SFセミナー2000レポート

 2000年5月3日(水)、ゴールデンウィーク真っ只中の明るい初夏の日差しの中、東京の全電通労働会館において、今年も「SFセミナー2000」が開催されました。私にとっては2度目の参加。イマイチ場所がよくわからないイナカモノのため、ださこんな人々と11時にJRお茶の水駅で待ち合わせて、まずは腹ごしらえ。私は一番に到着したのですが、次に着いた有里さんに、「本読んでるからすぐわかった」と言われました(笑)。確かに。そのあと、ニムさん、雪樹さん、青木みやさん、おおたさん(初めてお会いしました。わ、若い!)、ヒラノさん。みんなでジョナサンでわいわいご飯を食べる。

 当日の私のカッコはモモ一色!いや単に、春だからピンクが着たかっただけなんですう。ホントですう。決して決して、So−netの回し者ではありません(笑)。それにしても、モモのTシャツ、モモのボールペン、ハンドタオル、ケータイストラップ、クリアファイル、おまけにポケットポストペットまで持ってりゃ…ビョーキだな(笑)。ダイジマンも、壇上から見てすぐわかったと言ってました(笑)。目立つピンクだからのお。

 まったり食事をしたあと、ぞろぞろと会場へ。今回の場所は、ちょっとした小さなホールみたいなところで、椅子が斜めにせりあがってる立派なところ。受け付けして席を確保してから、ディーラーズなどをまわる。おお、知ったお顔があちこちに。あっ、野田元帥だ!でもすぐお帰りになってしまいました。残念。ここでは、『日本SF論争史』巽孝之、『ブックハンターの冒険』牧眞司、『イティハーサ』1巻(ポスターに引かれて、ほほほ)をゲット。ちはらさんが売り子をしてました。でも計算間違いで、あやうく6000いくらを9000いくらに売りつけられそうに(笑)。やるなあ、ちはらさん!(笑)古本には、すでに人がびっしりはりついていて覗くこともできず、あきらめる。さすがだよ、皆様。


12:50 諸注意

 風野ドクターの奥様でらっしゃる風野満美さんと、尾山則子さんが、まるでコンパニオンのように二人そろってにっこり笑って手をあげ、「SFセミナー、2000!」と高らかに開始宣言。これには会場爆笑。いやあ、よかったです。

13:00 1コマ目 「角川春樹的日本SF出版史」 出演/角川春樹 聞き手/大森望

 しょっぱなから出版界のドン(?)、角川春樹登場!彼はハルキ文庫で続々と絶版になってたSFを復刊してることや、「小松左京賞」を作ったことなどでSFものの注目を集めています。その春樹氏がなんと実際にお話してくださるとは!すごいぞSFセミナー!

 70年から90年の間、角川文庫において、なんと彼はSFを1300点も発行なさったそうです(!)。当時SFはほとんど男性読者だったそう。彼はまず60年代に「これからはSFブームが来る!」と予測してたそうです。で、星新一・筒井康隆(30代そこそこで若かったそう)、小松左京(すでにオトナだった)などに最初に接触、本を書いて欲しいとお願いしたとか。いや、お願いというよりはもっと強引だったのか?「『復活の日』を映画化したい」と小松左京に言いにいったとき、小松氏はやくざがきたと思ったそうなので(笑)。

 そして70年初め、日本SF黎明期が訪れる。SF文庫が続々と出版されました。翻訳を別にして、日本SFを広めたのは福島正実氏だそう。春樹氏は、彼の紹介によって、いろんな作家に会うことができたそうです。「福島正実は、ハヤカワ(この当時SFマガジンの編集長だった)という枠を越えて、日本SFが広まるように活動していた」と感慨深げにおっしゃってました。そしてハヤカワ文庫JAができ、角川はなんでもかたっぱしから文庫化してったそうです。そのすごさときたら、吉行淳之介らをして「あんたのこと、みんな泥棒角川と言ってるよ」と言われるほどだったとか。しかし春樹氏の返答が奮っている。「違います、強盗角川です」。「オレは堂々と強引に奪ってくからな」とおっしゃる。いやー、さすがドン!迫力!

 春樹氏「あの頃はね、SF作家は売れてるくせに屈折してたんだよね、誇りを持って卑下してたというか。売れてくると、“裏返しのエリート意識”が出ちゃってね」うなずく大森氏。

 春樹氏「今でもSF書いてる作家って、新井素子や小松左京とかくらいだね。他の第1世代の人はみんなSF書くのやめちゃいましたよ。ファンタジーにいったり、時代小説にいったり、ミステリにいったりしてね。」
大森氏「日本のひとはどうしてやめちゃうんでしょうね?海外の人はあまり変わらないのに。」
春樹氏「食べていけないってのもまああるね、でもね、今の若い世代の作家の1/3は、聞いてみるとみんな「SFを書きたい」っていうんだよね。」「『パラサイト・イヴ』は明らかにSFでしょう。ホラーの形を借りたSF。今、ミステリと同じにSFの範囲が広まってはいるんだよね。」

 春樹氏「SFは、海外からつまんなくなったね。『ニューロマンサー』とかのサイバーパンクから(場内爆笑)。で、次にオレはファンタジーブームが来るな、と思ったの。で、富士見ファンタジア文庫を作った。その次にホラーブームが来ると思ってたんで、角川ホラー文庫を作った。」
大森氏「当時の編集者は皆困ってたみたいですよ(笑)。社長が突然、「これからはホラーだ!」って言い出したってんで。「ホラーなんか売れないのに〜」って泣いてましたよ(笑)。
春樹氏「いや、オレにはわかってたの。70年代はSF、80年代はファンタジー、90年代はホラーだって。で、00年代は、またSFですよ!これは第1直観ね。多少時期はずれるけど、絶対そうだと確信していた。で、アレクサンダー戦記も、どかんと広告使ってやってみたわけよ。あのとき主題歌を直観で選んだら、今、小柳ゆきって売れてるでしょ」…すごい。その自信はどこから?さすがドン>こればっか。

 春樹氏「で、これからはSFの時代なんだけど、新しい書き手の問題があるのね。今、いろいろ作家を掘り起し中。」で、今日のために、角川のSF担当者(なんと4人!)にレポートを提出させたそうで、それを見ながら、何年に誰が出たというのをざっと紹介。「98年、三雲岳斗」と読んだところで、春樹氏、会場(にいたと思われる当人)に向かって「どうなってんだ、原稿!!」といきなり原稿の催促(会場大爆笑!)。9月以降のラインナップとして、高瀬彼方、(この他たくさん名前を挙げてらっしゃいました)、三雲岳斗(時期やや変動、と言ってまた会場爆笑)、などがあがってるそうです。ミステリとSFの境界にいる作家なども取り込んで、新しい作家による書下ろしをどんどん出す予定だとか。

 大森氏がターンAガンダムのノベライズの話をふると、間髪いれず「面白かったでしょ?」と強く突っ込む。「うーん(笑)」と困る大森氏。「富野が偉すぎて、自由に書けてない気が」とかわす大森氏。「あれはオレが書かせたの、説得じゃなく恐喝ね。「おい福井、ターンAガンダムやれよ」、ってね」

 今後の予定は、ある小松左京の作品(まだ秘密らしい)を富野アニメにする予定(サンライズがらみ)。ゲーム化、ビデオ化も予定とのこと。
大森氏「アレクサンダー戦記見てて、ものすごくカドカワハルキだって思った」
春樹氏「そう、主人公がみんなカドカワハルキになっちゃう」「富野はね、やっぱり自分はアニメ監督なんだと思ったらしいよ。あいつ、オレと同い年なんだよね。あいつ、一歩外出ると、“オレは富野だ!”って威張ってるらしい」
大森氏「竜虎激突!(笑)」
春樹氏「カドカワハルキという存在そのものがSFだね(笑)。オレは終戦前、子供の時にUFOの編隊を見たのね。その刷り込みがあって、SFに対するものの見方がすんなりいくんだよね」…おっ、話がなんかヤバイ方向に?(笑)でもここまでだけでした。

 大森氏「で、今のままではSFはヤバイ!と思ったのですか?それがハルキ文庫のきっかけですか?」
春樹氏「SFの時代がこれから来るというときに、今、日本SFの代表作がみな絶版で買えない。まずはSFに慣れさせよう!ということで、ハルキ文庫で代表作を復刊させたんだ。」
「あとは『小松左京賞』ね。彼は日本SFのスタンダードな人だから。去年の6月に、雨の中、尋ねていったのね。そしたら会った瞬間、「断る!!」って言われたの。「話も聞かないで断るとはナニゴトだ!」とオレも怒ったね。小松は「オレを殺すな!オレが死んだら何してもいいけど」と言ったんだ。なぜなら、『横溝正史賞』ができてから、横溝は8年間生きてたんだ」(会場大爆笑!)

