39号                                                                         2000年12月

 

 

書店員はスリップの夢を見るか?

 20世紀最後の年。今年も出版界は予想通り、激動の1年であった。「もう何があっても驚かない」。業界の人間は口をそろえてこうつぶやく。

 老舗の書店や出版社、あげくは取次までが次々と廃業し、もはやどこの出版社がなくなったんだか、こちらも把握しきれなくなりそうな今日この頃。どこもまさに生死を賭けた闘いである。

 2001年3月には、再販制度の一応の決着がつくことになっている。果たしてどうなることやら。この決定によって、業界にますます嵐が吹き荒れることは確実であろう。

 業界のいちばん底辺の、小さな小さな歯車のひとつでしかない自分には、全くなんの力もない。ただ、これから、本をとりまく世界がどの方向に流れていくかだけは、片隅でしっかり見据えていたいと思う。

 

今月の乱読めった斬り!

『コンセント』☆☆☆1/2(田口ランディ、幻冬舎)

 『GO』と並んで、今年一番の注目作、と言ってしまっていいのではないだろうか。目黒考二、村上龍ほか書評家絶賛。とりあえず、今年中に読んでしまおう!と思ってトライ。

 もう内容もだいぶあちこちで語られているので今更だが、テーマは「引きこもり」。著者の経験を元にした小説だそう。

 40になる兄が引きこもりのあげく、自殺した。主人公のユキは、以来、街角や男の息に死臭を感じるようになる。不安になったユキは、昔大学で心理学を教わった恩師(>ちょっとワケアリ)にカウンセリングを受けにいく。兄の自殺には、「コンセント」というキーワードがあり、そのことがユキの頭を離れない…。

 ストーリーを説明するのはちょっと難しい小説。といっても、筋がややこしいわけではなく、どこか茫漠とした感じ。なんというか、現象を主に話が進む、というより、主人公の「心」という目に見えない曖昧なものが主に話が展開していくせいだろうか。ユキが、じわりじわりと心の迷宮に迷い込んでいくさまは圧巻。よくこんなにうまく表現できるものだ、とうなってしまう。冷静に考えればかなり突飛なこと(電波系ってこういうのですか?)を書いていると思うのだが、なんだかすっと納得できるのだ。ユキのどんどん壊れていく気持ちの変化などが。

 さっき書いたことと矛盾するが、この小説は兄の引きこもりがテーマではあるが、実は兄の死に対する疑問を解決することによって、ずっと心に抱えていた何かを乗り越えていく主人公ユキの心の軌跡の物語である。これはもちろん著者の「引きこもり」に対する解釈であって、これが正解とかそういう問題では全然ないのだが、少なくとも私には彼女の言うことはよくわかった、と思う。うん、うん、そうか、と相槌を打ちながら読んだ。「コンセント」の概念とか、この弱肉強食の世の中では、ひとの心の痛みがわかるナイーブな人間は「弱者」とみなされてしまうこと、とかいろいろ。ひきこもってしまう人たちは、そのやさしさゆえに、この現実に折り合いをつけることができず、傷つき、自分を守るために殻にこもってしまうのか。それはあまりにも悲しい。彼らにとってなんと生き難い世の中。

 つらい話ではあるが、主人公の心の新しい目覚めによって、意外にも読後感はよかった。「現代」の持つ病のひとつを描いた傑作。

『紫の砂漠』☆☆☆1/2(村松栄子、ハルキ文庫)

 十夜さんオススメの一冊。SFファンタジー。

 紫の砂漠の端に位置する小さな村で生まれ育ち、なぜかその砂漠に強く惹かれる子供、シェプシが主人公。この世界では、子供に男女の性別はない。この世でただひとりの「真実の恋」の相手と出会った瞬間に、男女の性が決定する。しかもこの世界、7歳まで自分の子を育てたらその子を養子に出し、代わりに神の定めた「運命の子」を授かる、という掟がある。神々を深く信仰し、自然を敬い、掟にのっとって素朴につつましく暮らしているひとびとなのである。

 何よりこの設定がファンタジック。紫の砂漠に覆われた世界、砂漠をさすらう詩人、〈聞く神〉〈見守る神〉〈告げる神〉の話、尖った耳の村人達。ファンタジー好きにはたまらない話だろう。そして「真実の恋」。これがまたなんともロマンティックではないか。

 この世界の構築にあたり、著者はなにか徹底したこだわりを持っているように感じられる。倫理的、とでもいうのだろうか。柔らかなファンタジーの衣でくるまれた、思想的で硬質なもの。

 7歳になったシェプシはいよいよ運命の親に出会うべく、詩人に連れられて旅に出る。が、どうしても砂漠への強い憧れを捨てきれないシェプシは、ある決心をする…。

 後半、突然SFになったのには仰天。前半の伏線がここで大いに生きてくる。いやホント、こういう展開とは夢にも思わなかったので驚いた。ううむ、あれはそういうことだったのか!ファンタジックな世界観が、一気に宇宙規模に拡大する。こんなに壮大な物語だったとは!

