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白鳥の湖」〜第三幕・黒鳥のパドドゥ:森下洋子・清水哲太郎   (2004.06.20)

とても大切にしている、古いビデオがあります。1970年録画の森下洋子と清水哲太郎の「黒鳥のパ・ド・ドゥ」です。
当時森下洋子は牧阿佐美バレエ団に籍をおいていましたが、この数年後、松山バレエ団に移り、清水哲太郎と結婚、 そして、1974年にヴァルナ・バレエコンクールでゴールドメダリストとなり一躍世界のスターになりました。
 
このビデオの森下洋子、清水哲太郎とも、20歳前半で、とても若々しい。 これは、森下洋子の若い頃の踊りを見ることが出来る珍しい映像なのです。現在の森下さんに較べると、内面的な表現などには十分とは言えないところがあるかも知れません。でもフェッテにせよバランスにせよ。技術的には非の打ち所がないほど見事で、いつ見ても新鮮な驚きを覚えます。 アダージョでのバランスの良さ、脚のスッキリと伸びたアラベスク、胸のすくようなフィッシュダイブ。コーダでのグランフェッテは険しい表情ながら正確で軽快。「32回のフェッテを10セントコインの上で回るように実現した」と外人の記者が書いていたことが ありますが、難しい技をいとも容易くやりとげるのには驚きです。 森下洋子が、昔は力だけで踊っていたと言っていたのを聞いたことがありますが、 このビデオを見ると、"力だけ"などではなく、表現がずっと深みがあります。また、誘惑、誘惑〜という感じのオディ−ルではなく、 少し内に秘めた感じの表現で、好感を持てます。
森下洋子と清水哲太郎は、以後共演を続けて愛を深めていくのですが、このビデオでも、二人のそんな愛のハーモニーのような微笑ましさが感じられます。 アダージョでアラベスクのポーズの森下洋子とウエストを支えていた清水哲太郎が、「離していいかい?」「大丈夫。離して!!」と声をかけ合っているのが、アップになった映像の二人の口の動きからわかります。 清水哲太郎は慎重にウエストの手を離し、森下洋子は揺れをグッと堪えて独り立ちします。 こんなところまではっきりわかるのは、スタジオ撮影ならではの魅力です。 珍しいのは、アダージョにフィッシュダイブを加えている点。私は他の誰もこのアダージョでのフィッシュダイブしたのを見たことがありません。 女性が足を垂直に上げ、頭をしっかりと持ち上げて、背中を「くの字」に曲げたポーズが美しいとされているフィッシュダイブ。 二人の息が合わないと落下して破綻という惨めな結果にもなりがちですが、森下洋子と清水哲太郎の息はピッタリ。理想的なフィッシュダイブでした。
彼女の母でもあり師でもある松山樹子が、「森下洋子は努力の人です。彼女は天才と言われることが好きではないのです。 ただし、彼女はチャンスを逃さないし、それを成功させるために死にものぐるいで努力することの出来る人なのです。」(バレリーナの羽ばたき)と言っていました。 だからこそ、森下洋子が、年齢を超えて、私たちに夢を与え続けてくれるのだと思います。
  
このビデオテープには、他に、大原永子の「眠りの森の美女のパ・ド・ドゥ」と河口ゆり子のジゼルのペザント・パ・ド・ドゥが入っています。 こちらも若々しい貴重な映像です。
このテープを購入したのはVHSカセットが出始めの頃で、3万円以上もしました。 現在、ソフトのテープは数千円ですから当時いかに高かったことか。でも今から思うと無理して購入して良かったと思います。
全部で30分たらずですが、私の大切な宝ものの一つです。
    1970年
    オディール:森下洋子
    王子:清水哲太郎

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