オーディオ測定について考える

皆さんは自作オーディオで測定についてどうお考えでしょうか?ここでは実測を交えながら面白くお話ししたいと思います。決して科学するわけでもなく行間を読むような意味合いで測定で確認です。
自作派やショップの間では、耳で判断するという人に多く出くわします。測定していては、よい音のする作品はできないとまで言われます。あえて測定器を排除する方もいます。メーカーは測定器で製品を作っているので、良い音の製品は出来ないとまで言われます。音の良いものは部品と配線材ありきの方に多い傾向です。プリント配線板に部品を挿入して基板にするという概念がない方、音質上、配線でつなぐのが一番と考えてのことだと思いますが、半田品質については、全く考慮されていません。半田の材質、温度管理がいかに重要か考えてください。数十年前の線材に半田して十分な濡れ性は得られません。プリント配線板ですら長期在庫品は半田濡れ性の問題からまともなメーカーは使いません。はんだごてとコテサキ、温度の管理のされていない場合品質は不安定なものになります。
耳で判断することは決して悪いことではありません。最終的にそれが間違っていないか検証するのが測定です。音が良ければ測定結果も良いのです。音が良くて測定結果が悪いことはあり得ません。

プリアンプ、パワーアンプについて
パワーアンプは、特におかしな設計または製作記事等のものなら、測定なしでも一応完成出来るでしょう、しかし低域、高域の周波数特性が十分伸びていなかったり可聴周波数を超えたところで異常な発振をしている場合もあります。プリアンプはひどい例では発振によりメーカー品のデジタル機器の異常動作を引き起こした例もあります。ひずみが多いのを倍音が素晴らしいとまで言い切る人もいます。なぜかバッハのトッカータとフーガを再生して低域端が崩壊するのを倍音と思う方がいるのにはさすがに閉口します。低域まで十分伸びたプリアンプを使うと小出力パワーアンプの出力崩壊からプリが悪いと濡れ衣をかぶせる方もいます。ハム音や残留ノイズも耳についてもこれを無視する方もいます。測定すると数値ではっきり出るので、言葉でねじ伏せることができなくなるのでそこから測定排除が生まれたといっても良いでしょう。

イコライザーアンプについて
フォノイコライザーを自作あるいはいわゆるガレージメーカーでの製品でRIAAのカーブに合致しているか最終的に測定していない方も少なくありません。イコライザーの測定は本当に面倒です。基準に対して合っていなければ、作者の好みの音に仕上げているとしか言えません。そこでいい加減なカーブでジャズ向きだのクラシック向きだの言い訳になります。RIAAの基準に合わせて中庸な音でもそれが重要です。何を言いたいのかと言いますのは、音の評判の良い経年劣化のコンデンサーを容量測定なしで5%級10%級を使うのは危険だということです。基準に合致していると言えるのはRIAA偏差0.5%程度までです。それには2%級のコンデンサーが必要になります。これはコンデンサー5%級からの選別測定でも可能な値です。(測定例参照)

チャンネルデバイダーについて
もうこれは言うまでもなく測定なしでは語れません。高精度のコンデンサーの入手困難となった今、ビンテージコンデンサーを使うなど大変危険な行為です。特にCRフィルター多段型での累積誤差は耳で聞いてはわかりません。スロープもわかりません。これでマルチは難しいはありません。3ウェイでたった3つのつまみの調整に何日もかかるようでは、簡素な方式のチャンデバの意味がありません。多機能なデジタルチャンデバは、そういう人は一生使いこなせません。そこでお前のチャンデバはどうしているんだいと言われるかも知れませんが、数百個のコンデンサーから選別しています。もっともFNDR回路で重要なのは、相対誤差でクロス周波数のずれは我慢できる範囲です。うねる特性のフィルターではありません。一次(-6dB)フィルターを重ねた場合中心周波数がずれたもので2次3次と重ねた場合恐ろしくて測定は出来ないでしょう。特に球アンプで高耐圧コンデンサーを使用の場合高精度コンデンサーはほとんど入手困難でさらに高価です。そういう方に限って耳で判断しているのに、位相がどうのとうるさく言います。

言いたいことは、測定という大切な行為を否定しないでください。
フォノイコはMM型でも1KHzで3mVの起電圧です、これが20Hzになると約-20dBですから約0.3mVの起電圧です。0dBを0.775Vとして-70dBですから普通のミリボルの測定限界です。これを耳だけで判断できますか?ノイズに埋もれるレベルです。
測定不要論を広める方がいるから、測定器アレルギーな音楽ファンまで出てしまいます。決して測定は貶すためにやっているのではありません。


測定器例(集めれば良いわけではないが大変な量だ!)

