28号                                                           2000年1月

 

 

書店員はスリップの夢を見るか?

 明けましておめでとうございます。今年も銀河通信をなにとぞよろしくお願い申し上げます。

 さて、去年から今年にかけての出版界での一番の話題と言えば「ネット書店」であろう。あらゆる書店、出版社が続々参入してきている。日経新聞など、ネット物販の記事が載ってない日はないという程。もうこれからは何を買うにもネットの時代だ!的な煽り方である。

 が、実際の利用状況はどうなのだろう?新システムの記事は目にするのだが、現実にお客様がどの程度利用していて、どれほどの利益が上がっているのかがイマイチ見えにくい気がするのだ。

 私は、まだまだネットで本を買っている方はごく少数なのではないかと思っている。システム的にもまだまだ改善の余地があるし。

 だからこそ、書店の店頭にいらっしゃるお客様をなお一層大切にしなくてはいけないと思うのである。

 

今月の乱読めった斬り!

『象と耳鳴り』☆☆☆☆1/2(恩田陸、祥伝社)

 待望の、待望の恩田陸の新刊これは純然たる本格推理短編集。「待合室の冒険」などは、かの有名な『九マイルは遠すぎる』を下敷きにして書かれている。彼女は、こういうどっかからもらったヒントを自分流にアレンジして、彼女なりの話を作ってしまうという技が非常にうまい。で、今回もこの試みがよく成功してるのだ。

 全編を通して、どことなく、海外ミステリの古典みたいな古めかしい空気がある。他人のたった一言の言葉から悪事を暴いたり、数枚の写真からその人の人となりを推理したり、姪との手紙のやりとりからある事件の謎を解いたりと、本格ファンもうなる謎解きがたっぷり楽しめる短編集である。

 が、やはり恩田陸だなあと感嘆せずにいられないのは、謎が提示されて、ラストにそのトリックが説明されて、普通のミステリならああすっきりチャンチャン、で終わるところが単純にはそうならないところだ。彼女の話でも、確かに謎は解明される。だが、それが真実とは限らない。ぼかしたり煙に巻いたり、解決されたらさらに謎が深まってしまったり。まるで出口のない迷路に迷い込んだよう。そして、読者はいつまでもそこから出ることはかなわず、心の中に小さな疑問がいつまでもチリチリと残ったままである。この余韻が、実に恩田陸なのだ。音楽で言うならリフレインがいつまでも残って耳から離れない、そんな感じ。なんともいえないあいまい感、これこそが彼女の醍醐味である。

 ミステリファンなら絶対読んで欲しい一冊。太鼓判のオススメ!

『青の炎』☆☆☆1/2(貴志祐介、角川書店)

 犯罪者側から書かれたミステリ。だが、これは辛い。「怒り」という青い炎に飲み込まれてしまった彼があまりに哀れで切ない。

 彼は母と妹を守るために、自分の手を血で染めることを計画する。もちろん、これを正義という名のもとに実行していいものか、彼はさんざん悩みあぐねる。彼の葛藤がまた痛く、辛い。そう、彼は本当なら殺人などという大それたことをするような少年ではないのだ。

 殺人を実行した直後から、彼は自分の犯した罪に押しつぶされる。たとえ隠し通せても、一生この殺人の罪から逃れることはできない。そしてさらなる悲劇が…。

 確かに彼は罪を犯したのだが、私には彼が悪かったとはどうしても思えない。彼がそうせざるを得なかったということが痛いほどわかるから。でももちろんどんな理由があれども、殺人はしてはならないこと。この矛盾が読者の心をふたつに引き裂く。

 あまりなラストに、胸が痛くてたまらなかった。これはある運命に翻弄され、暗い感情に抗うことができなかったひとりの少年の悲劇といえるだろう。ミステリという枠に入れる必要はない小説かも。

『戦闘妖精・雪風』☆☆☆☆(神林長平、ハヤカワ文庫)

 思っていたよりずっとラクにするする読めてしまった。彼の文章は歯切れがよく、一切の無駄がない。戦闘シーンのスピーディさ、簡潔さは臨場感にあふれ、実に爽快である。人物も非常に魅力的。

 舞台は近未来の地球。30年ほど前、ジャムという正体不明の異星体から攻撃を受けて以来、地球人は防衛軍を組織し、南極点にある通路を通過した未知の惑星フェアリィで戦闘を続けていた。

