33号                                                           2000年6月

 

 

書店員はスリップの夢を見るか?

 現在、業界では書籍の返品率はほぼ4割、というのが定着している。これは恐るべき数字だ。10冊入荷しても、4冊返品。この現状に最も恐怖を抱いているのは当然出版社だ。返品を恐れるゆえに刷り部数は減り、すぐに品切れ状態を起こし、読者はますます本を入手しづらくなっている。

 さて、この現状に読者としてはどう対応したらいいのか。私としては、発売前に書店に予約することをオススメしたい。これが最も確実だと思われる。タイトルが不明でも、出版社と著者さえ分かれば問い合わせられるのでオッケー。いつも同じ店に予約して下されば、その書店にあなたの名前を覚えてもらえるというメリットもある。

 予約は確かに書店側にとっては面倒かもしれない。が、この手間を惜しむような書店はいらないと思う。なぜなら、読者に読みたい本を届けるのが私達の仕事だからだ。

 

今月の乱読めった斬り!

『雨の檻』☆☆☆☆1/2(菅浩江、ハヤカワ文庫)

  実に残念。もっと若い頃、心の柔らかい時期に読んでみたかった。そうしたら、おそらく採点☆マークは5つだったに違いない。いや、あまりの衝撃に心が砕けてしまったかもしれない。

 「星雲賞受賞作家の初作品集」と帯にある。7作品が入った短篇集。

 1作目の「雨の檻」からいきなりやられた。すごい。1ページ目だけで、この物語が悲劇だというかすかな予感がする。そして、それは外れなかった。1行ごとに、物語は坂道を転がる石のように、徐々に加速度を増して悲劇に向かって落ちてゆく。主人公の少女、フィーの、シノ(感情型ロボット)に対する心の優しさが痛みとなって読者の心に針のように突き刺さる。どうして?どうしてこんなにつらい物語を書くの?あんまりだよ。痛すぎるよ。

 2作目の「カーマイン・レッド」も痛い話。これは、いじめられっ子の少年が自動人形によせるほのかな友情とその結末。少年期特有の、ガラスみたいに脆く、透明で、繊細な心の動きがまた見事に書かれていて、つらい。感情のゆれを描く筆が実にうまい。自動人形の赤の意味がまた、切ないのだ。

 「そばかすのフィギュア」は、設定がマニアにはツボであろう(笑)。実は切ない片思いの話なのだが、主人公の女の子の気持ちがけなげでひたむきで胸キュンである。だが、実らない恋なのに彼女が前向きなので、読後感が明るい。ほのぼのした気持ちにさせられる一編。

 SFという枠を越えて、あらゆる人々に読んで欲しいと心から願う傑作。若い方はもちろん、オトナになった今でもゼリーのごとく柔らかな心を持つ方にオススメ。

 『BH85』☆☆☆1/2(森青花、新潮社)

 第11回「日本ファンタジーノベル大賞」優秀賞受賞作。つるつるっと読めて非常にわかりやすいが、意外や意外、何気に奥の深い話であった。吾妻ひでおのカバーイラストにだまされるなかれ。

 SFの面白さは、なんといってもこの私達の暮らしている日常世界の常識が、著者の考えた設定によって、くるんとひっくり返されるところにあると思う。そのときの、頭がくらんとする感覚。この物語でも、それが堪能できる。しかも、ひょっとしたら明日本当に起こっても不思議ではないんじゃないの?と読者に錯覚させる、現実と地続きな設定が、説得力があっていい。毛生え薬が発端でどんどん世界中の生き物が融合していくという、実際頭のなかで想像すると、かなり妙ちきりんでお間抜けな図なのだが(笑)。

 絶望的な状況のどん底にいるというのに、あまり悲観せず、どこかのほほんとした人々。そう、この小説は妙に心地よく懐かしい感じがするのだ。そこも非常に魅力。ほわ〜んとした後味の残るSF。こういうの、好きだなあ。

『M.G.H.』☆☆☆(三雲岳斗、徳間書店)

 栄えある第1回日本SF新人賞受賞作。とても入りやすく、読みやすい。主人公のカップルのキャラクターが立っている。SFキャラ小説、といってもいいかも?

