吉岡美佳さんのオーロラ姫初挑戦、とても素敵でした。
吉岡さんの踊りは上品すぎるとの評もあるようですが、私はこれが彼女の持ち味だと思います。ステージでの吉岡さんは、ほっそりとして、なんとも愛らしい。
でも、痩せているからと言ってギスギスした硬さはなく、とてもしなやかで、しっとりとして気品に満ちた舞姫です。
そんなイメージは、ローズ・アダージョの16歳の少女にもぴったりです。逆に第3幕のグラン・パ・ド・ドュではあまり可愛らしすぎて、結婚して妻となる大人の色香をもうすこし出せたらと思いました。
さすがに初めての舞台。中央に進み出た時は表情が硬く緊張が見られましたが、ローズアダージョが始まる頃には落ち着いたようで、柔和な笑顔が覗いていました。
ローズアダージョでは、息をのむほど見事なバランスを見せて観客を魅了しました。
オーロラ姫が初めての吉岡さんは、ポアントのバランスを徹底的に研究してこの大役に挑んだそうです。 「クララ(99年2月号)」(新書館)にこの記事が載っています。一部を紹介させて頂きます。
「ローズ・アダージョはどんなバレリーナにも大変です。リハーサルの時は自分が出来るギリギリのところまでバランスをとってみるようにしました。調子のいいときはそのままずっと立っていられそうなこともありました」。
「調子よく踊れそうだと思っていても、いざ本番となるとうまくいかないことがあります。舞台ではどんなにキャリアのある人でも緊張するものです。オーロラ姫のようにポアントの多い踊りではなおさらで、知らず知らずのうちに上半身に力が入って足元がぐらつきやすくなってしまいます」。「そんなときにバレエの基礎を見につけているかが問われます。基礎を疎かにしていない人は土台がしっかりしているので、本番の舞台に強いのです」。
吉岡さんは、公演直前までプリエやタンデュといった基本的なパを繰り返して練習した上で、本番に臨んだそうです。
4人の王子との息もぴったりでした。王子の手を静かに離して頭上にあげ、しっかりとバランスをとります。やわらかな表情に気品があふれ、上げた腕はまろやかな円を描き、バランスの長さはありあまるほどで、時間が止まったかのようでした。まるで細いトウの先に根が生えているようで、いつまでも倒れずに立っていられそうでした。
終盤の回転(アチチュード・アン・プロムナード)に続くバランスも見事でした。ベテランのバレリーナでさえ緊張するこの場面を、最後までやわらかな笑みを絶やさずに踊り抜き、ラストのアラベスクでは、「やったね!」とばかりに、にっこり。観客は興奮し、劇場は大きな拍手に包まれました。
1991年1月刊の「バレエ年鑑1999」に「ローズアダージョの吉岡美佳がすごかった。あんなに踊れるダンサーだったのかなという感じがしました(谷孝子)」、「吉岡美佳のポアントのバランスは素晴らしかったですね(三浦雅士)」との評が載っていました。
辛口の批評家達も、バランスの凄さに舌を巻いたのでしょう。「リハーサルの時は自分が出来るギリギリのところまでバランスをとってみた」という、血のにじむような吉岡さんの努力の成果です。吉岡美佳さん、バランスに限れば非の打ち所がなく完璧でした。
でも、あえて苦言を呈するならば、ちょっと気になるところがありました。吉岡美佳さんはピルエットで回転の力が足りないのです。
ローズアダージョで男性にウエストを支えられて回るとき、自力だけで回りきれず止まりそうになってしまったのです。サポートの男性が、手で彼女の腰を無理やり回してあげているようでした。
ローズアダージョ以外に、マラーホフと踊ったグラン・パ・ド・ドゥでも同様でした。 これは見苦しい。
バランスがとても素晴らしかっただけに、ちょっと残念に思いました。もう少し体力をつけて相手に頼らず自分で回り切れるようになって欲しいと思います。彼女の今後の課題でしょう。
ともあれ、これほど興奮したのは珍しいことです。厳しいレッスンに耐えて、最高の踊りを見せてくれた吉岡美佳さんに心から拍手を贈りたいと思います。
1998年11月:東京バレエ団公演
オーロラ姫:吉岡美佳
デジレ王子:マラーホフ
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