51号                                                           2001年12月

 

 

書店員はスリップの夢を見るか?

 2001年が終ろうとしている。今年も出版界は静かな激動の年であった。再販制度がどうの、という革命的に大きなことはなかったけれど、少しずつ少しずつ、何かが変わっていっていることだけは確かだ。

 先日、整理台(普通の会社でいえば、自分の机みたいなもの)をかたづけていたら、なんと10年前の文芸書の仕事ノートがでてきた。しかも自分の筆跡(笑)。うわ懐かしいなあ〜、どんなこと書いてるんだろう?と思ったら、びっくりするくらい今やってることと変わりがなかった。違うのなんて、新刊ノートが手書きじゃなくてスキャナ登録になったことや、発注にネットを使うようになったことくらい。ようするにコンピュータを導入するようになったことだけなのだ。あとは全く同じ。フェアについても、注文についての注意事項も、返品のことも。まさに「十年一日」である。

 しかし、同じルーティンワークを繰り返してるわりには、恥ずかしながら、自分のスキルがちっとも上達してないような気がする。ぐるぐる同じところを回っているような。ただ漫然と日々を送っていてはダメだ。来年こそは、自分を伸ばせるようにもっと頑張りたい。

 

今月の乱読めった斬り!

『七回死んだ男』☆☆☆☆ 西澤保彦 (講談社文庫、98.10月刊)

 注:ネタバレのため、一部文字色を変えてあります。ドラッグしてお読みください。

 西澤保彦の代表作として、誉れ高い作品。を今ごろ読んでいる(恥)。あまりに有名なので、話の筋もだいたい知っていた。が、それでもやっぱり驚いてしまった。いやあ、そうくるとは!

 「反復落とし穴」という、自分ひとりだけ同じ日を9回も繰り返してしまう、実にユニークな体質を持つ高校生、キュータロー(久太郎)が主人公。当然、この設定はSFである。その設定をお約束として、このミステリは幕を開ける。遺産がらみの複雑な事情を持つ親戚どうしが集まり、元旦に恒例の宴会を祖父宅で催した翌日の1月2日。目覚めたキュータローは、その日が「反復落とし穴」の2周目だということに気づく。が、その2周目で、なんと祖父が死んでしまうのだ。1周目では死ななかったのに。なぜ?殺したのは誰?

 キュータローは、なんとかして祖父の死を阻止しようと、あの手この手を試す。猶予はあと7日。が、なぜかいつも失敗し、祖父は死んでしまう。その艱難辛苦の過程が繰り広げられるわけだが、これがめっぽう面白い。主人公の考えに考えた策略ぶり、なのにそれが必ず裏目にでるおかしさ。ユーモアたっぷりの書きっぷりがまた笑える。しょっぱなから「トレーナーにちゃんちゃんこ」だしねえ(笑)。

 で、私はキュータローが最後には無事祖父の死を防ぎ、めでたしめでたしで終わりになるんだと思っていたのだ。が!まだ先があったのだ!!このラストの仕掛けには呆然。まさに天地がひっくり返るような驚き。ここで、いきなり驚愕のミステリに変貌するのだ。すごい、すごい。こうくるとは思わなかった!

 確かに普通のミステリとちょっと異なり、この物語の謎を解くことは、著者にしかできないかもしれない。でも、このトリックを考え出したというだけで、この作品は実に稀有でユニークなミステリの傑作といえるであろう。設定も無理なくスムーズに理解でき、読者に違和感を抱かせないところも見事。世評通りの快作であった。

『アイ・アム』☆☆☆☆ 菅浩江 (祥伝社文庫、01.10月刊)

 うまい。菅浩江って、やっぱりうまい。や、もちろん「何をいまさら」と失笑を買うのは承知のうえだ。が、長篇なら長篇を、中篇なら中篇をきっちり書ける作家というのは、実は案外少ないのではないかと私はひそかに思っている。そして、菅浩江はまぎれもなくその少ない作家のひとりだと思うのだ。

 ホスピス病院で目覚めた「私」は、自分がロボットの体をしていることに気づく。「ミキ」と名づけれらた彼女は、介護ロボット。しかも、ドラム缶に人間の頭と腕と車がついてるという、かなり奇異な姿のロボットだ。ロボットゆえの患者との確執、悩み、そして何より「私は本当にロボットなの?それとも?」という悩み…。