 そのはぐれ者ばかりの寄せ集めのような軍隊で、零は「雪風」という名の高度な電子頭脳を搭載した戦闘機に乗っていた。彼の指名は、ただ戦闘を記録するだけ。戦いには参加しない。たとえ、味方が全滅しようとも。零は、雪風以外のものを信じない。冷静沈着、というより心まで機械になってしまっているかのよう。

 この物語の中で、繰り返し問われるのは人間と機械との関係である。機械を作ったのは人間だ。が、機械はもはや人間の能力をはるかに超えてしまっている。機械とは、いったい何なのだろう?人間は、機械と言うものをどう把握し、どう距離を取ったらいいのか?友なのか、敵なのか?人間は、この戦いに必要な存在なのか?さまざまな疑問が次々に溢れ出す。

 よその惑星のなんとも奇妙でぞっとする描写、異星体との遭遇など、SFテイストたっぷりで楽しめる。人間描写も素晴らしい。「ぼくは…人間だよな」というセリフの、どうしようもない切なさ。

 ぽんと突き放したラストにも驚愕。ネタバレなのでこれは秘密。

 メカメカしたSFはどうも苦手、とおっしゃる方にもぜひオススメ。

『グッドラック』☆☆☆(神林長平、早川書房)

 上記の『戦闘妖精・雪風』の続編。といっても、なんと15年のブランクがあるのだ!確かに設定は前作のままなのだが、この2冊は全くタッチが違う。同じ著者とは思えない程。前作が歯切れ良く爽快な、テンポのSFだったのに比べ、こちらはどんどん自分の中へと思索を深めていくSFなのだ。まるで、「…とはなんぞや?」といった哲学の問題を解いてゆくよう。

 零のその後が語られるのだが、前作のように戦闘シーンが出てきて活躍するという描写はほとんどなく、むしろ体は動かず、心の中の葛藤を繰り広げると言った感じ。今回の戦闘の舞台は、彼や他の登場人物の頭の中、心の中なのだ。まず、零自身の心の変化、さらにはジャムと雪風の変化が物語をさらに複雑にしてゆく。

 人間と機械と異星体。この3つの関係を、著者は考えつつ考えつつ筆を進めている。

 これの続編が待たれるところ。神林さん、何年でも待ってます!

『永遠の仔』☆☆☆1/2(天童荒太、幻冬舎)

 ご存知99年一番の話題作。 内容は巷の評判どおり、児童虐待がテーマ。子供の頃、親によって心に深い傷を負った優希は、児童精神科のある病院に入院させられ、そこで二人の少年に出会う。彼らの過去と、17年後に再会してからの現在が、微妙に絡み合いつつ、交互に語られる。彼らが過去に犯した罪と、そしてそこから引き起こされる、現在の罪。

 なんかもう読んでてつらいことばかりで、ひたすら悲劇につぐ悲劇だった。誰も彼もが苦しみ、傷つき、落ちてゆく。が、なんといってもかわいそうなのは、なんの罪もないのに傷つけられる子供たちだ。大人に振り回され、でもすべて自分が悪いのだと心を痛め、どんどん自分を追い込んでしまう彼ら。大人たちのあまりの身勝手さ、鈍さに激しい怒りを覚える。

 「生きていてもいいんだよ」そのたったひと言をもらえなかったがために、ここまでどん底の悲劇が起きてしまうとは。人間がいかに脆く弱く、誰かの愛なしには生きてゆけない動物かというのがしみじみわかる。著者は児童虐待による悲劇をこれでもか、というくらい痛烈に描きながら、実は人間が生きてゆくために一番必要なものは何か、ということをじわじわとあぶり出しているのだ。それは、自分という存在を認めてもらうということだ。それだけのことが、いかに重いか。人間とはなんてさみしい生き物なんだろう!

 これはミステリというジャンルをはるかに超越した物語である。

 

特集 皆の99年ベスト1

  皆様からアンケートを取り、99年に読んだ本の中から新刊・既刊を問わず、一番面白かった本を一冊挙げて頂いた。ご協力して下さった方々、ありがとうございました。

★鬼女の都(菅浩江、祥伝社)