春樹氏「選考委員は小松ひとりね。選考委員は何人もいると、モメてダメなの。みんな酒が強くて、ケンカっぱやくて、ものを投げるし、北方○三なんてすごいよ、あんなハードボイルド書いてるけど、実物は全然違うよ、とにかくモメるから選考委員は彼だけ。こっちで3作選んで読ませて、1位が大賞、2位が特別賞、3位が佳作。簡単でいいでしょ」

春樹氏「小松左京賞は200通ほど応募があったのね、大して角川春樹賞は600通!これは知名度の差だな」
大森氏「それは賞の中身の違いでは」
春樹氏「なんでだ!(迫力)」

春樹氏「とにかくね、小松左京賞の本が出る頃、一気にSFブームが来る!(>力強く断言)ひとつは宣伝。SFという文字を全面に押し出す。広告、プロモーション、中吊り、あらゆる方法で。オレは獄中行って帰ってきて、“これからはSFだ!”と思ったのよ」
大森氏「その因果関係は?(笑)」
春樹氏「…原点に戻る」(なにか言葉を濁しておられました>謎)

春樹氏「とにかく、小松左京のもうじき出る『虚無回廊』の3巻目は、日本SF界にショックを与えますよ。あとはもっと続きを書かせないと。ムチ!SMの世界ですよ(笑)4巻、5巻も出る予定。」
大森氏「小松さんに催促できるのなんて、日本広しと言えども春樹さんだけでしょう」

春樹氏「毎年10月のハルキ文庫のSFフェアは売れ行きいいのよ。今度は、平井和正単独フェアをやる予定。ゾンビハンターで。」(返答につまる大森氏)
春樹氏「ハルキ文庫は売れないけど、返品は多くない。これは戦略、戦術の問題。ノベルスもファンがついてきてるし。」
大森氏「でもハルキ文庫って、ひと月に出る新刊多くて、買えないですよね(会場、笑)70年代に突然SF文庫が絶版になったのを経験してる身としては、大丈夫なのか?と心配なんですが」
春樹氏「あの頃のSF担当は1人、今は4人!当時は作家がSFを書かなくなったので、こっちが見捨てました。で、ファンタジーにいった。今は大丈夫!」

 ここで会場から質問。「角川といえばテレビなどのメディアを使ってばーんと宣伝した“カドカワ映画”ってイメージが刷り込まれてるんですが、あれは何故映画を?これから実写を作る予定は?(>でよかったでしょうか)」
春樹氏「他の人はバカばっかりで、テレビは本の敵だと思ってたのね、当時はテレビのプロモーションをやろうという人がいなかったのよ。でもオレは地味なのキライでねー。ハデにやろうと!で、まず株式を公開して、資金を調達して、映画化したわけ。今度は小松作品をアニメ化して、市場からカネを集めて、実写映画を作る予定」

春樹氏「これから、SFのミリオンセラーが出ますよ。そうだな、3年後、2004年かな。ここから完全にSFの時代がきますよ。このセミナーの参加者の中から、小松左京賞が出るかもしれないし」
大森氏「その頃には、セミナーは武道館あたりでどーんと(笑)」「これからは、今のSFが忘れかけた貪欲さが必要ですね」
春樹氏「そう、エネルギーが必要!それは書き手次第なんだよ」

…いやあ、なんと力強いお言葉でしょう!聞きましたか?これからはSFの時代!春樹氏が断言(というか彼の「直感」が強引にメディアミックス&刷り込みで日本中を巻き込んでるって感じね、まさに仕掛け人)してくれればもう百人力でしょう。彼が味方なら、もうなにも怖くない!講演を聴いてて、本当に心強く感じました。さあ、SFの夏が来るぞ!

 それにしても春樹氏は非常に破天荒な、キョーレツな方でした。さすが大物の風格!という感じでしたね。やくざに間違われるのも無理ないな、と思わせるあの迫力はどこから来るのでしょう?(褒め言葉ですよ!)実に面白く、有意義な1時間でした。

14:10 2コマ目 「ブックハンターの冒険」 出演/牧眞司 聞き手/代島正樹

 当サイトのSFコラムニスト、ダイジマンがついに昼企画に登場!いやあ、すっかりSF有名人になったねえ。めでたいめでたい。

 この企画は、牧さんが4月に同じタイトルで自著を出版したという記念でもあり、同時に「みんなで古本屋に行こうキャンペーン!(笑)古本の魅力をわかっていただければ、と思って、あまりマニアックではなく、初心者向けに、入り口として」(牧さん談)企画されたものだそう。

代島「この本を出版することになったきっかけは?」
牧氏「学陽書房から声をかけられたのが主。」

牧氏「ぼくはコレクターであり、同時にブックハンターであることを公言してはばからない。ぼくは、SFファンになったとたん、ブックハンターになったのね。なぜかというと、読みたい本が新刊書店で手に入らなかったから」
代島「そういえば去年の暮、書店のお客様からサンリオSF文庫の注文がありましたよ(笑)」
牧氏「ぼくはSFにハマリ始めた頃、筒井康隆の『SF教室』と福島正実の『SF入門』を読んで、とりあえずこれに紹介されてる本は全部読もうと思ったのね。でも、その当時ですでに半分くらいの本が、新刊書店で入手不可だったのね。で、古本屋しかなかったの。今、絶版ばかりでと嘆く声をよく聞くけれど、不平を言うより自分で探して読みなさい!と言いたいね。絶版本が読めないのはいつの時代も同じ。今も昔も、ない本は古本屋へ行きなさい、と。」
うむ、非常に前向きなご意見。スバラシイ。

代島「SFファンになったとたんに、SFマガジンとハヤカワSFシリーズのコンプリートを目指したそうですが、それはなぜ?」
牧氏「そういや、今、ハヤカワSFシリーズのことを「銀背、銀背」って言うけど、昔は言わなかったよね。青背が出てからだよね、あれって。ちゃんちゃらおかしいよね(笑)」
代島「最近ったって、20年前では(笑)」
牧氏「スタンダードとして探して読むとしたら、あの頃はやっぱりハヤカワSFシリーズだったんだよ、その当時でだいぶ抜けてたしね。当時はネットもなかったし、SFマガジンくらいしか情報源がなかったんだ、読むものがいっぱいあった時代じゃなかったし」
代島「SFマガジンの書評も面白かったですよね」

代島「SFファン活動はいつから?」
牧氏「まだ中学生の頃から。でもおみそだったのね、何でも知ってたけど(笑)。やな中学生だよね(笑)。でもファン活動によって、いろんな知識が得られてよかった」(うひー、中学からですか!すごい!)
代島「〈宇宙塵〉はいつから?」
牧氏「中学で入会して、高校で例会に参加するようになったんだ。例会のちょっと前に着いて、皆より先に古本屋周りをするの。こないだの〈SFオンライン〉の特集のときも、先に一回りしていったんだ(笑)」
代島「そういえば、今度の本の雑誌(2000年6月号)も古本の特集ですよね」
牧氏「ああ、ちょっとインタビューされたよ」

代島「で、この本(『ブックハンターの冒険』)の内容なんですが」
牧氏「もう皆SFの話はさんざん知ってると思ったんで、わざと内容は奇想小説に片寄ったつくりになってます。早川書房の「異色作家短篇集」や、白水社の「小説のシュルレアリスム」あたりや、ジュール・ベルヌ、イーリィとか、あまりSFじゃない路線を取り上げました。作品紹介半分、古本探しエピソード半分、くらいの割合かな」「去年の今ごろ原稿を書いてたんだけど、その頃ぼくはものすごい躁状態で、原稿もこの本の1.5倍くらいあったのね。で、これじゃとても入らないっていうんで削ったんだけど、削ってすっきりしたところと、逆に食い足りないところとあるね」

牧氏「「異色作家短篇集」は、新版もいいけど、旧版もまた装丁がいいのね。月報も入ってて、これがまた面白い!本探しってのは、物欲と本探しが天秤にかかった状態なんだよね。両方にこれがのっかって、ギシギシいってる」
代島「本を集めるのって、切手とかと違いますよね。切手は使ったらなくなっちゃうけど、本は読んでもなくならない(笑)」

