電源回路の評価

はじめに
オーディオ回路で、音質に一番影響するのは回路構成であって音の良い回路は存在します。電源回路も音質には影響を与えますが、あまり費用が掛かりすぎては敬遠されがちです。そして電源回路は直接音を出すのとは違うので人の耳ではなく、計測器で測定できるので、性能差がはっきりします。そこで今回はおおむね2ケ月を費やし、オーディオ専用電源を目標に新規設計し現在入手可能な市販部品を用いて超低雑音電源が完成しました。
僅かな電線や、部品の違いで音が良くなる人たちは、このノイズ量の違いの差はきっと耳で判別出来るはずでしょう。出来るはずだと信じましょう。

オーディオ用途では、電源回路では低雑音であることがとても重要です。現在のオーディオソースは、デジタル化により極めて低雑音で少しの雑音でも気になるようになりました。
アナログレコードの時代は、ノイズがあって当たり前、テープのヒスノイズも気にしないことにしていました。CDの時代に入り可聴周波数域の雑音は、大幅に低減されました。ところがハイレゾの時代に入り-130dBを謳われるようになると
もはや、電源回路のノイズも無視できません。測定器メーカーの低雑音電源装置でも10Hz~1MHzの帯域でノイズはカタログ値で0.5mV(500μV)程度あります。広くオーディオ機器内部に使われている3端子レギュレーターと呼ばれる電源IC回路も優れたコストパフォーマンスですが、十分とは言い切れなくなってきました。実際のところ私も電源回路には3端子レギュレーター回路で十分と判断してきました。20年以上前にチャンネルデバイダーを製作したときは、電源回路も奢っていましたがその後、費用ほどの音質的な差は感じられないので長らく3端子レギュレーターにしてきました。ところが最近低レベル信号を扱うMCヘッドアンプでは信号源の0.2mV前後ということから電源回路を電池にして逃げることで大きな効果が確認できました。そこで改めて超低雑音の正負15V電源回路を新設計しました。

回路構成(設計目標)
電源電圧+15V150mA以上 -15V150mA以上 実際は大電流が取れる回路で設計して、過電流保護で制限する。
正負は同じ電圧と回路構成とする。
電圧は正確に合わせる。(正負の差がないこと)
妥協を許さない低雑音にする。
現在入手可能な部品で設計する
ローノイズ電源の要であるローノイズツェナーダイオードは入手困難部品の一つ、ローノイズトランジスタも市場在庫は僅少なことから限られたものから採用
入手可能な半導体、ICを活用する。
低雑音となるようなパターン設計をする。
その他、発熱を少なくなるように検討する。

これが完成した電源基板
この回路に至るまでは、回路の不適切、配列等、超低雑音化では今までにない困難にぶつかった
何より騙されたのが、測定環境に起因するものだった。
回路規模としては、使用半導体、IC4個、トランジスタ6個、ダイオード6個、ブリッジダイオード2個
電源回路としては、かなりの規模となる。
3端子レギュレーター回路+リップルフィルター、基準電源の組み合わせである。
低雑音化には、基板のパターンも重要で、経験がないと起せない。

評価するためには検査治具の製作から

不要となった筐体を利用して治具を作成、負荷をスイッチで無負荷、200mA、100mAと切替できる
オシロで波形も見れるようにした。また電圧を見るチェック端子も付けた。
ところが予想外にノイズが小さくオシロでは、残存ノイズで見ることが出来ない。
ノイズメーターで、レンジ10μV、フィルターフラットで+15V負荷200mAで測定
指示値は1.5μV
ノイズメーターで、レンジ10μV、フィルター(JIS-A)+15V負荷200mAで測定
指示値は0.5μV
ノイズメーターで、レンジ10μV、フィルターフラットで-15V負荷200mAで測定
指示値は1.7μV
ノイズメーターで、レンジ10μV、フィルター(JIS-A)で-15V負荷200mAで測定
指示値は0.5μV
この写真は、測定中にパソコンの電源を入れた状態
ノイズが4μVまで上がっていつことが分かる。測定環境に影響されるレベルだということです。
ちなみに、ノイズを考慮した測定台の上での測定です。
とあるメーカーの電源装置の実測例
ノイズメーターでレンジ10μV、フィルター(JIS-A)で+15V負荷200mAで測定
指示値は≒5μV
この電源装置の性能が決して悪い訳ではありません。

音質評価
肝心の音質ですが、これははっきりした差が出ます。輪郭のしっかりした音なのが分かります。困ることはわずかなノイズも聞き取れてしまいます。この基板は今後、当方標準の音質考慮型電源とします。しかし普通の電源回路で満足している人にすれば、これだけ複雑な回路で費用が掛かるなら不要論も出るでしょう。市販オーディオメーカーだったらこんな不経済な設計にはNGを出すでしょう。