プロデビューを間近に控えた売れっ子女流同人誌作家が自殺を遂げる。京を
舞台にした王朝絵巻を得意とし、自らも京女の極致を演出していた彼女。
その死の謎を追う3人のファンを鬼の棲む都の化身である「ミヤコ」が襲う。
観光都市の愛想の下に潜む都の矜持が、川を逆流させ、餓鬼を召喚する。
千年の都の呪いを払うのは、小袖の赤か、三味の音か?
法月綸太郎:推薦文、京極夏彦:装丁、著者渾身の本格推理初舞台!!
やっと入手できた3年前の菅浩江小説。マイナー出版社の本は足が速くて
いけません。入手して初めて推理小説だという事に気がついた。うひゃー。
それも不可能趣味が盛り込まれた本格推理なので更に驚く。自分の得意な
京都と能と同人誌界を題材にとった著者の筆致は軽く、端役に至るまで見事
に命が吹き込まれている。名探偵役もキャラが立っており、凡百の新・新本
格作家との格の違いをみせつける。
解決は、まずこれしかないだろうというものであったが、実に読ませる!
これほど心からわくわくした小説は、久しぶり。京極の塗仏以来かな?
全体を能の序破急に見立てた構成といい、京都に関する知識といい、借り物
でない同人像といい、恐れ入りました。これは傑作です。もっと話題になっ
てしかるべき話です。是非文庫化されて、広く読まれるべき作品です。
あかん、もう、菅浩江の虜やわ。

お名前&メールアドレス:kashiba、kashiba@ann.hi-ho.ne.jp

サイト名:猟奇の鉄人

★宇宙消失(グレッグ・イーガン、東京創元社)

個人の認識が宇宙をも変えるという壮大なホラが
ガチガチなハードSF的理論と絡まって緊迫感あふれる物語に
なっているところが面白いです。

お名前&メールアドレス:wim(apuro@po1.dti2.ne.jp

サイト名:GROUND ZERO

★キリンヤガ(マイク・レズニック、ハヤカワSF文庫)

物語自体の吸引力もさることながら、読後、こんなにいろいろ
考えさせられる本もなかったのではないかというのが選択の理由の一つ。
もう一つは、銀河通信を覗いてなければ、手にとろうとは思わなかったであろうという点です。感謝。
なお、ベスト1の掟破りですが、考えさせられるという点でもう1冊、あえて紹介します。
坂上香「癒しと和解への旅」(岩波書店)。ノン・フィクションですが、解決のつかない
問題に取り組む旅にいざなう物語です。

お名前:MARI

★ソリトンの悪魔梅原克文、朝日ソノラマ)

上下巻、約800ページを一気読みしてしまいました。荒唐無稽すぎますけどとにかくおもしろい!

極大射程と思いましたけどあえてSFものにしました。

お名前&メールアドレス:アクセル asahina@tctv.ne.jp

★ハイ・フィデリティ(ニック・ホーンビィ、新潮文庫)

あえてSFでもミステリでもホラーでもないものにしてみました(笑)。
他にも面白い本はたくさんあったけど、何度も読み返したくなるという点で本書に軍配。
「男は情けない生き物」という事実を不幸にして未だ悟ってない女性に、是非とも読んでいただきたい!
情けないながらもけっして湿っぽくはならず、自分の弱さを笑える男の生き様を楽しむべし。
音楽、映画などのポップカルチャー入門書としても最適。
訳者:森田義信の軽妙な訳に酔って一気読み必至! 巻
末の「ほとんど注解に終始する訳者あとがき」は、
親切かつ丁寧かつお得感大。この内容でこの値段は絶対安い! もっと売れろ!

お名前&メールアドレス:かわかみ、huckfinn@rr.iij4u.or.jp

サイト名:Huckfinn Rocket Punch (http://www.rr.iij4u.or.jp/~huckfinn/)

★危ない飛行機が今日も飛んでいる 上・下  メアリー・スキアヴォ  草思社)

     ノンフィクションから選んでみました。
              飛行機(軍用機)は好きなのですが、乗るのは(民間機)苦手です。
              航空機、航空会社、人名がすべて実名なので凄まじいほどの説得力が
              有ります。コスト削減競争の裏側が暴露されて、規制緩和が利用者の
              利益(命にかかわる事)に反したケースが、よく理解できます。

お名前&メールアドレス:draken(draken@lib.bekkoame.ne.jp)

★アラビアン・ナイトメア(ロバート・アーウィン、国書刊行会)