 このあたりは、コレクターならではの発言ですね。ダイジマンのみならず、牧さんも月報など、紙屑系を大切にしてるってのがよくわかります。『ブックハンターの冒険』をお読みになった方にはおわかりだと思いますが、この本でも、牧氏は月報についてかなり紙面を割いてらっしゃるんですよね。

代島「牧さんに実は宿題を出してたんですが、国書刊行会で〈魔法の本棚〉というぼくも大好きなシリーズがあって、今度〈ミステリの本棚〉というのも刊行される予定だそうなんですが、これのSF版をもし牧さんが作るとしたら、どんなラインナップに?」
牧「デイヴィッド・R・バンチ『モデラン』
キース・ロバーツ『アニタ』(『パヴァーヌ』の著者だそう、この方のユーモア・ファンタジー)
キャロル・エムッシュウィラー『ザ・スタート・オヴ・ジ・エンド・オヴ・イット・オール』
オクタヴィア・バトラー『ブラッド・チャイルド・アンド・アザー・ストーリーズ』
スタニスワフ・レム『サプルメント』(短篇集だそう)
R・A・ラファティ『スペース・シャンティ/シンドバッド・ザ・サーティース・ヴォヤージ』(カップリングで2篇)」

牧氏「これは全て、原書のまま訳せばオッケー。ま、オレは持ってるからいいんだけどね(笑)上記のセレクションはオレ的にはすごくいいんだけど、正直、売れるかどうかはわからない(笑)」

代島「SFマガジンに連載中の原稿がまとまる前に、この書き下ろしが出ちゃったわけですが、これからSF関係の本の出版予定は?」
牧氏「書きたいネタはいっぱいあるんだ。で、今日は自分のコレクションの中から、ウェルズを4冊持ってきてみました」

『月世界の人間』(三邦出版社/H・G・ウエルズ科学小説叢書第4巻、S16年)
『空中戦』(泰文堂、S18年)
『宇宙戦争』(小山書店、S26年)
『宇宙戦争』(出版共同/サスペンス・ノベル選集第6巻、S28年)
を、壇上で紹介してくださいました。

 ここで、ウェルズが戦前と戦後で、扱われ方が違うと言うご説明をなさってくださいました。戦中は、敵国の本でも「戦意高揚のため」みたいな名目で出しちゃってたとか。ここでダイジマンが「編集者のいいわけですね(笑)とツッコミを入れる。
牧氏「あとは『日本版アメージング』のネタ、とかね。これは戦後初めて出た日本版SFで、向こうのファンジンにも載ってるんだよ。オレ、ダブリで持ってるんだ、好きな本は持ってても、見つけるとダブリで買っちゃうね」

 牧氏がウェルズの本をダブリで3冊持ってるとおっしゃったとたん、ダイジマンの目が輝いた!
代島「それ、今度ダブリ売って下さい」
牧氏「いいよ、あ、じゃ、何かと交換しようよ、最近は代島くんのほうが珍しいもの持ってるからなあ」
…ってこらこら、壇上でダブリ本交渉かい!(笑)さすがだ、古本ツワモノ!

代島「最近の古本の釣果は?」との問いに、牧さんは持参した本を6冊ほど紹介。
アン・マキャフリイ編 COOKING OUT OF THIS WORLD (BALLANTINE BOOKS, 1973)
青木茂『大空の鏡』(地平社、S19年)
パラベラム『ばんざい』(朝香屋書店、T13年)
『アンドレ・ブルトン集成5』(人文書院、S45年)
『月世界旅行』(新潮社、S26年)

 『アンドレ・ブルトン集成5』>「これはデパートの古書展で買ったんだけど、宇都宮のデパートで見たときは、まあいっか、とやめといたのね。そしたらその古書店が渋谷のデパートでも古書展に出品してて、売れ残ってたらしくてまた出会っちゃった。あ、これは買えってことかな、と(笑)。でもこれ、シリーズものなんだよねえ」代島「そうそう、シリーズものって、一冊買ったらほか全部買わなきゃなんですよねえ」…さすが、コレクターどうしの発言!(笑)あとは、初山滋が挿絵を描いてる本を紹介して、「イラストに凝りだすとまた大変なんだよねえ、集めるのが!」とおっしゃってました。

牧氏「こないだ、大原まり子がふらっと入ったエルメスで服を150万買った話を読んで、「ああ、なら本もそのくらい買ってもいいんだな」と思った(笑)」…そ、それは(爆笑)。要するに、古本を買う言い訳っすね。

代島「最後に、今後の予定は?」
牧氏「『SF雑誌の歴史』というイギリスの本を翻訳中です。東京創元社から、SF大会くらいには出せるかな」…ってことは8月くらいですね。楽しみに待ってます、牧さん!

 牧さんの本経歴や、コレクターとしての本へのかかわり方と、愛情がよくわかるお話でした。もっと濃いお話が出るかと思いましたが、これは夜企画のためにとってあったようです(笑)。しかし、ダイジマンの将来はやはりこの道まっしぐらということだろうか…?(笑)

15:20「日本SF論争史」 出演/巽孝之・牧眞司・森太郎 

 このセミナーからほぼ2週間後に発売予定の『日本SF論争史』(去年の秋発売予定が延びてました)について、著者の巽氏と、この中の日本SF論争史・年表を作成した牧さんに、いろいろと森太郎さんが話を振る、といった形式でした。

森「この本を作るきっかけは?」
巽氏「これは構想10年なんです。10年前に何があったかというと、カナダでSF論争の本を出そうという話があって(ごめんなさい、ここうろ覚え)、これの日本版を作ろうと思い立ったんです」「ぼくは中一でファンダムに入ったんですが、当時のファンジンというのは論争が非常に盛んだったんですよ。論争を通して、SFの本質に迫ろうとする動きがあった。60年代はニューウェーヴ論争があったし、80年代はサイバーパンク論争があった。これは、単にケンカではなく、SFの問題を根本から考え直そうという論争だったわけです。論争から、さまざまな人のSF観が見えてくる。それを一冊にまとめることができたら、と思ったんです」
森「10年間かかった理由は?」
巽「他の出版社(この本は剄草書房刊)で、こういうのを出さないか、という話があって打ち合わせもしたんですが、こちらも忙しかったので。時期も、まだ90年前半だったので、まだ論争が現在進行形であったので。そこにでてきた「クズ論争」が、強力なキッカケになりました」

森「牧さんのやったところはどのあたりで?」
牧氏「ビブリオグラフィー、索引を作ってくれと巽さんから要請があったので作りました。これを作るにあたって、昔のファンジンとか読んだんだけど、つい読みふけっちゃうんだよね。今の視点で、昔のものを読むのってとても面白い」
巽氏「このアンソロジー(本編)からこぼれ落ちてる論争を拾うために年表を作ってもらったんだけど、長い歳月を生き抜いてきた文献ってのは、いわば傑作選なんだよね。でも、実はここに収録されてない、小さい小競り合い、足の引っ張り合いが一番面白いんだよ(笑)。ただ、同時代のリアルタイムでしかわからないものもあるんだよね、それでも雰囲気だけは出せればと思って年表を作ってもらったの」

森「私が分かるのと言うと、『愛國戦隊大日本』論争くらいからなんですが、もっと昔の文章とか見ると、かなり下品なんですよね。『このブタめ!』とか書かれてて(笑)思ったんですけど、この本をじっくり読んでおいて、今後論争をする際に、「この人の言ってることは、昔あの人が言ったことと同じだ」とか、「君の意見は、この本の○ページにあるこの人のこの発言と同じで、もう既に過去に言われてる」とかって言ったらいいかも(笑)。今後、論争をする人には、この本は必読!」
巽氏「福島正実の文章は下品だったねえ。『SFの夜』あたりに収録されてるんだけど、この人は実に罵倒語の豊富な人で(笑)。でも、SFを褒め称える言葉も非常に豊かだったんだよね。思うに、優れた論争家というのは、同時に優れた啓蒙家でもあるんだね」

巽氏「山野vs荒巻っていう論争があったんだけど、田中隆一って人がいて、彼は山野の味方をしてたんだけど、とにかくこの人の文章は難解だったのね。もう、ずっと先を行っちゃってたのね。2人は彼に(論争で)とっくに殺されちゃってたんだけど、彼らは殺されたことにすら気がつかなかったんじゃないかな(笑)」

