20年以上も前に購入し、とても大切にしているCDがあります。宇野功芳指揮新星日本交響楽団のモーツァルト・戴冠ミサ曲ハ長調 K.317です。
このCD、声楽がとても爽やかで心地よい。それもそのはずソロの歌手もコーラスも全て女性なのです。
戴冠ミサ曲の原曲は、ソプラノ、アルト、テノール、バスの4人の独唱者と混声四部合唱だそうですが、
このCDでは、宇野功芳氏がソプラノ、メゾ・ソプラノ、アルトの3人の独唱者と女声三部合唱にアレンジしているのです。
混声でなく女声に純化したことにより、「何と清らかで美しいことか」と感じたのが正直な気持ちです。
尤も、独唱も合唱も大人の歌手ではなく少年合唱団が使われているレコードもあるところをみると、全てが女声というのも一概に奇抜ということでもなさそうです。
むしろ、女声だけのコーラスの純粋な響きが、この曲にぴったりなように思えて、理想的とも言えるような気もします。
戴冠ミサ曲のCDは沢山発売されているけれど、全てが女声のレコードは、コレだけではないでしょうか。
コーラスの日本女声合唱団は、フェリス女学院短期大学の卒業生たちによって構成された日本初のプロ女声合唱団だそうで、
設立者の三宅洋一郎が死去した後に解散してしまいました。
新星日本交響楽団は、楽団員が運営の責任も持つ自主運営のプロオーケストラとしては日本で初めてのものだったそうですが、
バブル崩壊後の財政的な問題から、東京フィルハーモニー交響楽団との合併によって消滅してしまいました。
またこのCD発売のプラッツレコードは、学研の出資により設立され、日本の若い演奏家の演奏を積極的に取りあげてくれたレコード会社ですが、
2000年代に入って音楽事業から撤退してしまいました。合唱団もオーケストラもレコード会社も、皆現在はなくなってしまったので、遺産とも言えるこの録音は貴重です。
なお、この戴冠ミサ曲の録音には、プロデューサーの皆川弘至氏の努力によるところが大きいようで、
指揮の宇野功芳氏も「女性合唱版による録音を許可してくれたのも皆川さんならではで、今後も同CDは世界唯一の女声版ということで歴史に残るだろう」
(皆川弘至著:音楽録音芸術概論の序文)と述べています。
なお、ソプラノのパートは皆川弘至氏の奥様の長島伸子さんが担当。
ホッとするような心温まる優しさに溢れた透き通った美しい歌声は、まさに「天使の歌声」です。
なおこのCDには、戴冠ミサ曲の他に、サントリーホールのライブでのミサ・ブレヴィス等が収録されていますが、こちらも臨場感溢れる美しい演奏です。
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モーツァルト:
・戴冠ミサ曲ハ長調K.317
長島伸子(ソプラノ),渡辺康子(メゾ・ソプラノ),小林美代子(アルト),
田中由美子(オルガン),日本女声合唱団,
宇野功芳指揮 新星日本交響楽団 (1988.8.30-31、洗足学園前田ホール)
・「女より生まれし者のうちにて」K.27
・「天主のみ母なる聖マリアよ」K.273
・ミサ・ブレヴィス変ロ長調K.275
須崎由紀子(ソプラノ),小川明子(アルト),辻秀幸(テノール),大門康彦(バリトン),
辻正行指揮TCF合唱団,
宇野功芳指揮 新星日本交響楽団 (1990.6.24、サントリーホール Live)
(PLATZ PLCC551 1991/1/21)
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