アラビアの悪夢という病がはやるマムルーク朝末期のカイロ。
特別な使命を帯びてキリスト教巡礼団に混じってやってきたイギリス人青年の周囲で起こる異様な事態。
カイロのまちを跳梁する猫の父や語り部ヨル、その他諸々の妖しげな人物。渦巻く陰謀。
幻想と現実が入り乱れ、過剰にして猥雑、逸脱し続ける語りが横溢し、
饒舌にして諧謔味さえも帯びた複雑な入れ子構造をもつ本作は、
まさしくカルト・ファンタジーの名に恥じない超傑作・怪作でありました。
『ゴーメンガースト三部作』『ムントゥリャサ通りで』『マルコ・ポーロの見えない都市』
「シンバッド第八の航海」等が好きな人には
自信を持ってお勧めできる作品です。

お名前&メールアドレス:今松泰 959d716h@ipc.kobe-u.ac.jp

サイト名:2月31日荘

★大西洋漂流76日間(スティーブン・キャラハン、ハヤカワ文庫)

お魚に、手をあわせて食べてます。

お名前:ネコネコ

★ななつのこ(加納朋子、創元推理文庫)

旧刊もいいということで、「永遠の仔」を押し退けてこれがベストです。
この清涼感は何ものにも変えがたいですネ。

お名前&メールアドレス:YOSAKOI@そらーん、Noanoa11@aol.com

★クリスタルサイレンス(藤崎慎吾、朝日ソノラマ)

これです!
国内ハードSFを読んだ後、スッと頭の中に入ってきて、
何とも言われぬ気持ちになったのは久しぶりです。
帯に嘘無しでした。
突っ込もうと思えば、あることはあるんですけど、
そんなことは無粋者のすることだと言える、
透明な質感を持った作品です。

お名前&メールアドレス:さえずり&hafie@pf.highway.ne.jp

★公共考査機構(かんべむさし、徳間文庫)

1999年のベストSFであると同時に、ホラーとは別の意味の怖さを感じさせてくれた小説。
民主的な装いを持った公共考査機構が人々の意識を統制していく。その機構に、
反乱分子としてにらまれた主人公がどのように立ち向かっていくのか、あるいは挫折するのか?
インターネットなどが出現する以前の小説なので、古さが感じられない訳ではないが、
その本質的な部分は十分に響いてくる。そんなに長くなくて、キレがあって、設定を十分に
活かしているのが好ましい。
なお、次点には『アフロディーテ』山田正紀。時の流れがせつ ない青春SF。

お名前&メールアドレス:秋山 粒志&hs4003ar@ex.ecip.osaka-u.ac.jp

サイト名:http://osaka.cool.ne.jp/ryushi/(全部消えてしまったので 、復旧はしばらく御待ちを……)。

★深夜特急沢木耕太郎、新潮文庫)

すべてが衝撃でした。このひとことの他には何も言えません。

 お名前&メールアドレス:夜合樹:yaaiju@geocities.co.jp

 サイト名:夜ヲ歩ク

★巷説 百物語(京極夏彦、角川書店)

キャラクターたちの見事な江戸っ子振りがたまらない。
あの独特の空気や、世界に浸かりたくて、ちびちびと読み返しています。
そういう風に感じる作品は珍しいので、今年のベストかも。

お名前&メールアドレス:カネコミワ tsi-mwa@zf6.so-net.ne.jp

★星の陣(森村誠一、角川文庫ほか)

お馬鹿な作品を選んでしまってスミマセン。
しかし、爺ィリベンジものとしては最高傑作。
しかもさすが社会派、老人問題の扱い方もGOODです。
若人よ、ここに登場する老人達よりもパワフルに生きていますか?

お名前&メールアドレス:u-kiです。 mail:gates@hate.club.or.jp

サイト名:私立東鳩学園分校No.6

★日光鱒釣紳士物語(福田和美、山と渓谷社)

今年最後の最後に読んだ(30日)。年老いたら時代小説を書こう
と考えていて、そのためのネタとして長年、資料を集めていたのに、先を越され
てしまった。ただノンフィクションで、小説ではないので許されるだろう。
内容はトーマス・グラバーは日本で最初のフライフィッシャーだという話。

お名前&メールアドレス:浅暮三文 asagure@interlik.or.jp

サイト名:浅暮魂

★図鑑少年(大竹昭子、小学館)

エッセイのような、小説のような。
絶対ないと思っても私の身近でも起こってそうな、
そんな不思議な短篇集です。
本の装丁なんかも素敵です。

お名前&メールアドレス:吉田美由紀 miy-y@cat.email.ne.jp

サイト名:http://www.ne.jp/asahi/snowm/cafe/

★題名:脳のなかの幽霊(V.S.ラマンチャンドラ サンドラ・ブレイクスリー、角川書店)