このあたりで、「SFか安保闘争しかなかった」とか(昔闘争してた人が、今はおエライさんになってる話とか)、大野輝之が“今はもうSFなど棄てるべき時だ”と宣言したことなどにも触れていました。森さんが大野氏がその蔵書をオークションだかなにかで売ったと聞いて、「ならあげるか焼くかすればいいのに」と言ったのが印象的でした。

巽氏「日本のSF論争ってのは、ハインラインの再評価と、小松左京批判が繰り返し繰り返し出てくるのね」

巽氏「論争のパターンというのはいくつかあって、「お前の立場は何だ」とまず聞くのね。で、それに相手が答えると、「それは不真面目だ」って切り返すの(笑)。もうひとつは、第三者が出てきて、どういう話してるか知りもしないで「この論争は不毛だ」って言うの(笑)」
森「読まないでも参加できるってのは画期的ですね(笑)」

巽氏「笙野頼子が、『ドンキホーテの論争』(講談社)で、純文学でクズ論争と全く同じ話をしてるのね。やっぱり「最近の純文学はクズだ」とか言われてて、それにひとりで反論を一冊ぶん書いてるの。売れる売れないの問題とかね。でもこれの始まりは、SFクズ論争より1年遅いのね。クズSF論争のほうが、純文学より1年未来なの(笑)」

巽氏「本当に面白いと思うのは、ここに収録されたものからこぼれ落ちた「クズ」みたいな論争なんだよね」

 非常にSFセミナーらしい、お勉強になるようなひとコマでした。この本が発売されたら、興味ある方はぜひお買い上げを!5000円と少々高めですが、その価値はじゅうぶんあると思います。

16:20 休憩&巽孝之、牧眞司サイン会

 始まる前に受け付けのところで購入した2冊に、壇上で並び、サインを入れていただきました。牧さんが、横書きでサインしてくださったのが面白かったです。

16:50 新世紀の日本SFに向けて 出演/藤崎慎吾・三雲岳斗・森青花 司会/柏崎玲央奈

 『SFが読みたい!2000』(早川書房)のベストSF1999国内篇第一位に選ばれた『クリスタル・サイレンス』の著者である藤崎慎吾氏、『M.G.H.』で第1回日本SF新人賞を受賞した三雲岳斗氏、『BH85』でファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した森青花氏(彼女だけ女性)の3名という、今の若手SFでのピカイチの方々が登場。柏崎さんが、お三方がちょうど一定の年代ごとに分かれてるのに注目し(森氏が一番上で、そのあと3歳ずつくらいの幅で藤崎氏、柏崎さん、三雲氏、という順)、その世代差をうまく出した司会をなさってました。皆様非常にキャラの立った方々で、なかなか面白いインタビューでした。

柏崎「まず皆様のSF歴をうかがいたいのですが」
森氏「私は大学時代、70年代後半にSFにはまりました。SFが一番勢いのあった頃です。私は、ハインラインの『夏への扉』が一番好きなんですが、ダニーがコールドスリープから目覚めるのが、今年の12月なんですよね(会場爆笑)。80年代、90年代はSF方面はお留守にしてました。ギブスンがどうしても読めなくて、ギブアップしたんです。ディックの『ヴァリス』も「ごめんなさい!」っていう感じでした。この頃は幻想文学、ファンタジーを主に読んでました」

藤崎氏「私は小学校6年だか中一だかの頃に、父親が「読め」と貸してくれたのが『銀河帝国の興亡』だったんです(会場爆笑)。なんでそれを貸してくれたのかはわからないのですが。最初にハマったのはブラッドベリでした。雑誌「奇想天外」の別冊にSFべストみたいなのが出て、それに紹介された本を1位から順に読んでったんです。一番面白かったのは、カート・ヴォネガットとか、ブラッドベリでした。そのあと、しばらくSFから遠のいてたんですが、日本SFでは半村良が一番面白かったですね。あとは小松左京とか」

柏崎「私は小2でヤマト、小学校高学年でガンダムという世代」

三雲氏「ぼくは1970年生まれなんですが、その当時すでに身の回りにSFっぽいものがあふれてました。一番古い記憶が、2歳くらいでマジンガーZを見てるという記憶。文字が読めるくらいになって、テレビでキャプテン・フューチャーを見てました。小学校でガンダム、小学校高学年でハインラインを読む、といった具合でした。だから、SFが冬の時代だなんて思ったことはないです」

柏崎「小説ができる過程、キッカケは?」

森氏「私はSFを書いてるという意識はなくて、「でも純文学じゃないだろうなー」とは思ってました(笑)。私はいつも、世界の認識、世界ってどうなってるんだろう、という疑問が絶えずあって、昔のひとたちの世界の認識の仕方などもさまざまな本を読んで考えたりしました。で、面白くわかりやすく、世界というものを書いて、人生とかの意味を考えてもらおうと思って書いたのが『BH85』です。表紙のイラストを見ると「なんかなー」って思うかもしれませんが、後半は雰囲気が違うんでぜひ読んでみて下さい!」…いえいえ、私はあの装丁は成功してると思いましたですよ。

藤崎氏「私も書きたいものを書いてたら自然にSFになったという感じです。前に「レフト・アローン」というものを〈宇宙塵〉に書いたんですが、あれは読ませることを意識して書いたらファンジン大賞を頂きました。で、今度ソノラマからお声がかかったんで3つほど書いたんですが、そのうち「レフト・アローン」の続編に編集からオッケーが出まして、それが『クリスタル・サイレンス』になったんです。

三雲氏「今、『M.G.H.』の校正中です。6月くらいに単行本になる予定です。これと同時期に3つも賞を取ってしまい、「まるでミスコン荒らし」と叩かれてます(笑)。前に担当者と話をしてたときに「今売れてるのはミステリ、しかも若い女の子はキャラ小説として読んでる」というのを聞いて、確信犯的に、そういう女の子に読んでもらえるようなSFとして書きました。

柏崎「これから小説を書いていくうえで、「ジャンル」という位置付けはどのように考えますか?

森氏「考える人はジャンルと言うものをすごく細かく考えるけど、私はただ「小説」を書きたい、書いていきたい。ジャンルは読む人が判断してくれればいい。何を書いても結局「ヘンな私の小説」というものにしかならないと思う」

藤崎氏「私も同じ。子供の頃から理科が好きで、同時に文学が好きだった。それが合わさってSFになったというだけ。自分の書きたいものを書いていきたい」
柏崎「SFに不安はないですか?」
藤崎氏「編集の方が、「これ(『クリスタル・サイレンス』)って、SFとしかいいようがないものですよね?」って編集が暗い顔で大森さんに渡したそうです(笑)」

三雲氏「この三人の中では、自分が一番SFにこだわってると思う。ぼくはSFが好きだし、SFを書いていきたい。SFで海外に進出したい!(会場拍手)台湾や、東南アジアとかに(笑)。めざせポケモン!(笑)“売れるSF”を模索していきたい」
森氏「野望っていいですね(ぼそっ)(会場爆笑)。SFという枠を広げていきたいです」
三雲氏「メディアミックスもいいけど、ぼくは作品の力だけで勝負できるようになりたい(会場拍手!)」

藤崎氏「これはアメリカの話なんだけど、ゲームセンターでゲームをずっとやってる少年がいたのね。で、店が閉店時間なんで、店主が電源を落としちゃったの。そしたら、少年がぽろぽろ泣いてるんだって。「今ここにいたキャラが死んじゃった」って。それをきいたとき、衝撃だった。それに対して、今、Aライフというのを研究してる科学者がいる。彼はなぜ研究してるのかっていうと、ファーストコンタクトしたいからだって。どちらの気持ちもなんとなくわかる」
三雲氏「ぼくはその少年の気持ちわかるな。擬似人格、オッケーですね。『クリスタル・サイレンス』はまさに擬似人格の恋愛モノだし」
森氏「私の『BH85』は人間ならざるものに恋をする。身体ってどういうことかを考えてしまうんですよ」
藤崎氏「私は最後は生身の自分の肉体をとりたい。ヴァーチャルでなく。でもヴァーチャルを否定はしない」
森氏「これ、3つのどの話も恋愛が絡んでますよね。3作が受けたのは、恋愛のツボを押したからでは?」
藤崎氏「私は『クリスタル・サイレンス』のKTみたいな熱烈な恋をしたいですね」
森氏「恋愛ってのは思い込みと暴走でしょう(会場大爆笑!)恋愛って、ある意味ヴァーチャルですよね。相手の気持ちって確かめようもないし。SFとロマンスってのは何か関係があるかも」

