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くるみ割り人形:佐々木和葉、スズキ・バレエ・アーツ  (2014.12.26)
12月に入って各地でバレエ「くるみ割り人形」が上演された中、スズキ・バレエ・アーツでも例年通り上演されました。 今回、佐々木和葉が金平糖の女王を踊ると知って急いでチケットを買いました。

佐々木和葉は8年前の2006年、このスズキ・バレエ・アーツの公演で「金平糖の女王」を踊りました。 当時まだ30になったばかりの若い佐々木和葉は、ほっそりとして気品に満ちて、踊りは初々しく、たおやかで美しく、必死に、健気に、しかも立派に踊りきった姿が深く印象に残りました。 怪我をした滝井真樹子に代わって急遽「金平糖の女王」を踊ることになり、振りをこなすのが精一杯だったようで、彼女の緊張が客席まで伝わってきました。 「金平糖の女王」への突然の抜擢でリハーサルも心の準備も十分でなかったに違いありません。 その佐々木和葉が、谷桃子バレエ団のプリンシパルまで上り詰めて、この舞台に戻ってきたのです。期待に胸が膨らみました。

スズキ・バレエ・アーツは、鈴木和子さんが主催する神奈川県の大船にあるバレエ研究所。1970年にスズキ・クラシック・バレエ・アカデミーとして発足、1985年にスズキ・バレエ・アーツを創立してから、毎年夏に行う発表会では「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「コッペリア」等、数々の名作に取り組んでおり、冬にはクリスマス定番の「くるみ割り人形」の全幕公演も行い、団員たちが豊富な舞台経験が出来るようにしているようです。 元英国ロイヤルバレエ団の古谷智子さん、元英国ノーザンバレエの雨森景子さん等も講師に名を連ねています。 今回は、谷桃子バレエ団のプリンシパルの佐々木和葉と三木雄馬が金平糖の精と王子に、 雪の女王に福田真理子、アラビアの踊りに新井望、石井竜一がドロッセルマイヤーをはじめ男性陣も外部からの応援でしたが、クララや女性の主要な役やコールドバレエは、スズキ・バレエ・アーツのダンサーが務めました。 チャリティーとしての開催の為、収益の一部を赤十字を通し東日本大震災の被災地等へ寄付するとのことです。

第1幕。クララは、咲本美砂。白いリボンがとてもよく似合う可愛らしいバレリーナ。クララは初めてなのでしょうか、最初ややぎこちない感じがしましたが、すぐに舞台に溶け込んで、とても楽しそうに踊っていました。終始美しい笑顔で、踊りはとても綺麗でしたし演技も自然でした。 第1幕終りの幻想的な雪のシーン。 雪の女王はスズキ・バレエ・アーツ出身で昨年東京バレエ団に入団したばかりの福田真理子。 ふっくら可愛らしくプロポーションがとても美しい舞姫。表情がやや硬かったけれど、懸命に踊る姿に感動しました。 後輩達の前で踊ることで、緊張気味だったのでしょうか。でも、とても初々しく優雅で丁寧な踊りが美しかった。今後の成長が楽しみです。 雪の精達のコールドバレエは、やや不揃いなところはあったものの、美しくしなやかでな踊りで、クララと王子を優しくお菓子の国へ導いて行きました。
 
第2幕、お菓子の国。アラビアの踊りには谷桃子バレエ団の新井望が出演。彼女は幼い頃から鈴木和子さんから師事を受けたとのこと。 新井望はとても体が柔らかいようで、アラビアの踊りの後ろへ大きく反るようなポーズも楽々と美しくこなしていましたが、踊りはやや平板であまり印象に残らなかった。 タメるべきところタメて、決めるべきところは決めるというようなメリハリが欲しかった。幼い頃の先生の前で踊ることで萎縮してしまったのか、もっと伸び伸びと踊って欲しかった。