脳の不可思議さを探ろうとする本。エキサイティングでわくわくします。

お名前&メールアドレス:青木みや live@sam.hi-ho.ne.jp

サイト名:Life and Diet http://member.nifty.ne.jp/live/

★偏執の芳香(牧野修、アスペクト)

一番、というわけではホントはないのですが、
去年はホントにマイ牧野修イヤーだったので。イチオシ、
ということで。

お名前&メールアドレス:給仕犬 fwkd3301@mb.infoweb.ne.jp

サイト名:ぬーべる・給仕犬の隔離病棟 http://village.infoweb.ne.jp/~fwkd3301/

★ブルーソルジャー 蒼き影のリリス(菊地秀行、中央公論社)

誰が何て言おうとリリス様です〜

お名前:ざっぱー

★バトル・ロワイアル(高見広春、太田出版)

こんなにたくさん人が死んでいるのに、
こんなに読後感が爽やかな本は初めてかも。

お名前&メールアドレス:凍月<wbs45442@mail.wbs.ne.jp

サイト名:今宵、月の裏側で。 http://www2.wbs.ne.jp/~tsukiura/index.htm

★順列都市(グレッグ・イーガン、:ハヤカワ文庫)

まちがいなく、99年最高のハードSFです。

お名前&メールアドレス:森太郎 / taro@penguinsbar.com

サイト名:森太郎のサイト / http://hp.vector.co.jp/authors/VA005631/

★オレンジ党と黒い釜(天沢退二郎、筑摩書房)

 『光車よ、まわれ!』(ちくま文庫)で有名になった日本のダークファンタジーの
第一人者による新たなシリーズ。われわれの身近に潜む不思議を光と闇の戦いという
形で表現した大傑作。子供たちの心の動き、不思議な老人の存在などに惹かれること
請け合い。現在書店で入手できないのが非常に残念である。

お名前&メールアドレス:tmizo@blue.ocn.ne.jp(MZT)

サイト名:書物の帝国

★オルガニスト(山之口洋、新潮社)

謎のオルガニストは誰か。音楽への思いの描写、アイデ
  アの着想、ラストの持って行き方すべて秀逸!

お名前&メールアドレス:田崎 聡  sataz@po.teleway.ne.jp

サイト名:1B3C http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Ocean/5256

★死の記憶(トマス.H.クック、文春文庫)

あまりに当たり前過ぎて、おもしろくないチョイスになってしまいましたが、
ラスト10ページの静かな感動は、今まで、クックってちょっとなー、と思っていた私にさえ、
クックってやっぱりすげーよー!と断言させてしまうほどのものでした。

お名前:biogon

★火星のプリンセス(合本版第1集)(E・R・バローズ、東京創元社)

         懐かしさだけではなく、本当に面白かった。
         東京創元社はこの本をもっと大々的にPRすべきだと思う。

お名前&メールアドレス(よろしければ):慎吾 singo@mxb.meshnet.or.jp

★屈辱ポンチ(町田康、文藝春秋)

あまりに文学的な作家が唐突に出てきて面食らっています。面白かった。

お名前&メールアドレス:相澤 健一ken-a@tkf.att.ne.jp

サイト名:http://home.att.ne.jp/green/cuctus/

★プリズム(貫井徳郎、実業之日本社)

  「毒入りチョコレート事件 / アントニー・バークリー」が
  大好きなぼくにはたまらない作品でした。さまざまな推理が
  つぎつぎと繰り広げられる楽しさったらもう。
  ラストの推理で示される作品全体の円環構造も見事です。

  正直ゆって、あとがきが蛇足っぽい気がしないでもない、
  というか、あとがきで示される作者の意図するところは
  謎のままのほうが面白かったような
  気はするのですが、本編は大好きでした。1999年の一押しです。

お名前&メールアドレス:くろっくはち hachi@rr.iij4u.or.jp

★甦る帝国(上下)グレッグ・アイルズ、講談社文庫)

       処女作にして、これだけの完成度。凡百のネオナチ物は足元にも
       及ばぬ作品。敵味方のキャラクターの魅力と深み、錯綜するプロッ
       ト、アクションの切れ味と迫力、小さなエピソードの小気味良さ。
       我が国で先に出版された『ブラック クロス』『神の狩人』の素晴
       らしさは、本書を読めば十分期待できると思う。
       今世紀のどん詰まり、天才の出現を確信させてくれた一冊。一人でも
       多くの人にお勧めしたい。

