「アラ還」という言葉があります。「アラウンド(around)還暦」の略で30歳前後を「アラサー」、40歳前後を「アラフォー」とよぶのと同様で、還暦前後の世代を意味します。2009年は団塊の最後の世代が還暦を迎える年ということも、「アラ還」が注目を集めている一要因でもあるそうです。先日、映画「60歳のラブレター」を観てきました。この映画は、住友信託銀行が行った応募「60歳のラブレター」が原案で、企画としては団塊世代の大人のカップルに向けた作品ということで、妻も私も「アラ還」なので、この企画にずばりはめられたというところでしょうが、「アラ還」という年寄りのイメージに反して、若々しくフレッシュな感じが全編に漂い、結構楽しめました。
東京が舞台のこの映画、物語の軸となるのは、60歳に近づいている3組の男女。6人のキャラクターが等しく主人公を務めているこの物語の1組目は大手建設会社の孝平(中村雅俊)と妻のちひろ(原田美枝子)。定年を迎える彼は、それを機に、妻と離婚することになっている。2組目は、孝平とちひろの家の近所で魚屋を営む、正彦(イッセー尾形)と光江(綾戸智恵)の夫婦。正彦に糖尿の気があるので、酒を控えさせてウォーキングに連れだすのが、光江の日課。3組目は、正彦の担当医であり、妻に先立たれて、娘(金澤美穂)とふたりで暮らす静夫(井上順)。妻の死後、新たな女性と知りあう機会もなかったが、医療系小説の翻訳家の麗子(戸田恵子)のアドヴァイザーになってから、彼女とのミーティングが楽しみになった。そんな彼らは思いがけないトラブルに見舞われて、それぞれの選択を迫られる・・・。
出演している俳優たちはベテランぞろいで、皆さすがと思わせる存在感があります。第2の人生を歩む年齢の登場人物がメインなのに、この映画、すごく若々しくてフレッシュで新鮮な印象なのです。感情表現が若く、瑞々しく感じました。「なぜ、こんなに若々しくフレッシュなのだろう?」、その答えのひとつが、制作スタッフの多くが、映画の主人公たちの子供の世代ということなのでしょう。脚本の古沢良太は1973年生まれで、映画製作時は35歳、監督の深川栄洋は、1976年生まれで32歳。こんな「子供の眼からの主人公の大人たち」という視点が、思わず憧れてしまうようなキャラクターたちを創造し、単なる老人のラブストーリーを超えた面白さを作り出したのでしょう。6人のメイン・キャラクターが等しく主人公を務めるという構成のオムニバス作品であり、第二の人生を共に歩む「伴侶」とは何なのかを考えさせるよい企画だと思います。
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