 彼女の複雑に揺れ動く心が繊細に書かれており、読者の胸に切ない痛みと激しい共感を呼ぶ。彼女は、まさに生と死に毎日正面から向かい合い、そのはざまのきわどい瞬間に立ち会っているのだ。私たちが日常、なんとはなしに隠蔽している、だが逃れようのない「死」に、彼女はいつも立ち向かい、その都度患者に答えを出してあげなければいけないのだ。その苦しみ、つらさは、いかほどであろう。しかも自分はロボットなんだか人間なんだかわからない、中途半端な存在であるということが、さらにその苦しみを込み入ったものにしてしまう。患者たちの気持ち、介護する人々の気持ちもわかるだけに、読者はなおさら痛い。

 このロボットのこと、痴呆老人などのことも含め、本書のテーマは、実は「人間とは何か」という非常に重い問いかけだ。そして、著者の出した答えは、やはり菅浩江ならではの胸にしみるような答えだった。涙の着地。温かな感動の1冊。

『CANDY』☆☆☆1/2 鯨統一郎(祥伝社文庫、01.10月刊)

 わははは。やってくれるなあ、鯨さん!いやもうサイコーのお馬鹿SFですよ!!>もちろんホメ言葉

 「目覚めたとき、元の世界にいるとは限らない。」「あなた」は、記憶を失い、どうやら元の世界とは違う世界に迷い込んでしまったようだ。しかも、今までと似てるようで似ても似つかない、ヘンテコリンな世界に!さらには、追われる身であるらしい…。

 もう、ここからはノンストップハチャメチャアドベンチャー。そこここに駄洒落がしかけてあり、それがおかしいのなんの。そこらじゅうに、ギャグの地雷が!ああ、また踏んだ!

 駄洒落SF作家といえばまず田中啓文が浮かんでしまう私だが、あの彼にまさるとも劣らないすごさ。ただ、鯨氏はこう、ちょっと懐かしネタっぽい、一部のわかる人間には大ウケ、みたいな急所を突いてくるんだよなあ(彼は本当に私より年下なのか?)。そ、それを出しますか!というネタを(笑)。

 でも、確かにこういう夢って見るよね。いや、ここまでハチャメチャじゃないけどさ。ねえ、あなたが昨夜みた夢、あれは本当に夢だったのかな?それとも、実は違う世界に行ってたんじゃない…?(笑)ほら、こんなふうに、さ。

『虹の天象儀』☆☆☆1/2 瀬名秀明(祥伝社文庫、01.10月刊)

 注:ネタバレのため、一部文字色を変えてあります。ドラッグしてお読みください。

 冒頭、いきなりツボ。こ、これは!今年の3月12日ついに閉館した、あの渋谷の五島プラネタリウムではないか!(涙)まさに五島プラネタリウムへのオマージュ。と同時に、タイムトラベルSFでもあり、著者の星空への思い、プラネタリウムへの愛が語られるという、私の大好きなものを全部並べて差し出されたような話である。

 物語は、閉館当日の五島プラネタリウムの場面から始まる。主人公は、プラネタリウムの解説者である(ちなみにこれ、私の憧れの職業でありました。小6の卒業文集の「将来なりたいもの」の寄せ書きにこう書いた記憶があります)。閉館の翌日、片づけをしていた彼のもとに、謎の少年が現われる。少年にプラネタリウムの機械を説明するうちに…。

 枚数が少なかったせいもあると思うが、ちょっとこの中盤の展開に、やや難があるかも。もう少し読者がするりと納得するように書けば、絶品の大傑作になったと思う。ネタは本当に素晴らしいのだから。未来のプラネタリウムがタイムマシンとは、なんとロマンティックな!

 ラストの纏め方は綺麗。ああ、私の一番見たい夜空も、まさに今のこの空ですよ、瀬名さん。

 この小説の残す余韻や味わいは、本当にいい。心の中に、満天の星が広がるような、そんな美しさがある。タイムトラベルSF特有の切なさや愛しさも申し分ない。素敵な物語。

『マリオネット症候群』 ☆☆☆1/2 (乾くるみ、徳間デュアル文庫 01.10月刊)

 読後、唖然。「目が点になる」っていう言葉は、まさにこういう時のためにあるのだろう。ヘンだ。ヘンすぎるよ、乾くるみ!!