 ファンタジーがお好きな方はもちろん、SFファンにもオススメの一冊。

『NAGA 蛇神の巫』☆☆☆1/2(妹尾ゆふ子、ハルキ文庫)

 「新世紀SF宣言!」という、強くSFをアピールした帯つきで登場した、ハルキ文庫のSF新シリーズ第一弾のうちの一冊。

 本書は現代SFファンタジーである。ある旧家にまつわる蛇神の伝説に、今の高校生ふたりが家の都合でかかわらざるをえなくなる。正月に30年に一度の巫女役をやった涼子だが、なぜか蛇神は一緒にいた従兄弟の渉に憑依する。このままでは渉は…。

 日本の昔の神話と、現代が見事にマッチし、なんの違和感もないという素晴らしさ。ひとに憑依する蛇神と、ケータイやパソコンが同時に登場してても、なぜかちっともおかしくない。このセンスは誰にも真似できない、著者独特のものであろう。実は著者の作品を読んだのは初めてだったのだが、これにはかなり驚いた。新宿の高層ビルにエネルギーが集中してる、といった解釈も現代的でマル。

 文章はポップな感覚で非常に読みやすく、くいくい読ませる。なによりキャラが生き生きしてる。主人公の涼子はまさに今の女の子。渉も実にクールでカッコイイ(笑)。なのに、そこにもってきて巫女だの蛇神だの、という日本神話の世界である。日頃そのテの話は苦手というか予備知識も全くない私なのに、それが、どうしてこんなにすんなりカラダにはいってきてしまうのか。全く、著者の筆は魔法のごとくである。その魔法が、私の体の細胞ひとつひとつに遥か昔から刻印されていた、かつて古い神々を敬い奉っていた遠い記憶を呼び覚ましたのだろうか。

 話の裏にほのかに流れる恋愛感情も、読者をくすぐる。唯一気になったのは時系列が入り組んでること。普通に書いても十分よかったのでは、と思うのだが。

 日本神話をポップに2000年バージョンでアレンジした一曲、じゃなくて一冊。ぜひお試しを。 

『GO』☆☆☆1/2(金城一紀、講談社)

 なんてまっすぐなんだろう!そして、なんてしなやかでしたたかに強いんだろう!彼の瞳は、キツく鋭く、でも誰よりもキレイに澄んでいるに違いない。きっとそうだ。

 彼は在日韓国人だ。そのちょっと前は在日朝鮮人だった。まあいろいろあって。要するに両親が朝鮮人だったというだけのことだ。で、朝鮮学校に通っていた彼だが、思い立って普通の日本の高校に進学した。そして、…ある日本の女の子に恋をした。

 たったこれだけのことなのに、そのために彼が味わった差別はすさまじいものだった。それはもはや私の想像もつかないほど。全くもって彼に責任はなく、理由もない差別。普通なら歪むよ。歪んだほうがはるかにラクだ。が、彼はそうじゃなかった。あらゆる外的苦痛を全身でがしっと受け止め、なおかつ全力で跳ね返し、ぶっとばした。どりゃーっ、てな感じに。傷つきながらも、そうやっていちいち向かってくるあらゆるものと戦いつつ、生きてきたのだ。これがどれほど大変だったことか。いや、大変なんて言葉じゃ軽すぎるし甘すぎる。

 全ての外敵をすっとかわして小利口に生きるわけでなく、背を向けしっぽをまいて逃げるわけでもなく、彼はあらゆるものにそれこそ全力で立ち向かって生きているのだ。なんという潔さ。めちゃめちゃカッコイイぞ、コイツ!!(でもお父さんにはかなわない、というところがまたいいのよ!この激烈親子のエピソードは、どれも実に傑作。)

 というとすごく暗い話かとお思いだろう。が、国籍と、それにまつわる親や友人や彼女との確執、というアイデンティティをゆさぶる深刻なテーマにもかかわらず、タッチは驚くほどユーモラスでぽっかーんと明るい。それはもう、気持ちいいほど。この「彼女」が、少年漫画に出てくる女の子みたいに男性側に都合よすぎ、というだけのがちとひっかかったが、それもラストでまあ納得、かな。

 とにかく、そんじょそこらの青春小説をぶっとばす、彼の強さとたくましさを読んでみてくださいな。背筋が思わずぴんとする一冊。そう、とりあえず「GO」だ!前へ進め!

