32号                                                           2000年5月

 

 

書店員はスリップの夢を見るか?

  最近、どんどん新刊本が新古書店に流れるペースが速くなっており、新刊書店に勤める身としては、脅威この上ない。新刊が出るのとほぼ同時といっていいくらいに、ブックオフに本が出回るのだ。しかも半額ほどの値段。ネットやひとに聞くたび、へなへなしてしまう。

 困るのは、この事態を誰も責められないし止められないことだ。誰だって、同じくらいきれいな新刊が半額で売ってれば、そちらを買ってしまうだろう。私だってそうだ。お客がいれば商売は成り立つ。ブックオフに文句は言えない。

 さて、ではいったい新刊書店は、これにどう対処したらいいのか。となると、あまりに基本的なことだが、「丁寧な品揃え」しかないだろう。書店員が勉強して商品知識をつけること。これしか道はないように思う。が、今、書店は深刻な人手不足で棚に手がかけられないというジレンマ。ああ。

 

今月の乱読めった斬り!

『言壷』☆☆☆(神林長平、中公文庫)

 第16回日本SF大賞受賞作品。神林長平の永遠のテーマである「言葉」にとことんこだわった、非常に彼らしい短篇集。実験小説ともいえるか。

 ワーカムは、それを使う人間の言語感覚をすべて把握し、その著述を支援してくれるネット兼用マシンである。人間にいろいろ質問し、それに答えると「あなたの考えてるのはこういうことか」と、その人テイストの文章作成までしてしまうという、ある意味非常に便利な機械なのである。このワーカムと人間との関係をいろいろな症例をもとにあぶり出したのが、この9つの短篇である。

 「言葉が世界を作っている」という著者の主張が、この物語を読むとよくわかる。私たちは、言葉という概念によって、この世界を把握し、理解している。ということは人間の社会は、まさしく言葉によって成り立っているのだ。言葉の定義が代われば、世界も変わってしまう。「綺文」や「戯文」のラストの、くらんと世界がひっくり返るような感覚!これはまさしくSF的感覚である。

 最初は何気ない話なのだ。まっすぐな糸のように。が、進むにつれていつのまにか糸はもつれからまり、最後にはわけがわからなくなって頭がくらくらする。著者は迷宮に読者を置き去りにしたまま、物語の幕を閉じる。

 難解な話もある。が、それを無理に理解しようとせず、あいまいなまま、このくらくら感を楽しめばいいのだ。なぜなら、人間は機械(ワーカム)と違って、こういったファジーなものをファジーなまま認識するということができる稀有な存在なのだから!

『ネバーランド』☆☆☆☆(恩田陸、集英社近刊)

 ジャンルで言うと青春小説か。冬休み、家に帰らず寮で過ごすことを余儀なくされた3人の男子高校生プラス1。これは、彼ら4人の冬休み初日から大晦日までの7日間をつづったものである。

 ミステリアスなタッチが『六番目の小夜子』を連想させる。が、主人公が少年達なので、『小夜子』に比べ、こちらはどこか爽やかである。登場人物が少年ばかりというところや小さいエピソードなどに、背後にどこか耽美っぽい雰囲気が見え隠れするのが興味深い。

 頭も性格もよく、人望もある彼らは、実は心に誰にも言えない深い闇を抱えていたことが徐々に明らかになってゆく。青春の光と影。光が鮮やかであればあるほど、その影は濃く深い。でもその闇に押しつぶされたり歪曲したりすることなく、必死に戦っている。そのひたむきさが愛しい。

 大人によって傷だらけにされた少年達が肩よせあって生きるこの寮こそ、大人が踏み込むことのできない聖域、ネバーランドそのものなのである。ほろ苦いが、なぜか読後感は爽やかな青春小説。

『月の裏側』☆☆☆☆1/2(恩田陸、幻冬舎)

 この小説の中にも堂々とタイトルが出てくるのだが、これは恩田版『盗まれた街』(ジャック・フィニィ)である。わからない方には、「侵略SFモノ」と説明しておけばご理解いだだけるだろうか。が、本家をはるかに越える鳥肌ものの恐ろしさ。これが梅雨時に発売されなくて本当によかった。もし、雨のじとじと降る、蒸し暑い晩などに読んでしまったら…おそらく、まんじりとも出来なかったに違いない。 