 たとえばハリポタならハッピーエンド、というように「ああ、こういう話だったらきっとこうなるんだろうな」と、だいたいの小説はある程度ラストの着地点が想像できるではないか。が、乾くるみは違う。「え?」と思わず絶句するような、なんとも奇妙な形で裏切ってくれちゃうのだ。

 この奇妙な感覚のズレは、ちょっと乙一をほうふつとさせる。乙一が陰性の「ヘン」な作家だとしたら、乾くるみは陽性の「ヘン」な作家だ。とてつもなくユニーク。ぽかーんと、どこか明るく突き抜けている。

 女子高生の私は、ある朝目覚めたら、自分の体が自分の意志で動かせなくなってた。どうやら誰かに乗っ取られちゃったみたいだ。いったい誰に?えっ、これはもしや憧れの先輩?しかも先輩、昨夜殺されちゃったって!?犯人は誰よ?

 設定もその状況も、とてもうまく書けていて、読者をつるりと納得させる。しかも実に面白い!確かにこの味はクセになりそうだ。ある程度読者を選ぶ作家かもしれないが、私は大いに気に入ったぞ。とりあえず、要チェック作家として今後ピックアップすることに決定。

 

 

このコミックがいい!

 『しあわせインベーダー』(こがわみさき、エニックス)

 か、かわいいっ…!もう、言葉にできないくらいのかわいさ。

 4つの中篇が収められている。そのうち3つは、高校生の恋を描いたもの。もうひとつはファンタジー。前者の「ふたりなみだ」にはハート直撃。男の子たち、女の子たちの、ほんわりとした恋の始まりのときめきや切なさや戸惑いや、そんな瞬間の言葉にならない空気みたいなものがここには描かれている。

 ファンタジーの「るいるい」もすごくいい。ニッポンでなんばんめかに高い山の樹海のなかでひっそりとくらす「めだたないひとたち」の物語。ひとりひとり別々の不思議な力を持つこびとたちの、これまたかわいいお話。

しあわせインベーダー

 

特集 私の2001年ベスト10

 さてさて、毎年恒例になりました、私的ベスト10の発表でございます!今年もいろんな面白本に出会えて、本当に幸せでした。「これがいいよ〜」というさまざまな本情報をくださった皆様に、ここで改めて感謝を述べたいと思います。ありがとう!なお、このベストはあくまでも私の独断と偏見に基づく評価であり、単なる私の「好み」であることを強調しておきます(笑)。

 ちなみに、乱読にアップしてないが読了した本は、『中継ステーション』シマック、『銀河帝国の弘法も筆の誤り』田中啓文、『非・バランス』魚住直子、『三人目の幽霊』大倉崇裕、『20世紀SF 1,2』、『皇帝のかぎ煙草入れ』カー、『『夏のレプリカ』『今はもうない』『数奇にして模型』『有限と微小のパン』森博嗣、『サグラダ・ファミリア 聖家族』中山可穂、『東京タワー』江國香織、『Jの神話』乾くるみ、『本屋はサイコー!』安藤哲也、『星の国のアリス』田中啓文、『クリスマスのぶたぶた』矢崎存美、『肩ごしの恋人』唯川恵、『テレビゲーム文化論』桝山寛、『日曜日には鼠を殺せ』山田正紀、『人生張ってます』中村うさぎ、『死にぞこないの青』乙一、など。ううっ、全然アップしてなくてすみません〜。これ以外にもあったかもしれないですが。乱読が70冊、乱読ひとことが2冊、アップしてないのが22冊、トータルでおよそ94冊でした。ぐわー、あと6冊で100冊だったのに!(涙)

 それではベスト10の発表です!やっぱりまた1位から発表にします。

★第1位 『トリツカレ男』(いしいしんじ、ビリケン出版)

 今年読んだ本の中で、とにもかくにも一番「好き」な本。心の芯から幸福になれる本。読んでて、うれしさのあまりに笑みがこぼれてしまう。それでいてきゅうっと切なくて、哀しい。童話のような、寓話のような、なんとも不思議でとてつもなくピュアなラブストーリー。無駄のない、シンプルな文章の美しさにも感動。ぜひ!ぜひともご一読を!!

