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グラン・パ・クラシック:モーリー・スモーレン、ティート・ヘリムート  (2009.3.1)

「グラン・パ・クラシック」はパリ・オペラ座の往年のエトワール、イヴェット・ショヴィレのために創作されたグラン・パ・ドゥ・ドゥーです。物語は無く、オーベールの音楽と典雅な踊りを楽しむもので、ロシアの振付師グソフスキーは超絶技巧をこれでもかと織り込みました。ショヴィレの実力が遺憾なく引き出されるようにとの意図ですが、これが後世のダンサー泣かせ。「これが踊れたら怖いものなし」と言われるほど恐れられている踊りで、特に女性のバリエーションでは、足でリズムを取って、はずみを付ける所が特に難しく、体力と精神力の限界に挑戦するようなヴァリエーションです。一般に評価が高いのはシルビーギエムです。抜群の脚力に裏付けられた、びくともしないバランスと回転技を誇示した超絶技法に驚かされますが、「どうだ!」と言わんばかりの傲慢さが鼻につき、私は好きにはなれません。
 
サンフランシスコ・バレエのモーリー・スモーレン(Molly Smolen)とティート・ヘリムート(Tiit Helimets)が踊った、グラン・パ・クラシックの映像があります。
モーリー・スモーレンは、1979年生まれということですから、ダンサーとして脂ののってきた頃。日本のダンサーでは、志賀育惠さん、西田佑子さんと同世代というところでしょう。モーリー・スモーレンは、バーミンガムロイヤルバレエから2007年に移籍したのですが、夫君であるティート・ヘリムートが前年移籍していることから、夫君を追ってきたのでしょうか。 バーミンガムロイヤルバレエは貴重な人材に逃げられたというところでしょう。
モーリー・スモーレンはシルヴィ・ギエムのようなスーパーテクニシャンではありません。ギエムのアクロバットまがいの超絶技法ではなく、むしろ、バランスもヴァリエーションも、今にも崩れそうでハラハラするところもあります。アダージョ中盤の右軸足のバランス。パートナーを握りしめた右手がなかなか離せない。意を決して離して、グッと堪えるバランス。思わず「頑張れ!!」と声をかけたくなります。揺れる上体を懸命に持ちこたえて、「もう、これ以上はダメ!!」と手を下ろして、パートナーの手に掴まります。ガッチリと支えるティート。絶妙のパートナーシップに観客の拍手がわき起こりました。そして、アダージョ終盤の左軸足のプロムナードに続くバランス。左手がギグギク揺れてバランスがなかなか決まらず、表情を強ばらせるモーリー。恐る恐る手を離したものの、鋭いトゥの先からすっと伸びた美しい足の甲がビクビク震えて、今にも崩れそう。でも必死にバランスを持ちこたえる姿に感動します。再びわき起こった観客の拍手と「ブラボー!!」の叫びに、思わずにっこり。
そして、恐怖のヴァリエーション。でもモーリーはアダージョの成功に気をよくしてか、表情は至って穏やか。丁寧にミスなく踊りきり、またも盛大な拍手を受けました。
最後は夫君ティートとのコーダ。フェッテの最後でやや上体が傾いたものの、ティートの絶妙なホールドで事なきを得て、最後はバッチリとフィニッシュ。パートナーシップの妙を見せました。
 
モーリー・スモーレンがバーミンガムロイヤルバレエ時代の2003年、アスタ・バゼヴィシュート、佐久間奈緒、アンブラ・ヴァッロ、モーリー・スモーレンが四夜変わってオーロラ姫を踊った粋な企画の「眠りの森の美女」の公演がありました。この時、ローズ・アダージョで、モーリーは、健気にバランスに取り組む様子が、特に高い評価だったそうです。彼女のオーロラ姫を見たいものです。 →Review-Sleeping Beauty
 

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