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世田谷クラシックバレエ連盟「眠りの森の美女」   (2005.7.5)
島田衣子さんのオーロラ姫再挑戦

島田衣子さんがオーロラ姫を踊ると知って、急いでチケットを買いました。 二年前、初めて「オーロラ姫」踊った島田衣子さんが、再挑戦でどんな踊りを見せてくれるか、大変楽しみでした。世田谷クラシックバレエ連盟は、東京の世田谷という高級住宅地に本拠を置いているせいもあってか?、穢れを知らない良家のお嬢さん達の集まりといったような、とても品の良い洗練された雰囲気が感じられます。だからと言って、この公演、お嬢さん芸のおさらい会ではなく、プロのダンサー達の集まりとして、少しの妥協も許さず、一糸乱れぬ群舞やステージの細部までまで行き届いた、本格的なものでした。贅を尽くした松山バレエ団や牧阿佐美バレエ団のステージとは違い、こじんまりとした中に、細かなところまで気を配った、とても品がよく気持ちのよい舞台でした。世田谷区内の主なバレエ団、バレエ研究所、スタジオの主宰者などに呼びかけ、主旨に賛同の指導者にて発足したこともあり、私の好きな「井上バレエ団」のダンサー達もたくさん出演しています。
 
「井上バレエ団」のプリマバレリーナ島田衣子さんは、最近、井上バレエ団の公演以外でも、あちこちで名前を見かけます。文化庁の芸術家海外留学制度によってデンマークで1年間研修して帰ってきたばかりです。今回のオーロラ姫は、古典バレエの難役中の難役。2度目とはいえ、彼女のプレシャーたるや相当なものだったことでしょう。前回は、オーロラ姫初挑戦だったものの、先輩の藤井直子さんとのダブルキャストということで、気分的には楽だったのでしょうが、今回は一人のたった一回のステージ。しかも世田谷クラシックバレエ連盟10周年記念公演。失敗したら大切な公演をだいなしにしてしまう・・・、プレシャーを感じるのも無理はありません。
第一幕「ちいさくて,ほそーい」島田オーロラの登場。細面の少し古風な顔だちに、柔らかで優しく爽やかな気品をたたえて、まさに、お伽の国の王女様といった雰囲気。 島田さんだけでなく、世田谷クラシック連盟のダンサー達は、世田谷という高級住宅地にあるせいか、とても品の良い小柄で繊細な感じの穢れを知らない良家のお嬢さん達といった感じで、これが、大柄なダンサーの多い外国のバレエ団の公演にはない、可愛らしさ、親しみやすさがにじみ出ていました。 出だしこそ、にこやかな美しい笑顔に、軽やかなステップだった島田さんでしたが、ひとしきり踊ってローズアダージョにさしかかると、彼女、むしろ初回より緊張していたのか、表情が険しくなりました。ベテランのダンサーでも足がすくむほど恐怖を感じると言うアチチュードのバランスの場面。彼女の神経がピーンと張り詰めた様子が客席にヒシヒシと伝わってきました。でも、歯を食いしばって、笑顔を忘れて、必死に踊るダンサーの姿、何て美しいことでしょう。
島田さん、4人の王子を相手に、本当に素晴らしいバランスを見せました。しっかりアンオーまで腕を上げ、上げた腕は、まろやかな円を描き、本当に優雅。二人目の王子の手を離したときわずかにぐらつき、思わず、「落ち着いて!!」と、声をかけたくなりましたが、それ以外はまさに完璧。特にプロムナード最後、四人目の手を離した後、グッと堪えて見事なアラベスクのバランス。長さもたっぷりで、一瞬時間が止まったよう、息を呑みました。客席からは、期せずしてブラボーの叫び。踊り終えて、ほっとした島田さんが見せた満面の笑み、本当に美しかった。背中には汗がにじみ、極度の緊張のあとが伺えました。観客は興奮し、怒涛のような拍手が沸き起こりました。
このローズアダージョのバランスの成功に気を良くしてか、島田さん、にわかに表情が穏やかになり、この後に続くローズアダージョのヴァリアシオン、第二幕、幻想の場と、まさに、エンジン全開といったような、素晴らしい踊りを見せました。 そして極め付きは、第三幕、グラン・パドドゥ。李波さんの力強いサポートに支えられて、それはそれは、美しい、見事な踊りを見せました。3度のフィッシュ・ダイブ。思い切り体を反らせた美しいフォームを寸分の狂いもない正確さでバッチリと決め、ブラボーの嵐を誘いました。それにしても、この二人のパドドゥ、実によく気があっていました。島田さんは、李波さんの腕の中で、思うままに泳ぎ回った魚という感じでした。パドドゥが終わり、万雷の拍手に応えてのレヴェランス、島田さん、本当に嬉しそうでした。ダンサーとして、この上ない喜びを感じた瞬間であったに違いありません。
ただ、李波さんは、島田さんのサポートは本当に適切なのに、ヴァリエーションなど、自分の踊りは、力を十分に発揮していなかったように思いました。音楽に合わないところがあったし、回転のスピードは速くなかったし、ジャンプも高くなかった。あまり体調が良くなかったのかもしれませんが、もう少し頑張って欲しいと思いました。 
 
