39号 2000年12月
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『このミス』のパクリ(!?)なんてチャカせばそれまでだけど、しかしジャンルの1年を総括する仕事の重要性に加え、これを機にフェアを組む書店の登場を促し、新刊として旬を越えた本が読者と出会うきっかけを、再度演出する副次的効用は計り知れないものがある。
同じく3月に、『戦後「翻訳」風雲録‐翻訳者が神々だった時代‐』(宮田昇著、本の雑誌社)も発売。〈本の雑誌〉連載当時から話題だった翻訳者評伝の本書は、早川的エンターテインメント翻訳文化に育った人間なら必読拝読の書である。
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4月に登場は、『ブックハンターの冒険‐古本めぐり‐』(牧眞司著、学陽書房)。SFプロパーを外し、広く“イマジネーションの文学”を扱った内容だが、そこはそれ。SFファンの期待にも応える古書エッセイに仕上がるは、著者の面目躍如と言ったところ。
発売の待たれた『日本SF論争史』(巽孝之編、勁草書房)は、満を持して5月に刊行。最も端的にジャンル観・SF観が表出し、SFを知る/時代を観るための有効な手掛かりを与えてくれるのは、いつも論争が闘わされた時である。これまで多くの人が思い付いたであろう切り口ながら、誰も夢想の域を越えられなかった“論争を軸に再構築したSF史”の誕生は、もはや壮挙と言えよう。これが商業ベースで実現するのだから、まさに人を得たと評価するほかあるまい。その後本書は、10月に発表された第21回日本SF大賞を受賞した。
さらに11月は『図説ロボット 野田SFコレクション』(野田昌宏著、河出書房新社、ふくろうの本)も登場。豊富なカラー図版で、SFとパルプ・マガジンの魅力が満喫できること請け合いである。ファンならずとも楽しめる、テーマ編集のバラエティ・ブック。ファンはもちろん常備すべし。続刊予定も有り!
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これら以外にも、マイク・アシュリー『SF雑誌の歴史』(東京創元社)が予告され出番待ち状態だし、高橋良平「日本SF戦後出版史」(〈本の雑誌〉隔月連載)も、再開後地道に進行している。ならば、まだこれからも期待出来るかも知れない。期待したい。いや期待してしまおう!! となれば望まれるのは、良きブックガイドの登場に決まってる。もう決定(笑)。
ぼくにとって、「SF」と「SFというジャンル」の輪郭と距離感を掴ませてくれた教科書は、『SFハンドブック』(早川書房編集部編、ハヤカワ文庫SF)だった。SF宇宙の航宙図として、これ程役立ったものはない。出版された1990年当時としても品切れが目立つラインナップは、しかし逆に、総体的に目配りの効いたガイドとなり、古びてしまう部分が少ない。
…でも、そうは言えども、本書は文庫SF875番である。1300番を優に越えた今、さすがにアップ・トゥー・デートなハンドブックの登場が必要とされるだろう。
あるいは、年度版『SFが読みたい!』がその任を果たしていくのかもしれない。けれども、飛び込み切れないでいる罪のない若人をSFに突き落とす(笑)、ジャンルの蓄積と振幅を備えた教育的誘導装置として、年度総括本だけでは不足である。最もこれに近いのが『SFを極めろ!この50冊』(野田昌宏著、早川書房1999年)で、巻頭の「親愛なる若きSFファン諸君!」でのアジテーション振りも素晴らしいけれど、“文庫こそ本の全て”だった学生時分の自らを想い起こすに、単行本じゃ存在に気付いたかすら心配が残るところ。文庫のガイドは、やっぱ文庫本が望ましいよネ。
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てなワケで、こういった本やら何やら色々が、ズバズバ出て来てくれるなら、SFの未来明るく我も楽し。アア、出版社さん、無理せず転ばず、グイグイッ!とお頼みしますよ!!
あとがき
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