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バレエ「眠りの森の美女」:イヴァノヴァ、ロシア・ナショナル・バレエ  (2006.9.9)

CS放送、シアターテレビジョンが、とても素敵な「眠りの森の美女」の放送をしてくれました。2005年のロシア・ナショナルバレエ団の公演の録画です。初め、この「眠りの森の美女」、あまり期待をしていませんでした。 ロシア・ナショナル・バレエ団はロシアのボリショイやマリインスキーという伝統の名門とは違い、1993年「スリゴ・ダンス・カンパニー」と「モスクワ・ルネッサンス・バレエ団」という二つのバレエ団が合併してできた新しいバレエ団です。 古典の名作「眠りの森の美女」はマリインスキー劇場バレエの十八番、とても、マリンスキーにはおよばないだろうと思っていたのです。ところが、どうしてどうして、とても魅力的な「眠りの森の美女」でした。
オーロラ姫とデジレ王子を踊る二人が、とても良いのです。オーロラ姫を踊るナジェージダ・イヴァノヴァは、第1幕に登場した時は、長身のせいもあってか、もう少し16歳の少女の可愛らしさが欲しいなと思いました。 でも、踊りは軽快で、表情は豊かで、仕草もとてもキュート!。 ひとしきり踊ってローズアダージョ。求婚の4人の王子達を前に、王妃の母に「お母様、どうしましょう」とはにかむ感じが良く出ていました。 王妃に「踊りなさい」と促されて、大きく頷いて、可愛らしく踊り始めますが、難関のバランスの部分にさしかかって、それまでとうってかわって険しい表情になりました。 王子の手を離す瞬間、「本当に離せるのだろうか」と思うくらい心許なさを感じましたが、 ややうつむきながらも、王子から目を離して、しっかりと観客の方に視線を向けていたのはさすがです。この場面、正面を向くことはおろか握りしめた手から目を離せない人もいるくらいです。 ただ、この後が物足りなかった。手を離した後、頭上まで挙げず肩の高さまで挙げたところで、すぐ次の王子の手を握ってしまったのです。 しっかりアンオーまで手を挙げてグッと堪えて欲しかった。バッチリ決まった「瞬間の美」を期待したいところです。 4人目の王子とのアチチュードが終わった後、右足のトゥで立ち、王子に右手を支えられて、華麗にアラベスクを決めました。左足を180度まで挙げて・・・・。 ローズアダージョを無事終えたイヴァノヴァ、緊張が解けたのでしょう、レベランスでは胸と背中には汗が吹き出し、ホッとした表情でした。これ以降、気をよくしたのでしょう、表情豊かにイヴァノヴァの魅力全開といったところでした。ローズアダージョのヴァリエーションは可愛らしい笑顔の軽快な踊りで、魅力的でした。勢い余って、フィニッシュでわずかにトゥの先が乱れたのはご愛敬。カラボスの毒牙に倒れる場面、「大丈夫、心配しないで!!」と言いながら、苦痛な表情で倒れてしまう。台詞のないバレエなのに、そうと言っているように感じられるほど見事な演技でした。横たわってしばらくの間、胸は大きく上下し、額や胸には汗がにじんでいました。息が切らして力を振り絞っての懸命な演技。精一杯のけなげな姿に、胸がジーンと来ました。
デジレ王子のアンドレイ・シャーミン、彼はあまり高くジャンプをせず、一見地味で力強さは感じませんでしたが、女性のサポートが実にうまいと思いました。第2幕幻想の場、イヴァノヴァのバランスがわずかに不安定になったところをすかさずサポート。また第3幕グラン・パ・ド・ドゥのアダージョでは、イヴァノヴァと息がぴったり。イヴァノヴァもシャーミンに安心して身を委ねている感じで、微笑ましさを感じる素敵なデュエットでした。
イヴァノヴァは初めて見ましたが、とても素敵なバレリーナです。「眠りの森の美女」は、1幕のローズアダージョ、2幕の幻想の場、第3幕グラン・パ・ドドゥと至難な踊りが続き、踊りきるのが精一杯で、演技まで気が回らないバレリーナも多いのですが、彼女は顔の表情が豊かで、演技もなかなかのものと思いました。また、体がとても柔らかいようで、先に書いたように、アラベスクでは、無理なく180度以上も足が上がっていました。 このポーズ、シルビー・ギエムなどがやるとわざとらしくて下品に感じてしまうのですが、イヴァノヴァのそれは、本当に爽やかで美しかった。自然に滲み出た優雅さなのでしょうか。それに、ピルエットがとても上手で軽快に回っていました。パ・ド・ドゥで女性の回転が不十分で、パートナーの男性が必死に女性の腰を回して助けているのを見たこともありますが、イヴノヴァは自分で楽々回りきり、男性は手を添えているだけで、少しの助けも必要としませんでした。
 
この「眠りの森の美女」、全体的に、きめ細かいオーソドックスな古典的スタイルの演出で、リラの精など妖精達、青い鳥とフロリナ王女など、脇役達も充実していて、丁寧で正確な踊りで、主役を盛り上げていました。ロシア・ナショナル・バレエ団は、2000年にボリショイ・バレエのソリストとして活躍したウラジーミル・モイセーエフが芸術監督に就任して以来、手塩にかけて育て上げたバレエ団だそうですが、着実に優秀な若手バレエダンサーが育ってきているのがわかります。将来、期待できるバレエ団だと思います。
また、普通「眠り」は豪華な装置の絢爛な舞台が多いのですが、この舞台はあまり飾り付けが多くなく質素な感じです。 逆にダンサーに目が集中し、私はかえって好感を持ちました。
 
あまり名が知られていなくても、こんな素敵なバレエ団があることを知りました。シアターテレビジョンが、このようなマイナーな公演を積極的にとりあげ、録画して放送してくれたのは、とても有り難いことです。おそらく赤字覚悟の出血サービスでしょう。シアターテレビジョンの視聴料は、NHKの受信料やCSクラシカジャパンの視聴料の数分の1です。にも拘わらず、こんな素晴らしい放送をしてくれたシアターテレビに拍手を送りたいと思います。
 
   ロシア・ナショナルバレエ団公演「眠りの森の美女」(全幕)
   振付:ウラジーミル・モイセーエフ
   出演:ナジェージダ・イヴァノヴァ、アンドレイ・シャーミンほか
   2005年深谷市民文化会館

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