オーディオとは言え、測定器(計測器)も大変な量が必要になる。簡易にPCで測定するのも良いのだろうが、それだけでは物足りない部分もある。よく三種の神器と称して低周波発振器、オシロ、レベルメーターが挙げられるが、それは最低限必要なものである。結局は低周波発振器の例では、チューナーの調整でFMAMスタンダード発振器が必要になり、正確な周波数を見たいとなると周波数カウンターと、どんどん増えて来る。


最近はネット上でも立派な測定データを見かけるが、簡易にパソコンに信号を入力するだけのもののデータは極めて良すぎる。アジレントなどのメーカー製アナライザは、測定器とPCを一緒にしたものであって汎用PCを測定器にするのとは全く違う。
携帯用測定器も重宝する。

治具と接続小物

測定する場合実際は、大量の接続配線材と治具が必要になる。実際の測定器は量産工場ではGPIBなどで一挙動に制御されて測定する場合が多い。その場合と同じで、手動切り替えでも治具や信号変換する小物や変換コネクタが必要となる。当方の場合、基板での動作試験が必要なのでその専用治具も製作する。測定環境もノイズが多いと正しい測定ができない。測定器を持っていても測定しない人の多くは接続が面倒だからである。
接続ケーブルは用途に応じて区分しておく必要がある。あとで片付けるのは大変なので中身は出さない。ここには相当数のケーブルが収納されているからだ。

耐圧試験例

友人の真空管式フォノEQを耐圧試験してみた。
1kV70秒間10mAの漏えい電流が無ければ合格。これは(PSE)の規格値でその方法で測定。コンセントをショートした状態で1kVをコンセント側に、シャーシ(筐体)はグランドとして印可する。
気心の知れた友人のものなので出来るが、こんなことをやって壊したら怒られる。今まで普通に使えていたのに壊れたと言われることは必須だからだ。
要するに1KV耐力の確認、絶縁破壊するようなトランスや配線では一発でアウト。

RIAA偏差の測定例

中央下は被測定フォノイコライザアンプ、右の黒い箱が2チャンネル逆RIAAイコライザボックス。出力はオシロで監視したほうがよい。
正確なRIAA逆のカーブを作ればフォノイコ出力は一定となる。ここでは極めて低域側では微小信号をあつかうので周辺雑音対策をしないと正しい測定はできない。

逆RIAAは加銅鉄平氏著オーディオ用測定器と測定技術掲載の回路である。低インピーダンス駆動回路を付加している。
上段は精密なシンセサイザーレベルジェネレーター、本来いわゆるハイファイオーディオ用ではないが正確な0.1dBのアッテネッターが付いていて出力も一定なためRIAA偏差測定には実用的。

尚ここでは15Hz設定で-6dBを左右とも示している。
測定器が30Hz〜のためだ。これはこの測定器を知っている人に突っ込まれるのを懸念してわざと載せている。
75Ω系は10HzからOKなのでこちらで確認すると正常
20Hzでの測定写真だ。
基準の1KHzで0dBに合わせる
10KHzで左右とも-0.1dB程度と極めて正確である。ここまで来ると逆RIAAの誤差なのかわからなくなる。
20KHzでも左右ともに0dBを示す。
逆RIAAがない場合、相当のレベルに発振器の出力を合わせこむ必要があり大変面倒になる。
このように正確な逆RIAAがあると20Hz〜20KHzの間で発振器の出力が一定であればRIAAイコライザーの出力が変わらない。
逆RIAAがないと1KHz出力を0dBとしてRIAAカーブに合わせた発振器の出力を正確に可変する必要がある。
あまりに左右が重なりすぎて信じてもらえないと思うのでレンジを変えてずらしてみた。
参考までにこれが往年の名機の特性。某技術雑誌に掲載されていたものこれを見てお分かりの通り100Hz〜持ちあがっています。これを厚い音などと言っている人も少なくない。これとフロントロードーホーンのウーハーとホーンドライバーを500Hzでクロスさせたら最悪。