 舞台は、箭納倉という水郷都市。街じゅうに、水路がはりめぐらされている。事件はその街で起きた。一年で、三人の老女が失踪し、またひょっこり戻ってきたというのだ。が、失踪中の記憶はない。堀に面した家に住んでいた彼女らに何が起きたのか?事件に興味をもった協一郎、藍子、多聞、高安の4人は、この事件を調べ始める。すると、信じられない事実が浮かび上がってきた。協一郎の飼い猫、白雨のくわえてきた物体は…。

 いつも思うのだが、恩田作品の魅力は、物語全体を覆う空気である。この作品でも、如実にそれは表れている。自分が、すっぽりこの本の街の中に入ってしまったのかと錯覚を起こしさえする。どこもかしこも水に囲まれた街。地方都市の、真っ暗な夜の雨。街角を彷徨う猫。雨の午後、図書館にすうっと入ってきた何か。恩田陸の情景描写は理屈ではない。肌感覚なのだ。文章を頭が理解するのではなく、全身の五感が、この描写を肌で感じ取っている、といった感じ。読後の今でも、まだ自分があの梅雨の夜の中にいるような気がする。

 そして、この空気の中に、徐々に恐怖の色合いが濃くなってゆく。えもいわれぬ恐怖がじわりじわりと肌に迫ってくるのだ。全くわからない未知のもの。それが街を覆ってゆく。街の人間を…(これ以上は書けません!読んで下さい!)。もう、ラストまで一気読み必須!最後まで読んだら、あなたはこの夏、雨の夜には決して窓を開けて眠ることはできないだろう。もっとハマってしまった方は、長靴を用意せずにはいられないかもしれない。

『ハンニバル(上・下』☆☆☆☆(トマス・ハリス、新潮文庫)

 あれは去年の秋か冬だったと思う。風の噂に、かの有名なサイコ・スリラーの傑作、『羊たちの沈黙』の続編が出る、という話を小耳にしたのは。おおっ、それは読まねばなるまい!なにせ、『羊〜』がとても面白くて、グロが苦手な私をして『レッド・ドラゴン(上・下)』さえ読破させるに至った、かのトマス・ハリスの11年ぶりの新作とくれば!そして、ついについに、今年の4月11日、日本中の本読みびとが待ちに待った、『ハンニバル』が発売されたのであった!

 結論から言おう。お、お、面白いっ!さすがトマス・ハリス、待ってたかいがあったというもの。しょっぱなから読者をいきなりひきずりこむ導入部といい、もうあっという間にあなたはこの本の虜になること、確実である。思わずこちらまで息が荒くなるような、緊迫の展開、また展開!

 今回の主役は、タイトルの通り、あの猟奇の天才「ハンニバル・レクター博士」である。と、FBI特別捜査官の「クラリス・スターリング」。そして脇役として最も重要なポイントを占めるのは、レクターに対し、世にも恐ろしい復讐を企てる「メイスン・ヴァージャー」である。

 …と、未読の方はここまでね(笑)。これ以上の知識は、この本を読む前には不要です。情報白紙のまま、どうぞこの傑作をお読みください。なぜなら、これは怒涛のストーリー展開と、○○のラストが醍醐味ですので。とにかく、買って、読んで損はありません。ぜひご一読を。ただし、その結末については賛否両論のようですが。(老婆心ながら申し上げますと、『羊たちの沈黙』と同じテイストを期待しないほうが吉かと。)

 

特集 SFセミナー2000レポート

 5月3日(水)、ゴールデンウィーク真っ只中、東京の全電通労働会館において、今年も「SFセミナー」が開催されました。私にとっては2度目の参加でありました。

 1.「角川春樹的日本SF出版史」出演/角川春樹 聞き手/大森望

 なんと、あの出版界のドン、春樹氏登場!彼はかつて70年代から1300冊も角川文庫でSFを発行し、日本SFに貢献した方です。

 彼は第1直観で、これからの動向をすべて予測していたそう。その動向とは70年代はSF、80年代はファンタジー、90年代はホラーが流行る、とのこと。で、注目の00年代は、またSFの時代が来ると予言したのであります!

 その布石としてまずはハルキ文庫でかつての名作SFを復刊し、次に書き手を探すべく、若手SF作家を発掘中とのこと。更に小松左京賞で一気にSFブームを作り、3年後あたりにはSFのベストセラーが登場、という段取りだそう。

 実に心強いお言葉でした。これからが実に楽しみですね!

