アナログレコード再生/MCヘッドアンプ説明の前に

はじめに
いまさら、レコード盤でもないと、思われる方も少なくはないだろうが、レコード盤には、思い入れや青春が詰まっている。昨今のアナログレコードブーム、レコードプレーヤーは中古としても、消耗品のカートリッジは、現行品として、MM型もあるが、より繊細なMC型は、昔から現在まで息の長い製品がある。、それには、MC対応のイコライザーアンプまたは、MMのイコライザーを用いる手段としてMCトランスを使うのが一般的である。MCヘッドアンプとなると超微弱なカートリッジの発電電力を扱う関係で、安価には製作出来ない難点がある。それを工夫により解決したのが本機である。良い音で安価に聴いてもらいたいレコード芸術を理解いただきたい。

レコードについて
ついでなので述べておきたい。CDよりレコードの方が周波数特性が良い(50KHz)と刷り込まれている方が多すぎる。レコードの時代に録音される周波数特性は、そんなに伸びてはいない。盤そのものに記録(カッティングされる)、ベースバンドは15KHz程度であっただろう。古いテストレコードでも16KHzが一番高い周波数だった記憶がある。CD-4(4チャンネルレコード)昭和40年代後半〜では、FM変調信号をこのベースバンドの上にキャリア周波数30KHzを録音出来ていたので(有効占有帯域は20kHzから45KHz程度)そう思われても仕方がないであろう。この時代がレコード盤も針もアームも、一番進歩したと思う。言いかえればこれ以前のレコードは、そんなに特性が良かったわけではないのが、お分かりいただけると思う。悪名高き4チャンネルではあったが、ここで大きな技術革新があったことが証明されている。レコードを再生して、倍音が素晴らしいとか言われる方を時々見かけるが、それは倍音ではなくひずみである。
●追記:その後市販のテストレコードで使えそうなものをを棚から探してみたので一覧に挙げておく。(上記取り消し線の確認。記憶にある海外製のレコードは見つからなかった)
1、DAM(第一家庭電器)東芝EMI DOR-0001 スイープ信号20Hz〜15KHz(ワーブルトーン)
2、東芝EMI LF9002 再生装置出力レベルチェック 1KHz 5cm/sec正弦波信号 カートリッジの出力測定 無音溝と合わせてプレーヤーS/N測定可能
非売品テストレコード SONY YFSC36 
20Hz〜20KHzスイープ信号他、これは業務用テストレコードでA面B面とも同じ内容
いずれにしても1枚のテストレコードで要は足りない。

周波数特性のもうひとつの根拠
マイクの周波数特性は、 レコードの時代に使われたマイク(現代も同じ)に20KHz以上を収録出来るマイクがあったであろうかを考えれば分かる。それを言ってしまうとハイレゾ音源での復刻、20KHz以上のスーパーツィター追加など、失われた音どころではないまぼろしの音と言える。
レコーディング機器の周波数特性 入出力の特性制限または、入出力のトランスなど録音機器の周波数特性 テープレコーダーの特性など電気的に考えれば無理がある。

その他
ちなみに有名な国産放送局用レコードプレーヤー卓の周波数特性(イコライザーアンプ込)は50Hz〜18KHzである。初期のオーディオ用OPAMP 071を多数使用
ハイパスフィルター50Hzとハイカットのトーンコンは1KHzを起点に8KHzで10dB以上であるから相当のハイカットも可能なのである。ちなみにボリューム目盛10でフラットである。ラジオなどのトーンコントロールつまみを思い出していただきたい。放送用であるからランブルやスクラッチは聴こえない方が良いのだろう。であるから、一般のオーディオ愛好家宅の再生環境はそれ以上であったのが普通だった。局用業務用にひれ伏す必要は全くない。

まとめ
このように書いてくると如何にもレコードを否定しているように思われるかもしれないが、これは全て間違った情報の流布に苛立ちを持っているからである。レコード全盛の時代のミキシングエンジニアーに敬意を表したい。聴感上心地よく仕上がっているレコードは実に多い。いつの時代も職人芸、職人技を忘れてはいけない。CDの音を悪く印象づけた、ヘッドルームまで使った音圧稼ぎの罪は大きい。オーディオは特性に表れない音質があるのは、紛れもない事実であるゆえ、電気的特性で証明されるものまで、それを理解出来ない人の官能的理屈に否定されている。


MCヘッドアンプの製作について

より低価格にMCカートリッジを使用するために製作、その結果として大きな音質改善が得られた。誰が聴いてもはっきりした効果の得られないものは改善ではない。
なぜヘッドアンプなのかを説明する。従来のMM型フォノイコライザーは35dBから40dB程度の利得だ。これはMMカートリッジが3mV前後の発電能力があるからだ。一方MCカートリッジはその1/10の300μV前後と微弱である。それをハイゲインのフォノイコライザーで一気に増幅するのがMC対応フォノイコライザーであるが私の経験では音質面では一度(補償増幅)ではなく、フラットにMMカートリッジレベルまで持ち上げるのが好ましい。これがヘッドアンプ方式である。低域から高域まで一度均一に増幅してそれからイコライザーを行うものである。0.2mVを2mV程度に増幅してからなのでノイズの点で有利だと考える。中には、MMにMC用のアダプタみたいに考える向きもあろうが大手ハイエンドメーカーもハイゲイン方式からヘッドアンプ方式に変更している実例もある。