名前&メールアドレス:カール・リヒター  BXE04634@nifty.ne.jp

★題名:スポーツとは何か(:玉木正之、講談社(現代新書))

一見繁栄しているように感じるスポーツの世界だが、日本においてのスポーツの位置とか
将来の考え方は決して明るいことばかりではない。
学校教育の一環という歴史的背景や企業の金儲けの材料としてのスポーツはあっても

「スポーツ文化」となると悲しい現実なのです。
今でこそ盛り上がっている野球だけど、その将来を考えたビジョンとなると
サッカーとの差はものすごいことも一例として出てきます。
著者の25年間のスポーツライターとしての思いをぶつけた一冊です。
この本に書かれていることを広めたいです。
もっとも本屋さんならば、スポーツが盛り上がっていてもスポーツの本が売れてないことで分かりやすい話ですね。
私が思うに「スポーツ」の部分が「本」の世界にもそのままあてはまるような気もしてるんです。

お名前&メールアドレス: 鳥海忠之

★六番目の小夜子(恩田陸、新潮社)

        こんにな切なく美しい物語が他にあるだろうか。
        (学園祭での体育館のシーンの見事なこと)
        全編、素晴らしいの一言です。
        私にとって99年というより90年代ベスト5に
        入る作品でした。
        
名前&メールアドレス:SHOW−T stashiro@rose.ocn.ne.jp

★恋愛中毒(山本文緒、角川書店)

本当は、小説だったら島田雅彦の「自由死刑」かなあ、なんても
思っていたのですが、やはりこの方のこの作品のインパクトは相当なものでした。
最後の場面でガツンとやられたという感じ。
林真理子も女の嫌らしさを描くのがうまい人だといわれますが、彼女との違いは
「自覚しているか、いないか」なのではないかと思います。山本氏は、自分も含
めて「女なんてどろどろと嫌らしいやつなんだ」ってことを、嫌と言うほど知っ
ている。林氏は、三枚目のエッセイがもてはやされていた頃は分かりませんが、
今の彼女はどう見ても「自覚していない嫌らしい女」だと思います。周りのこと
はよく見えるのに。
 そして、この本が「山本文緒は本物だ」と本当に感嘆する作品となったのでした。
 でも、これだけ読んだ中の一冊って、どうしても悩んでしまいますね。ノンフィ
クションだったら「ちびくろサンボよすこやかによみがえれ」と「妊娠小説」ですね(笑)。

お名前&メールアドレス:りなりな(rina@bremen.or.jp)

サイト名:Rina's Room(http://www.bremen.or.jp/rina/)

★透明人間の告白(H・F・セイント、新潮文庫(上下巻)

ューヨークの証券マンがある日、偶然巻き込まれた事故で
「透明人間」になってしまう。昔のTV番組のヒーローみたいな活躍は望めな
い。彼には普通の生活すらままならぬのだ。だって透明な消化器官の中で
食べ物が消化されていくところがはっきり見えるのだから。彼を捕まえてス
パイか実験材料にしようとする政府機関との攻防も息を呑む。残念ながら
廃刊となったが、最高に面白い傑作SFだと思う。
インターネット「ふるほん文庫やさん」でやっと!手に入れて、読むことが
出来た作品。本当に面白かったなあ。

お名前&メールアドレス:ヒゲうんちく higeun@mail.goo.ne.jp

サイト名:ヒゲうんちくのよせ鍋フォーラム
  http://www5a.biglobe.ne.jp/~yosenabe/index.htm

★鉄(くろがね)コミュニケイション秋山瑞人、電撃文庫)

  同じ作者の「E.G.コンバット」シリーズは読んでいても、コミックのノベ
  ライズである本作品は読んでいない人が多いと思う。
  コミックの設定を使っているが話自体はオリジナルストーリーである。
  (この事で、本作品はかなり損をしていると思う。)
  戦争で人類が死滅した世界で、5体のロボットにコールドスリープ中の所
  を発見された少女ハルカは発見したロボット達に守られて暮らしていた。
  ある日、彼女たちは自分と同じ外見をした少女型ロボットと軍用戦闘ロボ
  ットのコンビと出会った。
  彼女たちとハルカとの関係は何か?と言った所で物語は進んでいきます。
  物語世界の構成が上手く、細かな設定が話の中できちんと生かされています。
  ロボットに育てられた少女が、自分がロボットでは無く人間である事にコ
  ンプレックスを持っていると言う描写が新鮮でした。(この設定が物語の
  終わり付近で1つのエピソードとして生かされています。)
  けなげなロボットが出てくる作品(菅浩江の「カーマイン・レッド」や
  「そばかすのフィギュア」等)が好きな人にはお勧めです。泣けます!