 宇宙ステーションで起きた殺人事件を、森博嗣の犀川教授をほうふつとさせる主人公が解く、という形。ヒロインも、萌絵風。ちょっとキャラがパターンすぎるかな?好感度は高いけど。SFとミステリが、うまく融合しててなかなかいい感じ。トリックに○○を持ってくるか!というのには驚き。

 でもミステリテイストは、単なる布石のような気がする。著者の書きたかったことは、やはり「人間の肉体は滅びても、思考・心=存在はコンピュータの中に生き残ることができるのか?それを生といえるのか?生とは果たして何なのか?」だと思う。このあたり、非常に面白く感じた。これはまさにSF的テーマだ。ん〜、もちっと深く突っ込んで書くと面白いかも、とは思ったが、そこにあえて突っ込まず、さらりと書いてるのは、やはり目指す方向がSFの入門、だからか。次回作に期待。

 

銀河通信2周年企画
「あなたの探求本、何ですか?」

 2000年6月20日をもって、ネット版の「銀河通信」がめでたく2周年を迎えました。記念企画として、「夢に見るほど探してるのに、ないんだああっ!」という本をアンケートで教えていただきました。ご協力いただいた皆様、感謝。

1.糸井重里全仕事/マドラ社 

2.ファンタスティック12 シリーズ/荒俣 宏/リブロポート

コメント:う、全然銀河通信ぽくないですね。リブロポートの本は好きでしたねえ。

お名前:相澤 健一

メールアドレス:ken-a@tkf.att.ne.jp

サイト名、アドレスhttp://home.att.ne.jp/green/cuctus/(HonのLink)


1.『一角獣・多角獣』/シオドア・スタージョン/早川書房

2.『奇妙な触合い』/シオドア・スタージョン/早川書房

3.『ボロゴーヴはミムジィ』/ヘンリイ・カットナー/早川書房

コメント:夢の中で手に入れ、目覚めてから溜息をついた回数が一番多いのがスタージョンです。
カットナーは、アンソロジーで何編か読んだことはあります。雰囲気が私にはとても心地よく、
もっと読みたいと素直に思っています。

お名前:πR

メールアドレス:smile@aa2.mopera.ne.jp


1.ミス・マープルの愛すべき生涯/アン・ハート/晶文社

2.ふたごのき/姉崎一馬・谷川俊太郎/リブロポート(写真絵本)

3.空がレースにみえるとき/バーバラ・クーニー/ほるぷ出版(絵本)

コメント: 1.は、もう何年も探し続けている「ミス・マープル」の研究物です。わたし自身見たことがない本で、そもそもの始まりは、なが〜〜いつきあいの友人の「この本欲しい!!」のひとことでした。いろいろ、手を尽くしましたが、見つからず、めでたくこのアンケートにお目見えという次第です。最近、旦那の転勤で幾度目かの引っ越しをした友人は、その街の図書館でこの本に出逢い、電話で「犯罪者になったらどうしよう!!」とうなっていました。「返したくない・・・手元に置きたい〜〜〜!!」って、おいおい、元図書館員がそれをやっちゃあおしまいだろうが・・・と一応止めました。もし、いつか巡り逢えたら、友人にプレゼントしたいとず〜〜〜っと思っている本なのです。                              

 2.と3.は、絵本です。実は、わたし絵本が大好きで、この2点は、むかし持っていたものを一度手放してまた探しているというおおぼけなもの。「ふたごのき」は姉崎一馬さんの写真に谷川俊太郎さんがことばをつけたすてきな写真絵本。「空がレースにみえるとき」は、最近亡くなったバーバラ・クーニーさんのわりと初期の絵本です。

お名前:ぞりこ

メールアドレス:zoriko@dokidoki.ne.jp


1.(タイトル)マルコヴァルドさんの四季/イタロ・カルヴィーノ/岩波少年文庫 

コメント:市立図書館で借りて読んだときにはすでに品切れ重版未定。これほどの名作をなぜ??
全ページコピーしようかともおもったけど、やっぱり本として欲しいです。

お名前:そめさん

メールアドレス:mooh@oregano.ocn.ne.jp


1.愛の巡礼記/田中優子/朝日新聞社

2.きのこ学放浪記/四手井淑子/海鳴社

3.歌えば天国ジャズソング/色川武大/ちくま文庫

コメント:3冊のキーワードは「趣味まみれの人生、そして、趣味としての人生」。
     みんなそれなりにメジャーな近頃の本で、ちょっと気合いを入れて神保町
    を探せばでてくるような気もしますが・・。
     ただ、パートタイムの古本者の場合、マニア向けじゃない本を探すのは、
    それなりに大変。

