32号 2000年5月
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『日本SF論争史』は、他に先駆けての先行販売。セミナーに間に合ってよかったよかった。しかし1割引きながら、本体5000円の高額書籍が早い段階で売り切れたのは、セミナーに集うコアな客層を推し量る一例と言えよう。昨年の、やはり先行販売であった『グッドラック 戦闘妖精・雪風』と比較しても、全く遜色がない。
さて、今年のセミナーでぼくが企画・担当したのは、「角川春樹的日本SF出版史」(出演/角川春樹、聞き手/大森望)である。伏線は、昨年担当した「文庫SF出版あれやこれや」にあった。この時はハルキ文庫編集者の村松剛さんにご出演頂きましたが、その流れで「春樹社長を呼んだら面白いぞ」と大森さんが言っていたと伝え聞き、「ひえ〜、そりゃオモシロイけど、ちょっとなあ」と、尻込み(笑)してたのだった。
ところが転機が訪れた。「角川春樹事務所、「小松左京賞」を創設」「SF小説の可能性追求」という、力の入った新聞記事(99年10月7日付日本工業新聞)を目撃したのである。瞬間、ぼくの目はキラリと光った!「…やはりお呼びするしかない…」オッと、ここで気がついた。日本工業!? 果たせるかな、ウラを取ったらタニグチリウイチさんの記事でした(ニヤリ)。
早めに控室に到着した角川春樹さんは、強烈なカリスマ性とオーラを放ちつつ、気さくさも感じさせる懐の深い方でありました。かような傑物が、「これからはSFの時代だ!」と宣言し、事実、出版活動に自ら邁進されているのを見るにつけ、実に心強く頼もしい。
資料持参の大森望さんもすぐに到着。「強盗角川」時代のSF関連文庫、及びハルキ文庫を抜き出した一覧なのだが、角川文庫の方は千点を優に越える膨大さで度肝を抜かれる。そこでまだ1枚に収まるハルキ文庫の方だけ、配布用のコピーに走る。あれよあれよと野田大元帥らも加わり、なにやらスゴイ空間を遠巻きに拝見する。しかもお弁当食べながら(笑)。
頃合を見計らってスタンバイお願いして、さあぼくも客席からじっくり見物…と思ったけど、実はそうもいかなかったり。次のコマには「ブックハンターの冒険」が控えているのだ。だから、春樹社長の数々の名言や、大森さんとの丁々発止の掛け合い(!?)を直接見ていないという、担当者にあるまじき所業は我ながら不憫である。
しかし、福島正実さんから積極的に作家を紹介してもらった、という新証言を始め、興味深い事この上ない。一歩間違えば大言壮語としか受け取られかねないヴィジョンも、常に時代を見据えて出版活動を行ってきた、いや、自らの精力的なプロモートで、ことごとく「第一直観」を現実のものとさせた人間だけに可能な、奇妙な説得力でもってぼくたちを期待させる。
個人的には、打合せもなにもない状態でアオリ気味にしたためた企画紹介文の内容が、遥かに上回る形で全てが成し遂げられた点に、スタッフとしての喜びを噛み締めている。将来SFファンの間で、西暦2000年とは「セミナーに角川春樹が来た年」として長く記憶されることは間違いないであろう。
さて、問題は「ブックハンターの冒険」なのである。そもそも牧眞司さんの同名著書発売がきっかけの企画であり、〈SFオンライン〉4月25日号「書鬼の居留地」、および〈本の雑誌〉6月号(5月10日発売)での古本特集予告などが追い風になった。それはいいのだが…。まさか、このぼくが、セミナーの壇上に上がる日が来ようとは、ノストラダムスも予言していないし、ハリ・セルダンさえ予見不可能だろう>絶対しません。
思えば急な話だった。打合せの帰り、「人前で話すのは京フェスとかで場慣れしてるから全然平気なんだけど…でも、巽さんだよ!」と、「日本SF論争史」パネルで巽孝之さん御指名″の森太郎さんが言うのを聞き、前に出る人は大変だなあ、と感じたぼくは、まるで他人事でした(ペコリ)。その日が、ぼくが顔を出せた最後の打合せ。ほぼ固まった本会4コマに古本企画を加えて5つにしよう、という話が持ち上がったのが、その次の日のこと。いろいろな事情が重なって進展を見せず、結局今回の形(出演/牧眞司、聞き手/ぼく)になったのが、ナント1週間前。ぼくが正式に出演を知ったのは、公式ページにアップされ、事前申し込み者への受付ハガキが作成された後(笑)なのだった!
