終わって男性の見せ場のバリエーション。 小嶋さんはインタビューでこの踊りについて「男性は力強く野性的に、女性は女性らしく」と言ったわりには、激しさが足りなかった。 男性のバリエーションは、唯一の男性の見せ場ですから、もっと思い切りよく、高いジャンプや回転に挑んで欲しかった。
続いて女性のバリエーション。酒井さん、まだ緊張がほぐれないのか、表情は堅いまま。 汗を拭って登場した酒井さんですが、中盤から汗が再び吹き出し胸や背中はキラキラ光ってきました。 でもバリエーションを踊り終わってホッと息をついたのでしょう、レベランスでは、初めて笑みが零れました。
最後のコーダ。酒井はなさんは、やや落ち着いたのか、穏やかな表情に笑顔も見せて軽快に踊り出しました。 でも難関のグラン・フェッテにさしかかったとたん、それまで穏やかな再び険しくなりました。 途中ダブルを含めて、歯を食い縛って懸命に回る姿には、思わず「頑張って!!」と叫びたくなりました。 フィニッシュをバッチリ決めて、笑顔が戻りました。 必死にプレッシャーと戦って踊り抜いた若きバレリーナの姿、本当に美しいと思います。 こんな姿を見ると、一層バレエが好きになります。

この「バレエ誕生」は酒井はなさんを初め、藤井直子さん、森本由布子さん、荒井祐子さん・・・の、これから花開く前の、若く初々しい姿を見ることができました。幾つかは録画が残っていますが、VHSビデオの画質が良くないこともあり、再放送してくれると有難いです。できるなら、「バレエ誕生」が復活する事を望んでいます。

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