お名前:岡田@井の頭公園前

メールアドレス:kokada@jnet-d.co.jp


1.花冷え/北原亞以子/勁文社

2.白きたおやかな峰/北杜夫/(ハードカバー)

3.(タイトル)/(著者名)/(出版社)

コメント:
1.「花冷え」は北原亞以子さんの本でアンソロジー・エッセイ以外で唯一読ん
でない本(の筈)なんです。
 勁文社からハードカバーとケイブンシャ文庫で出ているらしいんですがケイブ
ンシャ文庫って古書店にもなかなか並ばないんですよね(泣)

2.「白きたおやかな峰」は新潮文庫版では三読四読して、人に勧めて何冊か買っ
てたりするんですが、この本を紹介していた雑誌(確かスキージャーナル 内で
「雪に降り込められた晩に読みたい本」という特集)で「出来ればハードカバー
で読みたい」って紹介されていたもんで(笑)。でも、確かにハードカバーでしっ
かりと読みたいと思うような重い、しっかり感のある作品なのです


お名前:みさわ

メールアドレス:d-misawa@big.or.jp

サイト名、アドレス:http://member.nifty.ne.jp/misogura/


1『火の玉イモジェーヌ』/シャルル・エクスブライヤ/早川書房

コメント:
  私が初めてイモジェーヌ・マッカーサリーの存在を知ったのは、シリーズ2作目の
『帰ってきたイモジェーヌ』でした。3作目『イモジェーヌに不可能なし』も、すぐ
手に入りましたが、それらの中で半ば伝説となっている、海軍省の現役時代の活躍を
未だ読む事ができません(探すのを少しサボってました)。
  イモジェーヌ、あらゆる意味でドーヴァーに匹敵する個性の持ち主です。

お名前:draken

メールアドレス:draken@lib.bekkoame.ne.jp


1.『コンクリートの島』/J・G・バラード/NWSF社

2.『衝撃波を乗り切れ!』/ジョン・ブラナー/集英社ワールドSF

3.『時間帝国の崩壊』/バリントン・J・ベイリー/久保書店QTブックス

コメント:
1.は先日偶然にも『死亡した宇宙飛行士』を入手したのでほんとに
あと1冊のバラード本。(あ、『太陽の帝国』とかないけど)

2.は非常に先見性のある作品らしいので読んでみたい。ってゆうか
集英社ワールドSFで欲しいのはこの1冊だけなんだけどねぇ。

3.このベイリーも読みたいんですよねぇ。

次点で『見えない友達34人+1』(コバルト文庫)があればあとは
続き物のヌケ、だけになりますな。
探求本のページも作ろうかなと思っている昨今でした。

お名前:u-ki

メールアドレス:gates@hate.club.ne.jp

サイト名、アドレス:私立東鳩学園分校No.6
http://www.geocities.co.jp/Technopolis/2665/no_2.html


1.『海底の麻薬』レン・デイトン 早川書房(ハヤカワ・ノヴェルズ)

2.『タイム・トンネル』マレイ・ラインスター 早川書房(銀背)

3.『夢みた春』夢路行 集英社(ぶ〜けコミックス)

コメント:デイトンはこれだけ持っていないので。
     『タイムスリップ』は手に入れた。
     夢路行は他にもあるけど……
     小説はネット上の古書店やオークションで、ある程度手に入れる
     ことができました。なのでマンガが多いです、探求本。

お名前:中島景行

メールアドレス:keikou@mx2.nisiq.net


1.黒竜江陸戦隊/谷甲州/角川書店

2.ソフトウエア作法/ブライアン・W・カーニハン:P・J・プローガー: 

木村泉訳/ 共立出版

コメント:私の場合、探求本といっても、大したものはありません。
探している本であっても、定価よりだいぶ安く手に入るということでないと、
基本的には買いません。
#こんなことを言っていると、出版不況の元凶みたいな人間みたいですね。