そんなワケで牧さんとお話するのが、このコマしかない。いくつかのお聞きしたいテーマを伝えておいたので、もう牧さんの準備はバッチリ。なんとなくの流れを決めただけで、あとは牧さんが本の逸話をとうとうと話し続ける。いやもう止まらない(笑)。この時点で、ぼくはあくまで「聞き手」に徹すればいいんだ、と妙に気が楽になり、壇上でも全く緊張しませんでした。それがいいことかは判らないけどね。去年の合宿「ほんとひみつ」で、あんなラフな中でちょこっと話をしただけでも、あきれる程キンチョーしたことを考えると、そりゃもう驚くべき進歩である。っていうか、牧さんスゴイ。
古本極道な話には持っていかなかったから、そっちを期待された方には食い足りなかったかも。でも、牧さんの次回作以降に期待が膨らむ内容も聞けて、よかったと思う。途中で牧さん中学生時代の、天才少年伊藤典夫さんを彷彿とさせるエピソードを伺ったのは、客席に柴野拓美さんの姿を拝見してこらえ切れなくなったから(笑)。
終了後の控室で、「牧さんも司会とかじゃなくて、自分がメインでしゃべることって実はあんまりないけど、やっぱエンターティナーだね。や、結構面白かったよ」との感想を寄せられたのは、山岸真さん。牧さんに伝えたら、「うーん、イイこと言うなあ(笑)。彼はボクの理解者だなあ(笑)」と申しておりましたよ>山岸さん)。
その後の各企画、「日本SF論争史」(出演/巽孝之、牧眞司、森太郎)、「新世紀の日本SFに向けて―新人作家パネル」(出演/藤崎慎吾、三雲岳斗、森青花、司会/柏崎玲央奈)、「妖しのセンス・オブ・ワンダーへようこそ―小中千昭インタビュー」(出演/小中千昭、聞き手/井上博明)は出きる限り観に行くようにして、それ以外の時間は書籍売り場にいたり、いろいろと。実は、ついうっかりひいてしまったカゼのせいで、体調があまり優れないのだった。
会場整理してから、小雨の散らつく中、合宿のふたき旅館に向かう。オープニング恒例、有名人・企画紹介@小浜徹也さんに続いて、1コマ目は企画部屋にいくつか顔を出しただけで、大広間に居着いてしまう。というのも、また販売用の本を出したりばたばたしたこともあるし、水鏡子+三村美衣+堺三保という強力メンバーが田中香織にレクチャーする、それぞれのファンダム観を拝聴するためでもあった。こりゃ難しいね。個人的にも側にいらした高橋良平さんに、矢野徹さんの古い話を伺ったり。
その田中さんがメインの企画である(ウソ、のはず)「田中香織のなぜなにファンジン」は、まず時間がいくらあっても納まらない。分かったことは、各人より前の時代が楽しそうに見えるってことかな。多かれ少なかれ、先人の活動に憧れてファン活動を開始するのだから、それらが輝いて見えるのも道理というもの。いくらでも面白い話が飛び出しそうな好企画で、出演陣も話し足りなくて欲求不満だろう。シリーズ化決定? そうそう、企画紹介時に「もう賞は要りません!」と言った田中さんは、ぼくはてぃぷとりーみたいでかっこいいとおもいました(まる)
続いては、ホントに最後とはまずもって信じられない「ほんとひみつ―これでおしまい編」だ。大学教授と学生メンバーで作ったらしい『宙航レース1999』という本を北原尚彦さんが紹介し終えた途端、絶妙のタイミングで、「その表紙、僕が描きました」と関係者が名乗りを挙げ、場内を空前絶後の驚きの渦に巻き込んだ。トンデモ本っぽいのがいくら紹介されても、星敬さんが大抵持っていて、あまつさえ読んでいたりするのには、驚き呆れ…じゃなくて(笑)、感動と尊敬の念を禁じ得ない。ぼくはこの頃カゼのピークでキツかった。
