35号 2000年8月
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電車で普通に行けちゃうんだから、やっぱ近いのはラクチン。予算をその分オークションに投入できるしね(笑)。ということで、ちょっと早めに会場のパシフィコ横浜に出向き、オープニングは二の次とばかり、早速牧眞司さんらの即売&オークション設営のお手伝いにディーラーズへ急行。紀子さんや北原尚彦さんが作業してるのは予想通りだが、なぜ桐山芳男さんまで(笑)。ホント人が良いんだからァ。ぼくも即売用の雑誌をワシワシ並べ始めるが、作業の途中もミステリ雑誌掲載SFについて、桐山さんから教えて戴くことしきり。タメになります感謝です。
オークションは5日の初日終了までの入札制だから、行きたい企画の合間に覗けば大丈夫。出品もサンリオ文庫の珍しい所や各種雑誌・単行本のみならず、いわゆる黒っぽい本″もノミネートされてる、さすがの品揃えでしたね。
さていよいよ第1企画、「SFの日本上陸‐日本SFの芽生え‐」にGo! これは『SFの20世紀』と銘打たれた、リレー座談会の連続企画1コマ目である。パネラーが横田順彌、長山靖生、牧眞司と来れば、書影スライドを見ながら本の紹介や説明を加える、ライブ版『日本SFこてん古典』の趣。
照明を落とし、最初のスライドが投影されるまで若干の間が。するとすかさず、「えー、これがいわゆるSFの空白時代でして…」と説明を始める横田さん(笑)。SF前史の、いわゆる一連の「奇想小説」の系譜紹介がメインであったが、なに分にも明治・大正と扱う範囲が広いため、要点をフォローした所で時間切れ。最後にザザザッと見せたスライドにだって、幾つもオッ!?てな本があったのになー。「日本上陸」ならば、例えば翻訳に絞ってSF移入史をまとめた方がスッキリしたのかも。
そのまま『SFの20世紀』2コマ目、「SFというジャンルの確立」へ。疑心暗鬼で半信半疑、人に聞いては一喜一憂、ホントに矢野さん来るのかな?と淡い期待を抱いていただけに、パネル直前にキャンセルの知らせを受けガックシ。矢野さんに会うという、同時代を生きる者なら当然の義務を果たしたいだけなのだが、大会はおろか、宇宙塵40周年パーティーに会員でもないのに飛び込んだり、「ホシヅルの日」に行ってみたりしても肩すかしの日々。それがまたしても…。オノレ矢野徹許スマジ。
ということで、柴野拓美、野田昌宏、伊藤典夫の3氏によって、各人のSF体験から日本SF黎明期が語られた。聞き手が伊藤さんとはゼイタクな。野田‐伊藤コンビを同時に見るのも初めてですね。
アメリカ仕込みの日本のSFファン第1号″である矢野徹。星新一らの賛同を得、矢野徹に参画を願い〈宇宙塵〉を創刊した柴野拓美。その器に、学生だった野田昌宏や伊藤典夫を始め、多数の才能が続々と集結する様は驚異の1大スペクタクル! こりゃ昔語りがおもしろいワケだ。日本SFの売り込みに渡米した福島正実が、〈アナログ〉のジョン・W・キャンベル・Jr相手に苦労した話などは、これまで聞いたことがなく興味深かった。
さらに続けて3コマ目、「初期の日本SF作家‐SFマガジンが生んだ作家達‐」に。小松左京、石川喬司、森優、森下一仁、高橋良平に加え、当初予定された眉村卓に代わり豊田有恒が登壇。初めて拝見した森さんが、エネルギッシュで印象的。第1世代作家(小松、豊田)と、同時代の裏方(評論家・石川、編集者・森)、それらを読んで育った世代(森下、高橋)というメンバー構成である。
「日本SF作家クラブ」設立のための発起人会(1963年3月5日、新宿の台湾料理屋「山珍居」)に於ける録音テープなどという、歴史的モニュメントが披露された。議事進行は福島正実。なんとなく(ぼくの勝手な)イメージと異なっていたが、やはり精力的なその肉声に、豊田有恒は「今聞いても怖い」と言うんだから相当な物だ。
小松左京のSF歴など、やはり第1世代作家中心の話題で進んだが、テープが予想以上に長く、他のパネラーにも十分な時間が割けなかったことが惜しまれる。
この後はお休み。武部本一郎原画展で、あの名画が小さいのにびっくりしたり、オークション会場でのんびりと。突発的に即売用の〈SFマガジン〉を整理したりしつつ、人様が競っているのを眺めるのは実に楽しいものである(笑)。
終了後はみんなで食事。横田さん、北原さん、長山さん、牧さん夫妻、喜多哲士さん夫妻、天野護堂さん、SF乱学講座の宮坂収一さんに、u‐ki総統、掲示板常連のπRさんで、安田ママにぼくという大所帯。料理がぐるぐる廻ってました。おや、廻っているのはテーブルだ。なぜならここは中華街!