1は、「覇者の戦塵」というシリーズの一冊ですが、この1冊だけなかなかお
目にかかれません。同じ著者の「航宙軍」シリーズの1冊を30円で購入し
たことがあるので、「黒竜江陸戦隊」も200円ぐらいで狙っています。
#でも、中公から、新刊の形で出れば、買ってしまうでしょう。

2は、ソフトウェア関連では、名著と言われている20年ほど前の本です。
一度、神保町の明倫館で、見つけたとき、少し高かったので、買わなかっ
たのですが、その後、まったくお目にかかれません。図書館などにはおい
てあるので、読もうと思えば読めるのですが、少し、後悔しています。


名前:Kochi

メールアドレス:QGB01021@nifty.ne.jp


1.オレンジ党と黒い釜/天沢退二郎/筑摩書房
2.魔の沼/天沢退二郎/筑摩書房
3.夜の冒険者たち/ジャック・フィニイ/早川HM文庫

コメント:天沢さんは「三つの魔法」三部作のうち、1と2作目です。
文章の隅々から伝わってくるダークな雰囲気が本当に素晴しいです。
(筑摩が無理なら何処かから復刊してほしいぞ、国書でも、パロル舎でも、、)
是非とも手元におきたい本で、考えるだけで夜も寝れなくなりそうです。(笑)


お名前:Takashi
メールアドレス:Noanoa11@aol.com


1.モンテロッソのピンクの壁 / 江国香織荒井良二 /ほるぷ出版

2.夕闇の川のざくろ /江國 香織 /八曜社 

コメント:1の『モンテロッソ〜』は、まだ見たことすら無いんですよ…でも惹かれまくってるんです!
くぅううう!絵本収集してたころに出版されてたのは知ってるんですが、どこかに埋もれてないですかねぇ。

2.のほうは、存在を忘れかけていた昨年末に某古本屋さんで100円で売られているのを
発見…でもカバーとか無いんで綺麗な本があったら欲しいです…。
江國モノの最初の版があれば、なんでも欲しいっていうのが、本音!

#あと、徳間から出ている『草乃丞の話』の絵本とやらも、見たことがないので、どんなもの
 なのか見たいです。お話自体は読んでいるんですけど。

お名前:たきどり

メールアドレス:takidori@diana.dti.ne.jp

サイト名、アドレス:http://www.diana.dti.ne.jp/~takidori/


1.「誇り高き戦場」というタイトルで映画化されたものの原作/著者はたぶんアラン・シリトーです。

コメント:坂田靖子のマンガで(これも探しているのだ)読んで以来、
音楽と戦争(しかも男のプライドが随所で交錯する)というテーマ設定にひかれて探しています。
ストーリーを知っているだけに、むちゃくちゃ読みたいというほどのパッションはないのだけれど、
心のどこかに引っかかっているように感じます。

お名前:MARI

メールアドレス:kanazawa@human.kj.yamagata-u.ac.jp


1.〈宇宙塵〉

2.「ベリャーエフ少年空想科学小説選集」/岩崎書店、全6巻

コメント:1.日本SF界に燦然と輝くファンジン。やっぱ、コレでしょう。
宇宙塵国際版を含めてあと17冊でコンプリートなんだけど
残りは最初期のものばかりなので、ここからが正念場っす。

2.これは見ないんだよね〜。もしかしたら入手難易度からいえば、
あらゆる
SF叢書のなかでも随一なのでは。
ぼくの初めて読んだSFがベリャーエフだったしね。

欠番
探求書はまだあるけど/あるからこその欠番。


名前:ダイジマン
メールアドレス:
daijima_m@yahoo.co.jp

サイト名、アドレス:銀河通信オンライン http://www2s.biglobe.ne.jp/~yasumama/


1.「ポケット・ストーリー」1〜3巻/森雅之/講談社モーニングコミックブック

2.「リリックス」全2巻/森雅之/講談社モーニングコミックブック

3.「夜と薔薇」 /森雅之/星彗社

コメント:しつこいようですが、森雅之です!!1と2は、昔手にとったこともある本。
あああ、どうしてあの時買わなかったのか、私!!
タイムマシンができたら、速攻であのときに戻って、自分に「死んでも買いなさいっ!!あとで後悔するから!!」と
いってやりたいですう(涙)。
えてして探求書ってそんなもんじゃないですか?「ああ、あのとき買っておけばよかった…!!!」ってやつ。
業界的予想として、今後、ますます品切れ絶版速度は速くなると思います。皆様、どうぞ後悔のなきよう。
特に、コミックと文庫、かな。もう本好きの皆様でしたら、身にしみてわかってらっしゃるとは思いますが。

3は、先日の銀河通信オフで大森望氏から聞いて初めて存在を知った本。前の判は装丁が違ったのかあ。
40歳前後のマンガマニアの方、連絡請う!!!オネガイシマス!!!

