29号 2000年2月
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初出は78年から94年という幅の広さ。「BUBBLE GUM REVOLUTION」なんて、まー10年以上前になっちゃうのか! このあたりが彼女の分岐点なのかな?
軽い浮わついたコメディタッチの作品はこの頃を境にして影をひそめ、やがてもう少し大人っぽい恋愛モノの作品が書かれるようになる。
彼女の描くコメディも、それはそれで悪くはないんだけど、ワタクシ的にはこの選集の後半に掲載されているような、胸がきゅっと切なくしめつけられるような短篇のほうがずっと好きである。
ストーリーとしては他愛ないものである。でもひどく印象的で、一度読んだら忘れられない。なんともいえない微妙な感情が、元オンナノコ(笑)のツボを突くんだよなあ。
倦怠期に入ったカップルの女の子。デートをすっぽかすが、やっぱり気になって待ち合わせ場所に急ぐと…(「途中下車」)。久しぶりに田舎に帰ったら、ばったり出会ってしまった、昔好きだったアイツ。彼女が都会でつきあっててつい先日別れたのは、その兄だった。別れてしまったホントのわけは…(「白い帽子の夏」)。中でも一番好きな話は「PARK」かな。いまどきの女子高生と、その子にゲイと誤解されてる小説家の、なんだか妙なカンケイとその恋の行方。こういう路線、もっと読んでみたいな。今後に期待!
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創元版『武部本一郎画集』は、全102点(内カラー70点)を収録。同社文庫を飾った作品の鮮明な画像に加え、『ガリバー旅行記』など児童文学の仕事の側面も伝える。巻頭には栗本薫、加藤直之、野田昌宏が、巻末には厚木淳がそれぞれ寄稿している。どれもが印象的な、実に良い一文である。
早川版『武部本一郎画集』は、全112点(内カラー53点、二色刷3点)を収録。巻頭は野田昌宏、巻末には生前親交のあった中山知子の文章を収めている。内容はハヤカワ文庫等を飾った作品を中心に、他社のSF作品や児童書からも渉猟しているが、編集に関して若干不満が残る。モノクロページではデッサンも収録し、創作の過程を知る上でも興味深い。また武部画伯自ら、父と伯父の残した不思議な写生帖について記した画文、「洞人挽歌」が異色である。この2冊の限定版に重複は一切無く、どちらも武部ファン必携であろう。
最も早く纏められたのが、岩崎書店《武部本一郎SFアート傑作集》である。画伯の没後間もなく企画出版された画集だけに、追悼としての意味合いが色濃く表れている。最大の特徴は、全店カラー作品のみにて構成されていること。その他には長文の解説が挙げられよう。ことに第1・2集は、付された作品ごとにコメントを加えるという詳細なものである。
第1集『火星の美女たち』は全46点収録。創元文庫版《火星》《金星》《ペルシダー》の三大シリーズ表紙・口絵から成り、解説は野田昌宏。第2集『月下の魔女たち』は全39点収録。同じく創元文庫を中心に、久保書店や岩崎書店の表紙も含む。解説は厚木淳が担当。第3集『宇宙の騎士たち』は全34点収録。創元文庫に岩崎書店のSFジュヴナイル、それと実業之日本社の児童書などで構成されている。加藤直之が解説を担当。巻末に特別収録された、武部夫人・鈴江さんの「絵のほかのこと」には、何度読んでも熱いものが込み上げてくるのを禁じ得ない。
この岩崎書店版は、羨まし/悔しがられるだろう、幸運な巡り会わせの贈物である。ふと思い立って、当の岩崎書店に電話してみたのだ。応対したのが、この画集を覚えているくらいベテランの方だったことも味方した。「う〜ん、無いと思いますけど、一応確認してみますよ」との有難いお言葉。たとえ無くとも素晴らしい親切さに感謝しつつ、はやる気持ちに宣告が。ハレルヤ! 在庫あったぁ!!
オッと、もう遅いゼ諸君。なにしろ社内在庫最後の一組(!)だったんだから。これ、98年夏のお話。
この際、驚くべきことを告げられる。
「3冊を納めるケースが有るのですけど、カドの所が擦れていたりして、ちょっと見栄え悪いんですよ。付けない方が良いですか?
いかがなさ「いえ、付けてください!」
即答、実に早かった(笑)。
そもそも、セット函が存在するなど全然知らんかった。それは欲しい。よくある完結後のセット販売用なのだろう。畏るべし、児童書出版社! それにぼくの仕事柄よく解る。運搬のため大きなダンボール箱に詰められた本が、まして画集のような定形外のサイズなら尚更、いかに傷付いてしまう危険性を孕んでいるかを。なにしろ最後の一組だ。万に一つであっても、危ない橋を渡りたくないではないか…とか、モロモロが0.021秒(公式記録)で駆け巡った結果の発言であった(笑)。
私見を述べれば「SFアート」と銘打っているだけあり、岩崎版が最も充実していて断然のオススメ! 限定の創元版や早川版より見掛けない気がするが、チャンスがあれば即決するべし。ちなみに岩崎版は創元版と多少被るが、早川版との重複はありません。
ひとつオマケでご紹介。『アポロ月へいく』は武部本一郎の手掛けた、いわゆる“飛び出す絵本”。打ち上げから帰還までを追ったページごとに、浮き上がった画の矢印を動かすと…と楽しさ満点! ださこん2のオークションで入手したんだけど、いやあ、いい買い物させていただきました。おお、これも岩崎書店ですな。
武部画の本を集めてる人って、密かに多いのでは? 1000点を越すと言われるそれらの本のうち、せめてSFの文庫くらいあってもいいな、なんてぼくも思ってみたりする。険しくも素敵な道程…。
画集を鑑賞し証言を読むと、少しだけ、今まで知らなかった武部画伯の姿が見えてくる気がした。バラがお好きで、熱心に栽培なさったという。コンテストで賞を受けるほどに。自分の一度完成した作品も、ためらわずに手を入れる方だったらしい。少しでも良かれと思って。そういった作品を、鈴江さんに見せる姿が思い浮かぶ。
若かりし頃、京都新聞社賞かなにかを受賞したことがあった。とはいえ名誉は得たが芸術家の常で金に苦労し、新しいカンバスが買えない。しかし激しく燃え盛る創作の意欲押さえ難く、とうとう栄えある受賞作を削り取り、そこに描いて渇を癒した…。これは厚木淳が直接伺った忘れ得ぬ話として伝えるエピソードだが、その時画伯は、今にして思えば惜しいことをした、と長嘆息なさったという。あなたは、画家武部本一郎に、どんな感慨を抱くのでしょうか。
あとがき2月あたまにひいた風邪がまだ治らない。うーむ、治癒能力が低下してるのだろうか?(笑)梅も咲き始めたし、春はもうそこまでだというのに! (安田ママ) |