37号                                                           2000年10月

 

 

書店員はスリップの夢を見るか?

 既にちょっと古い話になってしまうのだが、9月11日に、とうとう「WEB本の雑誌」がスタートした。満を持して開設しただけのことはあって、コンテンツの充実ぶりは実に素晴らしい。

 「今月の新刊採点」日下三蔵吉田伸子らの連載エッセイ、そして何より注目なのが「読書相談室」である。「泣けるミステリが読みたいのですが」みたいな読者のメールに、北上次郎や大森望をはじめとするお馴染みの書評者が解答してくれるのである。夢のようではないか!他の方の質問と解答を読んでるだけでも面白く、あっという間に時間が経ってしまう。しかし、これ続けるの大変だろうなあ。書評者の皆様、頑張って下さいね。心より応援しております。

 余談だが「銀河通信オンライン」もリンクして頂き、感謝感激。本誌10月号には、不肖ワタクシ安田ママがミニエッセイも書いてます。

 

今月の乱読めった斬り!

『ぼくらは虚空に夜を視る』☆☆☆☆(上遠野浩平、徳間デュアル文庫)

 ああ、うれしい!上遠野浩平の、こういう話を読みたかったんです!『ブギーポップは笑わない』に出ていた彼らしさが、「SF」という場を得て、水を得た魚のように生き生きしている。もともと彼はファンタジー路線より、SFのほうが似合ってると思っていたので、非常に満足の一冊。今後もこっち方面をぜひ期待したいところ。

 どこにでもいるような、ごく普通の高校生、工藤兵吾。が、そんな彼の日常にある日突然飛び込んできた出来事。それは、圧倒的に空っぽの虚空、宇宙の果てで、無限に向かってくる敵と戦うことだった!しかも全人類の存続をかけて。

 仮想現実うんぬんという、けっこうショッキングな設定。もし私がこの主人公だったら、と思うとぞっとする。ゼッタイにイヤ(笑)。この世界の現実と、もうひとつの世界の現実。この極端に違う2つの世界の設定、場面転換のうまさは文句のつけようがない。やっぱり上遠野は並々ならぬ筆力があるのだということを思い知らされた。

 そして何より、主人公の少年の心の動きの描写がいい。彼の混乱、戸惑い、照れ、決意、闘志。等身大のファジーな少年が実に生き生きと描かれているのだ。カッコいいぞ兵吾!そう、これはひとりの少年の成長小説でもあるのだ。

 SF的設定も(某映画に似てるとも言われるが、ワタクシ的には全然オッケー。アイデアは同じでも、味付けが全然違うから)バッチリだし、キャラもいいし、ストーリーもわかりやすくまとめられているし、と本当に文句ナシ。『ブギー』より好みかも。SF作家としての今後の活躍に大いに期待。

『石ノ目』☆☆☆(乙一、集英社)

 4つの短編収録。これはホラーか?幻想小説とも違うし。私が一番近いと思えるのは、テレビ番組の「世にも奇妙な物語」。まさに奇妙、としかいいようがない。
「石ノ目」は、妖怪伝説を元ネタにしている。これが最もホラーに近い話。伝説と現代をうまくミックスしており、さすが。「はじめ」は、ちょっと切なさとノスタルジーを感じさせる話。幻の友人って、誰でも昔、子供の頃に持っていたのではないだろうか。
「BLUE」と「平面いぬ。」においては、私にはもはや理解不能(笑)。常人の感覚を超越している。彼の作品に於いては、オチの想像が全くできない。いったいどこに着地するのかなあと思っていたらそのまま終ってしまい、読み終わって「え?これはいったい何だったんだろう?」と呆然としてしまうのだ。どうにも収まりどころが悪く、なんともいわく言いがたい違和感を感じる。何か人間の感覚として大事なものが決定的に欠如しているような、このアンバランス感が彼の醍醐味である。実に不思議な感覚を持った作家だと思う。

『鵺姫真話』☆☆☆(岩本隆雄、ソノラマ文庫)

 冒頭からいきなり前作『星虫』(ソノラマ文庫)の続き(笑)。未読の方は、ぜひ『星虫』からお読みになることをオススメします。だからアレ復刊されたんだなあ。

 しかしなんと話がスムーズに続いていることよ。前作から10年近くブランクがあるはずなのに、世界観にも文体にも、歳月が感じられない。ということは…ちょっとどこか懐かしい雰囲気が漂うのである。ひと昔前の本みたい。

