私は吉田都の「眠りの森の美女」は、二度観ました。
一度目は、東京文化会館(96年2月)で、もう一度は、新国立劇場(97年10月)です。
パートナーはいずれも熊川哲也でした。
この2回の間には約2年の隔たりがあります。吉田都の踊りにも変化があるように思いました。
1回目のときは、バーミンガム・ロイヤルバレエから移籍して直後、多少余裕がないのかなと感じました。
2回目のときは、さすがに堂々としたもの。安心して観ていられました。
とくに、2回目のときのローズアダージョのバリアシオンでのピルエットは、彼女の技術の高さを証明するものでしょう。
このピルエット、通常2から3回転なのに、吉田都は、最後の回に6回も決めて、驚かされました。観客からも、期せずして驚嘆の声と拍手が起こりました。
吉田都は、このピルエットをごく自然に回っていたのでした。「やりますよ!!」と身構える様子を少しも見せず、自然にす〜っと回ってしまいます。厳しいレッスンにより得られた技術でしょう
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彼女の持ち味の、小柄で可愛らしく、しなやかな踊りは、オーロラ姫にふさわしく、オーロラの出のところなど、パッと花が咲いたようです。
ただ、ローズ・アダージョは、少し物足りなさを感じたのは否めません。
お目当てのアチチュード・バランスが短かったのです。
吉田都の所属しているロイヤルバレエではローズアダージョで超人的なバランスを要求します。
私の見た限り日本やロシアのバレエ団の公演では、ポアントで立ったオーロラが現在支えられている男性の手を離して次の男性に移るとき、次の男性は現在の男性のすぐ横に並んで手を差し出して、手を離した女性がいつ掴まっても良いように備えています。
しかし、ロイヤルバレエの舞台では、次の男性は現在の男性から数メートルも後方に居り、女性が手を離した後から、ゆっくりと近づいてくるのです。
女性は否応なしに、長くバランスを維持することになり、バランスの極限を求める過酷な振り付けです。マーゴ・フォンティーンやダーシー・バッセルなどロイヤルのプリマは、これに応えてとても長ーくバランスをとって見せました。
吉田都も、このロイヤルで鍛えられているのですから、さぞかし長いバランスだろうと期待していたのですが、思いの外短かった。日本に来てちょっと気を抜いたのかな、思ったほどです。
バレエは曲芸ではないので、バランスが長ければよいというわけではありませんが、技術的にも極めて難しいからこそ、一瞬、時が止まったような、はっと息をのむバランスを期待してしまうのです。
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かって吉岡美佳が、オーロラの初舞台に挑んだ時、「自分が出来るギリギリのところまでバランスをとってみるようにしました。調子のいいときはそのままずっと立っていられそうなこともありました」(クララ)と苦しい稽古に励み、
本番では、思わず「頑張って!!」と声をかけたくなったほど、懸命に頑張って長〜い長〜いバランスに挑み、観客のため息を誘って劇場を興奮の渦に巻き込みました。
この吉岡美佳の姿に胸を打たれ、ますます彼女のファンになったのです。
技術的には超一流との呼び声の高い世界の吉田都ですから、もう少し頑張って欲しかったと思うのは贅沢なのでしょうか。
それから、熊川哲也は、ソロのジャンプなどさすがに素晴らしいのですが、サポーターとしてはチョットと思ったところがありました。わずかですが、吉田都が、踊りにくそうに見えたところがあったのが気になりました。
ともあれ、吉田都、熊川哲也という、今をときめく二人のスターによる「眠り・・・」を見れたのは、バレエファンとしてとても幸せなことだと思います。
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