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瀕死の白鳥:酒井はな        (2005.4.16)

酒井はなのとても素敵な「瀕死の白鳥」の映像があります。彼女が「題名のない音楽会」(2005年1月)というテレビ番組で踊ったもので、大好きな映像のひとつです。 バレエ「瀕死の白鳥」は、ロシアの名バレリーナ、アンナ・パヴロヴァのために、振付師ミハエル・フォーキンが、サン・サーンス作曲「動物の謝肉祭」の中の「白鳥」に振り付けしたもので、 死に瀕した白鳥の生への憧憬を表現した作品で、ソロでわずか3分と短いものの、派手な振りはないがゆえに、わずかなミスも目立ちやすく、バレリーナに過度の集中力を要求し、また、そのバレリーナの表現力と情緒性を試される難曲で、ベテランのバレリーナでさえ、出を待つとき足が震えるほど緊張するし、踊り終わったときは、まさに「瀕死の白鳥」のように、グッタリと力が抜けてしまうと言われています。

酒井はなは、この「瀕死の白鳥」、多分今回が初めてなのでしょう。 広い横浜みなとみらいホールのステージ、出だしでは、彼女、相当緊張していたように感じました。波打つ腕の動きなどにやや堅さが感じられましたし、アップの表情は真剣そのもの、むしろこわばっているようにさえ見えました。思わず「頑張れ!!」と叫びたくなります。でも、踊り進むにつれ徐々に落ち着きを取り戻したようで、細やかなブーレは正確で美しく、アラベスクのバランスではたっぷりタメをとって、とても優雅で、全体的にゆったりと叙情的に「死に至る白鳥」を表現しました。 終盤近くなると、背中には汗がキラキラと光っていました。私は、こんなに汗を浮かべた「瀕死の白鳥」は見たことがありません。難しい踊りに全力で体当たりして、もてる力を出し切って懸命に踊った結果なのでしょう。胸がジーンと熱くなりました。横浜・関内ホールでの公開録画のステージで一人で踊るという、とてつもないプレッシャーと戦いながら、ひたむきに難しい役に取り組んでいる酒井さんの健気な姿、本当に美しく感動しました。 もう一度飛び立とうと羽ばたくものの、力尽きて横たわりる白鳥、大きく波打つ胸、彼女の心臓の鼓動が聞こえてくるようでした。

酒井はなは、「甲」のラインがとても綺麗です。殆ど全てをトゥで立って踊る「瀕死の白鳥」では、この「甲」の美しさが不可欠です。 かって、酒井はなは、自身のHPの掲示板で、ファンの一人の「どうやったら、きれいに甲を出すことできるんですか?」との問いに対して、 自分の努力も踏まえて「必ずストレッチを毎日やっていたら甲もやわらかくなってきますから、あきらめず頑張って下さい!!。甲を伸ばそうと本当に思って意識して全てのパを行って下さい。頑張ってね。」とアドバイスしていました。 酒井はなは、今まで、村娘キトリや、オデットやオーロラ姫という、可憐で明るいイメージが強かったのですが、今回は、しっとりと叙情的な世界を演じきっていまし。 チャレンジなければ進歩なし。彼女の未知の世界へ恐れずに挑戦する前向きな姿勢が、この素晴らしい踊りとなって現れたのでしょう。心から拍手を贈りたいと思います。

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