お菓子の国の様々な踊りが終わって、クライマックスの金平糖のバドドゥ。 三木雄馬にエスコートされて舞台の中央に進んだ佐々木和葉。細〜い!!。チョッと痩せすぎ。 バレエ・ダンサーは健康的な強い体があって初めて仕事が成り立つので体が細ければ良いというものではありません。 8年前このステージに出たときは、これほど細く感じなかったので、忙しすぎるのか、プリンシパルの重圧なのか。人間の体は正直なので、酷使すると長持ちしません。やはり何と言っても健康が一番!。チョット心配です。 それに彼女、最初のうちは、かなり緊張している様子。 佐々木和葉は、スズキ・バレエ・アーツの公演をはじめ、幾度も金平糖の女王を踊っているけれど、 プリンシパルだからこそ、出を待つ間に「失敗は許されない。でもミスしたらどうしよう」と、どんどん不安が高まってきたのでしょうか。 しかも金平糖のバドドゥは開幕から2時間近くたってから。長いこと出を待つプレッシャーは計り知れません。
パートナーの三木雄馬、佐々木和葉のこの気持ちを察知したようで「心配しないで、僕がついているから大丈夫だよ。」と言うように、彼女の緊張を和らげようとて気遣っているのがわかりました。 こんな三木雄馬を心の支えにして、懸命にプレッシャーと戦っている佐々木和葉に感動しました。 冒頭のアチチュードのバランスでは、佐々木和葉は、ギクギクしながら三木雄馬の支えの手をギュッと握って、三木雄馬を頼りきっている様子も伺えましたが、 三木雄馬の手を離してグッと堪えて見事にバランスをキープしたのは流石。はっとする一瞬の輝きに、観客席には波を打ったような静寂が流れました。 180度近くまで脚が高く上がったアラベスクパンシェは見事。あまり高く上げすぎると下品に見える人もいるけれど、佐々木和葉はそんあ感じが少しもしない。 とても自然で、上品で、本当に美しかった。
リフトでは、三木雄馬が佐々木和葉を高々と頭上まで持ち上げてしっかりと静止。佐々木和葉も、三木雄馬に負担をかけまいと、フワッとリフトされるように飛び上がった努力が感じられました。 佐々木和葉は空中で両手をアンオーまで挙げてニッコリ微笑んでいました。 大きな拍手の中、三木雄馬が「無事終わったね!」と優しく微笑みかけると、佐々木和葉は感謝に満ちた眼差しでそれに応えて・・・・。信頼しあったカップルという感じが微笑ましかった。 それぞれが、しっかりと役割を果たし、お互いを讃え合っている、こんな素敵な場面を見ると、益々バレエが好きになります。 レベランスで観客に応える二人の表情は、大きな仕事を成し遂げた満足感に溢れていました。 パドドゥは男女二人の共同作業。息が合ってこそ美しく輝くものです。今回、二人の助け合いの気持ちが痛いほど感じられた微笑ましいアダージョでした。

このアダージョでは、三木雄馬の献身的な努力を感じました。男性ダンサーの中には、アダージョの後すぐにヴァリエーションが続くので、すぐ前のアダージョで女性のアシストの手を抜き、自分の踊りの為にバワーを温存するという人も見受けられます。 三木雄馬はアダージョで全力投球で佐々木和葉をアシストしていました。パドドゥで女性が頼れるのはパートナーだけ。こんな三木雄馬の頼もしさに、佐々木和葉はさぞ心強く感じたことでしょう。 アダージョの後の王子のバリエーション。三木雄馬は疲れも見せずスピードのある跳躍などの見事な踊りを見せて拍手を誘いました。 三木雄馬は体力も精神力も強い素晴らしいダンサーです。こういう人をダンスールノーブルと言うのでしょう。

