記念すべき今世紀最後のSF大会が、8月5〜6日(土日)、パシフィコ横浜似て開催されました。さすが世紀末、超豪華な企画&ゲストの出血大サービス!ホント、参加できてよかったと心から思いました。いつも思うけど(笑)。
しかし、120もある企画のうち、自分が参加できたのは10にも満たないというのは非常に残念。カラダがひとつしかないのがどれほど悔しかったか!それほどに充実した大会でした。私が見ることができた企画だけ、ざっとご紹介します。
1日目
☆「宮部みゆきトークライブ」
ずっと宮部さんのファンでしたが、実物を見るのは初めて!明るく元気な喋り方で、ちょっとミーハーで(笑)茶目っ気があるという、想像していた通りの方でした。聞き手は大森望氏。
話題は『クロスファイア』映画化の話や、ハマってらっしゃるプレステの話や(こんなにゲーマーだったとは知りませんでした!)、これから書こうとしてるSFの話などなどとにかく縦横無尽。
『クロスファイア』は映像を見たら強烈な暴力性が出ていて、書いた自分が驚いたとか(笑)。小説の影響などを考えさせられたそう。
これからはゲームや小説などのエンタテイメントは、そのひとに限られた時間をどう使ってもらうかのせめぎあいになる、というのには深く共感させられました。言葉の端々から、小説家としての職業意識があふれ出ていて、執筆に向かう真摯な姿勢に感動しました。
SFを書くことにも非常に意欲があり、これから書きたいのは、なんとレプリカントSFだそう!わー、楽しみ!期待してますからゼッタイ書いて下さいね、宮部さん!
☆「SFというジャンルの確立」
伊藤典夫(司会)、柴野拓美、野田昌宏のお三方の対談。ダイジマンが楽しみにしてた矢野徹は、残念ながら今回は欠席でした。
終戦当時、何をしていたかという話から始まり、SFの黎明期を懐かしそうに楽しそうに語っておられました。始まりの熱い鼓動が、こちらにもびんびん伝わってきました。SF一色の青春時代だったのですね。海野十三の話や、手塚治虫、福島正実、星新一など、今は亡きSFの立役者の方々のお話も実に興味深かったです。私の知らないことばかりだったので、とても勉強になりました。柴野さんの「やっとSFのジャンルが確立したと思ったら、もう浸透と拡散が始まったみたい」というお話には驚き。生まれた時から身近にSFがあった私には目ウロコでした。まだまだ若いジャンルなのですね。
☆「SFは楽しい!」
今回の大会で、私が最も楽しみにしていた企画。何しろ、「本の雑誌」の北上次郎(目黒考二)、椎名誠、大森望のお三方という豪華メンバー!彼らのSF話を聞けるなんて、うう、うれしい!
しかし、目黒&シーナ、のっけから「最近SFあまり読んでない」などとおっしゃる(笑)。でもシーナさんは『ハイペリオン』を絶賛してらっしゃいました。大森さんの巧みな誘導で、徐々にお二人のSFに対する、いや本の趣味そのもののスタンスが明らかに。が、これが見事にズレてる!(笑)目黒さんが『十二国記』を絶賛しても、シーナさん「ふーん…」。逆に、シーナさんが『月がもしなかったら』をベタホメしても、目黒さん「…そう、よかったね」。もう会場は大爆笑!
おふたりは昔、非常にSFを愛していて、銀背とSFマガジンを必ず買って読んでたとか。目黒さんの銀背絶賛には感動。
シーナさんは、これから頑張ってお好きな異世界SFを書いて下さい、という大森さんの言葉で幕。
☆「書評雑誌対抗・SF編集者座談会」
「ダ・ヴィンチ」、「本の雑誌」、「活字倶楽部」の三つの書評誌からゲストをお呼びして、福井健太氏が司会でお話をうかがいました。同じ質問に対して、答えが三者とも路線が異なるところが非常に面白く、興味深かったです。
「ダ・ヴィンチ」は本の啓蒙雑誌、「本の雑誌」は書評者そのものにファンがついてる雑誌、「活字倶楽部」はキャラ萌え雑誌(笑)、という傾向が如実に現われていました。三誌とも、読者をよく把握した作りゆえに、それぞれファンがついているんだということが実感できました。
ジャンル分けについてなどの意見をかわすうちに、司会の福井健太氏が過熱していくさまがなかなか爆笑モノでした。
2日目
☆「SF雑誌の創刊ラッシュ」
森下一仁氏の司会で、向かって右から森下氏、新井素子、神林長平、川又千秋、谷甲州、山田正紀(敬称略)。神林さん以外は、皆様写真でしかみたことない方ばかり。
72年ごろは何をしていたか?という質問から始まり、おのおのが当時を語る、という形でした。それぞれのデビュー当時の話など。
意外にも、昨日の「SFというジャンルの確立」企画に比べて、パネラーの皆様が淡々としていたのが印象的でした。聞いていた雰囲気だと、あまりお互いの交流がなかったのかな?そのせいかも、と思いつつ拝聴。ま、小説書くのって個人作業ではありますからね。
この企画も、私の知らないSF界のことがたくさん出てきて、非常に勉強にはなりました。
☆「ジャンル別「最強」決定戦:SF、ホラー、ミステリ、ファンタジー史上最大の決戦」
この企画を見逃した方は、はっきり言って一生の損!(笑)あの時あの会場にいらした方で、この感想に意義を唱える方はおそらくひとりもいないハズ。いやあ、それくらい、マジ面白かった!!
