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眠りの森の美女:吉田都、熊川哲也、日本バレエ協会    (2008.9.2)

日本バレエ協会が、吉田都と熊川哲也を招いて上演した、「眠りの森の美女」全幕の映像があります。1996年2月の東京文化会館の舞台をNHKが収録し、テレビで放送したものです。
前年にロイヤルバレエのプリンシパルになったばかりの吉田都は、とても初々しい。明るくて優しそうなオーロラでした。 オーロラの出、彼女の緊張が、画面から伝わってきます。ひとしきり踊ってローズアダージョ、緊張はピークに達したようで、笑顔が消え、表情がこわばっていました。でも、アンオーまで腕を挙げ、しっかりバランスをとっていたのは流石です。 ローズアダージョを無難にこなした吉田都、落ち着きを取り戻し、これ以降はのびのびと踊っていました。 王子役の熊川哲也は、高いジャンプが見事ですが、吉田都の相手役という点では、チョット??、ダンスールノーブルとは言えない感じでした。 吉田都との呼吸が今一で、サポートは、どこかしっくりしない。尤も、この映像は10年以上も前の彼がまだ20代のもの。 年齢を重ねて、現在は変わってきているように思います。

主役以外も充実しています。リラの精は、杉山聡美。長身を生かした優雅な踊りでした。 プロローグのパドシス終盤のイタリアン・フェッテは、最初の回転で軸足が大きくズレてハッとし、その後も今にも崩れそうでハラハラしましたが、必死に持ちこたえて大きな破綻も無くクリア、レベランスのホッとした笑顔が美しかった。 ヴァルナ国際バレエ・コンクールの銀賞など数々のコンクールでの輝かしい受賞歴を持ち、法村友井バレエ団のプリマとして活躍して来た杉山聡美。 まだまだ楽しませてくれるのだろうと思われる彼女が、股関節の故障でドクターストップがかかったとかで現役ダンサーを引退、現在は後進の育成にあたっているとのことです。 そんな彼女の現役時代を知ることが出来る貴重な映像です。

素晴らしいのはフロリナ王女の岩田唯起子。 岩田唯起子は本当に可愛らしく新鮮な魅力に溢れています。 プロポーション・ルックスともに抜群でトゥの先からスラリと伸びた脚の美しいこと。日本人でクラシック・チュチュがこれほど良く似合う人も珍しい。
最近の岩田唯起子は、痩せすぎ?と思わせるほどスリムな容姿で、これが彼女の繊細な美しさを一層際立ているのですが、 当時まだ20代の彼女は、初々しさ一杯で今より幾分ふっくらとした肢体に、ほのかな色気も感じられて、その美しさにうっとりです。 踊りは繊細で端正で気品に満ちていて理想的なフロリナ王女という感じ。 高く飛び上がったグランジュテや軽やかなステップも美しい。バランスにわずかに不安を感じるところもあるけれど、 これがかえって新鮮な魅力に感じられるから不思議。アダージョ終盤のバットマン・デヴェロッペの独り立ちのバランスでは、その美しさにハッと息を呑みました。 繊細なトゥの先にも、手の指の先にも、神経が行き届き、難しいパやポーズの場面にさしかかっても、柔和な笑顔を崩さなかったのは立派。 青い鳥の貞松正一郎のサポートはとても上手で、岩田唯起子は、貞松正一郎を信じきって身を任せているという感じで、笑顔溢れた微笑ましいパ・ド・ドゥでした。
吉田都と熊川哲也の呼吸が今一だったオーロラ姫と王子のパ・ド・ドゥよりも、岩田唯起子と貞松正一郎のこのフロリナ王女と青い鳥のパ・ド・ドゥの方が、 二人の息が良く合っていて、男女とも気品に満ちて美しく、パ・ド・ドゥとしての魅力に溢れているように思いました。 岩田唯起子は踊りの美しさでは吉田都に引けをとらないし、プロポーション、ルックス、溢れる気品という点ではむしろ勝っている位なので、 岩田唯起子と貞松正一郎が主役だったら、さぞ素敵だったろうと思うくらい。 モスクワ国際バレエコンクール・銀賞受賞など、輝かしい経歴を持つママさんバレリーナ岩田唯起子は、 現在もステージに立つかたわら、弟の岩田守弘と横浜市鶴見区の岩田バレエスクールで後進の指導にあたっているようです。
絢爛豪華という感じではなく、むしろ控えめな感じの舞台でしたが、全体的には、よくまとまっているという印象で好感を持てました。 特に岩田唯起子と貞松正一郎のフロリナ王女と青い鳥のパ・ド・ドゥは出色でした。 吉田都と熊川哲也のパートナーシップが今一だっただけに、是非、岩田唯起子と貞松正一郎主役の「眠りの森の美女」を見たいものです。 ちなみに、このころNHKは、このような日本人キャストのバレエ公演を、よく放送してくれました。何でもバレエ好きのプロデューサーが居たからとのこと。 このプロデューサーが退職して、バレエ放送が少なくなってしまったのは残念なことです。
 
   日本バレエ協会「眠れる森の美女」
   1996年2月16日 東京文化会館。
   オーロラ姫:吉田都、デザイア王子:熊川哲也、
   カラボス:マシモ・アクリ、リラの精:杉山聡美、
   フロリナ王女:岩田唯起子、青い鳥:貞松正一郎

   「眠りの森の美女」よりグラン・パ・ド・ドゥ

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