 2.「ブックハンターの冒険」 出演/牧眞司 聞き手/代島正樹

 なんとダイジマン、昼企画に登場!
 自らブックハンターを名乗る牧氏の同タイトルの本の出版記念もかねての企画。牧氏がSFを読み始めた中学の頃、すでに読みたい本はかなり絶版状態で、必然的に古本の道に入ったとか。「本がないのはいつの世も同じ、自分の足で古本屋で探すべし!」という前向きな姿勢に好感が持てました。牧版異色作家短篇集(を作るとしたら)や、最近の釣果についてのお話を楽しく聞かせて頂きました。

 3.「日本SF論争史」 出演/巽孝之・牧眞司・森太郎

 これも5月に出た同著の出版記念企画。かつてのファンジンは論争が非常に盛んで、論争を通してSFの本質に迫ろうとする動きがあったそう。論争から見えてくるさまざまな人のSF観を一冊にまとめよう、とこの本の企画が立ったそうです。山野vs荒巻などの論争を具体的に挙げ、論争の面白さを語って下さいました。

 4.「世紀の日本SFに向けて」出演/藤崎慎吾・三雲岳斗・森青花 司会/柏崎玲央奈

 『クリスタル・サイレンス』の藤崎氏、『M.G.H.』の三雲氏、『BH85』の森氏という今注目の若手SF作家を迎えてお話を伺いました。皆微妙に世代がずれているのですが、そのSF歴&読書歴、何をどう考えてSFを書いているのか、などをテーマに話が弾みました。特に、三雲氏の「初めてSFに触れる読者のための、SFの踏み台になりたい」「SFで海外(なぜかアジア)に進出したい」というお言葉が印象的でした。森氏の天然系キャラ(笑)も非常に魅力的でした。藤崎氏は書きたいものを書く、それが自然にSFになったと話してらっしゃいました。

 (ラストの企画は映像系のため、辞退しました)

 合宿企画1.「中年ファンタジーの時代は来るのか?」出演/浅暮三文(作家)、倉阪鬼一郎(作家)、小浜徹也(東京創元社編集部)、
たかはし@謎宮会(読者代表)、林哲矢(読者代表)、福井健太(評論家)

 メフィスト賞作家、浅暮三文氏をもっと売り出すにはどうしたらいいか?を皆で考えるというユニークな企画。夜ならではのフランクさで、爆笑につぐ爆笑の展開でした。出版界の裏話なども出て、業界人のはしくれとしては実に興味深い企画でした。グレさん、頑張って下さいね!まずはバンドマンの密室ミステリ、ですか?(笑)

 2.「田中香織のなぜなにファンジン」出演/高橋良平・牧眞司・小浜徹也・田中香織

 田中嬢が諸先輩方から、ファンジンについて教えていただこうという企画。60年代から80年代までのファンジンの歴史を、出演者のSF歴を含め、語って頂きました。彼らの青春時代が垣間見え、SFがまさに熱い時代だったのだなあ、というのがひしひしと感じられました。しかし、中学からSF活動をするというのはスゴイですね。

 3.「ネットワークのSF者たち Returns」出演/鈴木力・森太郎ほか

 発端は、去年のSFセミナーの後に小浜氏がSFオンラインに書いたエッセイ。これがネット者の間で議論を巻き起こし、ここでその決着をつけようという形になだれ込んでしまいました。

 まずは小浜氏の真意を問いたかったのですが、二転三転する彼の言動に会場はたちまち熱い議論が沸騰。このセミナーの後でも、ネット内で論争が繰り広げられるほど。

 結局、小浜氏の真意はいまだ不明ですが、要するに彼のコンベンション気質ゆえのネット者への熱い誘いと期待、というところでいいんではと私は思っております。温度の差はあれど、SFを愛する気持ちは同じですよ。

 今年も楽しいセミナーでした。また来年よろしく!
  

 

ダイジマンのSF出たトコ勝負!

 2000年代最初の、20世紀最後の、スタートから21年目の、ぼくにとって6番目の、そしてスタッフになって2回目の、ゴールデンな季節がやってきた。会場一新パワーアップ、SFセミナー2000の幕が開く!

