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眠りの森の美女のグラン・パ・ド・ドゥ     (2001.9.23)

100年の眠りからさめたオーロラ姫が結婚式で踊るパ・ド・ド・ドゥです。 ローズ・アダージョでの初々しさから一転して、妻となるうれしさを体一杯に表現する華やかさあふれるハイライトです。
アダージョ、男性のバリアシオン、女性のバリアシオン、コーダという典型的なパ・ド・ド・ドゥの形式をとっています。 衣装をローズ・アダジオのバラ色から、花嫁の純白に替えたオーロラ姫は、デジレ王子に支えられて優雅なバランスを披露しソロでは繊細さと優しさを体一杯に表現します。
「眠りの森の美女」には、オーロラ姫は3つの見せ場があります。1幕のローズアダージョ、第2幕幻想の場、そして第3幕グラン・パ・ド・ドゥです。 オーロラ姫を踊るバレリーナは、ローズアダージョで少女時代を抜け、幻想の場で恋をし、グラン・パ・ド・ドゥで妻になるということで、踊っていくにつれて感情が高まっていくのです。 ドンキホーテや海賊のパ・ド・ドゥに比べると地味で、32回のグランフェッテのような激しい動きはありませんが、しっとりとして、いかにもクラシックバレエのプリンセスの踊りという感じで、私は最も好きな踊りの一つです。
最大の見せ場はアダージョで、大部分がポアントで立ったまま踊りで、終始繊細さと安定感が求められ、 僅かなバランスの乱れが、全てを台無しにしてしまうという難しい踊りです。 オーロラ姫では定評のある吉岡美佳さんですら、「ポアントの多いオーロラ姫の踊りでは、知らず知らずのうちに上半身に力が入って足元がぐらつきやすくなってしまいます。そんなときにバレエの基礎を見につけているかが問われます。基礎を疎かにしていない人は土台がしっかりしているので、本番の舞台に強いのです」。吉岡さんは、公演直前までプリエやタンデュといった基本的なパを繰り返して練習した上で、本番に臨んでいるそうです。 片足のポアントで立って、男性に片手を支えられて、高々と足を上げていくアラベスクのポーズがあります。支えの腕がブルブル震えて、今にも前につんのめりそうになりそうになりながらも、懸命に歯を食いしばって堪え忍ぶ女性の姿は感動的です。 たまに、「凄いでしょ」と言わんばかりに、180度を超えて足を上げ、技術を誇示する人もいますが、「眠り」に限っては、上げすぎるのはチョット??。このパ・ド・ドゥは、妻となるオーロラ姫の気品が必要なのですが、極端な開脚のポーズは下品に見えてしまい感心しません。また、「さあ来い!!」と待ちかまえる男性めがけて、女性が飛び込む3度のフィッシュ・ダイブも、あわや落下とスリル満点で息を呑む見ものです。なぜか、これを除いてしまってがっかりという振付もありますが、バレエは芸術であり曲芸ではないと思うけれど、失敗を恐れて、あえて難しい技を避けたようで、つまらないですね。 これらは、いずれも男性サポートがしっかりしていないとうまくいきません。女性に不安を与えず、女性の美しさを最大限に引き出す、パートナーの男性のサポート力も試されるパ・ド・ドゥです。
 

私のコレクションの中では、ローズアダージョに次いで種類が多いのですが、下村由理恵さんのチャーミングで上品な踊りがとても好きです。夫である篠原聖一さんの好リードに支えられて、由理恵さん、安心しきって終始笑顔を絶やさず、アチチュードは繊細で、アラベスクもとても優雅です。バランスに若干不安が感じられるものの、フィッシュダイブはバッチリ決まり、清楚で、丁寧で、魅力溢れる踊りです。 「私は全幕で3幕のグラン・パ・ド・ドゥ を踊っているときには、テクニックのことを考えて踊っていないんですよ。ただただ結婚式の幸せな気持ちで踊っている。緊張感もあるし一番楽しい」と下村由理恵さん。(ダンスマガジン2000.5)

もう一つ、とっておきの「眠り・・・」のパ・ド・ドゥがあります。若い大原永子さんのオーロラ姫です。録画は1970年となっています。パートナーは加藤正雄さん。永子さんは、当時、牧阿佐美バレエ団に所属していました。森下洋子さん、川口ゆり子さん・・・はまだ二十歳前後の駆け出しで、永子さんは、文字通りプリマバレリーナとして、同バレエ団の牽引役でした。 この「眠りの森の美女」のパ・ド・ドゥは、20代の永子さんの踊りを見ることができる貴重な映像です。 アダージョは、いかにも女性上位という感じで、ウェストのホールドで、わずかに加藤さんがもたついたとき、 「しっかりしなさいよ!!」と言わんばかりに、加藤さんを睨みつけるような永子さんの表情も見られます。 汗びっしょりになって、必死に永子さんを支える加藤さんの姿には、女性の引き立て役としての男性バレエダンサーの悲哀を感じてしまうほど。 永子さんは、若くて、とても初々しい。やや動きが重く感じられるものの、ほっそり痩せぎすのバレリーナが多い中、ふっくらしていて、 太ももあたりには、ほのかな色気も漂っていて、とても魅力的です。 あまり高く足を上げたりせず、どちらかというと控えめな踊りですが、とても正確で、しなやかで、好感を持てます。 スタジオ録画ですから、カメラもダンサーの動きを良く追っていて、アップも多く、美しい踊りを存分に楽しめます。

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