現代の恩恵

左は超低雑音OPAMPの等価回路例である。MCヘッドアンプを製作するためには、1980年代までは左と同等の回路をトランジスタを使い組まなくては無かった。実際ディスクリートで組んでも似通った回路になる。左は等価回路のためカレントミラー回路等は省略してあるが、驚くほど同じ回路になる。その時代は、まだ音響用途のトランジスタも各社が製造していた。それでも、特性選別、熱結合しても現代のOPAMPの性能を出すことは難しい。
そこで更にさかのぼる昔話である。レコード全盛期昭和の時代ヘッドアンプと言えばサーというノイズで敬遠されたものであった。1970年代中ごろだったと思うがマークレビンソンが電池式のヘッドアンプを出して低雑音で音質が良く話題となった。しかし、その頃の回路は、のちに分かったのだがトランジスタを並列にして低雑音化を図ったものであった。少年向けラジオ雑誌等でもFET1個から2個並列の電池式ヘッドアンプが製作記事で良く載っていた。その後の国産ヘッドアンプ内蔵型プリアンプを見るとそのような回路構成をよく見かける。この時代左のような回路構成にしたら高価格で商売にならなかったのである。MMのフォノイコライザーでさえトランジスタ2段、高級品で3段構成であった時代だ。はるかにトランスを用いた方が安くできた。これでご理解できたと思うが高性能な集積回路の恩恵によって現代は安価に高性能なものができるようになった。デスクリートということを安易に高性能とすり替えること自体時代錯誤である。最も専門メーカーが多額の研究開発費をかけて複雑なディスクリート回路でより高性能化を図っている(電気的特性の保証された)ものは別次元であるのでそれは言うまでもないことである。このようなものをディスクリート回路と呼び、少年向け雑誌の回路のようなものはデスクリートとは呼ばない。その時代の製作記事でも1石MCヘッドアンプと銘打っていた。
写真左以下@は標準品、写真中央以下Aはさらに高級部品採用版、写真右以下Bはフルタンタルを試みた。私は国産部品が好きなので国産にこだわるが以前基板のみ提供した人でWIMAに取り換えた人もいる。
@は標準品で低雑音オーディオ用抵抗、ディップタンタル、ポリプロピレンコンデンサーなど国産の良質なものを採用。カップリングにパナソニックの積層フィルムと秋田指月のフィルムコンコンを使った。
Aは、従来、裏メニュー的存在で、直販でのみ製作していたもの、秋田指月のフィルムコンとハーメチックタンタルコンを使っている。音の差はわからないが、高電圧動作のOPアンプに差し替え可能なのが目的であった。
Bは、民生用機器にまず採用されることのないハーメチックタンタルコンを採用。カップリングコンも無極性タンタルである。ここまで来ると高価格の極めつけと言っても良い。
いずれにしても超低雑音OPAMPのおかげでこのようなものが出来るようになった。
当初はデジタルの時代のマイクアンプ用途の超低雑音OPAMP を転用した。現在は、動作電圧範囲の広い高性能OPAMPに替えている。OPAMPの変更では大きく音質向上した。カップリングのコンデンサー交換では、ニュアンス的違いだ。

尚写真には、OPAMPを挿入していない。
他にも2V程度から使用できるオーディオ用を使える。電池駆動なので低電圧動作可能なものに限定される。電源電圧を高くすれば選択肢は増えるがMCヘッドアンプなので、低雑音が要求される。尚電圧を上げる必要はない。最大出力は数ミリVしかない。
これらは2015年9月末までのもの
基板を製作するときは、まとめて作る。こうしないと安く製作することは不可能。2015年9月末までのもの
   2015年12月製作のもの
   2015年12月からのもの電源電圧を高くしたことによりMUSES8820の使用が可能になる。抵抗はローノイズオーディオ用、OPAMPの内部構造は立派な差動増幅回路。昭和の時代のトランジスタ2段とか3段の回路ではいくら頑張ってもこの性能は出ない。ディスクリートでこの集積回路(IC)の性能以上のものを、もしオーディオメーカーが組もうとしても今となっては、オーディオ用小信号トランジスタ(特にデュアル型)は生産されていないので不可能な時代。そして小さく外部からの雑音をいかにして少なくなるように実装するかも判っていただきたい。
通常品
   上枠のハーメチックタンタルバージョン
とにかく希少なもので、手持ちが無くなったら次は入手不可能だろう。タンタルコンは昭和の時代高級なオーディオには使われていたもの
但しこんなハーメチックタンタルは、通信用途だから使われない。
   電池BOXはタカチの露出型を使用したもの
たかが電池BOXと思う方も少なくないと思うが、海外製の安価なものは数年でひび割れを起こすナイロン系のものが多い。さらに蓋が無いので電池が抜け出ることもある。こちらは、内部に余裕があるので1回路入りOPAMPを2個使って下駄をはかせたものも挿入可能
こちらは電池BOXにタカチの埋め込み型を使用したもの。低背タイプなので内部は全く高さの余裕がありません。
通常品内部配線状況
内部の配線も、基板同様に無鉛銀入りハンダを使用している。
ハーメチックタンタル版内部配線状況
内部の配線も、基板同様に無鉛銀入りハンダを使用している。
ヘッドアンプ動作試験用の冶具
ケースに組み込む前に動作試験を行う。
このヘッダーピンが、非常に高価である。
基板を載せるとテストプローブが基板の裏に接触して動作試験が出来る。奥に見えるのがレベル変換器(測定風景ではありません。測定する場合は相当量の接続が必要です)
実際測定する場合は、この測定器群をつなぎ合わせます。低周波発振器、MCカートリッジレベル変換器、レベルメーター、低レベルひずみ率計(-60dB)ノイズメーター(-100dB)、フィルター、上記のヘッドアンプ試験治具
このような裏付けがあって、安心して使用できるものが出来上がります。