名前:安田ママ

メールアドレス:y-mama@mug.biglobe.ne.jp

サイト名、アドレス(お持ちの方のみ):銀河通信オンライン http://www2s.biglobe.ne.jp/~yasumama/
  

 

特集 銀河通信オフ会

 6月17日(土)、船橋の某居酒屋にて、10万アクセス記念として、銀河通信初のオフ会が開催されました。この企画として「あなたのオールタイムまたは今現在の布教本、もしくはお宝本を一冊お持ちくださいませ」というお願いをしていました。なにしろ濃いメンツが集まったため、これがなかなかに面白かったのでそのご報告を。

★リウイチさん…『スターウォーズ ローグプラネット』グレッグ・ベア/ソニーマガジンズ…って、これさっき訳者の大森さんご本人からもらった本じゃん!(笑)当店は、今日配本されまして、SFコーナーと映画コーナーに並べましたよん。あとは、『西条秀樹のおかげです』森奈津子/イーストプレス。ってこれもさっき当店で買ってくださった本じゃん!あ、そうか布教本ね。いつもお買い上げありがとうございます。ぺこり。同時発売の『孕む』久美沙織も紹介。

★πRさん…「SFマガジン ’87 10月号」収録「山の上の交響楽」中井紀夫/早川書房、「SFマガジン’92 10月号」収録「デュオ」飛浩隆/早川書房…この時点で、πRさんが年季の入ったSF読みということが判明。「でも高校くらいからですよ」とおっしゃるが、私の100倍はSFくわしいです。マジで。あと『虚業家宣言』康芳夫/双葉社。これは昭和49年の本。

★米田淳一さん…『オカルトの事典』青土社。あと、お父上が自衛隊方面にお勤めだそうで、「波涛」というそちら方面の雑誌。けっこう面白いらしいです。

★大森望さん…『笑う伊右衛門』京極夏彦/中央公論新社。が、なんと、限定100部の私家版和綴じ本!和紙に印刷してあって、表紙も柄のきれいな和紙!(しかも表紙は5バージョンくらいあるらしい)やー、これ京極ファンが見たら鼻血吹くんじゃないかなあ。すっごく素敵な本でした。大森さん、ずるうい(笑)。いいなあ〜。

★松本真人さん…『アッカーマンSF博物館』(ごめんなさい、出版社書き忘れました)、『SFバルーン』みのり書房。「これは新刊で買ったんだけど、1回しか見なかったんですよ」とのこと。大森さんが、「確か4号か5号くらいまでしか出なかったんじゃないかな?」と申しておりました。あと、「創元推理コーナーSF特集号」。ダイジマンはすかさず「あ、持ってます」。さすが(笑)。

★kashibaさん…『忍法相伝73』山田風太郎、講談社。彼の今年の血風!だそう(笑)。あまりにも内容がバカバカしいので、絶対に復刊されないというか本人が復刊を許さないでしょう、とのこと。そ、それはすごい。別の意味で。あと、『知っているのは死体だけ』島久平、久保書店。ミステリ読みなら知ってる、とても有名な本らしい。すみません、違いの分からないオンナで。しかもなんとなんとこれ、「謹呈 横溝正史先生 島久平」のサイン入り!!謹呈本だったのですねえー。びっくり!!kashibaさんも「ひとに言われて気がついた」と申しておりました(笑)。

★川口且真さん…『The Art of Fantastic』。洋書のアートイラスト集。モノトーンの素敵な本でした。ネットで買ったそうです。洋書におくわしいのですね。限定1200部(!)とのこと。それはお宝ですね。あと、「MAXIMUM」という、埼大SF研の同人誌。これは、巻末の児童向けSF図書リストがすばらしいとのこと。この時代にこれだけ調べるとはすごいらしい。でも現物にはあたってないらしい(とおっしゃってた気が。うろ覚えですみません)