★第2位 ぶたぶたシリーズ(『ぶたぶた』、『ぶたぶたの休日』、『刑事ぶたぶた』、『クリスマスのぶたぶた』)全て (矢崎存美、徳間デュアル文庫、『クリスマス〜』のみ徳間書店)

 ぶたぶたさんに出会ったのは今年のことなんだよねえ。でもなんだかもうずいぶん前からこの本を知っていたような気がする。それほどに彼はこの1年、私の身近にいたのだ。すっかり彼とお友達になってしまったような、そんな錯覚をふと覚える。いつかひょっこり、街角で彼に会えるような気さえするよ。

★第3位 『クラゲの海に浮かぶ舟』(北野勇作、徳間デュアル文庫)

 今年は『かめくん』でSF大賞も受賞した北野勇作。でも『クラゲ〜』に出会わなければ、彼の魅力は理解できなかった。こんなに、こんなに素晴らしいSF作家だったなんて!まさに「天才」。小説の構成自体が美しい、という物語が存在するということを生まれて初めて知った。私的超注目の日本SF作家。

★第4位 『センセイの鞄』(川上弘美、平凡社)

 ああ、川上弘美も今年惚れた作家である。『椰子・椰子』もよかったけれど、『センセイ〜』は恋愛小説としては今年のベスト2。恋愛とは、すなわち相手との距離の取り方であるということがよくわかった。限りなく愛しい1冊。

★第5位 『模倣犯(上、下)』(宮部みゆき、小学館)

 宮部さんはもう今年はこれを書いてくださっただけで十分だ。圧倒的筆力。弱者の悲しみがこれほどまで悲痛に書かれていては、読者はただただ打ちのめされるばかり。犯罪とは、かくも悲しく恐ろしいものだ。日本中、いや世界中の人に読んでほしいとさえ思う。

★第6位 『ハリー・ポッター』シリーズ(J・K・ローリング、静山社)

 これもシリーズ全部でひとまとめにしました。いやあ、これほどまでに面白いとは思わなかった!抜群の学園キャラ小説(笑)。構成が見事なのにも驚き。

★第7位 『上と外』1〜6巻(恩田陸、幻冬舎文庫)

 まさにジェットコースター・ノベル!あの、一気に急降下するときみたいな、背筋のぞくぞく感がたまらない!この本を読んでる時間、私がどれほど幸福だったことか!

★第8位 『有限と微小のパン』(森博嗣、講談社文庫)

 犀川&萌絵シリーズ中、最高傑作。脳みそをぐるぐるにかきまぜられるような、知的興奮にしびれた。森博嗣の思想・思考は、おそらく他の誰にも真似できないであろう。私にとっては、とてつもなく魅力的。

★第9位 『ドミノ』(恩田陸、角川書店)

 いやあ、びっくりしたよ。恩田さんとは思えない緻密さ(失礼!)。これだけ数多くの登場人物が出てくるのに、破綻してない。きっとりまとめた見事な構成に脱帽。しかもキャラが面白すぎ。読みながら、何度膝を叩いて笑ったことか!

★第10位 『それいぬ』(嶽本野ばら、文春文庫プラス)

 彼の乙女エッセンスが一番濃縮されてるエッセイ。本当に、10代で読まなくてよかった。あやうく、道を踏みはずすところでした(笑)。そのくらい、ある種の人間には危険な1冊。


★番外編 『インターネット的』(糸井重里、PHP新書)

 ネット者必読書。ネットに対する自分の感覚を、これほどぴったり言葉にしてくれた本は、いまだかつてない。あらゆるIT解説書よ、マスコミよ、これこそがネットなのだぞ!本書は、糸井氏からの、私たちへの応援歌だ!

 

 

あとがき

 そして2001年も終ろうとしています。今年も、数多くのアクセス、本当にありがとうございました。おつきあいいただいた皆様に、心から感謝いたします。また来年も、なにとぞよろしくお願いいたします。来年も、素敵な本にたくさん出会えますように。積読が1冊でも減りますように(笑)。(安田ママ)


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