和やかに会食が終わり、「また明日」と解散した後は、u‐ki総統、πRさん、安田ママに、加藤隆史さんを加えた5人で、大会の夜を語り楽しむ。汲めど尽きせぬ泉かな。
8月6日、大会2日目。1コマ目はやっぱりリレー座談会その5番目、「SF雑誌の創刊ラッシュ」へ向かう。森下一仁を聞き手に、パネラーは山田正紀、谷甲州、川又千秋、神林長平、新井素子が登場。主に70年代から80年代前半にかけての、デビュー当時の逸話などが語られたが…。注目は新井さんが三村美衣さんにソックリなこと(笑)。「ホシヅルの日」で拝見した時は、なるほど著者近影の通りの新井素子であったが、今日のパネルに登壇したのは、どこから見ても三村美衣その人であった。裏企画の「ミニファンタジーコン3 日本編」には誰が出演しているのかと疑念が生じたが、演技とは思えない位ぬいぐるみをかわいがっていたので、多分本物なのだろう。
昨日のオークション結果をあれこれ見てまわり、会計を済ませる。いつまで経っても入札が無いことに業を煮やして(笑)札を入れた、〈宝石〉1955年2月、60年12月、〈別冊宝石〉122号(63年9月)の3冊のSF特集号は、そのまま無競争の底値で落札。それぞれ400円也。未所持本だったりするが、他に欲しがる人はいないのか!
次の企画は、「ジャンル対抗「最強」決定戦:SF・ホラー・ミステリ・ファンタジー史上最大の決戦」に行く。おお、初めてリレーパネル以外だぞ。大森望を司会に、要は〈本の雑誌〉最強決定座談会ライブ版。SF/山田正紀&野尻抱介、ホラー/倉阪鬼一郎&牧野修、ミステリ/我孫子武丸&田中啓文、ファンタジー/高野史緒&菅浩江という代表作家陣による、ジャンルの誇りを賭けた熾烈な戦い(!?)が期待された。
ジャンルの誇りと言えば、倉阪さんのホラー愛が会場を激震。沸騰するような熱き魂の叫びは、勝敗などに捕われていた世俗のぼくらを超越していた。「双葉山の殺人鬼」@綾辻行人『殺人鬼』で登場の田中啓文さんは、「最強対決なんだから、実際に戦ったらどっちが強いかですよ」という勝負の原点を提起したが、概ね人型の登場人物には有効な論法も、対戦相手が「アラハバキ神」@梅原克文『カムナビ』の野尻さんでは逆効果かと危ぶまれた。だが我孫子さんの冷徹な批判による力添えや、田中さんの期待通りの一発ギャグ攻勢により、優勝候補の一角「アラハバキ神」は破れ去ったのだった。「やってみたら、案外勝つんちゃう?」という田中発言が秀逸。
しかし何と言っても、並み居る強豪および聴衆を驚倒せしめたのが、山田正紀である。「あれほど小説の登場人物だよ、って言ったのに」と大森さんが苦笑した通り、「リプリー」@『エイリアン』をエントリーした山田さんは、当初は企画意図を十分に掴み切れていないのでは?とさえ危惧された。だが、大胆な仮説と緻密な計算で構築し尽くした「リプリー完全犯罪説」を続々と繰り出し、対戦相手の戦意を喪失させるに十分な破壊力を発揮。密室ミステリの謎解きに、センス・オブ・ワンダーを併せ持った力技をナマで堪能しなかった山田正紀ファンは、残酷だが一生後悔すべきである。勝ちにこだわる飽くなき執着心も、エクセレント&ブラボー!!ぼくは事前予想で1位山田、2位菅浩江と、会心の冴えで的中させてみせたが、正解者の抽選に外れ景品ゲットならず。時々に強権を発動する、特別審査員仙台エリの活躍も見逃せない。
かくしてリレー座談会『SFの20世紀』により、「Zero―CON」は一本スジの通った大会として、充実した満足感を与えてくれた。スタッフの労を最大限にねぎらいたい。
あとがき
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