柏崎「今後の皆様のご予定は?」

森氏「長編と短篇をいくつか書いてるところです」
藤崎氏「次もSFでしょう。普段本なんか読まない親戚が、『クリスタル・サイレンス』を読んでくれたんですが、「SFってこんなに面白いものだったの」と言ってくれたのがとてもうれしかった。SFの枠を広げていきたい」
三雲氏「初めてSFに触れるひとのための、SFの踏み台、入門になりたい(会場拍手)。小学校から高校生くらいの子にステップアップしてもらう通過点、ジュブナイルを書いていきたい」…おお、心強いお言葉!案外、こういうことおっしゃってくれる方っていないですよね。大いに期待したいところです。

 お三方ともそれぞれ味のあるキャラで、特に森青花さんの淡々としたしゃべりから出る天然ボケぶりが素晴らしかったです(褒め言葉ですよ!!)。会場、大ウケ。最後に会場からいくつか質問があがったのですが、森氏の答えがまたよかったです。「生まれた子供は融合しないのか?」との問いに「それは〜、生まれてみなければわかりませんね(ぼそっ)」と絶妙のお答え(笑)。あと、「よく似てるといわれるんですが、私は『ブラッド・ミュージック』は読んでおりません。先日、あまり言われるんで読んでみましたが、確かに“バイオパニック世界滅亡モノSF”という点では似てました。でもやっぱり『ブラッド・ミュージック』のほうがうまいんですよ」のセリフに、会場またもや爆笑。

 とても楽しいインタビューでした。これからますます面白い日本SFが出てきそうですね。ひとコマめで角川春樹氏もおっしゃってましたが、やはり新しい書き手ですよ、書き手。いい作家たちが登場してきたではないですか!彼ら、若手の新人SF作家の今後に、おおいに期待したいですね。

18:00 妖しのセンス・オブ・ワンダーへようこそ 出演/小中千昭 聞き手/井上博明

 申し訳ありませんが、私はこの企画はパスさせていただきました。小中さんについての知識が恥ずかしながらなかったのと、今までの4パネルで気力を使い果たしたため(全身全霊をかけて聞いてたんで、つ、疲れた〜。5つの企画はさすがに多いかも)。で、ディーラーのあたりをふらふらして、いろんな方と適当にお話。(あ、森さんとちはらさん、ありがとうございました>私信にて失礼)

19:00 閉会

 ださこんの方などなどと、連れ立って夕食。ハンバーグ屋さんは、あっという間に貸切状態に(笑)。でもとてもノリのよいマスターで、楽しかったなあ。皆でいろいろ雑談。自己紹介などしあって、和気藹々(初めてお会いする方もいらしたので)。で、地下鉄に乗って、合宿会場へ。


21:00 合宿オープニング

 あうう、すでにうろ覚え状態に…(本日、5月15日)。確か壇上にいらしたのは、鈴木力さんではなかったでしょうか?(びくびく)ご挨拶、諸注意などの後、東京創元社の小浜さんが毎年恒例の有名人紹介を(笑)。の前に小浜氏、いきなりアンケート。「この中でネット環境にない方、手を上げて〜」「この中で、SFM買ってない方、手をあげて〜」「あ、来年からSFセミナーの告知はどっちですればいいかわかりました(笑)」つまり、ネットでセミナーを知った人のほうが多かった模様。で、いよいよ紹介。作家、編集者、イベントやってる方々、などのSF有名人がとんとんと紹介されてゆく。有益な情報もたくさん出て、観客から「ほお〜」の溜息が何度も出ました。えーとたとえば、徳間の方の発言「昼企画で三雲氏が出てましたが、あの『M.G.H.』が6月に単行本で出ます。徳間から、続けてSFレーベルで、上遠野浩平などが出る予定です。あと、『SFJAPAN』の2号が9月か10月に出ます(おお!これはうれしい!)」とか、小浜氏「東京創元社のサイトでは、あの『グリーンマーズ』の第1章を、ネットでタダで読めるようにします!かも(笑)」ハヤカワ塩澤編集長「SFマガジンの7月号はジョン・スラデック特集です。7月に、菅浩江の本が出ます(とおっしゃったような気がするんですが…違ったらすみません!)」山岸真氏「秋くらいに、河出文庫でSF翻訳アンソロジーが出ます。40〜90年代、各1冊ずつ。私(山岸真氏)と中村融氏で今編集してるところです」などなど。ラストのほうのネット者の紹介で、なぜか私も指されてビビる(笑)。そ、そんな、私別に有名人じゃないですってば。ただの1書店員ですう。

 途中で飛び込んできた三村美衣さん、いきなりバスジャックの話を始める。ってなんの冗談かと思ったら、ホントだったのね。「ひとりずつナイフで刺しながら開放してるって!『今、日本中でバスジャックの話知らないの、このセミナーのひとたちだけですよ』って、旅館のひとに言われたよ!」

 夜企画は、4つの企画が同時に並行して行われるという、究極の選択状態。ああ〜、あれもこれも見たいのに〜。泣く泣くひとつに絞らねばならないのだ〜。

22:00 笑ってください90分―「中年ファンタジーの時代は来るのか!?浅暮三文改造講座」
出演/浅暮三文(作家)、倉阪鬼一郎(作家)、小浜徹也(東京創元社編集部)、
たかはし@謎宮会(読者代表)、林哲矢(読者代表)、福井健太(評論家)

 1コマ目の究極の選択はこれに決定。まず、しょっぱなはグレさんの関西弁ばりばりの口上から。「よく、こういう企画で、作家になるにはどうしたら?とか、作家のファンの集い、とかはある。が、売れない作家の企画というのはまずない!で、やってみることにしました」

 で、グレさんいきなり「いやー、売れないね!」(場内爆笑)そ、そんなにセキララにいわんでも〜。でもそうなんですか?メフィスト賞受賞、講談社ノベルスで颯爽と新刊も出してらっしゃるというのに。

 ここで会場から挙手アンケート。「浅暮三文の名前を知ってるひと!」これはほとんどオッケー。「読んだことないひと!」これは少数ですがいました。でも他のひとは読んでるっつーことで。

 グレ「オレね、剣と魔法はキライじゃないのよ、ただ書きたくないだけで」(爆笑)「カテゴリーとしては、“中年ファンタジー”!これを書きたい!ファンタジーってのは、そろそろきてるんとちゃう?」「別に100万部売れんでもいいのよ。目指せ3万部!」

 ちなみに『ダブ(エ)ストン街道』は初刷5000部で、まだ残ってるそう。『カニスの血を嗣ぐ』は14000部刷ってこちらもまだ残ってるとのこと。

 ここで、東京創元社の小浜氏。「創元では、日本作家の新人は5000部ってのが普通。ノベルスだと14000は多いね。文庫は14000〜20000部。平均15000部ってとこ」

 徳間書店の方(ごめんなさい、お名前不明)「うちはハードカバーは6〜7000、ノベルス15000〜18000、文庫は20000以上」

 小浜氏「世の中、新刊の重版がかかるのは3割だからね。会社単位でいくと。つまり、7割は重版もされずに消えていくわけだ」ほお〜、それは新事実を聞きました!知らなかった!

 ここでどなたかの質問。「赤川次郎なんかは実際どうなの?」ちなみにうちの書店では、だいぶ返品率高し(笑)。が、徳間の方「重版かけてますよ」だって。そうなんだ〜!

 倉阪鬼一郎氏に話が飛ぶ。「『ブラッド』(集英社から出た、彼の最新刊)はどうなの?」「8000部」おお〜っ、と溜息。

 「では、実際に最新作『カニスの血を嗣ぐ』をもとに、ナゼ売れないのかを検証してみましょう」(とおっしゃったのは、どなたでしたっけ?)