2A3シングルアンプの測定例

2013年1月1日試聴で新作2A3シングルアンプを持ち込んだついでに、測定させていただいた。

埼玉県朝霞市K氏は年に数台新作アンプを研究されている。帰省の際はいつも、新作アンプを試作して持ってくる。今話題のSic−MOSFETも数年前には、オーディオにすでに応用している。
今回は、2A3 シングルアンプだが、これが普通のものではない。
ハムノイズを押さえる新しい試みとして、B電圧のFETリップルフィルター、ヒーターの高周波点灯などが施されている。試聴ではシングルアンプにありがちなハムノイズは全く聞こえない。
製作結果を試聴し、結果を確認するのが測定である。
オーディオ測定ベンチはいつでも測定できるように設置してあり、測定冶具もそろえてあるのでスムーズに測定出来た。
ここでは、設計目標に対して数値的に合っているかの確認となった。
残留ノイズ (20KHzLPF)0.08mV (A)0.032mV 
ひずみ率 1W(A)  100Hz0.14% 1KHz 0.26% 10KHz 0.085%
5%ひずみ時出力 4W
周波数特性10Hz〜55KHz1W時(55KHz-3dB)
これが5%ひずみ時の波形(1KHz)
これがオリジナル高周波ヒーター点灯回路(上段)
2.5V2回路の150KHz高周波電源。従ってトランスは手巻きである。
直流点灯ではありません。
下段の基板は市販のスイッチング電源これはあくまで高周波を作るため15Vの電源として用いている
聴感上大幅に改善されている場合は、測定結果にも表れる。

自作プリアンプ測定例

2013年1月6日測定測定とうるさく言ったつもりはないが・・・

最後の確認は測定が大事と言っていたら大崎市のKさんが先日製作したアンプを持参した。自宅にもある程度、測定できる環境はあるが、測定冶具の整備が整っていないとのことでこちらで測定した。フォノEQは逆RIAAフィルターがないと非常に面倒である。私も再現性を確認したかった。自作でも、誰がいつ作っても同じ性能になることが大切である。指定部品、指定配線でセオリー通り作ってもまともに動作しないなどを再現性が悪いという。量産では品質が不安定で製品にはできない。

このプリアンプの性能はいかに?
RIAA偏差0.1dB(測定限界が正しい)
やっぱり0.5%のコンデンサーの威力はすごい
プリアンプ部ひずみ(A)100Hz、1KHz、10KHzで0.0013%以下
配線の優秀なことが分かる。
このくらいのひずみになると配線が影響する。
ご本人も満足そうで安心した。
この日は仙台市からHさんMさん。市内からSさんと4人も立ち会い人がいた。結果に皆さん納得。耳で聞いて澄んだ音色は、測定結果も良い。
折しも、このプリと同じ回路のプリの試聴結果が山梨の方から入った。聞えなかった音が聞こえる高音の倍音成分が良いとのこと。そのプリは昨年10月の地域の演奏会で球派の年配WE愛好家より倍音が再現されないと酷評され、金色のガレージメーカー球アンプの方が倍音が素晴らしいと言われたもの、ひずみを倍音と思う人は困るものである。

仙台市からKMさんが測定のためお出でになった
自作したものを確認したいとのこと、作ったものを確認することは大変良いことだと思います。
何よりこのページを見て来ていただいたことに感謝いたします。

ぺるけさん式6CA7差動アンプ
左右共に見事に特性の揃ったアンプでした。
周波数特性も10Hz〜20KHzまでフラット-3dB下がるのが180KHzでした。
1W時のひずみも0.01%台100Hz、1KHz、10KHzと優秀
5%ひずみが4.5W、最大出力は本来もっと出るはず、入力感度が低めの設計なのでしょう。発振器の出力では足りませんので測定不能な項目でした。音質は問題なく良好です。ちょうど某メーカー製の6CA7PPが当日ありましたが明らかに、このアンプの方が音が良かったです。

ちなみにこのアンプは2年間仙台市内の大手レコードショップで毎日鳴っていたアンプだそうです。
ぺるけさん式真空管式フォノアンプ
RIAAカーブの測定では、低域端の偏差大きかったです。
ご本人も聴感上、気づいていたようです。
内部の配線、半田は見事です。無鉛はんだを採用されています。球アンプの方は、無鉛を敬遠しがちですが、やはり温度管理した半田ゴテをご使用とのこと。改修予定となりました。
うちの場合どうしてか?だれかお客さんが来ると、においをかぎつけてやってくる。この日もKZさんとKWさんが来た。この前回の写真の時もそうだった。KZさんは基板単品のEQを持ってきて測定して帰って行った。