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シンデレラ:アントワネット・シブリー、ロイヤルバレエ     (2006.4.22)

この映像は、アントワネット・シブリーのシンデレラ、アンソニー・ダウエルの王子ほかロイヤルバレエ団のコヴェンガーデン王立歌劇場での上演の記録です。1969年収録ですから、最近のものに比べると映像の質は落ちますが、内容の素晴らしさで、作成された時代を忘れてしまいます。
なんと言っても、素晴らしいのは、ヒロインのアントワネット・シブリー。第1幕、なんという可愛らしさ、それに軽やかな身のこなし。こんなシンデレラは初めてです。 ロイヤルの先輩であるマーゴ・フォンティーンのシンデレラも素敵ですが、可憐なしぐさで、はるかに勝ります。
そして、第2幕、クラシック・チュチュに着替えて、まさに本領発揮というところ。美しい脚、細やかなつま先、正確なブーレ。人間業とは思えないほどです。 舞踏会での王子とのパドドゥ。アダージョは、キラキラ光輝いているようでこの世のものとも思えないくらい美しいのです。 ラスト近くの結婚式の場面、後方に90度に上げたアラベスクのポーズから、支えの王子の手を離して、まろやかなアンオーでしっかりとバランスを決めたところは、一瞬時間が止まったようでした。手を下ろして再び王子の手を握り、 そのまま前傾して右足を高々とあげて華麗なアラベスクで静止。思わずため息が出てしまいました。ソロでも彼女のバランスの「決め」の美しさが印象的で、フォンティーンを育てた優雅なアシュトン振付の妙を感じます。 アンソニー・ダウエルも、実に丁寧にサポートし、シブリーの美しさを際だたせています。
 
シブリーの映像は、非常に少ないのです。私が持っているものでは、「オーロラの結婚」(眠りの森の美女〜第三幕)での青い鳥のパドドゥ、それに映画「愛と喝采の日々」の中の「眠りの森の美女」〜パ・ド・ドゥの一部だけです。このため、この「シンデレラ」全幕の映像は非常に貴重なものなのです。
私の手元には、シブリーが、ローズアダージョのバランスをバッチリ決めてにっこり微笑んでいる写真がありますが、実際のステージのオーロラ姫はどんなにか素敵だったでしょう。もしこの「眠りの森の美女」の映像が残っていたら・・・・さぞ素晴らしいものでしょう。どなたかご存じ有りませんか。
なおこの「シンデレラ」には、マーゴ・フォンティーンを世に送り出した名振り付け師・フレデリック・アシュトンが、意地悪な姉の役で出ているのも、興味のあるところです。
 
しかし、こんなに素敵なアントニエッタ・シブリーですが、このステージのあと間もなく不幸が待っていたのでした。 脚に大怪我をしてしまったのです。ダンサーの怪我ほど、恐ろしいものはありません。特にトゥで立つことによる負担が常に重くのしかかっている足首の損傷は、致命傷にもなりかねません。彼女もこの怪我がもとで関節炎が悪化。二度とステージに立つことはできなかったのです。
その意味でこのシンデレラの映像は、アントワネット・シブリーの短いバレエ人生の中での最盛期を知ることができる貴重な記録なのです。 幾度も幾度も繰り返されるカーテンコール。満場の拍手に応え、深々と頭を下げるシブリー。迫りくる不幸を知らず、幸福の絶頂にいる彼女。 華やかさの陰に潜む、バレリーナの過酷な現実を見ているようで、胸が痛みます。
 
1970年代の中頃、「ロイヤルのプリマ:シブリー、バレリーナを断念」という記事を見たとき、私は、やはりダメだったのかと胸が締め付けられる思いがしました。マーゴ・フォンティーンを継ぐと言われたロイヤルのプリマ・シブリーは、さびしくステージから去って行ったのでした。 プリマ・バレリーナを失って苦境に立ったロイヤルバレエ。でも、そこは、世界のロイヤルバレエ。この後、メール・パーク、レスリー・コレア、ヴィヴィアナ・デュランテ、シルビー・ギエム、ダーシー・バッセル、そして吉田都さんという素敵なプリマ達が続きました。
現在、ロイヤルバレエで活躍している吉田都さんは、「ステージに出る前は、いつも祈っています。無事に始まり、無事に踊りきることができますように、と・・・・」(The GOLD(JCB))と言っています。舞台上ではどんなアクシデントが起こるかもわからないし、自分の力ではどうにもならないこともあるからでしょう。 私たちに夢を与えてくれる天使、バレリーナ。華やかなステージの裏には、この仕事には、怪我と紙一重、危険が一杯という過酷な現実があるのです。彼女達が、くれぐれも怪我という災難に会わず、何時までも美しく踊り続けていけることを願ってやみません。

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