「ほんとひみつ」5年の歴史を振り返ってみれば、ひとえに日下三蔵さんによる「日下古本思想大系」の啓蒙と浸透のためにあった、と言っても過言ではなかろう>オイ。貨幣のみに依存しない「本・本位制」の提唱を始め、その思想はもはや(この部屋の中では)広く認知され、当初異端視された収集衝動に対しても、反動派急先鋒の面々さえもが感化され、同じ轍を踏んでいることを告白、軍門に下った。これにより日下思想の完全勝利宣言が誇らしげに成されたことを、歴史に記さねばなるまい。まさに、たゆまぬ意識改革の賜物である。
ラストを締め括るは、「今世紀最後の大オークション&大即売会」。牧さん始め、名だたる出品者が揃うため、いい本が一杯出てくるのがうれしいところ。ぼくも点数こそ多くはないけど、満足の成果を挙げることができました。
仮眠してからエンディング。後片付けして、ふたき旅館を後にする。近くの喫茶店で会計作業。なんでも牧さんと紀子さんは、巽さん、小谷真理さんと待ち合わせがあるらしく、先を急いで席を辞す。見送るスタッフ一同、姿が見えなくなったのを確認して、「さて、行きますか」とおもむろに行動開始。向かうは新宿。これから牧さんだけ″が知らないサプライズ・パーティー、「遅れて来た新人を祝う会」が行われるのだ。巽&小谷さんは共謀者、黒幕は紀子さんだ!
会場の何割かは、セミナーでご一緒した方たちでヘンな感じ(笑)。でも、セミナーや大会ではお目にかかる機会の少ない方も多く、キョロキョロしながら牧さんの幅広い交友関係と人望に思いを馳せる。
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ほどなく何も知らない牧さんと一行は、無事に企みが露見することなく到着する。驚く牧さん! いやあ、実に良いものであるなあ。
関係者の各スピーチも、それぞれの側面が伺えて興味深かった。中でも、石川喬司さんや竹上昭(野村芳夫)さんらと牧さんの異色の顔合せ(と感じた)、「時間論」という集まりの存在に興味を引かれた。小浜さんの「解説を頼む時、真っ先に頭に浮かぶ3本指のひとりが牧眞司。あ、これホント」という発言は、率直な感想だけに、最大級の賛辞でしょう。
記念ファンジンも出たこの会のクライマックスは、柴野さん自らウクレレ弾いての、まきしんじ替え歌シーンに尽きる。「牧さんには本当に世話になってるなあ」という、大先輩柴野拓美さんの話を先日伺ったことがあるだけに、そのつっかえつっかえの演奏に秘められたものに圧倒され、万感の思いで我知らず目頭が熱くなるのを禁じ得なかった。この瞬間に立ち合えたことを感謝し、誇りにしたい。
会は大盛況の内に終了。桐山芳男さんから、前日のオークションでぼくが落とした〈ポパイ〉SF特集号(78年4月25日号、平凡出版)掲載記事のウラ話を聞いたりしてて、田中光さんとの3人が最後のメンツになってしまう。いやそればかりか、イキオイで主賓の牧さん、会場の受付をしていた魔界三人娘″含む巽さん御一行様とのお茶にまでおじゃましてしまった。
セミナー昼夜パーティー3本立、SF黄金週間2000はこれにて終了。皆様、また来年お会いしましょう!
あとがき ああ、またしてもまたしても〜発行が遅れてしまった!今回の原稿は特に大変でした、いろいろと。来月こそは、来月こそはもっと早く出したいです!(安田ママ) |