前回オーロラ初挑戦の日、緊張にも拘わらず立派にオーロラ姫を踊り抜いた吉岡美佳さん。
今回は、二年ぶりのオーロラ姫再挑戦。彼女は二年前に比べ、一回りも二回りも大きく成長したように思えました。
ステージでの吉岡さんは、とてもほっそりとしていて、いかにもクラシックバレエのお姫様といった感じの美しいバレリーナです。清楚で優しく知性ある雰囲気は、オーロラ姫にはうってつけ。
彼女の踊りは上品すぎるとの評もあるようですが、これこそ彼女の持ち味だと思います。テクニックを誇示するようなことをせず、むしろひかえめ。節度をわきまえていて、あらゆる仕草が気品に満ちています。ガラスのように繊細な美しさです。
痩せていてもギスギスした硬さはなく、とてもしなやかで、しっとりとした中に愛らしさが漂います。
第一幕オーロラの出の場面。軽やかな足取りで吉岡さんが登場。観客の熱い視線を一斉に浴びます。
その瞬間、なんて素敵なオーロラなのだろうと思いました。笑顔が輝いて、本当に可愛らしい。
ひときり踊って、ローズアダージョ。この日、吉岡さんが最も輝いたのが、このローズ・アダージョ。
最大の見せ場アチチュード、バランス勝負のシーンです。ここは、4人の王子との対面&ご挨拶なのですが、キャリアを積んだバレリーナですら一瞬も気を抜けない難しいバランス、観ている方もハラハラするところです。でも彼女、時折険しい表情を見せながらも落ち着いて、余裕たっぷりのバランスでした。
右足のポアントで立ち、王子の差し出した右手をしっかりと握り、ゆっくりとした音楽にのって、慎重に手を離してバランス。一瞬時間が止まったかのよう。はっと息を呑みました。
必死にバレンスをとりながらも、アンオーに上げた腕はまろやかな円を描き、気品あふれるやわらかな微笑みを崩しません。
王子の目を見て、にっこり微笑んで、ゆっくりと手を降ろして王子の手を握ります。この仕草も本当に優雅。4人の王子への恥じらいが徐々に緩和されていく表情や動きがなんともチャーミングで素敵でした。
ピンクのチュチュがこんなに似合う人は他にいないのでは?、と思いながら、惚れ惚れしながら眺めていました。
最後のバランス、僅かにグラグラ揺れながらも必至に堪えて、音が足りなくなるくらい、ずーーーっと止まっていました。観客は興奮して総立ちになり、ブラボーの嵐でした。
バレエは「一瞬の芸術」です。この場面ほどこれを感じるところはないでしょう。バランスは長ければ良いというわけではありませんが、わくわくして手に汗握ってしまったのも事実です。
「リハーサルの時は自分が出来るギリギリのところまでバランスをとってみるようにしました。調子のいいときはそのままずっと立っていられそうなこともありました」(クララ(新書館))と言っておられたように、この一瞬の輝きを求めて、吉岡さんは、どんなにか苦しいレッスンを続けてきたに違いありません。
「ローズ・・・」を踊り終えて、吉岡さんの晴れ晴れとした美しい表情。「バランス、うまくいってよかった。」と呟いているようでした。観客はどよめき総立ち、私も思わず「スゴイ!!。やったね!!」と叫びたくなりました。
「うまいダンサーは舞台で実際より大きく見える」と言われますが、「長身のダンサーが役によって自分を可愛らしく見せる」うまさもあるように思います。
吉岡さんは167センチと日本人女性としてはかなり背の高い方ですが、16歳のオーロラ姫を演じる彼女は、心許なくて「守ってあげたい」という衝動にかられるような、小柄なとても可愛らしい少女に見えました。
吉岡さん、自分の個性を良く知っていて、プロポーションを上手にコントロールできるダンサーだと思いました。これも技術のうちでだと思います。
この場面、もう一つ素晴らしい発見がありました。吉岡さんとサポートの4人の王子の呼吸がぴったりなのです。
東京バレエ団が「眠り・・」を上演するとき、主役2人にゲストを招くことが多く、オーロラと4人の王子の呼吸が合っていないと感じられることが多いのですが、吉岡さんと4人の王子は気心の知れた団員同士。呼吸はぴったり、王子達は吉岡さんを優しく支え、吉岡さんも安心しきってサポートを受けているようでした。とくに最後のアチチュード・アン・プロムナード。ポアントで立ったオーロラの回りを王子が回る難しい場面、女性の緊張が頂点に達するところです。4人とも、一瞬たりとも吉岡さんに不安を与えまいと慎重にサポートしていました。こんな暖かいサポートがあったからこそ、吉岡さん、緊張の中でも、美しい微笑みを絶やせずにいられたのでしょう。
一度舞台の袖に引っ込んだ吉岡さん、観客の拍手がなりやまず、再び呼び出されました。リハーサルでは「自分が出来るギリギリのところまでバランスをとってみた。」という彼女、努力が報われて、さすがにホッとした表情。思わず、こみ上げてくるものがあったのでしょう、眼の中にはキラッと光るものがありました。
この場面でこれほど観客が興奮したのは初めてです。それほど吉岡さんの踊りに感動させられたのです。
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第3幕グラン・パドドゥでは、前回と同じマラーホフが相手。