各幕とも、どちらかというと、全体的にはったりがなく、踊りは控えめ。しかし、心の動きを的確に表現するというように、よく考えられて工夫されて演出だったように思います。今回の演出では、プロローグと第二幕から、物語の流れを損なわない程度に、いくつかの場面のカットしていましたが、東京バレエ団のように、二幕をばっさり切り捨ててしまうような演出と違い、「幻想の場」もしっかり入っています。私は、「眠り・・・」は、オーロラ姫の成長記録ですから、「幻想の場」カットは疑問に思います。「ローズアダージョ」の初々しい少女が、「幻想の場」で恋を知り、第三幕のパドドゥで妻となるので、物語の進行に従って、主役の感情も高まっていくのですから、「幻想の場」のカットの演出が本来の姿ではないと思います。 また、第二幕と第三幕の間に休憩を入れず、一気に続けた演出は良かったと思います。王子によって目を覚まされたオーロラ姫が、そのまま、結婚式に入っていく・・・というわけで、物語の流れがとまらなくて良かった。
「眠りの森の美女」は、主役にとっては、出ずっぱりで、長丁場の過酷なマラソンのようなもの。あまりはじめにハッスルしてしまうと、終わりでバテてしまうので、力の配分がとても大変です。でも、島田衣子さんは上手に力を配分して、最後まで見事に踊りぬいたのはさすがだと思います。
それから、特に感心したのは、主役をはじめ、コールドバレエのダンサー一人一人に至るまで、靴音がほとんどしなかったこと。トゥシューズの先が堅くないのでは・・・と思うくらい、全てのダンサーが、音を立てずに踊るよう徹底的に訓練されているのです。これは素晴らしいことだと思います。
福田一雄さんのバレエの指揮は定評があります。彼以上のバレエの指揮者は居ないと思わせる指揮ぶりで、舞台のダンサーの動きををよく見て、オーケストラをひっぱていくという感じ。彼の指揮で踊るダンサーはさぞ踊りやすいことでしょう。世田谷フィルハーモニー管弦楽団も頑張っていましたが、時折、音をはずしたのが気になりました。とくに、第三幕、オーロラと王子のパ・ド・ドゥでの、オーロラ姫のバリエーションで、第1ヴァイオリンが大きく音をはずしたのは頂けません。舞台で、懸命に踊っている島田衣子さんが可愛そうになりました。
この公演は、世田谷クラシックバレエ連盟が創立10周年記念とのこと。それだけに、このステージにかける、ダンサーとスタッフの意気込みを感じました。 世田谷クラシックバレエ連盟の底力を感じさせてくれた、素敵な舞台でした。
 
世田谷クラシックバレエ連盟「眠れる森の美女」
オーロラ姫:島田 衣子、 王子:李 波
リラの精:菊池あやこ、カラボス: 堀 登
フロリナ王女:川島麻美子、青い鳥:今井智也
振付:関直人
指揮:福田一雄、演奏:世田谷フィルハーモニー管弦楽団
2005年7月3日、昭和女子大学人見記念講堂

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