★drakenさん…『メタモルフォセス群島』筒井康隆、新潮社。なんとご本人のサイン入り。最初のページの筒井さんの写真が若くてカッコイイ!俳優さんみたい、といったら、彼は当時俳優志望だったと土田さん(でしたよね?)からうかがいました。あと、彼の直筆サイン色紙。drakenさんは昔、筒井康隆のファンクラブに入ってらしたそうです。すごい〜。

★ダイジマン…「SFの手帖」これはファンジン。今、彼はファンジンを集めるという野望に燃えているのです。これはあの福島正実の『SF入門』とほぼ同時期に出ているため、それと内容が重複しないようになっているとのこと。これは非常に価値ある一冊だそうで、神田のカスミ書房で5万円の値をつけて出したら速攻で売れたそう(!)。これは古本屋業界でも驚かれた、めちゃめちゃの高値だそうです。しかしそれで売れちゃうとは。ダイジマンは某所で7000円で売られているのを発見し、「この値段なら買いだ!」と即決したらしい。古本鉄人kashibaさんから、「その値段を見て“安い”と思えるキミがすごい!」とお褒めの言葉を頂戴していました。

★土田裕之さん…『この子の父は宇宙線』新田次郎、講談社ロマンブックス。中身はモロSFだそう。短編集でいいのかな?あと、『三十年後』星一/新報知社。これはダイジマン超感動!なんたって大正7年発行の本ですよ!でもとても綺麗だったなあ。むちゃくちゃ高い本らしいけど、まあそうでしょうなあ。あと、『夜窓鬼談』上下巻。これはなんと漢文のホラー、でいいのかな?伊勢丹で購入したとか。なんとまあ、まさにお宝本ぞろいですねえ。

★アクセルさん…『江戸川乱歩名作集3』春陽堂書店。昭和37年発行。ダブリ本とかで、2冊も持ってきてくださいました。「欲しい方どうぞ」というので、青月さんが頂戴してました。「乱歩って子供の頃こわくて読めなかったんです〜」の声に、大森さんすらうなずく。kashibaさんが「一番最初に読んだ乱歩ってなんですか?」と大森さんに質問。「『人間豹』」とお答えになってた気が(記憶違いだったらごめんなさい)。すかさず「エッチ〜!」とkashibaさんの声が(笑)。

★お給仕犬さん…『VINUS PLUS X』。洋書。彼女の熱愛するスタージョンの未訳本。実は彼女は今日MZTさんがくると思っていて、MZTさん対策として持ってきたとか(爆笑)。なぜかというと、彼はことあるごとに、この本を持ってることをお給仕犬さんに自慢しまくっていたとかで、「もうゲットしたから、自慢しなくていいよ〜」と彼に言うつもりで持っていらしたそうです(笑)。彼がこなくて残念でした。これは復刊なのかな?わざわざロンドンで買ったのに、帰ってきたらアマゾン・コムで売ってたとか(笑)。

★青月にじむさん…『薫の秘話』1,2巻、松田洋子/講談社モーニングkc。今回の宿題に彼女は非常にアセっていたそうで、しかも引越しだか片付けの最中だったのでとりあえず手元にある本を布教本として持ってらしたとのこと。でも内容は非常に面白いらいしです。『リスペクター』よりずっと面白いそう。kashibaさんも絶賛(しかし彼はホントになんでも知ってるよなあ〜)。この2巻はなかなか見つからないそうです。これこれkashibaさん、「えー、では500円から」ってオークションにかけるなっつーの!(笑)あと、『愛の見切り発車』柴田正幸/新潮文庫。ピッカピカの新刊です。これも布教本とのこと。

★やよいさん…島田一男チェイサーとして超有名な彼女。なんたって島田一男全文庫リストをつくるほどの入れ込みようだもんね。で、当然彼女の持参本は、『鮮血の街』島田一男/桃源社。文庫になってない、短篇集だそう。今年、あちこちのネットで話題になった、そうです。「あちこちって2つくらい?」と古本系の方からツッコミもあり(笑)。

★谷田貝さん…『ラブ&フリーク』文芸春秋。これ、今日発売のピッカピカの新刊です。もう読破したそう。早い〜。面白かったそうです。あと、『荒俣宏のデジタル新世界探検』日経新聞社。これも4月の新刊。なんと、これに彼のサイト「ノストラダまス」が紹介されてるのです!すごーい!