 主人公は、視力が落ちたため、宇宙プロジェクトから去った純。日本に戻った失意の純は、ある日、ふとしたことからタイムスリップに巻き込まれる。そして飛ばされた時代は過去の戦国時代…。

 雰囲気的には『イーシャの舟』を彷彿とさせる、ほのぼの路線。どこか周囲から疎外感を感じていたはぐれ者どうしが、互いを思いやり、自分を知り、成長していく。

 ストーリーが複雑すぎて、『星虫』に見られたようなストレートさに欠けた気が。実はとてつもなく壮大な話なのだが、大きく広げた風呂敷を、ラストではうまくまとめていたと思う。

『光車よ、まわれ!』☆☆☆☆(天沢退二郎、ちくま文庫)

 現在品切れの本。どことなく寮美千子を思い出させる、非常に良質のファンタジー。美しく夢のある話ではなく、むしろ全体的に暗く怖いイメージ。色でいうならまさしく「黒」。その闇の中に、燦然と光る《光車》。それは悪を遠ざけようとする主人公の少年たち、子供の純な心なのかもしれない。

 児童書ならではの平易な言葉をごく普通に使っているだけなのに、どの描写もイメージ豊か。頭の中で、わあっと世界が広がってゆく。全編に漂う水のイメージがいいのだ。それは生命をつかさどる源ではなく、むしろ邪悪な生きもののよう。この妖しげな雰囲気がなんともぞくぞくする。しかも全編を通して、どこかノスタルジック。

 そして、悪と戦う少年達の、手に汗握るハラハラの大冒険!親さえ自分の味方ではなく、生命さえ危ういという、かなりヘビーな目にあい続ける彼らに、もうドキドキの連続である。著者のシビアさには正直驚いた。子供だからという甘えを許さない展開である。

 さらなるもうひとつの隠れた仕掛けにも仰天。度肝を抜かれた。 

 

特集 ださこん4レポート

   9月30日(土)〜10月1日(日)、初秋の雨の中、すでに参加者にはおなじみの東京・本郷の「朝陽館本家」にて、第4回ださこん(読書系ネット者のオフ会)が行われました。私は家庭の事情でださこん3には参加できなかったので、今回はなんとか参加できて、本当にうれしかったです。

 18時半過ぎに、u‐ki総統の挨拶でスタート。総統は、過労で入院中の身をおしての参加(涙)。その熱意には頭が下がります。やっぱり総統がいなくちゃね!

 森太郎さんの参加者紹介&挨拶に続き、いきなりDASACON賞授賞式オンライン企画の書評サイトアンケートで、参考にしてるサイトの一番票の多かったサイトが受賞。最多投票数5票で(笑)、タニグチリウイチさんと、不詳ワタクシめが受賞。「DASACON4」の金箔文字輝く、皮製の文庫ブックカバーを戴きました。

 乾杯&歓談のあと、19時半より、、「出版と書店について語る企画」スタート。『不良のための読書術』(ちくま文庫)を書かれたゲストの永江朗さんは、爽やか&ひょうひょうとしながらも、圧倒的データでもって出版界をガイダンス。

 怒涛の洪水のような新刊点数→それによって書店の店頭に並ぶ日数の短縮→欲しい本が入手しにくい、というしくみや、再販制度や委託配本制度などの、書籍の流通のしくみなどをわかりやすく解説してくださいました。

 その後は質問コーナー。活発な意見交換がなされて、拝聴するだけでも充実した時間でした。諸外国と比較した日本の書籍流通の現状、取次について、新古書店やオンライン書店の現在とこれからの展望、再販撤廃についてなどの質問に、永江さんが穏やかに解答してくださり、和やかな質疑応答でした。一介の書店員としても、実に勉強になった企画でした。永江さん、ありがとうございました。すぐにお帰りになったのが残念。

 新刊洪水は書店にとっては大変ですが、読者にとってはいろんな本が読めて、うまく泳ぎさえすれば、ある意味非常に幸せな時代といえるでしょう。自分なりにこのノウハウを獲得することが、今の読者には求められているのかもしれません。業界側は問題が山積みですが、やはり何より読者にきちんと本が届くように努力する、の一点でしょうか。