 

 

特集 私の2000年ベスト10

 さて、今年読了した本はいったい何冊だったんだろう?乱読書いたのが54、乱読ひとことが15、読了したのに書いてないのは、21冊は確実だが(1年分の日記を全部ざっと調べた)、それ以外にもあるかも。アンソロジーのうち、1篇だけ読んだのとかは数えてません。上下本は合わせて1冊でカウントしました。

 覚えてるだけの総合計、90冊。やっぱり100冊は読めなかったな。やー、今年もたくさん楽しませていただきました。

 それでは、ベスト10の発表です!(あくまでもワタクシ的なので、趣味走りまくりでオハズカシイですが。)



☆第1位『慟哭』(貫井徳郎、創元推理文庫)

 「慟哭」。この物語を語るには、このタイトルだけで十分だ。こんなに胸をえぐり、読者を号泣させるミステリを私は他に知らない。たとえようもない悲劇。綿密に練られた仕掛けにあっと驚く超超超一級品である。未読の方は、だまされたと思って読んでみてほしい。本当に傑作。今年はこの作家に出会えたのが何よりの収穫だった。

☆第2位『星降り山荘の殺人』(倉知淳、講談社文庫)

 「カーン!!」このトリックを読んだ瞬間、私は場外ホームランのボールのように、空高く打ち上げられました(笑)。ポケモン見てる方は、ロケット団が毎回ラストに「やなカンジー!」と叫びながら飛ばされて星になって消えるところをご想像あれ。ええもう、そんなカンジでしたよ、この本は!!心からまいりました。さあ、あなたはこの直球ストレート、真っ向勝負のミステリに勝てるかな?倉知淳は今年まとめて読みましたが、どれも甲乙つけがたい傑作。強いてあげるなら、これ以外のオススメは『占い師はお昼寝中』(創元推理文庫)かな。

☆第3位『いちばん初めにあった海』(加納朋子、角川文庫)

 加納さんの本も今年たくさん読みましたが、どれも皆よくて、1作に絞るのが本当につらかった。『魔法飛行』(創元推理文庫)も挙げたかったのだが、涙を飲んでこちらに決定。彼女のあふれるような優しさにすっぽり包み込まれるような、素敵なミステリ。ワタクシ的には、加納朋子のベスト1。

☆第4位『雨の檻』(菅浩江、早川文庫)

 今年発売された『永遠の森 博物館惑星』(早川書房)にしようか迷ったが、この本で初めて菅浩江の素晴らしさに目覚めたので、あえてこちらを挙げておく。彼女の柔らかさ、みずみずしさが、SFと見事に融合している。心の琴線に触れる、痛くて美しい1冊。もっと早く出会っておきたかった!と心から悔やむ作家のひとり。うう、リアルタイムで追っかけてみたかった〜。

☆第5位『月の裏側』(恩田陸、幻冬舎)

 今年出た恩田陸の新作、8冊(!)は全部読了。これもやはり『ライオンハート』とどちらにしようか悩んだ末、こちらに決定。あの、暗い水の街に自分も迷い込んでしまったような錯覚を覚える描写は実にツボ。ぞくぞくものの1冊。マジで鳥肌が立ちました。つくづく、これが梅雨の時期に発売されなかったことを感謝したい(笑)。しかし今年は大活躍でしたね、恩田さん。来年も期待しておりますですよ。ワタクシ的には『光の帝国』の続編がとても楽しみ。

☆第6位『エンジン・サマー』(ジョン・クロウリー、福武書店)

 私の手には余る本だが、ぜひ入れておきたい。とにかくすべてが象徴や寓話に満ちていて、意味深なのである。何度も読めば読むほど、その物語の中に隠されていたものが出てくるのではないだろうか。実に美しく不思議で、難しく謎めいていて、でも読者に忘れがたい強い印象を残す1冊。

