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海賊〜グラン・パ・ド・ドゥ:高部尚子、樫野隆幸   (2007.11.11)
高部尚子さんが踊った「海賊」のパ・ド・ドゥの映像があります。1994年頃テレビ番組「バレエ誕生」で放送されたものです。高部さんは、今でこそ、伊藤範子さんや若手のホープ佐々木和葉さんにプリマの座を譲ったものの、当時は谷桃子バレエ団の若きプリンシパルとして看板的な存在でした。パートナーの樫野隆幸さんも当時は谷桃子バレエ団の団員でしたが、現在は三重県の飛鳥桜子バレエスクールで後進を教える傍ら、コンクールの審査委員なども務めているようです。
二人がまさにこれから弾けようとするころの映像だけに、新鮮で、しかも華麗な踊りが楽しめました。バレエは「若さの芸術」と言われますが、この映像を見ていると、若く初々しいということは本当に素晴らしいことだと、つくづく思ってしまいます。「海賊」や「ドンキ・ホーテ」のパ・ド・ドゥのように、過酷で体力が勝負の踊りには、体力の衰えはいかんともし難い。パリオペラ座バレエ団のダンサーの定年は43歳とい厳しい現実もあります。「若さの芸術」という言葉もわかるような気がします。でも、必ずしも40を超えたダンサーが皆ダメというわけではない。マーゴ・フォンティーンは50代半ばまで踊っていたし、森下洋子さんに至っては、60歳近くなってまだ現役です。
 
一般にパ・ド・ドゥはアダージョが女性の見せ場なのですが、残念ながら、この「海賊」のパ・ド・ドゥでは、高部尚子さんはアダージョでは、あまり輝きを感じませんでした。ミスのないとても正確な踊りですが、淡々と踊って、いつのまにか終わってしまったという感じだったのです。でも、ヴァリエーションは、男性も女性も素晴らしかった。 樫野さんの若々しく力強いジャンプは見栄えがしましたし、高部さんのイタリアンフェッテも、足を高々と挙げながらも、バランスが崩れず美しく回って見事でした。
コーダでも、樫野さんは疲れを感じさせない力強い踊りで流石でした。高部さんは、グランフェッテ・アントゥールナンではとても辛そうで、アップで写った歯を食いしばって必死に回る表情が痛々しいほどでした。でも頑張って最後まで崩れずに踊りきってホッとした笑顔には感動でした。ただ、フェッテは、左足を軸にして右足を原動力にする右回転が普通ですが、彼女は右足を軸にした左回転で、なんとなく違和感がありました。
また、このグラン・パ・ド・ドゥの女性の衣装は、薄いドレス風の場合とクラシックチュチュの場合がありますが、高部尚子はドレス風の衣装でした。私はクラシックチュチュの方が好きです。 グランフェッテ・アントゥールナンは、チュチュの方が回りやすいでしょうし、イタリアンフェッテも高く上がった長く美しい脚線がよく見えて見栄えがします。
 
高部尚子さんは、「私好きな言葉があって、『一本の鋼にすみれを添えて』というんです。 つまり、鋼のような強さとすみれのような優しさを兼ね備えるということだと思っているんですけれど、大切なことですよね」 (バレリーナのアルバム:新書館)と言っていましたが、このヴァリエーションやコーダは、この思いが表れているように感じました。 

「バレエ誕生」は、題名の通り、これから誕生して活躍するであろう若いダンサーの踊りを中心に構成されていました。 至近距離にセットされたカメラは、経験の浅い、でも初々しさ溢れる若いダンサー達が、「失敗したらどうしよう・・・」、と不安な気持ちを抱きながらも懸命に踊る表情をバッチリ捉えていて、つい「頑張って!!」と応援したくなったものです。
この番組は、スポンサーが倒産したとかで、一年ほどで無くなってしまったのですが、ぜひ復活して欲しいものです。

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