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眠りの森の美女:吉田都、熊川哲也、新国立劇場   (2000.11.25)

私の持っている吉田都の「眠りの森の美女」の映像は、2つあります。一度目は、東京文化会館(96年2月)で、もう一度は、新国立劇場(97年10月)です。 パートナーはいずれも熊川哲也でした。この2回の間には約2年の隔たりがあります。吉田都の踊りにも変化があるように思いました。 1回目のときは、バーミンガム・ロイヤルバレエから移籍して直後、多少余裕がないのかなと感じました。2回目のときは、さすがに堂々としたもの。安心して観ていられました。 とくに、ローズアダージョのバリアシオンでのピルエットは、彼女の技術の高さを証明するものでしょう。 このピルエット、通常2から3回転なのに、最後の回に6回も決めて、驚かされました。観客からも、期せずして驚嘆の声と拍手が起こりました。 吉田都は、このピルエットをごく自然に回っていたのでした。「やりますよ!!」と身構える様子を少しも見せず、自然にす〜っと回ってしまいます。 厳しいレッスンにより得られた技術でしょう。彼女の持ち味の、小柄で可愛らしく、しなやかな踊りは、オーロラ姫にふさわしく、オーロラの出のところなど、パッと花が咲いたようです。
 
ただ、ローズ・アダージョは、少し物足りなさを感じたのは否めません。お目当てのアチチュード・バランスが短いのです。 吉田都の所属しているロイヤルバレエではローズアダージョで超人的なバランスを要求します。 私の見た限り日本やロシアのバレエ団の公演では、ポアントで立ったオーロラが現在支えられている男性の手を離して次の男性に移るとき、 次の男性は現在の男性のすぐ横に並んで手を差し出して、手を離した女性がいつ掴まっても良いように備えています。 しかし、ロイヤルバレエの舞台では、次の男性は現在の男性から数メートルも後方に居り、女性が手を離した後から、ゆっくりと近づいてくるのです。 女性は否応なしに、長くバランスを維持することになり、バランスの極限を求める過酷な振り付けです。 マーゴ・フォンティーンやダーシー・バッセルなどロイヤルのプリマは、これに応えてとても長ーくバランスをとって見せました。 吉田都も、このロイヤルで鍛えられているのですから、さぞかし長いバランスだろうと期待していたのですが、思いの外短かった。日本に来てちょっと気を抜いたのかな、思ったほどです。

バレエは曲芸ではないので、バランスが長ければよいというわけではありませんが、技術的にも極めて難しいからこそ、一瞬、時が止まったような、はっと息をのむバランスを期待してしまうのです。 かって吉岡美佳が、オーロラの初舞台に挑んだ時「自分が出来るギリギリのところまでバランスをとってみるようにしました。 調子のいいときはそのままずっと立っていられそうなこともありました」(クララ)と、長〜い長〜いバランスに挑み、観客のため息を誘って劇場を興奮の渦に巻き込んだのは記憶に新しいところです。 思わず「頑張って!!」と声をかけたくなりました。 懸命に頑張っている吉岡美佳の姿に胸を打たれ、ますます彼女のファンになったのです。技術的には超一流との呼び声の高い世界の吉田都のこと、もう少し頑張って欲しかったと思うのは贅沢なのでしょうか。
 
それから、熊川哲也は、ソロのジャンプなどさすがに素晴らしいのですが、サポーターとしてはチョットと思ったところがありました。 わずかですが、吉田都が、踊りにくそうに見えたところがあったのが気になりました。 ともあれ、吉田都、熊川哲也という、今をときめく二人のスターの若い頃の「眠り・・・」を見れたのは、バレエファンとしてとても幸せなことだと思います。

フロリナ王女の酒井はなは初々しく、懸命に踊っている健気な姿に打たれましたが、小嶋直也のサポートが心もとなくて頂けない。 パ・ド・ドゥのアダージョでは、女性は男性が頼り。力強い男性のサポートがあってこそ、女性は安心して自らの最高の技術を披露できるというもの。 パ・ド・ドゥのアダージョにしっくりいかなかったところがあったのが残念でした。
コール・ドも揃い、若いダンサー達の伸び伸びとした踊りが美しかったのですが、中でもとても素晴らしかったのが、リラの精の菊地美樹。 日本人離れした若木のようなスラリとした魅力的なプロポーションで、技術も確か。こんなゆったりしたテンポのリラの精は初めてみたかもと思うくらいくらいゆっくりなのに、一糸乱れなかったのは凄い。 とりわけ脚は上がるだけ上げたほうが良いといわれるグラン・バットマンは軽々と180°近く上がり、つま先が綺麗に伸びてうっとりでした。 アン・ドゥオールが完璧に身についているのでしょう。ラストの失敗しがちな難しいイタリアンフェッテも破綻なく美しく決めたのは立派です。 彼女が主役のオーロラ姫を踊ったほうが、さらに良い舞台になったのでは・・・、と思ったくらい素敵でした。 最近の新国立劇場のダンサーにはいまいち精彩がないような気がしますが、このころの新国立劇場にはこんな素敵なバレリーナがいたのですね。
1997年10月:新国立劇場こけら落とし公演
オーロラ姫:吉田 都、デジレ王子:熊川哲也
リラの精:菊地美樹、
優しさの精:大森結城、元気の精:西川貴子、鷹揚の精:西山裕子、
呑気の精:高櫻あみ、勇気の精:志賀三佐枝、ダイヤモンドの精:遠藤睦子、
サファイヤの精:児玉麗奈 金の精:湯川麻美子 銀の精:前田新奈
カラボス:マシモ・アクリ
フロリナ王女:酒井はな、青い鳥:小嶋直也

The Sleeping Beauty - Miyako Yoshida/ Kumakawa Part 2


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