 適当に歓談する中、21時半頃より、「ジャンル分けの功罪」企画。司会はu‐ki総統。

 総統あてに、バード中津さん(角川春樹事務所の方)からメールがきたそう。中津さんは、ハルキ文庫で新しくスタートした書き下ろしSFシリーズをどう売るかを模索中で、皆さんのご意見を伺いたいとのこと。で、なんとなく話の流れが「どうやったらハルキSFはもっと売れるか」という話に。

 大森さんのご意見などで、ハルキと徳間デュアル文庫の比較。ハルキは上の世代に今若い世代が読んでるものを読ませる、デュアルは最近の若い世代に昔のSFを読ませるという構図というのが判明。上から下か、下から上か。総統は目ウロコのようで、しきりにうなずいていました。

 23時半頃より「オンライン書評について語る」企画。司会はヒラノマドカさん

 ださこん前にとったアンケートをもとに話が進められました。主な話題は「自分のサイトの掲示板にいらしてくださったりして接触したことがある作家のレビューを書くとき、対応は変わるか?」というもの。アンケートでは「変わらない」という意見が大多数なのだが、「これは変わるでしょう〜!」というヒラノさんのご意見。ネットによって作家と読者の距離がぐっと縮まったのは確か。この距離の取り方には皆、どう対応すべきか、ちょっと迷いがあるようでした。

 あとは古本オークションにちょっと出品したり。が、濃い人たちに囲まれてしまって辟易。私はあまりに場違いでした(涙)。

 このあとはだらだら雑談モード。まこりんさんとイサイズ書評の話とか、東編集長や青木みやさん、森山さんたちとbk1の話をしたり、ちはらさんたちと「SFマガジンってどこを読んでます?」とか。今回はなぜか本の中身の話をほとんどしない、という珍しいださこんでした。3時に就寝。

 翌朝起きると、総統の「SF者って実はもてない男なんじゃないか?」企画が始まっていた。総統の爆裂ぶりに後ろ髪ひかれつつ、閉会前に会場を抜けて仕事に向かう(涙)。

 本についてたっぷり語り合えた、いつもながらの楽しいひとときでした。またお会いしましょう!

  

 

ダイジマンのSF出たトコ勝負!

  ダサコンは、朝陽館がよく似合う。…かどうかは定かでないが、もはやホームグラウンドの趣と風情漂う湯島の旅館に、第三勢力コンベンションが帰ってきた! 未だ極秘事項に属する、何を以って「第三」なのか?という謎の解明に向け、地道な聞き取り調査はしていない。

 今回初めて、バッグひとつでダサへ出発。ぼくにとっては特筆に値する(笑)出来事として、特に明記しておきたい。オークションに出品できる本が(ホントに)無い、というのも寂しいものだが、サインを貰うための本さえ持ち込まないという身軽さも、また魅力あり。

 朝陽館への道程は迷うことなく、意外と覚えているものだった。すっかり日が暮れた道すがら、昨年はまだまだ明るかったことに気付く。SF大会との間隔が同じなので違和感がなかったが、そうか、去年は一月早い開催だったのか。到着するや否や、早くもu‐ki総統に遭遇。入院中でかなりヤバめとの事前情報だったが、思ったよりは元気そうでなによりだ。そして、参加費値下げのウレシイ受付。

 会場入りに余裕があるのは良いね、やっぱ。スタッフの皆さんに挨拶したり、集まってくる参加者の面々と雑談して寛いだり。ダサ初参加ののむのむさんも、SFセミナースタッフでお馴染みだしね。企画会場の大部屋では、清水賢治さんにワセミスのSFファンジン〈アステロイド〉のバックナンバーを見せて戴く。重かったでしょうに、ありがとうございます! 湯川光之さんからは頂き物あり。感謝。

 7時を少し廻ってから、開会の辞、参加者紹介と、ダサコンの幕が開く! ここで早くも、事前に行われた「オンライン書評に関する大型アンケート」より、タニグチリウイチ@積ん読パラダイスさんと、銀河通信の偉大なるゴッドマザー、安田ママ@乱読めった斬り!に対する、「最も参考にしている書評」として最多得票を獲得した栄誉を、讃え敬い崇め奉る表彰式を行う。

 今回のメインとなるゲスト企画は、『不良のための読書術』(ちくま文庫、2000年)の著者、永江朗をお迎えしての、書籍・流通に関するガイダンスである。この著書を見ても伺えるように、ぼくのような片寄った現場サイドの観点からしても、永江さんは机上の空論と感じさせることの少ない、地に足の着いた議論とアジテーションを展開する論客として信頼が高い。