前回、マラーホフをして“互いを舞台で高めあうことのできる理想的なパートナー”と感嘆させたという彼女。今回も息はぴったりでした。
マラーホフはダンサーとしても素晴らしいのですが、サポートもとても上手なようです。背の高い吉岡さんをしっかりと支えていて、吉岡さんも、彼を信頼しきって、のびのびと踊っているようでした。
力強いサポート、パートナーの女性を輝かせる力、これこそダンスールノーブルなのでしょう。
マラーホフは心配のあまり、神経過敏になっていた吉岡さんに「美佳、そんなに緊張しないでいいよ。何が起っても僕が君を助けてあげるから・・・」と吉岡さんをリラックスさせたそうな。吉岡さん、こんな彼に力づけられたからこそ、彼女の最高の踊りができたのでしょう。
右足のポアントで立ち、男性に前から腰を支えられたアラベスク・パンシェのポーズでは、左足を180度近く迄上げて静止し、とても美しく決めました。本当に体が柔らかい。
以前、シルビー・ギエムがこのポーズをやったとき、あまり足を上げすぎて下品に見えてしまったようで、『エレガンスの欠けらもない』と酷評されたそうですが、吉岡さんは上品でとても優雅。自然に溢れる出る気品なのでしょう。
マラーホフのサポートに完全に身を委ねる吉岡さん。マラーホフの吉岡さんに対する理解、そしてそれに全身で応えようとする吉岡さんの初々しさ、彼女の慎ましやかな性格が自然に表れたよう。吉岡・マラーホフの心が一つになって、微笑ましさ溢れた見事なハーモニーを奏でました。
また、前回、吉岡さんはピルエットの回転に力が足りず、男性に腰を回してもらっていたところがありましたが、今回は自力でしっかりと回っていました。彼女の努力の賜だと思います。
| 公演のプログラムより |
私の掲示板に、以下のような書き込みがありました。紹介します。
●呉公演 投稿者:まめ - 2000/12/06(Wed) 19:41:10
12/3は呉で公演があったそうですが、知人が美佳ちゃんの「おっかけ」(笑)をしてきたそうです。
その人によると、松山での公演は本当のところ知っている人が多いので美佳ちゃんは公演前、
公演中ずっとピリピリしていたのだそうです。「胃が痛い(美佳ちゃん:談)」
それとは対照的に呉では正真正銘のびのびと踊っていたそうで、ローズアダージオでのアチチュードの
バランスも音が足りなくなるくらいずーーーっと止まっていたのだそうです。
観客は興奮して総立ちになったそうです。
●見ました! 投稿者:ずず 投稿日:2000/12/03(Sun) 10:27:29
行ってまいりました・・・「東バ」の眠り。あーー至福のときでした。
>まめさま 同じ舞台をみたのですね!!
私は、マラーホフ目当てだったのです。初めての生でのマラーホフを楽しみに行ってきました。
でも、今までのお気に入りのダンサーは、バリシニコフ、エッリック・ヴ・アン、熊川哲也という
テクニシャンで、個性の強いダンサーでしたので、マラーホフは今まで後回しにしてましたぁ。
しかし、もう出てきた瞬間の心奪われてしまいました。
立ってるだけで美しく、何気ない仕草もこれまた美しく、特に手の動きがたまらなく美しかったです。
こんなに美しいダンサーがいていいのだろうか・・・と言うくらいの感動、感涙でした。
踊りは、抑えた感じではありましたが、それがまた王子としての品格を増していたようでした。
クラシックバレエって、本来これなんだな・・・マラーホフはクラシックバレエそのものでした!!
吉岡さんも、丁寧に踊りこなされてました。優雅なスタイルはお姫様にピッタリですよね。
ただ、少しやせすぎておられるようで・・・角度によっては、痛い痛いしいきさえしました。
脚はとても綺麗だし、優雅さをスタイルから醸し出せる、数少ない日本人ダンサーなだけに、
惜しい気がしました。あー生意気な発言ですね。ゴメンナサイ。
ローズアダ-ジオのバランスも、一番目の王子様から2番目の王子を迎える時までのバランスが、
もっともすばらしく、美しいポーズで長くバランスを保ち、息を呑みました。
よく松山にきてくれたなって本当に感激です。
頭の中は、あれからマラーホフでぐるぐるです。ひさびさにいいもの見ました。嬉しかったな。
●はじめまして 投稿者:まめ - 2000/12/02(Sat) 09:45:59
わたしは松山に住む人間です。ゆうべ、東京バレエ団の「眠りの森の美女」を観てきたばかりです。
マラーホフと美佳ちゃんって、体型とかよく似合っているなぁと思いました。
ローズアダージオでのバランスも見事でしたよ。
それから、かわいいお姫さまぶりでした。のびのびと踊っていたと思います。
ゆうべは美佳ちゃんばかりでなく、皆さん全力投球で舞台をつくってくださったように感じられました。
終わってからも拍手は鳴り止まず、カーテンコールは何度も何度もつづきました。
美佳ちゃんは涙ぐんでいたようでした。客席もバレエ団の方たちもあたたかかったです。
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