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「静香のお願い『リンク閉鎖しないで!!』」に思うこと    (2006.3.5)

トリノ・オリンピックで日本唯一の金メダルを獲得した荒川静香さん、3月4日、有明コロシアムでのアイスショウ「シアター・オン・アイス」に出演しました。テレビでこの演技を見ましたが、五輪のエキジビションと同じ曲を美しく舞い、大きな拍手を浴びていました。彼女の得意技イナバウワーもタップリ見せての堂々の演技。五輪のときよりさらに一回り大きくなって、風格が出てきたように感じました。毎日メディアに追い回され貧血症状も出て、練習もろくに出来なかったにも拘わらず、気丈に出演して堂々の演技。閉会式にも出ずに帰国して休養十分なのに胃炎で欠場という五輪4位の村主選手に比べ、体力面、精神面ともに大きく勝っていると感じました。荒川さん、さすが、ゴールドメダリストです。
 
ところで、荒川静香さんが金メダルを獲得した翌日(2/25)、思わぬハプニングが起きました。というより、静香さんが、ここぞと思って引き起こしたと言って良いかもしれません。外国人記者達の記者会見で、経営難などでリンクの閉鎖が相次ぐ日本の窮状と支援を訴えたのです。彼女自身も国内の練習環境が整っていないことから、今後も米国に練習拠点を置かざるをえないとのこと。
「私が基礎をつくり上げてきたリンクが閉鎖されて、子供たちは困っています。私が国内にいるときも練習の時間がとれなくて、米国で練習せざるを得ません。人気が高まるのと反対にリンクの状況はよくないんです」「私が伸び盛りのときにリンクが閉鎖されていたら困ったと思う。もう少し身近に気軽に足を運べるような環境になっていくことを、いつも願っています」と各国のメディアに訴えました。
男子代表の高橋大輔が練習した大阪・高槻市のリンクは昨年閉鎖されたし、荒川さんが小学生から高校卒業まで練習した仙台のリンクも昨年末に閉鎖されてしまい、彼女の恩師の長久保コーチと選手たちは、今年4月から名古屋に練習場所を移さざるをえなくなってしまいました。長久保コーチはテレビで「荒川さんが、コーチで戻ってきてくれても、リンクがないでは彼女に申し訳ない」と語っていました。この5年間に国内で閉鎖に追い込まれたリンクは40以上とのことです。銀盤での華やかさとは裏腹に、練習環境は危機的状況にあります。第2、第3の荒川静香を育てる為に、この窮状打破は急務でしょう。
 
金メダルをとった直後の記者会見での「お願い」ということで、荒川さんの言葉には重みがあり説得力もあります。これまでは自分のことで精いっぱいだった彼女が、五輪のゴールドメダリストになったことで自分の言動が社会にどんなにインパクトを与えるかを認識し、今だからこそ、日本の窮状を世界に知らせ、日本のスケート業界、ひいては日本政府に動いてもらいたいという切実な訴えだったに違いありません。
 
小泉首相は3月1日、荒川選手の金メダル獲得の報告に官邸を訪れた小坂文部科学相に対し、冬季五輪をめざす選手たちの練習施設に対する支援策などを検討するよう指示したとのことです。 メダルが一個しか獲れなかった状況に危機感を感じていた小泉さん、苦労の末栄冠を勝ち取ったメダリストの切実な訴えに心を動かしたのでしょう。
それにしても、テレビで見ていて呆れたのは小坂文部科学相の言葉。帰国して金メダルの報告に文部科学省を訪れた荒川静香さんに対し、「競争相手がコケて良かったね」と言ったのです。これはないでしょう。クールビューティー・荒川さん、表情にはおくびにも出さなかったけれど、「馬鹿なこと言っていないで、私の訴えを聴いてちょうだい!!!」と、内心煮えくりかえったことでしょう。
小坂さんは、小泉さんから言われて初めて、冬季五輪対策の遅れに気がつくようでは遅すぎます。日本フィギュアの窮状を事前にもっと勉強しておくべきですし、わざわざ訪れた荒川さんに今後のビジョンを示すなどして、彼女を安心させてあげるくらいの心遣いがあってもよいと思います。それなのに「競争相手がコケて良かったね」では、怒りを通り越して呆れてしまいます。
日本人の多くはショートプログラムで荒川静香の上位に居た米国やロシアの選手がミスをし、荒川がミスをしないよう期待していたことは事実でしょう。でもそれを公の場で口に出すことは別です。ましてや教育・スポーツ担当の文部科学大臣という責任ある立場の人がメダリスト本人の前で、しかも日本中にオンエアされるかもしれないテレビカメラの前で・・・。案の定、この映像を観た視聴者から文科省に抗議の電話やメールが多数寄せられたそうです。言動には注意して欲しいものです。
 
荒川静香さんが訴えているように、経営難などでリンクの閉鎖が相次ぎ、日本のリンクの環境は非常に厳しい状況にあります。 荒川さんは、日本では環境がないので練習は米国でやると言っていますが、他の選手達だって同じこと。 このままでは日本のフィギュアの才能が海外に流出してしまうし、未来のフィギュアの卵の成長にも障害が出てしまうでしょう。 以前、私は、インターネットで、あるスケートリンク閉鎖反対の署名の募集に応じたことがありますが、 今後とも、このような署名等による協力は厭わないつもりです。署名のような小さな力が集まって行政を動かす大きな力となり、これ以上日本のリンク環境が悪化を食い止められるようになれば、感動と勇気を与えてくれた女神・荒川静香さんに、幾らかでもご恩返しが出来たと言えるのではないでしょうか。
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