 ダサコンは、作家・ライター・翻訳家、編集・出版社、ネット&リアル書店関係者のほか、読者として業界に意識の高い構成メンバーが多いゆえ、質疑応答が白熱。錯綜するあらゆる話題に数値を交え明快に答えてゆく、永江さんの精力的な姿が光る好企画であった。

 その後はいつもの調子で雑談モードに。もはや見知った顔触れ多し。ディーラーズで購入した、東洋大S研(東洋大にのみ適用)の会誌〈ASOV〉22号『野田大元帥への返歌』が、期待通りオモシロイ。

 そうこうしているうちに、バード中津@角川春樹事務所さんを中心に、ジャンル分けとプロモーションなどのSF出版絡みの話が始まったが、ほどなくしてオークションが予告されたため移動する。

 しかし、MZTさんはすっかり古本屋のオヤジ化していた。と断言するのもあんまりなので、今回は若旦那くらいにしておこう(笑)。などとうっかり油断していると、mutさんまでが古本ブルドーズへと躍進めざましいらしい。一体、彼に何が(笑)。とかなんとか言った所で、ぼくらの遥か彼方にはあの(!)彩古さんがいるんだから、全くもってノー・プロブレムだ!

 ぼくはまあ、おとなしく(?)していたが、イイ感じで競り落としていくのはπRさんである。SF大会で証明済みだけど、気持ちの良い競りを演じてくれる。そして、愛・蔵太さんや倉阪鬼一郎さんが、フラリと来て大人買い。総統も盛り上げる。例え値は上がらずとも!

 終了後はご歓談タイム。というか、朝までダベる(笑)。彩古さんとちゃんとお話するのは初めてかな。内容はご想像の通りだ(笑)。しかし、今はもうミステリオンリーなのかと思っていたら、SFもまだまだ主戦場とのこと。収集に賭ける情熱と行動力に頭が下がる。

 そして、茅原友貴クンや青木みやさんらを中心に何やら色々と話し込んでいたものの、記憶に留めるべきは、一部において内容外の物議を醸した(?)映画『U‐571』が、「O‐157」と紛らわしい、という事実であろう(笑)。

 途中、ダサコン名物のカードゲーム新型が投入された模様だったが、なんとなくずるずると参入せずにいた事は、今となっては惜しむべきかもしれない。ぼちぼち朝を迎え明るくなった頃、顔を洗って大広間へ戻ってみると、眠りから目覚めたu‐ki総統が、並み居る人々の関心を攫っていた。そこでは総統の、かなりプライバシー入った部分までをも含んだ過去から導き出される、夢見がちな人々(通称、ドリーマー)へ捧げる賛歌が叫ばれていた>ホントか?。しかし思いのほか、その過去は近かったりする。およそ人生経験の全てがネタと化し、確実にヒットを飛ばすという稀有な才能は、総統の独壇場と言っても過言ではあるまい。減衰中でも、無敵生命体としての機能に変化は無かったようである。

 朝を迎え、エンディング。解散後もワイワイと、いつもの如くルノアールへ押し寄せる。そこでは志村さんに、「星ヅル」折り紙の指南をお願いする。しかし、普通の折り鶴さえ覚えていない人間を阻む困難に立ち向かうためには、幾人もの助っ人の手を渡らねばならないのだった。まあ、名人の星ヅルとの紙相撲対決において、完勝を納めたのでヨシなのだ(笑)。

 いつ雨が降るか、という予断を許さぬ天候の下、一歩さん、羽鳥一紀さん、πRさんと共に行く、魅惑の東京観光をコーディネート。コースは神田神保町経由、早稲田行きという、都会の魅力を余すことなく盛り込んでみました(笑)。そこで如何なる成果があったのか、なかったのか? 各人の奮闘、逡巡の程は、これはまた別の話…。

 ダサ4は、安定したカラーを醸し出した点で、最も成功したと言ってよい。スタッフにとっては、毎回危ない綱渡りなのかもしれない。だがそんな事とは関係無く、「ダサコン」という場が自ら歩みだす足音を感じるのだ。回を重ねるとはそういう事。今は解らずも良し。ダサコンは、ここにあるのだから。

 

あとがき

 風邪を甘く見ていたら、すっかり悪化してしまい、扁桃腺炎で1週間も入院してしまいました。おかげでまた発行が遅くなりました〜。すみません! (安田ママ)


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