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カルメン:ワン・チーミン、リー・チュン      (2015.4.11)

「プティ版カルメン=語れる美脚」と言われ、美脚が最高に楽しめるのが、この寝室の場で、 ジジ・ジャンメールのカルメン、ローラン・プティのホセという、振付した本人プティと夫人の踊りという映像があり、息のあった二人の濃密な雰囲気です。 ジジ・ジャンメールは、太すぎもせず、細すぎもせず、バランス良い、自慢の脚線美をこれでもか!というほどに見せ付けてくれます。 ただ、やや年齢を感じるのと、いかんせんアップになると顔がチョット??・・・、カメラは意地悪です。  
このジジ・ジャンメールも真っ青というくらい素敵なカルメンがYouTubeに載っていました。 ワン・チーミン(Wang Qimin)とリー・チュン(Li Jun)という若い二人のパ・ド・ドゥです。 ワン・チーミンは中国国立バレエのプリンシパルで、相手役のリー・チュンは学生時代から一緒に組んでいるパートナーで、夫婦でもあるそうです。 ワン・チーミンのプロポーションは抜群だし踊りも本当に素敵。 ワン・チーミンは、腕や脚は凄く細いのに、綺麗に筋肉がついていて美しい。痩せた日本人ダンサーは、横から見ると薄っぺらい洗濯板のような体の人が多いのですが、 ワン・チーミンは、体の厚みはほどほどにあって魅力的だし、体幹がしっかりしているのか、ちょっとやそっとではグラつかなさそうな強靭さが感じられます。 前半のソロの部分で、脚は上がるだけ挙げたほうがよいと言われるエカルテ・ドゥヴァンでのバランスでは、次のステップ移るところでぐらついてしまう人が多いけれど、 スッと伸ばした右の足先を高々と180度近くも上げても、見事に左脚のポワントでのって全く崩れず、何事もなかったかのように次に続けてしまうのです。 しかも、その強靭さをアクロバットのように露骨に示すのではなく、上体は柔らかくなめらかな上、下半身は、上げた脚を降ろすスピードが、やんわりとゆっくりとむしろ控えめなので、とても粘っこくしなやかに見えるのです。 素晴らしく見事なボディコントロールだと、うっとりと鳥肌が立つくらい感動しました。 そして、二人で踊って間もなく、ワン・チーミンの見せるアラベスクパンシェ。股が裂けてしまうのではと思うくらいの180度の開脚。ホセの気を引くための派手で至難なポーズを、苦も無く軽々とやってのけるのは流石です。
クラシックバレエでは、セックスはご法度ですが、このプティ版カルメンではこれに反して、セックスを描写した振りが売りとなっていてるので、 ワン・チーミンはネットリと絡みつくような濃厚な演技とムーブメントを意識しているようで、妖艶な眼差しもカルメンそのもの。 かと言って、少しも嫌らしさなく、むしろ爽やかさを感じるから不思議。 仰向けになって寝そべったリー・チュンの体の上に、ワン・チーミンが膝を突いて乗り、下半身を密着させて愛撫する場面。 リー・チュンが腰を前後に動かし下半身を摺りあわすと、ワン・チーミンは、もうたまらないという表情で軽く口を空けてうつろな目を半分閉じて、リー・チュンにしがみついて、恍惚の快感に浸っているようでした。 プティが求めるセックス描写とは言え、かなり際どい仕草ですが、二人は夫婦だからこそ、ためらわずにやってのけることができるのでしょう。 終盤、接吻しながらのこれまた180度開脚のアラベスクパンシェ。これをいとも軽々とやってしまうのは凄い。 次いで支えの手を離して体を起こしてアラベスクのバランス。わずかにグラついたけれど、グッと堪えて溜めたポーズ。時間が止まったような美しさにため息がでました。 そして最後のエクスタシー。二人が抱き合った体勢で床に寝て、男性が下、女性が上で、リー・チュンにワン・チーミンが抱きつき濃厚な接吻。 フィニッシュは、ワン・チーミンがリー・チュンの胸に愛おしそうに顔を押しつけて、老そりのように長い両脚だけ垂直に上げたポーズで〆。わずかな脚の揺れを必死に堪えている姿に感動でした。 踊り終わって、我にかえった表情のワン・チーミン。レベランスでは「うまく踊れたかしら!!」と不安そうでしたが、花束を贈られてホッとしたのか、思わずこぼれた安堵の笑みが美しかった。 これだけ激しい踊りをしたのに、ワン・チーミンが全く汗をかかなかったのは凄い。 汗まみれになって汚らしく感じてしまうダンサーもいるけれど、汗が噴出さなかったのは、日頃の制汗コントールの訓練の賜物なのでしょう。
ワン・チーミンは、顔はまだまだあどけない少女のように可愛らしく、ちょっと少年のようなショートカットのヘアスタイルがオードリー・ヘップバーンのようでとてもよく似合い、 カルメンにしては動きがピキっとしすぎているような気がするけれど、そのくせ、もの凄くなまめかしく、カルメンになりきっている感じでとても良かった。 プティがワン・チーミンを「ジジ・ジャンメールの後にカルメンを踊った多くの世界的ダンサーのなかでも屈指の逸材」と絶賛していたそうだし、ジジ自身もとても褒めていたということです。 何より、脚が楽々と挙がる技術は素晴らしい。ソロでのエカルテ・ドゥヴァンでのバランスでも、二人でのアラベスクパンシェのバランスでも、180度まで楽々と開脚できるのは驚異的。 これは素晴らしい技術です。アンドールが完璧に身につけている証拠でしょう。 それに、スタイルが本当に美しい。スラッとして、レオタード風のコステュームがこんなに良く似合う人も珍しい。 腰近くまでの鋭い切れ込みのハイレグカットが、長い脚を一層美しく見せている。これが少しも嫌らしさを感じず、むしろ爽やかにさえ思われるのは、 どんなに際どい妖しげな衣装を着ていようとも、嫌らしく思わせず美しく見せようとするワン・チーミン強い意志に裏付けられて、 ワン・チーミンの体から、クラシックのプリンシパルならではのエレガントな雰囲気が自然と湧き出てくるからなのでしょう。 それに、鋭いトゥの先で立った姿の美しいこと。両足で立っても、片足で立っても、まろやかなカーブを描く甲からスッキリ伸びた美しい肢体には思わずため息が出るほど。 こんな美しい甲を持つバレリーナは、今まで見たことがない。美しい甲はクラシックダンサーとしての彼女の最大の武器でしょう。
夫のリー・チュンとワン・チーミンとは、さすがに息もぴったり。リー・チュンはワン・チーミンを全く危なげなくサポートして彼女を安心させ、ワン・チーミンの美しさを最大限引き出しているようだったし、 随所で、妻の美しい姿をほれぼれて見つめているようなところもあり、微笑ましさを感じました。私生活でもさぞ仲の良い夫婦なのでしょう。 「若さの芸術」と言われるバレエ界にあって、ワン・チーミンは1981年生まれということなので、バレリーナにしては遅咲きです。 つぼみの充電期間が長かっただけに、開花してから一層輝きを増したのでしょう。現在、ワン・チーミンもリー・チュンも30代中頃で、最も油の乗っている頃でしょう。今後の活躍が楽しみです。
    Wang Qimin-Li Jun(National ballet of China) Carmen Pas de deux
    1 st gala of IBCC,Tribute to Roland Petit(2015/1)  

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