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くるみ割り人形:大森和子、今井智也、スズキ・バレエ・アーツ   (2010.12.26)
12月に入って、今年も各地でバレエ「くるみ割り人形」が上演されていますが、私はスズキ・バレエ・アーツの公演に行ってきました。 スズキ・バレエ・アーツは、鈴木和子さんが主催する神奈川県の大船にあるバレエ研究所。鈴木さんは、指導者として定評があり、門下からは優れたバレリーナたちを輩出しています。 1970年にスズキ・クラシック・バレエ・アカデミーとして発足、1985年にスズキ・バレエ・アーツを創立してから、 毎年12月にはクリスマス定番の「くるみ割り人形」の全幕公演を行い、団員たちが舞台経験を出来るようにしているようです。元英国ロイヤルバレエ団の古谷智子、シンガポール・ダンス・シアターの清水さくら、英国ノーザンバレエの雨森景子等が講師をしています。
 
花形ダンサーを揃え舞台装置も豪華な贅沢な「くるみ割り人形」が多い中、こじんまりとしたアットホームで暖かな雰囲気なスズキ・クラシック・バレエ・アーツの 「くるみ・・・」が私はとても好きで、今回が4度目です。 今年の金平糖の女王役は、スペイン・コレーラ・バレエのファースト・ソリストで、 帰国時はスズキ・クラシック・バレエ・アカデミーでも教えているという大森和子。コレーラ・バレエ設立当初から活動を共にしてきたアルヘル・コレーラからの信頼も厚いとのこと。 大森和子は、6年ほど前、同じスズキ・バレエ・アーツの「くるみ割り人形」で、二幕の出だしの「海の女王」を踊りました。 この時の彼女は踊りが初々しく、主役の金平糖の精の古谷智子以上に印象に残りました。 王子役は今井智也。近年活躍中の谷桃子バレエ団のプリンシパルです。雪の女王の三浦梢、アラビアを踊った新井望も、谷桃子バレエ団所属ですが、スズキ・クラシック・バレエ・アカデミーの門下生です。スペインの間辺朋美は新国立劇場バレエ団からの応援ですが、彼女もスズキ・クラシック・バレエ・アカデミーの門下生です。ドロッセルマイヤー他の男性陣も、谷桃子バレエ団からの応援ですが、クララや海の女王などのソリストやコールドバレエは、スズキ・バレエ・アーツのダンサーが務めました。
 
第1幕。冒頭は雪の降る街の風景です。序曲の演奏に乗って、クリスマス・パーティーに向かう家族連れなどが通っていきます。ドロッセルマイヤーがくるみ割り人形をかかえて走っていきます。続いて、クリスマス・ツリーを飾った部屋。クララは、可愛らしいバレリーナの小宮夏美。おそらくクララは初めてなのでしょう、最初ややぎこちない感じがしましたが、すぐに舞台に溶け込んで、とても楽しそうに踊っていました。終始美しい笑顔で、踊りはとても綺麗でしたし演技も自然でした。 真夜中の部屋、ドロッセルマイヤーから貰ったくるみ割り人形を抱えて、クララは夢を見ます。 整然と行進するおもちゃの兵隊とちょろちょろと走りまわるねずみの大軍が一進一退の戦いを繰り広げます。くるみ割り人形の今井智也とねずみの王様の長清智の一騎打ち。くるみ割り人形が負けそうになり、クララがねずみの王様に自分のはいていたスリッパの片方を投げつけ、そのおかげでくるみ割り人形の勝ちとなります。くるみ割り人形は王子に変わり、王子はクララをお菓子の国に導きます。 第1幕終りの幻想的な雪のシーン。雪の女王は三浦梢。谷桃子バレエ団からの応援です。とても丁寧な踊りでしたが、バランスの腕がギクギクしたり、ややぎこちない感じがし、もう少し優雅さが欲しかった。緊張していたのでしょうか。雪の精達のコールドバレエは、やや不揃いなところはあったものの、美しくしなやかな踊りで、クララと王子を優しくお菓子の国へ導いて行きました。
 
第2幕。冒頭は、この舞台特有の海底の国。海の精と藻の精がゆらゆら揺れて王子とクララを迎えます。 二人をのせたゴンドラは藻の精の間をぬけて、お菓子の国に向かいます。 この演出はとても良かった。海の女王は昨年と同じく小島恵美子。優雅な踊りが美しかった。
 