グレ「ここでまず、タイトルの問題があるのね。タイトル的に『カニス』はどう?」

小浜「今はね、とにかくわかりやすいタイトルでなきゃダメね。帯のつもりでタイトル作らないと。」ここでどなたかが「犬探偵、とかね」「イヌの血」(会場爆笑)

 あと、表紙にインパクトがない、という意見あり。モノクロだし。表紙には記号性が必要、との声も。たとえば、サンリオSF文庫なども、カバーリングの記号性がもっとあれば売れたのに、とのこと。ふうん、そうなのか。この記号性というのは、表紙のイメージで、あの作家と内容的に同じノリなのかな?とイメージを読者に抱かせることだそう。「ハイブローすぎても、ローブロー過ぎてもダメ」むー、難しいっすね。小浜氏「文庫化で、タイトル変えてみては?」会場から、おおーっ!の声が。じゃ、講談社文庫の時はぜひ『犬探偵』で(笑)。

 グレ「次に中身よ、中身」「オレはさっきも言ったとおり、“中年ファンタジー”でいきたいのね。入りたい。」
小浜氏「だったら、世間にそうやって明言しといたほうがいい」

 ここで、福井氏が、デジタル・アナログ説を。「『ハサミ男』はデジタルなんですよ。書いてるとこを機械的に読み上げればいいのね。グレさんはアナログなの。文の中に、文学性をひきずってる。倉阪さんもアナログね」

 グレ「作家のイメージってのは伝わってるのか」という問いに、「まず作家の名前を売る!」という意見が出ました。
このあたりで、私も一書店員として発言。「書店員としては、新刊が入ってきて、さてまずどこに並べるか、と考えるわけです。で、講談社ノベルスは別に考えなくてもいい。が、『ダブ(エ)ストン街道』は悩みます。これは日本文学なのか、ミステリかファンタジーかSFか?書店員のレベルもいろいろで、新入社員もいればバイトの子もいる。だから、どちらかというと、最初はまずジャンルのきっかりわかるもののほうが売りやすい、というのはあります」実際、これが実用の紀行文学の棚に入ってたという話も。これ、ホントにありうる話なんですよ。

雪樹さんも発言。「グレさんて、イメージとして何を書くかわからない人に感じる」うん、わかる気が。まだ、ジャンルが確定してない感じがするんだ、読者としては。

小浜氏「昔は、新人が出ても「よーし、じゃ俺が読んで確かめてやろう!」っていう気概のある人がたくさんいたけど、今って人の評判を待とう、っていう感じがするね」

たかはし氏「中身だけど、読者をひくものが全くない。牽引力が弱い。後ろから押す力が弱い。ミステリだと、コードの力で読者が読んでくれるんだけど、グレさんにはこれがない」(わー、酷評!愛のムチ!)

小浜氏「グレさんはもっと姑息でもよかったね。足らないのは姑息さだよ」これはかなりの賛同意見が。「純情中年ファンタジー、だったら、泣かせの要素を入れればどうだ?」なども。

 しかし、グレさん、なかなか人の意見を聞かず、すぐ「でもな」と跳ね返そうとする(笑)小浜氏ついに「聞いて!(笑)」グレ「ああそうやな、オレのための会やったな、オレが反抗してどうする(笑)」もう、ほとんど漫才!おっかしかったー。

福井氏「広告やってたんだから、広告バブル小説でも書いてみたら?」グレ「それがイヤだから!!(笑)」

(またお名前不明、徳間の方だったと思うんですが)「今の新刊書ってのは、すべて実用書なんだよね。これは池袋リブロの有名書店員、中村さんの名言なんだけど(確か、人文書の棚を作った方では?違いました?)」うむ、よくわかります、それ!「昔はSFは読んで得したのね、いろいろわかるようになったりして。でも今はそれがない。小説だって、泣きたい人が泣くために買って読むならそれは立派な実用書なんだよね」

小浜氏「本買って、でもそれを読み終わらずに途中で投げ出すひともいるわけでしょ。こちら側としては、それがどのくらいいるかわからないのが一番こわいね。読者との綱引きが、もっとデジタライズされた形でできればいいんだけど。アナログでもいいから、もっと姑息さは必要だね」

たかはし氏(じゃないかも?すみません)「いかに読者の共感を呼ぶかも必要です」

福井氏「読者のレベルを高く想定しすぎてるってことに、グレさん本人が気づいてない(クラシックの知識が必要だったり。普通の人はああいう知識はあまりないし、なんとなく高尚そうだなって敬遠しがち)」(恐らく徳間の方)「笙野頼子の『ドンキホーテの論争』を読んで、あれが正しいと思うならグレさんは間違いなく純文学のひとだ」福井氏「要するに、グレさんが書きたいものを書いたら売れないだけ、なんですよ(笑)」

(これは観客の書店員の方がおっしゃったかと思うんですが)「グレさんの潜在読者は10万人います!」グレ「そうだ、じゃ、ハルキのように映画作ればどうだ!(笑)」(お名前不明)「グレさんのはメインが人じゃないからダメ(ダブとか)」「ダブって、アリスと似てますよね。メインがひとじゃないところとか。それを表に出せばよかったんじゃ?」グレ「あれの基本は、実はヨーロッパの人形劇なのね。舞台がどんどん変わるっていう」小浜氏「ああ、そういえばひょっこりひょうたん島みたいだね」「グレさんはハイブローなおたくなんだよ、その魅力を残したままで、その上でモチベーション、引っ張るものを作ればいいんじゃ?」「賢そう、ってとこで読者をひく」「クラシックはダメだよ」「ムード歌謡でどう?」(会場、爆笑&拍手)「バンドマンの話書いたら、で、ミステリ」小浜氏「で、密室つけてね。密室つけたら、創元で出してもいい(マジ)」…なぜ密室にこだわりますか、小浜さん?(笑)

(たぶん徳間の方の発言)「あとはね、今は社会性があったほうがいいんだよ」「問題は、いかに読者にカネを払わせるかだからね」

「グレさんの本は、そもそもタイトルが読めない!」「カニスの血を「しぐ」」「ダブも悩むー」

グレ「実は今、某社用に新作用意してます。(会場拍手)今回は、嗅覚じゃなくて視覚!」倉阪氏「オレ今書いてる」(会場爆笑)な、なぜかぶる?『カニス』も井上夢人さんの『オルファクトグラム』と思いっきりネタかぶってましたもんね。でも全く別物でしたが。

ここで、グレさんがこの企画のために用意した、ミニアンケート用紙を会場全員に配りました。おのおの、それにしこしこ記入。終わったところで回収、グレさんがざっと読み上げました。

「えー、気に入ってるところ。人柄、キャラ(笑)、ヒゲ(爆笑)。人柄は気に入ってもろとるようやな」「プロフィールをファンに書いてもらうってのはどうや?」

小浜氏「えー、結論としては、「浅暮氏はもっと人の話を聞け!」ということで」(会場爆笑)林「人の話を聞けば未来が開ける!」

 いやあ、漫才爆裂の楽しい中にも、実にいろいろ有益なことが聞けて、大変よい企画でした。というわけで、皆様、グレさんを応援しましょう!新作が出たら買って読みましょう!そして、この企画が実になったかどうか、検証してみましょう!(笑)グレさん、頑張ってくださいね!心から応援しています。

以下、そのアンケート結果をアップ。情報提供は、ご本人からメールでいただきました。感謝!

●アンケート結果
1.浅暮三文を知っていますか。YESの方、どこが気に入っていますか。
回答: ユーモアセンス/人柄7/人好きする笑顔、やさしいまなざし/楽しい/
キャラ2/髭2/犬の雰囲気/人格/真面目なところ(キャラに入れたのは私です)

2.浅暮三文が売れない理由は何だと思いますか。ジャンル/実力/人柄。
回答: 実力1/ジャンル4/人柄1(ジャンルに入れたのは私です)

3.ジャンルと答えた方、どんなジャンルなら買ってみようと思いますか。
回答: SF/ハードボイルド正統派/本格ミステリーか SF/どういう作品を書い
ているのかイメージが湧かない/ミステリーORハードボイルド/コメディミステ
リー/個人的にはどんなジャンルでも買うつもり/ジャンルを固定した方がよい
です、出版社にあったジャンル/今あるジャンルでジャンルを固定して下さい
(SF・ミステリ・純文など)。書店員は置場所に悩みますので(ノベルスはOK)。

4.浅暮三文はどうすればもっと売れると思いますか。
回答: 作家の魅力で売る/来年までには読んできます/ペンネームを変える/売
れ筋にちょっとすり寄る/密室殺人が起こる/キャラをもう少し立てて描く/と
りあえず「この人はこのジャンルなのね」と読者に認識させてから/キャラクタ
ーで売り出す(お笑い系)/犬探偵殺人事件/広告業界のバブル小説/表紙をライ
トノベル風にして騙す。帯に「密室、殺人」とか書いて騙す/継続は力なので一
生懸命やってください/本が某社から出ると思うので買って下さい/もっと笑わ
す/もう少し多作になるとよいのでは。