 これまでの全逓会館にも色々と個人的に思い入れはあるが、御茶の水は全電通労働会館ホールにて、新たなSFセミナー史が築かれる。なにより、ロビーとか控室が広くて良いやネ。ホールの座席も可動式だから、アイデア次第で企画の幅も拡がり、面白いことができるかも。ま、来年以降ですが。

 当日の朝集合してから、椅子とか移動させて会場設置。配布するプログラムブックやらチラシを挟み込む作業をしたのち、大量の古本+新刊販売の準備をする。今日扱う新刊は、本会企画にもある『ブックハンターの冒険』(牧眞司著、学陽書房)と、『日本SF論争史』(巽孝之編、勁草書房)がメイン。

 しかも『ブックハンターの冒険』は、私家版限定不定期報を特別付録として配布。ボリューム制限により本文から削られた、ヴェルヌの章の一部原稿を再現し、「Q 古本さがしをやめる日はくるでしょうか?/A くるでしょう。」という、理解にもだえ苦しむ謎の発言(笑)で終わるインタビュー「ブックハンターができるまで」も収録されて盛り沢山。今後、牧眞司関係著作物の出版に合わせ、発行する予定とのこと。次は訳書の『SF雑誌の歴史』(マイク・アシュレー著、東京創元社近刊)だね。牧さんには、是非とも「月報」と呼べるくらい(おおっ)、バリバリ新刊を出して頂きたいものである。発行者は牧紀子さん。

 『日本SF論争史』は、他に先駆けての先行販売。セミナーに間に合ってよかったよかった。しかし1割引きながら、本体5000円の高額書籍が早い段階で売り切れたのは、セミナーに集うコアな客層を推し量る一例と言えよう。昨年の、やはり先行販売であった『グッドラック 戦闘妖精・雪風』と比較しても、全く遜色がない。

 さて、今年のセミナーでぼくが企画・担当したのは、「角川春樹的日本SF出版史」(出演/角川春樹、聞き手/大森望)である。伏線は、昨年担当した「文庫SF出版あれやこれや」にあった。この時はハルキ文庫編集者の村松剛さんにご出演頂きましたが、その流れで「春樹社長を呼んだら面白いぞ」と大森さんが言っていたと伝え聞き、「ひえ〜、そりゃオモシロイけど、ちょっとなあ」と、尻込み(笑)してたのだった。

 ところが転機が訪れた。「角川春樹事務所、「小松左京賞」を創設」「SF小説の可能性追求」という、力の入った新聞記事(99年10月7日付日本工業新聞)を目撃したのである。瞬間、ぼくの目はキラリと光った!「…やはりお呼びするしかない…」オッと、ここで気がついた。日本工業!? 果たせるかな、ウラを取ったらタニグチリウイチさんの記事でした(ニヤリ)。

 早めに控室に到着した角川春樹さんは、強烈なカリスマ性とオーラを放ちつつ、気さくさも感じさせる懐の深い方でありました。かような傑物が、「これからはSFの時代だ!」と宣言し、事実、出版活動に自ら邁進されているのを見るにつけ、実に心強く頼もしい。

 資料持参の大森望さんもすぐに到着。「強盗角川」時代のSF関連文庫、及びハルキ文庫を抜き出した一覧なのだが、角川文庫の方は千点を優に越える膨大さで度肝を抜かれる。そこでまだ1枚に収まるハルキ文庫の方だけ、配布用のコピーに走る。あれよあれよと野田大元帥らも加わり、なにやらスゴイ空間を遠巻きに拝見する。しかもお弁当食べながら(笑)。

 頃合を見計らってスタンバイお願いして、さあぼくも客席からじっくり見物…と思ったけど、実はそうもいかなかったり。次のコマには「ブックハンターの冒険」が控えているのだ。だから、春樹社長の数々の名言や、大森さんとの丁々発止の掛け合い(!?)を直接見ていないという、担当者にあるまじき所業は我ながら不憫である。

 しかし、福島正実さんから積極的に作家を紹介してもらった、という新証言を始め、興味深い事この上ない。一歩間違えば大言壮語としか受け取られかねないヴィジョンも、常に時代を見据えて出版活動を行ってきた、いや、自らの精力的なプロモートで、ことごとく「第一直観」を現実のものとさせた人間だけに可能な、奇妙な説得力でもってぼくたちを期待させる。

 個人的には、打合せもなにもない状態でアオリ気味にしたためた企画紹介文の内容が、遥かに上回る形で全てが成し遂げられた点に、スタッフとしての喜びを噛み締めている。将来SFファンの間で、西暦2000年とは「セミナーに角川春樹が来た年」として長く記憶されることは間違いないであろう。