2幕の、お菓子たちの踊りは、それぞれとても個性的でよかった。 中でも、まずスペインの踊り。新国立バレエ団の間辺知美の軽快な踊りが心地よかった。 アラビアの踊りは女性が5人で、中心が谷桃子バレエ団の新井望。 アラビアっぽい白い衣装が良く似合い、本当に美しい魅惑の踊りでした。今回の出演者の中で最も印象に残りました。 キャンディーケーキの中島悠が果敢に挑戦したグランフェッテ。今にも崩れそうでハラハラしましたが、必死に回る健気な姿に、客席から「頑張って!!」という声援を誘いました。 中国の踊りは松岡恵美。きびきびした踊りが美しかった。ロシア菓子の踊り(トレパック)は深澤麻帆、村田彩香、下島功佐のトリオ。ロシア人形のような衣装で、下島功佐がさっそうと踊りました。フランスの菓子の踊り(芦笛)は田中理沙子、村田健一。清楚な踊りが美しかった。金平糖の侍女たちの踊り(花のワルツ)となります。中心の小島恵美子、須藤悠ほか、ソリストの8人、12人のコール・ド・バレエという豪華な花々のあふれる舞台でした。
 
お菓子の国の様々な踊りが終わって、クライマックスの金平糖のバ・ド・ドゥ。ひときわ大きな拍手が客席から湧き上がったのですが、今井智也にエスコートされた中央に立った大森和子の姿に、「ん!」と思ってしまいました。クラシックチュチュ姿がしっくりとこない。いつもなら、金平糖の女王の可愛らしさと美しさにハッとした驚きを覚えるのですが、それを感じなかったのです。また、大森和子は、笑顔を見せる余裕もないほど表情が固くかなり緊張しているようで、冒頭のアチチュードプロムナードでは、支えの今井智也をギュッと握った手がギクギクと揺れ、必死にバランスを堪えていてハラハラしました。また男性が両手で女性の骨盤を掴んで「グイ!」と持ち上げる通称「飛行機」リフトでは、飛び上がる女性との息が合ってこそ美しく輝くものですが、二人のタイミングが合わず、フワッという感じではなく、男性が「よっこらしょ!!」と持ち上げる感じでぎこちなかったのが気になりました。とろけるような甘い音楽のバリエーションでは、金平糖の女王の可愛らしさと優しさが際立つところですが、淡々と踊る大森和子には、それが感じられませんでした。でもコーダに入ると本領発揮という感じで、フェッテをミス無く軽快に回りきり、最後のシュのフィッシュダイブもビシッと決め、大きな拍手を誘いました。
今回の「くるみ割り人形」の舞台は、お目当ての金平糖のバ・ド・ドゥが期待はずれでしたが、全体的にはとても満足できた舞台でした。贅沢な装置や衣装を備え、それに有名なキャストという大バレエ団に見られるような豪華な公演ではなく、いたって簡素な舞台でしたが、それがかえって品が良く爽やかに感じました。また、ソリスト、コールドバレエの一人一人に至るまで、日頃からの練習の成果を披露しようと、頑張って、舞台を盛り上げようと一生懸命で、出演者全員の熱意に打たれました。主役の大森和子にはがっかりでしたが、アラビアの踊りの新井望は本当に素敵でした。ほっそりとした美しい容姿、柔らかで細やかで上品な身のこなし、穏やかな表情、バレリーナの資質を全て兼ね備えている・・・、新井望は、そんな素敵な舞姫です。スズキ・クラシック・バレエ・アカデミーの門下生でもあり、昨年は優雅な雪の女王、今年は魅惑のアラビアのソロを踊って成長著しい彼女。「来年こそ、新井望が主役の金平糖の女王を踊って欲しい」という期待を胸に、鎌倉芸術館を後にしました。
  
    演出・振付:鈴木和子、
    バレエ・ミストレス:川喜多宣子
    舞台監督/菰方伸明
    照明/梶ライティングデザイン

    金平糖の女王:大森和子
    王子:今井智也
    クララ:小宮夏美
    ドロッセルマイヤー:川島春生
    雪の女王:三浦 梢
    雪の王:須藤 悠
    海の女王:小島恵美子

    2010年12月24日、鎌倉芸術館

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