お名前&メールアドレス:山崎 r-man@din.or.jp

★復刊しろー!ベスト1:
 天沢退二郎 『光車よ、まわれ!』『闇の中のオレンジ』、『オレンジ党と黒い釜』、
『魔の沼』、『オレンジ党、海へ』
以上筑摩書房
 絶版にしておくとは出版社の風上にも置けないぞ筑摩書房。反省するように。

★出会えて良かった!ベスト1
 寮美千子 『ノスタルギガンテス』 パロル舎
 まだ会っていない人も今年は寮美千子に出会えますように。

★そっと心の中で大事にしたいから布教しない!ベスト1
 梨木香歩(でも掲示板やMLで梨木香歩と聞くとつい顔を出してしまう)

★日本のSFもすごかった!ベスト1
 神林長平 『戦闘妖精 雪風』+『グッドラック 戦闘妖精雪風』 
  ハヤカワ文庫SF & 早川書房
 これは二つで一つで勘弁して下さい。それとSFとは何ぞやという類の突っ込みは
ご無用に願います。
 海外SFばかり読んできた私がほとんど初めて読んだ日本のSFです(星新一とか
小松左京などは除く)が、
 日本SFに対する認識を新たにしました。 

お名前& ニム

サイト名:ニムの木かげの家

★エンディミオンの覚醒ダン・シモンズ、早川書房)

リーズ全部を考えれば、90年代のベストといってもよいと思います。

お名前&メールアドレス:kochi KITA041417@dt.sanyo.co.jp

★星降り山荘の殺人 (倉知淳、講談社文庫)

 いまさらながら〜ですが!素直に騙されました。
トリックが明かされた時、「ああ!そうだったのか!あそこか!!」って素直に
納得しました。初め読み出したときはへぼへぼっぽい(失礼!)小説やなあ・・・
と思ってたんですが、ところがどうして!!おもしろいじゃ〜ないですか。
あ〜あたしの趣味って極端だなあ・・・。

お名前: あおきぶちょう

★長い長い殺人(宮部みゆき、光文社文庫)

2回読みました。
人物より、語り手のサイフの個性が出ていて面白いです。
今まで読んだ宮部作品の中で一番読みやすかった。

お名前:星野久美子

★題名:スコッチに涙を託して(デニス・レヘイン、角川文庫)

普段読まないジャンルですが、ある雑誌で絶賛されていたのでためしに読んでみたら、
もう文句なしに面白かった。特にヒロイン(という言葉は似合わないけど)が魅力的で、
かっこよかった。

お名前:大竹百代

★バトルロワイヤル(高見広春、太田出版)

実は私の頭が「Y2K」を起してしまい、
去年なにを読んだか、記憶が無い(バックアップを
取っていなかったもので・・・。)唯一覚えているのが、
この作品、という事はこれが一番だって言う事で。

 この作品はなにが良いかというと、著者の若さが溢れていて
その初々しさが、すごく嬉しい。
読者に若さを届けてくれるようなそんな気がするところかな。
「話」を書く事に一生懸命になっているひたむきさが、久々の感覚。

 内容にしても、今の日本に対する若い疑問が織り込まれていて、
大人はそのことに目を背けていることを痛感する。
本当に久々の傑作です。次の作品が楽しみ。

 これを映画化にするという話があるが、そんな陳腐な計画は是非
中止にして欲しい。金儲けの材料にして欲しくない。
純粋に読む楽しみを感じて欲しい。

お名前:和泉沢まゆみ

★精霊の木(上橋菜穂子、偕成社)

児童書のジャンルにおかれますが、大人が読んでも満足できる作家の作品です。
あいにくこの人の本は現在出版社でも品切れになってるかもしれませんが、
他の『精霊の守り人』や『闇の守り人』もおすすめです。

お名前:久保木敬子

★ねじれた町(眉村卓、ハルキ文庫)

「断言しよう。本書『ねじれた町』は、眉村ジュヴナイルSFの最高傑作である。」との瀬名秀明解説に、
思わずうなづいてしまうイキオイを持つ魅力的な作品です。

名前:ダイジマン

サイト名:銀河通信オンライン

★題名:バトル・ロワイアル(高見広春、太田出版)

この本を読んでる間じゅう、私の心拍数は上がり、体温は上昇し、血液の循環速度は
通常の1.5倍ほど速くなっていた。今思い出しても感動に心が震える。
誰がなんと言おうと、これは生と死、愛と友情を描いた世紀末の大傑作です!