☆第7位『夏と花火と私の死体』(乙一、集英社文庫)

 やはり今年出会えて収穫だった作家のひとり。なんとも独特で奇妙な味わいの、いうなれば心理的ホラー、かな。血ドバドバの、グロテスク系ホラーがダメな私には、この背筋をひんやりなでられるような感覚が非常にツボ。彼の今後が楽しみ。

☆第8位『光車よ、まわれ!』(天沢退二郎、ちくま文庫)

 寮美千子系のダークファンタジー。平易な言葉で語られる、著者の紡ぎだすイメージの黒い美しさ、広がりにしびれた。明るい日差しの中、みたいなファンタジーもいいが、こういう闇系の味わいにもとりこになりそう。他の著作も読みたい!!

☆第9位『quarter mo@n』中井拓志、角川ホラー文庫)

 ネット者の感覚を、こうも見事にホラー化した物語が他にあっただろうか?これで、著者はそんなにコアなネット者じゃないってんだからさらに驚きだよね。さぞかしハードなネットジャンキーかと思っていたのに(笑)。1度でも2ちゃんねるを覗いたことのある方なら、面白く読めること請け合いです。ネットにおける言葉の悪意の恐怖をどうぞ。

☆第10位『ぼくらは虚空に夜を見る』(上遠野浩平、徳間デュアル文庫)

 上遠野浩平作品では、ワタクシ的ベスト1。ああ、やっぱり彼はSFのひとだったんだな、と強く感じましたね。話のまとまりもいいし、彼らしさがいい意味でよく出ている。彼の作品を読むなら、まず最初にオススメしたい1冊。

なお、特別企画賞としては、『20世紀SF』(河出文庫)シリーズ、早川書房の30周年記念企画で復刊された『果しなき旅路』『血は異ならず』(ゼナ・ヘンダースン)を挙げておきます。


 今年はベストを絞るのが本当に難しい年でした。3位以下は、もう全部並んでるといっても過言ではないくらい、どれもみんなよかったんですよ。…しっかし、見事にミステリとSFとホラーしか入ってない!(笑)自分がいかに片寄った読書をしてるかが、よ〜くわかりました(笑)。さてさて、どうか来年も素敵な本にたくさんめぐり合えますように!

 

ダイジマンのSF出たトコ勝負!

 模索を続ける日本経済を尻目に、一足お先に景気回復を遂げたSF出版の活況は、果して何度目かの“SFブーム”と数えられるものなのだろうか。直接的には取り組む出版社の増加であるが、例えば1980年前後の、蓄積されつつあった機運に『スター・ウォーズ』公開が起爆剤となったような、空前の社会的フィーバーは見当たらない。今の状況は、ジャンル内部的にはクズ論争に噴出した、低迷した状態への反動とも捉えられるし、ただ単に、飽和した出版界で、付け入る余地ある隙間として「SF」が再発見されたに過ぎず、過去の財産のリサイクルが読者の世代交代によるニーズと合致。滞っていた新たな才能の躍進という展開は、偶発的に重なっただけ…なのかもしれない。強いて挙げれば「21世紀」という“未来”への突入、およびネットワークの浸透がもたらしたSF的日常の一般化と関心の高まり。はたまた伝網上を席捲する双方向口コミ情報文化の発達…、という程度しか思い当たらない中での要因なき盛り上がりは、終焉を宿命付けられた「ブーム」という名の消費物と化すよりも、むしろ遥かに好ましく思われる。

 …なんて、またイイカゲンなこと言ってるけど、ま、要は「イイんじゃない!?」ってこと。長距離ランナーはペース配分が肝要なのだ。

 さて、2000年はジャンル関連書もかなり充実していたので、ザッとおさらいしてみたいと思う。年明け早々から『思考する物語』(森下一仁著、東京創元社、キーライブラリー)に『SF万国博覧会』(北原尚彦著、青弓社、寺子屋ブックス)と来て、まずは幸先良く好発信。3月3日の日本SF大賞・同新人賞授賞式に合わせ、徳間書店が〈SFJapan〉(ロマンアルバム)を投入。同時に早川書房からも、例年の年間回顧を〈SFマガジン〉巻末特集から大幅増補・独立化させた、『SFが読みたい! 2000年版』(〈SFマガジン〉2000年4月臨時増刊 528号)を刊行。水玉螢之丞の表紙画も絶大なプラス要因として機能し、本誌で普段吸収しきれなかった層を含め、広く読書界一般に向けるガイドブックとして、雑誌ながら異例の重版を遂げる成功を納めた。