素晴らしかったのはその次の佐々木和葉の金平糖の精のヴァリエーション。 佐々木和葉の踊りは、その優しく細やかな人柄が表れているようで、丁寧で、かつ爽やかで美しく、こんなに丹精こめた踊りを見るのは久しぶり。うっとり見とれていました。 とろけるようなチェレスタの伴奏に乗って、愛らしい金平糖の精を踊りました。 柔らかく上品で、アラベスク、アティテュードのキープ力も伸びやかで、心温まる踊りでした。 お菓子の甘さに加えて女王様の威厳も要求されるこの金平糖の踊りですが、 ピンクの長めのクラシックチュチュをエレガントに着こなした佐々木和葉は、繊細で可憐なだけでなく、タメるべきところしっかりタメて、回るところは無理なくスムーズに回って・・・。 これほど美しく優雅に踊れる人も珍しい。うっとりとして眼を離せませんでした。 佐々木和葉は、アダージョの時よりは大分緊張が解けてきてたようでしたが、それでもヴァリエーショの最後まで表情の堅さは残っているようでした。 けれども、これがむしろ彼女の美しさを際立てているようでした。 難しい場面にさしかかった時に見せる険しい表情がなんとも魅力的。 触れると壊れてしまいそうなガラスのような弱々しさを感じさせながらも、健気に踊る姿は本当に可愛らしかった。思わず「頑張って!!」と声をかけたくなるほど。 終盤、クルッと回った時、背中はうっすらと汗が滲んでいました。軽快に踊っているように見えても、やはり相当重労働なんだなと、胸がジーンと熱くなりました。 両足のトゥを揃えて立って、真剣な表情でグッと堪えたフィニッシュの静止。「終わった!!」と思わず白い歯を見せてこぼれた笑みが感動的でした。

最後のコーダ。佐々木和葉、すっかり緊張が解けて笑顔も見えていたけれど、踊りにはスピード感がなく今一でした。 コーダは、テンポの早い音楽に乗り、男女のテクニックの火花を散らすのが見所なのですが、舞台狭しと走り回る三木雄馬に佐々木和葉はついていけない感じ。 ヴァリエーションで力を使い切って疲れはててしまったのかと思ったくらい。アダージョとヴァリエーションが素晴らしかっただけに、チョット残念。 グラン・パ・ド・ドゥは体力が勝負。もう少し太って体力てつけて、この過酷なコーダも乗り切って欲しいと思います。

佐々木和葉は、グラン・パ・ドゥのコーダは期待はずれだったけれど、アダージョとヴァリエーションについては、本当に素敵でした。 佐々木和葉は、チョッと痩せすぎという感じはしたものの、優しく清楚なたたずまい、溢れる気品、優れたプロポーション、伸びやかな爪先など、バレリーナの資質全て備えた魅惑の舞姫。 踊りはたおやかで美しく技術的にも秀逸で、クラシックチュチュがとても良く似合う本当に素敵なダンサーです。 発表会や小規模な公演に出演するゲストダンサーの中には、「出てやっているんだ」と蔑んでいるような横柄な態度の人も見受けられますが、 佐々木和葉は、そんな感じが少しせず、終始慎ましやかで、人柄の良さが感じられました。 むしろ緊張のせいか、振りをこなすのが精一杯と感じたところもありましたが、それがかえって初々しくて可愛らしく、育ちの良い良家のお嬢さんという感じ。 しかも踊りにも何気ない仕草にも、聡明で知的な雰囲気が漂う。 彼女がプロを志したのは大学を卒業してからとのこと。やはりバレエと学業を両立させて名門大学まで進んだ才媛は、他のバレリーナとは一味違う頭の良さが感じられ、 この教養に裏付けられた心の豊かさが、踊りを魅力的なものにしているのでしょう。 逆に大学まで進むと、バレリーナとしては遅咲きになってしまう。その年齢的なハンディーを乗り越えてプリンシパルまでに上り詰めた佐々木和葉はとても偉いと思う。 可憐な上に豊かな表現力、教養が滲み出た知的な優しさ・・・を武器に、健康に気をつけて、もう少し太って体力を付けて、今後も輝き続けて欲しいものです。
この「くるみ割り人形」の舞台は、贅沢な装置や衣装を備え、それに有名なキャストという大バレエ団に見られるような豪華な公演ではなく至って簡素です。でもそれがかえって品が良く爽やかでした。それに、何と言っても出演者達の熱意に打たれました。 主役はもちろんソリスト、コールドバレエの一人一人に至るまで、日頃からの練習の成果を披露しようと、頑張って、舞台を盛り上げようと一生懸命なのが伝わって来ました。 「素敵な舞台を有り難う」と心から感謝の気持ちを抱き、ささやかながらチャリティの募金もさせてもらい、鎌倉芸術館を後にしました。
 
芸術監督:鈴木和子、
金平糖の女王:佐々木和葉
王子:三木雄馬
クララ:咲本美砂
雪の女王:福田真理子
アラビアの踊り:新井望
ほか
2014年12月24日
鎌倉芸術館

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