名前&メールアドレス:安田ママ y-mama@mug.biglobe.ne.jp

サイト名:銀河通信オンライン

 

ダイジマンのSF出たトコ勝負!

 あれよあれよと2000年。ぼくらはSFの時代にいるんだね。アァ、長生きは三文のトク>違います。あいも変わらずまだまだ続く、出たトコ勝負を今年もヨロシクゥ!!

 何事も最初が肝心と言うけれど、イキナリ前号の積み残しだ(笑)。

 バローズを中心とする、創元推理文庫の大攻勢に応戦するため(!?)設立されたハヤカワSF文庫だが、そこでもメインはやっぱりバローズ! その紹介のハイペース振りを前回チェックしたが、長田秀樹さんから頂いたご指摘(感謝!)により、見落としていた事実が判明した。通巻101番からスタートするハヤカワSF文庫特別版《TARZAN BOOKS》(後のハヤカワ文庫特別版SF)だが、実際の刊行開始時期は、本筋のSF文庫がまだ35冊の時点だったというのだ! すっかり忘却の彼方になってたけど、そういえば…。早速、確認だ。

 ハヤカワSF文庫の創刊が最初に読者に予告されたのは、〈SFマガジン〉1970年7月号(135号)である(以下全て同誌より。なお実際の発売月は表記と異なるので注意)。

 二代目編集長、森優(南山宏)による「日本最大のSF専門出版社を自負する当社が贈る新しいシリーズ」との巻頭言に後押しされ、7月発刊予定のそれは姿を現した。翌8月号では「7月下旬よりいよいよ発刊」と、第一回配本5作品のラインナップも公表。同号には大伴昌司「SFファンのための万国博ガイド」(大阪万博)や、「国際SFシンポジウム趣意書」も掲載されている。つまりはそういったアツい夏であり、森優の編集者生命を賭けた新企画が、ものの見事に呼応したのだった。

 9月号の時点で「8月中旬より」と若干の遅れが見られたが、無事に発刊、大反響を巻き起こす…。

 《TARZAN BOOKS》発刊の告知は、1971年5月号(146号)を皮切りに、これぞ真打ち登場!と思わせる派手な姿で読者の前に現れた。「それはSF編集部が総力をあげて、全SFファン、冒険小説ファン、バロウズ・ファンにおくる本年度最大の企画!」「それは世界大衆冒険小説史上、永遠不滅の光に輝く最高最大の遺産として、全世界を熱狂させつづけてきたヒーロー中のヒーロー!」と大変な鼻息で、自ら「壮挙」と評す程。ぼくが前号で書いた「鳴り物入り」というのは、嘘じゃないのだョ。

 この5月号では「7月より毎月一冊刊行」だったのが、8月号(149号)から「8月より毎月一冊」となり、最終的には隔月刊行へと推移していく。が、なにはともあれハヤカワSF文庫特別版101、《TARZAN BOOKS》第1回配本『類猿人ターザン』は、ハヤカワSF文庫35『栄光のペルシダー』(これまたバローズだ)に続いて世に出たのであった。

 さて、そうなると文庫の通巻番号から読み取れる情報より、バローズ紹介の集中度に関しては、事実の方が遥かに凌駕していたことになろう。これはもはや尋常ではない。日本の翻訳出版史上、かような怒涛の勢いで紹介が進んだ作家は、空前にして絶後なのではあるまいか? しかも遠く1950年に没した作家、つまりは全てが旧作だというのに。バローズ・バブルとでも表現する以外になさそうである。

 実は1960年代後半〜70年代にかけて、東京創元社、早川書房の二大SF専門出版社のほかにも、児童書も含めればそれこそ各社から、バローズの特定作品が繰り返し刊行されていた。残念ながらぼくの今の力ではとても全貌が掴めないが、代表作のみに片寄らない紹介を続けた点が“専門”たる所以だし、今また復活を遂げている点で、決して内実の伴わないバブルじゃなかったとだけは言えよう。って、前振りのつもりが…以下次号にて。

 

あとがき

  心配していたY2K問題もたいしたことはなく、無事に2000年を迎えることが出来て何より。今私たちは未来と呼ばれた時代に生きてるのですね。(安田ママ)


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