このSFが読みたい!2000

 『このミス』のパクリ(!?)なんてチャカせばそれまでだけど、しかしジャンルの1年を総括する仕事の重要性に加え、これを機にフェアを組む書店の登場を促し、新刊として旬を越えた本が読者と出会うきっかけを、再度演出する副次的効用は計り知れないものがある。

 同じく3月に、『戦後「翻訳」風雲録‐翻訳者が神々だった時代‐』(宮田昇著、本の雑誌社)も発売。〈本の雑誌〉連載当時から話題だった翻訳者評伝の本書は、早川的エンターテインメント翻訳文化に育った人間なら必読拝読の書である。

戦後「翻訳」風雲録

 4月に登場は、『ブックハンターの冒険‐古本めぐり‐』(牧眞司著、学陽書房)。SFプロパーを外し、広く“イマジネーションの文学”を扱った内容だが、そこはそれ。SFファンの期待にも応える古書エッセイに仕上がるは、著者の面目躍如と言ったところ。

 発売の待たれた『日本SF論争史』(巽孝之編、勁草書房)は、満を持して5月に刊行。最も端的にジャンル観・SF観が表出し、SFを知る/時代を観るための有効な手掛かりを与えてくれるのは、いつも論争が闘わされた時である。これまで多くの人が思い付いたであろう切り口ながら、誰も夢想の域を越えられなかった“論争を軸に再構築したSF史”の誕生は、もはや壮挙と言えよう。これが商業ベースで実現するのだから、まさに人を得たと評価するほかあるまい。その後本書は、10月に発表された第21回日本SF大賞を受賞した。

 さらに11月は『図説ロボット 野田SFコレクション』(野田昌宏著、河出書房新社、ふくろうの本)も登場。豊富なカラー図版で、SFとパルプ・マガジンの魅力が満喫できること請け合いである。ファンならずとも楽しめる、テーマ編集のバラエティ・ブック。ファンはもちろん常備すべし。続刊予定も有り!

図説ロボット

 これら以外にも、マイク・アシュリー『SF雑誌の歴史』(東京創元社)が予告され出番待ち状態だし、高橋良平「日本SF戦後出版史」(〈本の雑誌〉隔月連載)も、再開後地道に進行している。ならば、まだこれからも期待出来るかも知れない。期待したい。いや期待してしまおう!! となれば望まれるのは、良きブックガイドの登場に決まってる。もう決定(笑)。

 ぼくにとって、「SF」と「SFというジャンル」の輪郭と距離感を掴ませてくれた教科書は、『SFハンドブック』(早川書房編集部編、ハヤカワ文庫SF)だった。SF宇宙の航宙図として、これ程役立ったものはない。出版された1990年当時としても品切れが目立つラインナップは、しかし逆に、総体的に目配りの効いたガイドとなり、古びてしまう部分が少ない。

 …でも、そうは言えども、本書は文庫SF875番である。1300番を優に越えた今、さすがにアップ・トゥー・デートなハンドブックの登場が必要とされるだろう。

 あるいは、年度版『SFが読みたい!』がその任を果たしていくのかもしれない。けれども、飛び込み切れないでいる罪のない若人をSFに突き落とす(笑)、ジャンルの蓄積と振幅を備えた教育的誘導装置として、年度総括本だけでは不足である。最もこれに近いのが『SFを極めろ!この50冊』(野田昌宏著、早川書房1999年)で、巻頭の「親愛なる若きSFファン諸君!」でのアジテーション振りも素晴らしいけれど、“文庫こそ本の全て”だった学生時分の自らを想い起こすに、単行本じゃ存在に気付いたかすら心配が残るところ。文庫のガイドは、やっぱ文庫本が望ましいよネ。

SFを極めろ!この50冊

 てなワケで、こういった本やら何やら色々が、ズバズバ出て来てくれるなら、SFの未来明るく我も楽し。アア、出版社さん、無理せず転ばず、グイグイッ!とお頼みしますよ!!

 

あとがき

  ついに、20世紀も終わりを迎えることになりました。当サイトが、この100年の歴史の、最後の2年間に足跡を残すことができたことを、心から皆様に感謝したいです。新世紀も、いっぱい本の話をしましょう!(安田ママ)


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