各ジャンルから2名ずつ選手が出て、おのおの自分のジャンルから「こいつが最強の悪者だ!」と思う小説上の人物をあげ、そのわるものぶりを説明し、どっちが強いかを競う勝ち抜き戦というしくみ。
司会は大森望氏。また嬉しそうなんだ、これが!(笑)あんなに生き生きとした大森さんって、やはりわるもの、と心ひそかにつぶやく。しかもこの対決、ジャッジは、ほとんどSFを読んだことがないという18歳の声優、仙台エリ嬢。会場のウケや拍手は全く関係ナシ、彼女の意見が全て、という恐るべき判定方式なのでした!まず会場の参加者に予想アンケートをとってから、バトル開始!
この戦いの模様は全部書くとキリがないので、印象の強かったところのみ紹介。となると、やはりまず圧倒的強さで会場を驚愕の渦に巻き込んだ、山田正紀氏の事を書くのが第一でしょう。何を隠そう、私は彼の著作は一冊も読んでないのですが、あの活躍を見ていっぺんにファンになりました!(笑)
彼はSF代表だったのですが、挙げた人物が「エイリアン」のリプリー。まずこの意外さで掴みはオッケー。「えっ、なぜリプリー?」と思うでしょ。そして、彼女がいかに悪者だったかという、山田氏の驚天動地の発言が!私は本当にひっくり返りそうになりましたよ。彼女が不倫を清算するために架空の宇宙人、エイリアンをでっち上げ、宇宙船に搭乗していた自分以外の人間を全員殺してしまったというのですから!!その有無を言わせぬ圧倒的迫力と、見事な論法と、芝居がかった弁舌のカッコよさに、会場はひたすら呆然、爆笑。作家とはここまでやるのか!彼のプロ根性を見た思いが致しました。山田正紀、恐るべし。
他には、ファンタジー代表の高野史緒氏が、『ソフィーの世界』のアルベルトはストーカーだという説や(笑)、ホラー代表の倉阪鬼一郎氏の出した吸血鬼ロマー・マウルが実はただのいいひとでは、という逆転劇やら、ミステリ代表田中啓文のダジャレによる大ボケぶり、などが傑作。
決勝戦は、ファンタジー代表の菅浩江氏のウェンディ対山田正紀。菅さんのおっとりとした京都弁でのボケぶりも実に面白く、こんな方だったとは、と『雨の檻』のイメージが心の中でガラガラと崩れ行くさまを楽しみながら拝聴。
が、仙台エリ嬢の性格がウェンディに酷似しているのが発覚してしまったため、やはり優勝は文句ナシに山田正紀氏に決定!いやあ、実に素晴らしい戦いでした(笑)。見てるこちらまで燃え尽きました!
☆エンディング
ここで急遽、2003年のSF大会の開催地を全員の投票によって決定するという事態に。大阪と栃木の方がそれぞれ短く地元アピール。さて結果はいかに?
というわけで、たったこれだけの企画しか見られませんでしたが、ひとつひとつは非常に充実していたし、満足満足。欲を言えば、「SFの20世紀」の部屋だけでも、記録ビデオ発売してください、スタッフの方々!あんな豪華メンバーが揃うことはもうないでしょう。ああ、見たかった、小松左京!新井素子の朗読も聞き逃したし、上遠野浩平のトークも聞けず残念。
スタッフの皆様、お疲れさまでした。おかげさまで心行くまで楽しませていただきました。御世話になった皆様にも感謝感謝(特に牧眞司様)。来年は幕張だとか。おお、地元だ!来年、千葉の地でまたお会いしましょう!