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パ・ド・カトル:東京バレエ   (2007.4.26)

東京バレエ団のスターダンサーによるパ・ド・カトルの映像があります。2005年8月に斎藤友佳理の記念公演「ユカリューシャ」で踊られたものです。 1845年12月、ロンドン王立劇場の支配人ラミリーは、ドニゼッティの歌劇「アンナ・ボレナ」の幕間の余興として、当時の人気のバレリーナ、マリア・タリオーニ、カルロッタ・グリジ、ファニー・チェリート、ファニー・エルスラー4人による踊りの上演を企画しました。これが、パ・ド・カトルです。音楽はチェザレ・プーニ、振り付けはジュール・ペローでした。マリー・タリオーニとファニー・エルスラーはライバルで、タリオーニが妖精のような軽やかさを売り物にしたのに対し、エルスラーは情熱的な踊りを得意としました。結局、ファニー・エルスラーは共演せず、タリオーニに次いでラ・シルフィードを当たり役となしたリシル・グラーンが代わりに踊りました。エルスラーはライバルのタリオーニと同じ舞台に立つことにプライドが許さなかったのでしょう。 ところが出演の順番を決める段階で、我こそトップスターとブライドの高い彼女たちのこと、自分が最後に踊ると聞かない。困ったラミリーは、「それでは、一番年齢の高い人に最後に踊ってもらいましょう。」と言ったところ、皆、「どうぞ、どうぞ」と譲りあったとのこと。女性の心理を巧みに利用したうまい解決方法だったと思います。結局、最年長のタリオーニが最後に踊りました。
 
全体で15分程の短い踊りですが、現在踊られるパ・ド・カトルは、それぞれのダンサーが、当時のトップスターになって、自分が一番だと競い合うという設定で、自分を捨てて、それぞれのスターに成りきるのが、とても難しいと言われています。 この舞台では、グラーンは上野水香、グリジは井脇幸江、チェリートは小出領子、最後のタリオーニ役は吉岡美佳が務めました。

トップの上野水香。グラーンは快活な感じの舞姫だったそうですから、上野水香の踊りに通じるところもありますが、どこかしっくりしない。 このパ・ド・カトルには優雅さが必要なのですが、上野水香の踊りにはそれを感じません。 彼女は短いクラシックチュチュは似合うけれど、丈の長いロマンチックチュチュは似合わない。汗びっしょりの熱演でしたが、光る汗が品がなく見えてしまう。 その意味ではミスキャストと言わないまでも上野水香のパ・ド・カトルへの起用には疑問が残ります。 続いてグリジ役の井脇幸江。グリジの踊りをよく研究をしたのか、ゆったり優雅な大人のヴァリエーションで、その中に小気味よくコケティッシュな踊りもあり好感を持ちました。 チェリーナ役は小柄な小出領子。魅力的な回転のパを基調にした可愛らしい踊りでした。笑顔が本当に美しい。チェリーナはきっと、こんな感じだったのでは、と思わせました。 最後はタリオーニ役の吉岡美佳。タリオーニは初めてトゥで立って踊ったダンサーで風の妖精を思わせる軽やかさだったそうですが、 吉岡美佳の踊りは、そんなタリオーニを思わせる、軽やかで爽やかな踊りでした。 そんなわけで、グラーン役の上野水香以外は、理想的な配役のパ・ド・カトルだと思います。

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