★安田ママ…すいませーん、トリのくせして、私が一番薄いでーす(笑)。いやマジで。お宝なんてなーんにも持ってないので、布教本の森雅之『夜と薔薇』ふゅーじょんぷろだくと社。私は彼の大ファンなのですが、彼の知名度は異常に低いので、「彼は講談社漫画賞も受賞してるんです〜」と力説。「でも絶版本が、まんだらけ探してもネット探しても全然見つからないんです〜」と泣きの告白をしたところ、大森さんがさらっと「これ、コミックマニアならみんな買って持ってるよ」と衝撃の一言。がーーーーーん!!うそおっ!大森さんはちゃんと最初の版を持っていて(私のは復刻版)、しかも奇想天外コミックス(でよかったですか?)の切抜きまで保存してるそう。ひーーーーっ!マジっすかあ?超うらやましいいい!ああ、でも非常に有益な情報を得てうれしかったです。そうか、コミックマニアは持ってるのね。で、皆市場に出してないんだな。ふっふっふ、わかったぞお。マニアのひととお友達になればいいんだっ!(笑)ああ、絶望かと思っていた望みに、かすかな光明が見えてきたよ。大森さん、どうもありがとうございました。


 

ダイジマンのSF出たトコ勝負!

 古本を探していると、時に驚くような代物にブチ当たることがある。そして数年前のあの日は、最高に研ぎ澄まされていた。唯一の問題は、いつまでたってもその時の引きの強さを越えられない、というただ一点にある(泣)。いや、せめてコンスタントに…、ねえ!?

 閑話休題。その日のぼくは、以前に一度だけ行ったことのある古本屋さんに、何かに誘われるかのように、フラリと出向いたのある。最初の時もなかなかの買物をしていたが、店内に入って仰天した。すぐのカウンターには、まさか日本でお目にかかることがあろうとは、我が目を疑う背表紙が! いやいや落ち着け。こういった場合、ぼくは直ぐには飛び付かず、まず店内を一通り見てまわる習性がある。もちろん店内に誰もいないことは確認済みだ(笑)。

 ここでぼくが何を発見したかは、実は本題ではない。タネを明かせば、ぼくが最も欲していたパルプ・マガジンだ。しかし、大漁を約束され書棚を撫でる、静かなる興奮に裏打ちされた“鷹揚な”気分がなければ、きっと見落としていた「SF裏面史」がそこにあった!

 棚奥から拾い出したのは、ビニールパックされた3冊のペラペラな小冊子。その名は〈悪魔運動〉。明らかにSFファンジンじゃない怪しげな表紙と、結構なお値段。こんな鷹揚な気分でなければ、誰がわざわざお店の人に頼んで内容を確かめようか。

 とは言え、なぜか確信にも近い予感はあった。第1号(1961年12月1日、本文24ページ)。フム、映画小特集ですか。翻訳も載ってるじゃん。お次は第2号(62年3月20日、本文43ページ)。広い意味での芸術系評論主体の雑誌みたいだな…。っとと! やっぱりあったゾ、案の定。狙い的中、「S・F論序」ってのが掲載されている!!急いで第3号(62年9月1日、本文54ページ)を開けば、ナカグロ取れて「SF論序(その2)」という連載になっているではないか!

