・写真集  PARIJS FOTOS1950ー1954

ED VAN DER ELSKEN エド バン デル エルスケン
BERT BAKKER 1981年?
S58-3 イエナ書店にて購入
パリ・セーヌ左岸の恋




初めて、エルスケンの写真を見たのは、学生時代に写真集「スイ−ト・ライフ」を見せてもらった時だった。
そのドラマチックな映像とプリントに強い衝撃を受けた。 
黒焼きともいえる腰のあるプリントに演劇性さえ感じさせる写真であった。
一枚一枚めくるたびに飛び込んでくる映像・・・。
食い入るように見たのを憶えている。私が、写真を初めてから見た写真集の中でも、最も印象に残った物の中に入っていると思う。
その後、エルスケンには巴里や日本も撮った写真があるのをしって、洋書屋で見つけた本がこれだった。

表紙をめくると、エルスケンのパスポ−トと6×6のチェックの入ったベタが目に飛び込んでくる。
そして、もう一枚ベタがあって、その次のタイトル・ペ−ジに若き日のエルスケンが、2眼レフのロ−ライを構えた姿がある。
カメラを構えた強靱な目が、この写真群を生み出した背景を、若き日のエルスケンの生き様を雄弁に語っている。

誰もが通過してゆく若き生の輝き・・。それが、これほど目に見える映像で強烈に写し取られた写真は、そうは無いと思う。
写真にしか成し得なかった映像がここにあると思う。
エルスケンの写真については、これ以上語る必要もないと考える。

10年前くらいに、東京のプランタン銀座他で、エルスケンの「サン・ジェルマン・デ・プレの恋」写真展が開催されたが、盛況だったようだ。
いつの時代も誰にも理解でき、感動を与える、そういった質の写真だと思う。




後になって、エルスケンを囲む機会があっった。
2眼レフを構えた目つきの鋭い写真家を想像していたら、目の前に現れたのは、何ともにこやかな、気さくな、ひょうひょうとした、
フットワ−クの軽いフ−テン外国人といった感じのおじちゃんだった。
だれにも、どこにもふ−ととけ込んでゆく、春風のようなひとだった。
こうした魅力が、ああした写真を撮らせるのかと、改めて得心がいったことを憶えている。
そうした個性なくして、どうしてあのような心にしみ込んでくる人間の生に近づくことができようか。
家族も一緒にきていたが、何度目かの結婚で若い奥さんと子供だった。

また、写真展のためのプリントを見せてもらう機会があったが、エルスケンのあの印象的なプリントは、
精緻に焼くとゆうより、感覚的にプリントを追い込んで作ってゆくタイプの写真家で、一見ラフな感じもしないではなかった。
また、それがエルスケンの写真と、とてもマッチしているとも思った。

後年、NHKのテレビ番組でエルスケンが特集されていたが、オランダで家族と暮らす姿が映っていた。
その中で、エルスケンは自分が癌で余命が長くないことを語っていた。
何度も来日しているが、もう日本に行くことも無いだろうと涙ぐみながら話していた。
心が痛んだ。

エルスケンが亡くなったのは、それから間もなくであった。

       


その他 エルスケン の本

・写真集 エルスケン・巴里時代 、リブロポート、85-9-22発行、4500円 
                                            

・写真集 SWEET LIFE                      

・その他

 

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