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ドン・キホーテ:ヴァルデス、フロメタ、キューバ国立バレエ   (2009.2.15)

キューバ国立バレエのスーパーテクニシャン、ヴィエングゼイ・ヴァルデスが主演した「ドン・キホーテ」全幕のDVDがあります。2007年7月にパリのグラン・パレで収録されたものです。ヴィエングゼイ・ヴァルデスはバレエを始める前は新体操をやっていたそうで、元気溌剌で、バランスも回転もお手の物という超人的な技術の持ち主。ふくよかな胸とふっくらとした太ももに、ほのかな色気を感じます。キューバ国立バレエのもうひとりプリンシパル、優雅で気品のあるアネット・デグロアと対称的で、観客の好みの分かれるところでしょう。グラン・パレは、パリオペラ座の舞台にくらべ奥行きもなく、セットはほとんどなく、舞台の上のスクリーンに背景を映し出しているようだし、指揮者もオーケストラもない録音による公演なのが寂しい。でも、アリシア・アロンソ率いるこのバレエ団は、欧米やロシアのバレエ団に比べ、日本ではあまり知られていませんが、逆に、すれていないというか、品が良いというか、これだけ一生懸命やっていますというような、純粋無垢という感じのバレエ団で、全幕通して、元気なダンサー達の溌剌とした踊りを楽しめ、いかにもラテン的な生き生きとした熱い息遣いが伝わってきます。何と言っても第3幕のグラン・パ・ドゥ・ドゥが最高の盛り上がり。ヴァルデスのパワーに圧倒された感じでした。
 
第1幕では、まずロメル・フロメタのバジルのソロ。風を切るような回転が見事。それに続くキトリのソロ。ヴィエングゼイ・ヴァルデスの背中が非常に柔らかく、本当に両脚と両手がくっつくんじゃないかと思うほどです。リフトの静止も長く、とにかくすごい!

第2幕では、ジプシーのタラス・ドミトリは、背も大きくなく足なども非常に細い痩身なのだが、背中の筋肉が柔らかいのか、非常に良く反る姿はアクロバッティックに見えるぐらい。拍手がひときは多かった。
夢のシーンでは、ドルシネアはドン・キホーテの夢の中のキトリなので、通常、キトリ役のダンサーが踊るのですが、別の女性が踊ります。ドリアードの女王やコールドも丈の長い衣装で、クラシックチュチュでないのが残念。せっかくのイタリアン・フェッテや、コールドの良く揃っている美しい足が見えない。この夢のシーンは、演出も衣装も疑問が残ります。
 
第3幕は、最高に盛り上がりました。というのは、ひとえにキトリを踊ったヴィエンセイ・ヴァルデスのテクニックによるもの。ちょっとディアナ・ヴィシニョーワ似の派手な顔のためか、第1幕、第2幕では、やや品がなく見えたものの、第3幕に入って、彼女は完全に乗ってきたようで、超人的なバランスと回転を披露。最後の方で見せたのが、ポワントで立ったまま、アチチュードからサポートなしでパッセを通りドゥヴァンまで、今度はパッセからやはりサポートなしでアチチュードアラベスクまでという離れ業。しかも全くふらつかず危なげない。それにしてもこれほどまで長くバランスをとることができる人は世界に何人いるでしょうか。最後は、フロメタが、水平に開脚したままのヴァルデスの体を頭上より高く放り投げ、落下してくるところを床すれすれでガッチリとキャッチ。ヴァルデスはフィッシュダイブのポーズ。一歩間違えば床に激突、大怪我がという危険な技ですが胸の空くようで凄いとしか言いようがない。観客は大喜びでした、そしてコーダの32回転グランフェッテは、トリプルを織り交ぜて、4回転も2回ほど入っていて、しかも軸足が全くずれず正確で、本当に凄いとしか言いようがない。舞台に出る前に「失敗したらどうしよう」と緊張するのは、とっくの昔に卒業しました、と言わんばかりに余裕綽々。最後は、軸足一本で10回も続けて回転し、余裕のフィニッシュ。観客は興奮しブラボーの嵐でした。中断した音楽の合間に、「うまく出来て良かった!!」とに満面の笑みを浮かべ、観客に深々と頭を下げるヴァルデスが可愛いこと。 「こんなに拍手を頂いていいのかしら、感謝感激!!」と言っているようで、紅潮した顔は嬉しさに溢れていました。「若さの芸術」と言われるバレエ、若くなければ、こんな超人的な技は出来ないでしょう。パリの晴れ舞台で、力を出しきり、最高の技を見せて、幸福にひたっている若い舞姫、なんて美しいのでしょう。こんな場面を見ると、一層バレエが好きになります。
 
パ・ドゥ・ドゥが終わってレベランス、汗できらきら輝いていたヴァルデスの首筋と胸。ハアハアという息づかいが聞こえるように大きく波打っていた胸。こんなに汗まみれの舞姫は見たことがない。それだけ熱がこもっていたのでしょう。一歩間違えれば、バレエというより体操競技のようではあるけれど、ヴァルデス、フロメタ、二人とも、心底踊れる喜びを表現しているのでようで、観ている側も思わず嬉しくなってしまいます。本当に楽しく、素敵なDVDです。
キューバ国立バレエ「ドン・キホーテ」
振付:アリシア・アロンソ
キトリ:ヴィエングゼイ・ヴァルデス、バジル:ロメル・フロメタ
メルセデス:サディス・アレンシビア、エスパーダ:ミカエル・エンジェル・ビラノ
ジプシー:タラス・ドミトロ、ドリアードの女王:ヨンデラ・ピネラ
2007年7月にパリのグラン・パレ
You Tubeに載っている映像は、こちら 
次の二つもYou Tubeに載っているヴァルデスのアダージョの映像。バランスのオンパレードです 
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