 さて、問題は「ブックハンターの冒険」なのである。そもそも牧眞司さんの同名著書発売がきっかけの企画であり、〈SFオンライン〉4月25日号「書鬼の居留地」、および〈本の雑誌〉6月号(5月10日発売)での古本特集予告などが追い風になった。それはいいのだが…。まさか、このぼくが、セミナーの壇上に上がる日が来ようとは、ノストラダムスも予言していないし、ハリ・セルダンさえ予見不可能だろう>絶対しません。

 思えば急な話だった。打合せの帰り、「人前で話すのは京フェスとかで場慣れしてるから全然平気なんだけど…でも、巽さんだよ!」と、「日本SF論争史」パネルで巽孝之さん御指名″の森太郎さんが言うのを聞き、前に出る人は大変だなあ、と感じたぼくは、まるで他人事でした(ペコリ)。その日が、ぼくが顔を出せた最後の打合せ。ほぼ固まった本会4コマに古本企画を加えて5つにしよう、という話が持ち上がったのが、その次の日のこと。いろいろな事情が重なって進展を見せず、結局今回の形(出演/牧眞司、聞き手/ぼく)になったのが、ナント1週間前。ぼくが正式に出演を知ったのは、公式ページにアップされ、事前申し込み者への受付ハガキが作成された後(笑)なのだった!

 そんなワケで牧さんとお話するのが、このコマしかない。いくつかのお聞きしたいテーマを伝えておいたので、もう牧さんの準備はバッチリ。なんとなくの流れを決めただけで、あとは牧さんが本の逸話をとうとうと話し続ける。いやもう止まらない(笑)。この時点で、ぼくはあくまで「聞き手」に徹すればいいんだ、と妙に気が楽になり、壇上でも全く緊張しませんでした。それがいいことかは判らないけどね。去年の合宿「ほんとひみつ」で、あんなラフな中でちょこっと話をしただけでも、あきれる程キンチョーしたことを考えると、そりゃもう驚くべき進歩である。っていうか、牧さんスゴイ。

 古本極道な話には持っていかなかったから、そっちを期待された方には食い足りなかったかも。でも、牧さんの次回作以降に期待が膨らむ内容も聞けて、よかったと思う。途中で牧さん中学生時代の、天才少年伊藤典夫さんを彷彿とさせるエピソードを伺ったのは、客席に柴野拓美さんの姿を拝見してこらえ切れなくなったから(笑)。

 終了後の控室で、「牧さんも司会とかじゃなくて、自分がメインでしゃべることって実はあんまりないけど、やっぱエンターティナーだね。や、結構面白かったよ」との感想を寄せられたのは、山岸真さん。牧さんに伝えたら、「うーん、イイこと言うなあ(笑)。彼はボクの理解者だなあ(笑)」と申しておりましたよ>山岸さん)。

 その後の各企画、「日本SF論争史」(出演/巽孝之、牧眞司、森太郎)、「新世紀の日本SFに向けて―新人作家パネル」(出演/藤崎慎吾、三雲岳斗、森青花、司会/柏崎玲央奈)、「妖しのセンス・オブ・ワンダーへようこそ―小中千昭インタビュー」(出演/小中千昭、聞き手/井上博明)は出きる限り観に行くようにして、それ以外の時間は書籍売り場にいたり、いろいろと。実は、ついうっかりひいてしまったカゼのせいで、体調があまり優れないのだった。

 会場整理してから、小雨の散らつく中、合宿のふたき旅館に向かう。オープニング恒例、有名人・企画紹介@小浜徹也さんに続いて、1コマ目は企画部屋にいくつか顔を出しただけで、大広間に居着いてしまう。というのも、また販売用の本を出したりばたばたしたこともあるし、水鏡子+三村美衣+堺三保という強力メンバーが田中香織にレクチャーする、それぞれのファンダム観を拝聴するためでもあった。こりゃ難しいね。個人的にも側にいらした高橋良平さんに、矢野徹さんの古い話を伺ったり。

 その田中さんがメインの企画である(ウソ、のはず)「田中香織のなぜなにファンジン」は、まず時間がいくらあっても納まらない。分かったことは、各人より前の時代が楽しそうに見えるってことかな。多かれ少なかれ、先人の活動に憧れてファン活動を開始するのだから、それらが輝いて見えるのも道理というもの。いくらでも面白い話が飛び出しそうな好企画で、出演陣も話し足りなくて欲求不満だろう。シリーズ化決定? そうそう、企画紹介時に「もう賞は要りません!」と言った田中さんは、ぼくはてぃぷとりーみたいでかっこいいとおもいました(まる)