この結果読むだけで笑えるなー。

23:30 田中香織のなぜなにファンジン 出演/高橋良平・牧眞司・小浜徹也・田中香織

 東洋大SF研のお元気娘、田中香織嬢が司会進行を務め、ファンジンの歴史を時代順に追っていこうという試み。非常にすばらしい目のつけどころに感心。というのも、私もファンジンのことは全くわからないからです(笑)。SFの世界にちょこっと足を踏み入れて思ったのですが、なんだかSFって、ファンと作家の境界線が非常に微妙ではありませんか?熱烈なSFファンがその熱心さのあまり、SFを作る側にまわってしまう、というのがごく普通にある世界というか。ヘンな例えですが、ファンジンってできたてのガス星雲みたいな感じがするんですよ。混沌とした才能が渦巻いてる。で、その中からだんだん物質が固まってきて、SF作家(またはSF評論家)という新星が誕生する、みたいな。だから、SFにとってファンジンは非常に重要な位置にあり、SFの地盤として欠かせないものであり、SFを知るにはファンジンの知識が欠かせない、ということでいいのかな?(また知りもしないくせに書いてる>私)

 まずは田中さん挨拶。彼女もやはり、よく他のSFの方々の話を聞いてるといろんなファンジンの名前が出てくるのだが、その名前は知ってても、その年代順がわからない、とのこと。で、それを先輩方に年代順に説明していただこう、ということで、60年代を高橋良平氏、70年代を牧氏、80年以降を小浜氏に解説していただくことに。黒板には田中嬢手書きの、ファンジン年代一覧表が。会場内には、小浜氏所蔵のファンジンがどばっと回覧されました。私は何をどう見ていいかもわからないので、とりあえず有里さんが興奮して見ていた〈てんぷら☆さんらいず〉をみせていただく。おお、なんか紙版「銀河通信」に紙面の雰囲気がちょこっと似ているぞ。(もちろん、内容の濃さは全然レベルが違いますが)

 田中さん、開口一番、高橋さんに「まず、お幾つですか?」(会場爆笑)きたきたきたよ〜!!いきなり田中節!高橋氏は「51年生まれです」と淡々としたお答え。やはり中1くらいから(65年あたりか)SFを読み始めたとのこと(早い!)。

高橋氏「その頃、SF研なんてなかったし、僕は愛知の出身なんだけど、SFマガジンしか定期的な情報源はなかったのね。その頃はファンジンなんて知らなかった」「でもSFマガジンとかに載ってた情報から、〈宇宙塵〉、〈宇宙気流〉、〈ヌル〉、〈ミュータント〉などを知ったのね(ここ、読んでたっておっしゃったのかな?ちょっと不明)」

 ここで、田中嬢がガリ版を知らないことが判明。会場に挙手を試みたところ、ほんの少数でしたがやはり知らない方はいらっしゃいました。ワタクシなんかは、小学校低学年の頃の文集がこれだったような記憶が。で、ひとしきりガリ版の話で盛り上がる。高橋氏「この頃、仲間で作ってなにかやるっていうとガリ版だったわけ。でも、一部しか作れないから、それを皆で回し読みするわけね」

 60年代半ばになると、ファンダムが全国的になり、大学SF研ができたそう。高橋氏は他にもいろいろとお話してくださったのですが、あいにくお声がちょっと聞こえにくく(私はわりと前の席に陣取ってたのですが、後ろの方々はどうでしたでしょう?)、おまけにこちらに基礎知識がなかったので、聞き逃したことが多々あったと思います。残念。

 話は70年代に突入。74年頃から牧氏がSFを読み始めたそうで(中2の頃)、田中嬢、例の年代表に「牧さん始動」と黒マジックで書く(笑)。
牧氏「ファンジン売り場は、初期のコンベンションからあったね。メイコン(表記わからず、すいません)あたりにももうあった」「この頃からファンジンを買い始めたね。〈フォーカス〉とか〈宇宙塵〉とか。ファンジンはね、カッコよかったの!憧れたねえ!サブカルチャーになってたね。コンベンションは、みせてもらうもんだった。映画みたいなもん」「ぼくは70年半ばくらいから、N氏の会に入ってたのね。ここはファンジン作ってた。この頃、SF映画友の会ってのにも行ってた」

 70年代初めからハヤカワSF文庫が出て、角川文庫のSFものがどばっと出始める。これで、分野が細分化したそう。

 80年代に入り、第一回のSFセミナーは実は牧さんが始められたとか。牧氏「SF大会は○○○ばっかりしか来ないから」(会場、笑)○○にはアニメファン、などが入るらしいです(笑)。牧さんは、ちゃんとした活字SFの会をやりたかったようです。「70年代以降は、プロになりたいと思わない人が増えたね」

 小浜氏は80年代に始動。大学に入ってからのスタートだそう。大学一年でファンジンを作り始めたそう。(〈ワークブック〉というのでよろしかったでしょうか?ちょっとうろ覚え。〈トーキングヘッズ〉を目指してた、とかってメモには書いてあるのですがもうほとんど覚えてない…)

小浜氏「オレが初めて買ったファンジンは、〈宇宙塵INDEX〉なんだ!(自慢げ)」

「90年代には、〈宇宙塵〉みたいな大きな流れを作るファンジンはもう出なかったね。ファンジンの衰退した時代、といえるかな」

小浜氏「ファンジンとコンベンションの人は全然違う」(このあたり、人によって言うことが微妙に違ったようです)

田中嬢「60,70年代のファンジンって面白そうですね」
柳下氏「それは、今解説してる人たちが、その時代に青春を送ってたからだよ(笑)」な、なるほど〜。

田中嬢「えー、まとめとしては、中学時代から活動を始めたってのはスゴイなあ、と」
小浜氏(だったかな?)「それを言うなら、14歳で第1回国際シンポジウムに行ってクラークを見た阿部さんなんかもっとすごいよ」…ひゃー!そらすごいわ!
牧氏「いつもね、自分が遅れてきた世代だってのを感じるよ。オレは小学校から活動したかった!」(会場爆笑)

田中嬢「というわけで、ファンジンについて、私はわかった!」
小浜氏「いやわかってない!!(笑)」

 ここにはうまく書けませんでしたが(詳細を忘れ果ててる/本日5月17日)、いやあもう、田中嬢のキャラ炸裂!先輩方に鋭いツッコミをするわするわ!横から森太郎さんが「いいぞー、もっとやれー」とはやしてたのがヒジョーにおかしかったです(笑)。これで全部言い尽くしたとは思えない感じがあったので(まだまだ皆さんしゃべりたそうだった、笑)、ぜひ続編を期待したいですね。できれば、黒板に貼ってた年表なども、会場に印刷したものを配っていただければ、もっとわかりやすかったかもしれません。

1:00 「ネットワークのSF者たち Returns」

 去年の夜企画、ふたたび。案内役は、鈴木力氏と森太郎氏。司会を鈴木さんが務め、森さんが問題提起・発言をするといった形式で進められました。話の発端は、森さんが最初に読んだ、去年のセミナーのあと、SFオンライン27号(99年5月24日号)にアップされた小浜徹也氏(SFセミナー夜の部オープニング担当)の「特別エッセイ、20年目のSFセミナー合宿」。ここの「好意的なレポートやコメントを寄せてくれるのは本当に有り難いのだけれど、コンベンションで得たものはそのコンベンションに返してほしい。」という記述は、明らかにださこんの面々を指していると私たちださこにすとは(勝手に)解釈し、大いなる議論を巻き起こしたのであります。で、この文章を紹介し、それに対する大森望氏の日記にあるコメント(7月15日)を紹介したとたん、なしくずしに議題は「対決!ださこにすとvs小浜徹也」に。

 えー、それぞれの発言を覚えてるだけピックアップしてみます(もし違ってたらごめんなさい、訂正します)
小浜氏「ネットの参加レポートを読むと好意的でとてもうれしいんだけど、“面白かった”だけなんだよね。コンベンションにきたら、なにか発言してってほしい、交流してってほしい」

森太郎氏「私は、スタッフ側として、参加してくれただけでもうれしいし、レポート書いてくれたりしたらそれでもう十分返してもらってると思う」

小浜氏「オレはあれを書いたのは、わざと年寄り側になろうと思ったの、でもあれを書いた後、有里さんとかが反論書いてくれたけど、安田ママさんの日記の“私たち”と”あなたたち“って言い方にはむっとしたよ」

