四季(The seasons)は、グラズノフが振付師マリウス・プティパの依頼で作曲した1幕4場のバレエで、初演は1900年サンクト・ペテルブルクのエルミタージュ劇場にて、
バレエ「海賊」第二幕の有名なパ・ド・ドゥの作曲者でもあるリッカルド・ドリゴの指揮、プティパの演出で行われました。霜の役は、アンナ・パヴロワだったそうです。
グラズノフの最も有名なバレエは、「ライモンダ」で、チャイコフスキーの「眠りの森の美女」の様式を発展させた作品と言われていますが、四季は、20世紀に多くなるプロットレス・バレエ(物語らしい筋書きを持たない一種の抽象バレエ)の先駆とも言われています。
私は、音楽としては「ライモンダ」より「四季」の方が充実していると思っています。その証拠に、「四季」は管弦楽曲組曲として演奏会で度々取り上げられます。ロシアの自然そのものを音楽で表したような表情豊かな旋律で、親しみやすい作品です。
一年の四季が、春、夏、秋と進み、冬で終わるのに対して、グラズノフの四季は、冬から始まり、春、夏と進み、最後は秋で終わります。寒風吹きすさぶ雪景色から始まる、このアイディアを出したのは当時ペテルブルグのマリインスキー劇場を牛耳っていたプティパだそうで、こうすることで「雪融け」や「春の訪れ」の歓びを描き、「暗」から「明」へと移る舞台効果を高め、秋の収穫祭のパッカナール「酒神の踊り」で賑やかに締めくくります。
バレエに登場するのは人間ではなく、霜や氷、そよ風、麦穂といった自然現象や自然物と妖精たちです。物語を表現しているのではなく、風景や自然現象を一枚の絵画のように描写しているのです。
第1場 冬
@序奏部 寒い風、物寂しい冬の気分。霜、氷、あられ、雪の踊りから成ります。
A第1ヴァリエーション:霜の踊り(3/4拍子)、ポロネーズ風のヴァリエーション
B第2ヴァリエーション:氷の踊り(2/4拍子)、クラリネットとヴィオラの楽しげなヴァリエーション
C第3ヴァリエーション:あられの踊り(2/4拍子)、オーボエの吹くスケルツォ風のヴァリエーション
D第4ヴァリエーション:雪の踊り(3/8拍子)、華麗なワルツ。続いて、2人の小人が登場、薪に火を灯します。
アレグロで序奏のメロディーが再現して2人の小人が柴に火をつけると冬は去り、グリッサンド奏法のハープの演奏
に導かれて、春が訪れます。
第2場 春
短い序奏部に続き、薔薇、小鳥、そよ風の踊りから成ります。
@薔薇の花の踊り(3/4拍子)、A小鳥の踊り(2/4拍子)、Bそよ風の踊り。
トライアングルのリズム、木管の楽しげなメロディー、弦楽器とハープの伴奏で歌うクラリネット、牧歌的な風景・・・、
ヴァイオリンが、夏の近づきが暗示します。
第3場 夏(前半)
暖かい風をあらわす管弦楽で始まり、麦、トウモロコシが出て、明るくたくましい音楽になります。
@アンダンティーノ:矢車草、けしの花と登場。
A矢車草とけしの花の踊り(2/4拍子):優雅に踊る花たちは、夕べの訪れとともに野辺に伏し「水の精」を待ちます。
B舟歌(6/8拍子):ハープを伴奏とする弦楽器の美しいテーマで始まる「水の精」たちの踊りで、見所の一つです。
第3場 夏(後半)
@ヴァリアシオン(6/8拍子):麦の葉の踊り。クラリネット・ソロから始まり、オーケストラが流麗に奏でます。
Aコーダ:牧神が吹く芦笛、花、麦の葉、森の精などが入りみだれて踊ります。牧童が、花たちを追いかけます。
最後に、そよ風があらわれ花たちを救います。
第4場 秋
@プレスト:豪華絢爛な「酒神祭の踊り」(パッカナール)で始まり、ロンド風の音楽でバッカスの巫女たちが踊り、
続いて、「冬」があられを、「春」がそよ風を、「夏」が矢車菊とケシのワルツをそれぞれしたがえて登場します。
Aアダージョ(間奏曲):「Petit Adagio(小アダージョ)」と呼ばれ、アンダンテ・モッソのゆったりとしたテンポで、
木管楽器や弦楽器が次々と綺麗なソロを演奏し、舞台はしばらく動きをやめます。
Bアレグロ:終曲 再び「酒神祭の踊り」が賑やかに踊られ、夏の麦の葉の踊りから秋に木々の葉が散り、
Cアポテオーズ:舞台は暗くなり、星が輝き、「酒神祭の踊り」のテーマが回想され、幕となります。
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今日、このバレエは「水の精」の踊りがたまに発表会で取り上げられますが、あまり全編が上演されることはありません。けれど、管弦楽曲組曲はとてもよく演奏されています。甘いロマンティックな旋律や、管弦楽の色彩的な輝きは、絵画を見ているような雰囲気が漂い、華やかなバレエの舞台が目に浮かんでくる素敵な曲です、「秋」の中の「酒神祭の踊り」(パッカナール)は、中高生のブラスバンドで最も人気のあるものの一つだそうで、それだけ多くの人々の心を捉えるものがあるのでしょう。
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私のレコードコレクションは、ボリス・ハイキン指揮モスクワ放送交響楽団の古いアナログLPレコード。ハイキンはペテルブルク・マリインシキー劇場やモスクワ・ボリショイ劇場の指揮者だったことから、バレエの演奏は、まさに本領発揮という感じで、リズムのキレが良く覇気に満ちた演奏です。かと言って聴き手に対して、無闇に緊張感を強いるというわけではなく、むしろリラックスして雰囲気に浸れるようで、シーン一つ一つを豊かに表現し、この作品の魅力を充分に引き出した華やかで楽しい演奏です。
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アレクサンドル・グラズノフ作曲
バレエ音楽「四季」作品67 ボリス・ハイキン指揮 モスクワ放送交響楽団 ビクターVIC5057 (メロディア原盤) |
このページのBGMはグラズノフ・バレエ音楽「四季」作品67〜秋より「小アダージョ」です。 こんぐらつぃあ様からいただきました。MIDIファイルの無断転載を禁じます。 |
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