 全貌は「序」の頭の部分だけなので判然としないが、見る限り普通のニューウェーヴSF論である。それだけなら、どうってことないんだけど、しかし著者の名前が興味を惹いた。その名は小堀生

 はっきり言って誰かは知らんが、小堀という名のSF関係者はひとりしかいない。こりゃ、新発見かもよ!? な〜んて、ほくそ笑んで帰路につく。ぼくがニラんだのは、〈星雲〉(森の道社、1954年)に掲載されている「エヴァリスト・ガロア」の執筆者が「小堀」だったので、もしかしたらもしかするかも…と思ったのでした。でもこっちの小堀は小堀憲で、筆名かもしれないけど、同一人物ではなさそうな感じ。あんまり研ぎ澄まされてもないや(笑)。残念、むー。

 …という話を去年のSFセミナー99合宿企画、初参戦の「ほんとひみつ」でしようと思い、改めて〈悪魔運動〉を見直していたら、ふとあることに気が付いた。「S・F論序」掲載の第2号が62年3月発行。この時点でのニューウェーヴSF論というのは、非常に早い。いや、むしろ異常に早い。

 本家のイギリスは〈ニュー・ワールズ〉にて、運動としての「ニューウェーヴ」がスタートしたのは、一般にマイクル・ムアコックが編集長に就任した64年からとされる。ニューウェーヴの先端を疾走し続けた“預言者”、J・G・バラードの作家宣言「内宇宙への道はどちらか?」(伊藤典夫訳、〈SFマガジン〉97年3月489号収録。〈季刊NW‐SF〉70年7月創刊号掲載の「内宇宙への道はどれか?」改題・新訳)が〈ニュー・ワールズ〉誌上に発表されたのが、62年5月号でのこと。つまり、いわゆるニューウェーヴ運動が勃興する直前に、SF黎明期を迎えたばかりの極東の日本で、独自に「SF=スペキュレーティヴ・フィクション」と断言する論を展開した、謎の人物がいたのである!!

 もちろん、ニューウェーヴ派が標榜した「スペキュレイティヴ・フィクション」(思索小説/思弁小説)という用語自体は、数年前の50年代末に、とりあえず発明(?)されてはいる。皮肉にも、同じく〈季刊NW‐SF〉創刊号で、主宰者山野浩一が「とにかく、SF大家の思考水準の低さを知る上で、一読の価値のある作品といえよう。」(『異星の客』評)と酷評したように、仮想敵のオールドウェーヴ代表格と目される、ロバート・A・ハインラインによって。

 これらを踏まえると、小堀生の主張は興味深いものである。「…このばあいSFは、サイエンス・フィクションと言うよりは、むしろアメリカのSF大御所ロバート・ハインラインが唱えるように、スペキュレイティヴ・フィクションの略だと考えたい。しかし、彼が自分の小説をその模範と考えているとすれば、いささか同意しかねる。というのは、彼の小説でえがかれた人物や社会はほとんどすべて陳腐な観念にまとわれていて、ほとんど人間精神のあののりを越えた姿を我々に見せてくれないからである。」と第2号を締め括り、第3号では「(1)S=スペキュレーション・思わく」「(2)F=フィクション・つくりごと」「(3)SF=スペキュレーティヴ・フィクション」という、3つの章題でSF論を展開する。

 ぼくが当初「普通の」ニューウェーヴSF論としか思わなかったのは、現在の歴史的観点から見ても、大筋の論旨において違和感が少なかったからにほかならない。ただし、時代を考えると話は別だ。

 いわゆる黄金時代SFの翻訳紹介が急務だった当時に「スペキュレイティヴ・フィクション」という言葉/概念に共鳴し、しかし当のハインラインさえ十分な紹介が進む以前に、彼の作品は違うと喝破した小堀生。具体的な書名を俎上に乗せていないゆえ、果たして彼の求めるSF作品がどのようなものかは、確かめるすべも無い。いやそれとも、彼の構築する、独自のSF観に合致した作品が未だ存在しないイラ立ちを、この小論に著してみたのだろうか。

 そして何より…。地球の対極でデジャヴのように、同時発生的にニューウェーヴを指向した小堀生は、のちにSFを“スウィング”したそれらの果実をどう味わい、結果としてお気に召したのだろうか?

 〈悪魔運動〉が何号まで刊行されたか判らず、連載は次号に続いている。探索は手詰まりであるが、ここまででもSF界の片隅に記憶されるべき史実であろう。皆さんの、更なる情報を求む!

 さて、以上が99年のセミナーで話した全容である。そして今年のセミナーで、遂に謎は解けた! 以下次号「解決編」、括目して待て!

 

あとがき

 銀河通信初のオフ会は、小心者の主宰者にはドキドキでしたが、実に濃く楽しいひとときでありました。参加者の皆様、ありがとうございました。またやりたいですねえ。(安田ママ)


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