…うげ?私なにか書きました?…そういやずっと前に溝口さんが日記にこの小浜氏の文章に対する意見を述べていて、それを見てなにか書いたような気もする(でもうろ覚え)…。しかし突然指名されてビビりました(笑)。そういわれてはなにか言わずにおれぬ。このあたりで私はいきなり発言者側に変貌。というわけで、メモはとってないので前後の記憶が入り乱れてたらすみません。

私「去年、私たちださこんの人間は、セミナー初参加だったわけです。とにかくこわごわ覗いてる、といった程度で。なのにいきなり、「出たんだからなんか返せ!」といわれても、何をどうしたらいいのかわかりません。SFを読みまくってるわけでもなく、SF読んでるっつー程度のことでSFに対する帰属意識はまったくなく、なのにまるで「次からはあの舞台の壇上に立て!」とおっしゃるんでしょうか」

小浜氏「ああ、オレはそういうつもり。こういう会に参加したからにはもう何かやってほしいという意識はあるね。そんなにこわがることないって。君達はもうファンダムなんだよ」

…え?そうなの?ファンダム?なんかそれは違うと思うんですが。あくまでださこんって、個々の点がゆるーくつながってる(お友達)というだけで、確かに集団ですが、本(なかでもSFに多少片寄った)の好きな人間が集まって遊んでるだけであって、一緒になにか(たとえばファンジン)を作ったりしてるということは全くないんですよ。みんないっせいに同じ本を読む読書会みたいなのもないし。個人個人が、好き勝手してるだけなんです。このあたりに、意識の違いがあるなという気がしました。まあ、実体が外からは見えにくいのでしょう。無理からぬところではありますが。

 ださこん内にも、SF的レベルの差は非常にあります。u-ki総統、溝口さんあたりは最上級レベルですが、私なんぞは超下っ端のビリッケツ。こういうSFに薄い人々が、主に小浜さんのエッセイにビビッたようです(笑)。だってー、こわがるなとおっしゃられても、こわいですう、濃いSFの方々たち(笑)。何も知らずにぷらぷらっとコンベンションに気軽に参加した私たちが間違っていたのでしょうか?おそらく、コンベンションというものの何たるが肌で解ってる小浜さんと、何も知らない私たちには、大きな意識の食い違いがあったのでしょう。要するにコンベンションにおける、暗黙のルールっつーのを知らなかったと言うこと、でしょうか。これはこれで、ワタクシは納得いたしました。

大森氏「“決まった友達と会って帰っていくだけなら、コンベンションに出かける甲斐はない。”という記述についてだけど、確かにコンベンションは人との交流の場、今も昔も。でも要するに小浜が気に入らなかったのは、自分にネットの人々を紹介してもらわなかったからじゃないの?前は自分の子供の友達が、大勢わらわらうちに上がってご飯食べてってたんで、親もその子たちの顔や名前知ってたんだけど、最近は外で遊んでばかりで親はちっとも友人関係わかんなくてさびしい、みたいな(笑)」

小浜氏「そう!ネットもコンベンションもわかってる森太郎が、オレにネットの人間を紹介しなかったのが悪い!(笑)」

森太郎氏「だったらひとことそう言ってくれたらよかったのに(ぼそっ)」

小浜氏「オレはね、u-kiがあのとき(去年初めてSFセミナーにださこにすとが大勢参加したとき)、挨拶にくるかと思ったの。でも来なかったのがしゃくに障ったのかも(笑)いきなりださこんのスタッフで集まって相談とか始めちゃうし」

u-ki「悪いのは結局またオレかい!(爆笑)」

小浜氏「結局、森太郎が一番オレの宿敵だ!」(爆笑)「u-ki、仲良くしような(笑)」

小浜氏「オレは計算違いしてた。ネットの人間ってのはもっと積極的にばしばし発言するひとかと思ってたの。」(え〜、といっせいに否定の声)「だから、実は君達には非常に期待してるの、次の時代をになうのは君達だと思ってるの」

 …他にも多々意見が活発に出たのですが、きりがないのでこのへんで。

 結局、私が思うに(これはあくまでワタクシ個人の意見であって、ださこにすと全体の考えではないことを強調しておきます)、この議論はお互いの根底にある意識の違いだと思うんですが。ださこにすと(あくまでもそれぞれは「個」でしかない、ネット活動を基盤にした意識)vs小浜氏(SFに帰属意識のあるSFファン、おもにファンジンやコンベンション活動を集団で行うことを基盤にした意識)ではないかと。お互いにベース、流儀が全くちがうのに、そこをわかりあえずに食い違いが生じたんだと思います。

 つまり、SFコンベンションにおける暗黙のルールがださこん側にはわからず、ネット界における暗黙のルールが小浜氏にはわからなかったゆえの食い違いと私は解釈したのですが、いかがでしょうか?

 コンベンション側の方の常識では、「キミもぼくもみんなSF仲間だ、見てるばっかりじゃなくて一緒に参加してなんかやろうよ、作ろうよ!」という気持ちがあったのでしょう、おそらく。新人をひきこむのは当然の行為だったのでしょう。小浜さんのあのエッセイに、それが少々性急に出てしまったというだけで。ネット者にとても期待してくれている、ある意味非常に好意的な文章だったのですね。ただ、ネット側の、その中でもあまり自分のSF力に自信のない人間は、参加しただけでも精一杯の勇気であったのです。自分みたいなSFの薄い人間が参加してもいいのかな?びくびく、みたいな。それで、小浜さん発言に勝手に過剰反応してしまったというか。こちらも勝手に解釈してしまったのは悪かった気がします。

 逆にネットのほうの常識としては、あいまいな文章というのはとても困ってしまうのです(例のエッセイのことです)。誰に宛てたのか?その文章の明快な意図は何なのか?こちらの書いたものに対してのリアクションが全くないのはなぜか?(ネットに対するリアクションは、誰かに口で言ってもダメなのです。ちゃんとネットに流さないと皆に伝わりません)小浜さんの方に、失礼ながらその知識が欠けてらっしゃったのでは、と思いました。まあ、これも無理からぬことかもしれません。今後、お気をつけてくださればオッケーでしょう。あと、「ださこんとは何か?」ということが明確にご理解いただけてないこと。これも仕方ないかもしれません。確かによそから見たら、ファンダムと思われてもしょうがないかも。自分達にその意識は全くないのですが。ださこん側が、自分達がまわりにどう思われてるか(けっこう脅威に思われてたんですね>ちはらさん発言など)、も少し自覚すべきだったのかもしれません。自分達が思ってるよりはるかに目立つ存在だということに。

 ワタクシ的には言いたいことも言ったし、小浜さんのお考えもよくわかりましたので、非常に満足でした。でも結局、どちらもSFを愛するものどうしなんだから、仲良くやりましょうよ、これからも!私はもちろん、来年のSFセミナーにも参加したいと心から思ってます。いやあ、でもホントにSF力はないのよ、私(笑)。

 結局1時間半、この議論に終始してしまいました。ただ、この企画を聞いてらした方たちで、議論の当事者でなかった方々にはあまり興味がない話題だったかもしれないですね。勝手に当事者だけでエキサイトしちゃって、申し訳なかったです。


 ↑まだ話し足りなかったので、お開きになってもそのままその会場の部屋で小浜さんを囲んで話す。が、いいかげん話が堂堂巡りになってきたところで私は抜けて、ヒラノさんや森山さん、ジョニィさんなどの話の輪に加わる。森山さんがかんでる、ブック1という7月オープンのネット書店(日本最大という触れ込み)についてなどのお話をうかがう。ネット書評などの話も。ヒラノさんは、「こういう話をすべきだったのに〜!」とお怒りモード。

 この話も一段落ついた頃、2:30からやってたオークションを覗きに行く。おお、やってるやってる。参入したかったんだけど、すでに満員だったし(かなり濃いメンツが集まってたらしい)、今回は見送りました。あー、残念だったなあ。牧さんのオークショニアぶりを拝見したかったです。4:30過ぎに就寝。


8:30 エンディング

会場の大広間に行き、例のバスジャック事件のニュースを食い入るように見ていると(解決したそうで、ほっ)エンディングタイム。鈴木力氏のスタッフ紹介。皆さま、どうもお疲れさまでした&ご苦労様でした。おかげさまで、大変楽しませていただきました。

 ださこんの方々と、ルノアールに流れて朝食。だらだらと『ハンニバル』、『マトリックス』ネタなどで話す。いいね、このだらだらモード。私は10:30くらいにおいとま。

(このレポートになにか間違い、誤解などございましたら、訂正いたしますので、なにとぞお知らせ下さいませ)


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