 続いては、ホントに最後とはまずもって信じられない「ほんとひみつ―これでおしまい編」だ。大学教授と学生メンバーで作ったらしい『宙航レース1999』という本を北原尚彦さんが紹介し終えた途端、絶妙のタイミングで、「その表紙、僕が描きました」と関係者が名乗りを挙げ、場内を空前絶後の驚きの渦に巻き込んだ。トンデモ本っぽいのがいくら紹介されても、星敬さんが大抵持っていて、あまつさえ読んでいたりするのには、驚き呆れ…じゃなくて(笑)、感動と尊敬の念を禁じ得ない。ぼくはこの頃カゼのピークでキツかった。

 「ほんとひみつ」5年の歴史を振り返ってみれば、ひとえに日下三蔵さんによる「日下古本思想大系」の啓蒙と浸透のためにあった、と言っても過言ではなかろう>オイ。貨幣のみに依存しない「本・本位制」の提唱を始め、その思想はもはや(この部屋の中では)広く認知され、当初異端視された収集衝動に対しても、反動派急先鋒の面々さえもが感化され、同じ轍を踏んでいることを告白、軍門に下った。これにより日下思想の完全勝利宣言が誇らしげに成されたことを、歴史に記さねばなるまい。まさに、たゆまぬ意識改革の賜物である。

 ラストを締め括るは、「今世紀最後の大オークション&大即売会」。牧さん始め、名だたる出品者が揃うため、いい本が一杯出てくるのがうれしいところ。ぼくも点数こそ多くはないけど、満足の成果を挙げることができました。

 仮眠してからエンディング。後片付けして、ふたき旅館を後にする。近くの喫茶店で会計作業。なんでも牧さんと紀子さんは、巽さん、小谷真理さんと待ち合わせがあるらしく、先を急いで席を辞す。見送るスタッフ一同、姿が見えなくなったのを確認して、「さて、行きますか」とおもむろに行動開始。向かうは新宿。これから牧さんだけ″が知らないサプライズ・パーティー、「遅れて来た新人を祝う会」が行われるのだ。巽&小谷さんは共謀者、黒幕は紀子さんだ!

 会場の何割かは、セミナーでご一緒した方たちでヘンな感じ(笑)。でも、セミナーや大会ではお目にかかる機会の少ない方も多く、キョロキョロしながら牧さんの幅広い交友関係と人望に思いを馳せる。

 ほどなく何も知らない牧さんと一行は、無事に企みが露見することなく到着する。驚く牧さん! いやあ、実に良いものであるなあ。

 関係者の各スピーチも、それぞれの側面が伺えて興味深かった。中でも、石川喬司さんや竹上昭(野村芳夫)さんらと牧さんの異色の顔合せ(と感じた)、「時間論」という集まりの存在に興味を引かれた。小浜さんの「解説を頼む時、真っ先に頭に浮かぶ3本指のひとりが牧眞司。あ、これホント」という発言は、率直な感想だけに、最大級の賛辞でしょう。

 記念ファンジンも出たこの会のクライマックスは、柴野さん自らウクレレ弾いての、まきしんじ替え歌シーンに尽きる。「牧さんには本当に世話になってるなあ」という、大先輩柴野拓美さんの話を先日伺ったことがあるだけに、そのつっかえつっかえの演奏に秘められたものに圧倒され、万感の思いで我知らず目頭が熱くなるのを禁じ得なかった。この瞬間に立ち合えたことを感謝し、誇りにしたい。

 会は大盛況の内に終了。桐山芳男さんから、前日のオークションでぼくが落とした〈ポパイ〉SF特集号(78年4月25日号、平凡出版)掲載記事のウラ話を聞いたりしてて、田中光さんとの3人が最後のメンツになってしまう。いやそればかりか、イキオイで主賓の牧さん、会場の受付をしていた魔界三人娘″含む巽さん御一行様とのお茶にまでおじゃましてしまった。

 セミナー昼夜パーティー3本立、SF黄金週間2000はこれにて終了。皆様、また来年お会いしましょう!

 

 

あとがき

 ああ、またしてもまたしても〜発行が遅れてしまった!今回の原稿は特に大変でした、いろいろと。来月こそは、来月こそはもっと早く出したいです!(安田ママ)


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